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GS六道親子 天国大作戦!

もし星が神ならば! (前編)


投稿者名:Tりりぃ
投稿日時:06/ 9/26




「できた〜〜、今日も美味しそう〜〜」

ふ〜、と満足のため息をついて冥子はにっこり笑った。
冥子がいる場所は冥子用の調理室だ。
六道邸にはちゃんと他にも調理場があるが、そちらに比べると設備はそこそこ、広さ的に1人で調理をするには十分である。
そして、冥子の前にあるのは言わずと知れたお重だ。

いつも横島の所に持っていくよりも多いソレは今日、七夕のパーティに用意したものだ。
和洋折衷で並ぶ色とりどりの料理はもちろん全て冥子の手作りだ。
普段横島に持っていっているお重弁当も彼女の手作りだったりするが悲しいかな、横島は気付いていない。

「まぁ〜〜、今日も頑張って作ったのね〜〜」
「きゃ? お母様〜〜 ビックリするじゃない〜〜」

口調がゆっくりしているので本当に驚いているのかは疑問ながら、いつもより素早い動きで後ろを振り返ると
冥子の母、幽子が佇んでいた。
感心したようにお重を覗き込んでいる。

「いつもより〜〜 時間をかけて〜 いるかと思ったら〜〜 随分作ったのね〜〜」
「今日は〜〜 横島くんの家で〜 七夕の〜 パーティが〜 あるから〜〜」

頬を赤らめながらもお重を重ねていく冥子に幽子がうんうん、とうなずく。

「初めのころは〜 何事と思ったけど〜 冥子も〜 長く頑張るわね〜〜」
「よ、横島くんが〜 喜んでくれるから〜〜」

更に頬を赤らめる冥子だが、相手は海千山千の幽子である。持ち上げられたらその後にあるのは

「でも〜〜 お弁当で〜〜 横島君と〜 恋人になれるんだったら〜 おキヌちゃんが〜 なっていると〜
お母さんは思うのよね〜〜」
「う………」
「私も〜 若い頃には〜 お父さんに〜 お弁当を持って行ったり〜 したけど〜
それでどうこうは〜 なかったものだわ〜〜」
「………」

ぐうの音も出ない奈落に突き落とされるのがオチであった。






GS六道親子 天国大作戦! 12  〜 もし星が神ならば! (前編) 〜






美神令子除霊事務所から横島の家に変わってから、始めて中に入るおキヌを尻目にシロは尻尾をフリフリ
家の主へと突進していった。そして、壁にぶつかる横島。

「お久しぶりでござる!」
「何が久しぶりだ!! 昨日も散歩に付き合ったやろ!!」
「それは言わないお約束でござる!」
「何をワケわからん事を言っているか!!」

シロの頭に拳を落とす横島におキヌは笑顔を向ける。
少し笑っているおキヌに冥子が近づいてきて短冊を渡した。

「これに〜 お願い事〜 書いてね〜〜」
「あ、お久しぶりです、冥子さん」
「本当〜 お久しぶりね〜」

にっこり笑う冥子におキヌは胸に手を当てる。
複雑な顔をしているおキヌを余所に、シロはもらった短冊を片手にハツラツとしている。

「願いを短冊に書くのでござるか? 風流でござるな」
「人狼の里じゃ、七夕はやらないのか?」
「やらないでござる…でも、面白そうでござる! 皆は何を書いたでござるか?!」
「あ、コラ!」

シロは短冊を片手に、笹にくくられている、もう願いが書かれている短冊を手に取った。
そこには『油揚げ』と一言書かれている。
ハテナマークを飛ばしているシロの後ろから、短冊を見た横島は苦笑した。

「………誰が書いたかわかるな」
「誰でござるか?」

振り返って尋ねると横島は小首をかしげた。

「そーいや、シロはまだ会ってなかったか。タマモだよ」
「タマモ?」

横島に名前を呼ばれたタマモが振り返るのと、シロがタマモに目を移すのは同時だった。
2人の瞳がぶつかり合う。無言の3秒に横島が少し首をかしげるとシロとタマモは同時に胸を張った。

「油揚げなんて、ちゃんちゃらおかしいお願いでござる!」
「アンタの願い事、言ってあげましょうか? スバリ『先生と散歩』でしょ」
「何が悪いのでござるか!! あ、鼻で笑ったでござるな?!」

詰め寄るシロと斜に構えるタマモ、それを見て横島はしたり顔でうなずいた。

「どっこいどっこいって所か、まぁ、2人とも成長過程だからなぁ」
「「何処が同じよ(でござるか)!!」」

横島の評価は2人にとって『不可』だったらしい。同時に繰り出されたパンチに沈む横島だった。











七夕のメンバーがそろい、しばらくしてから乾杯の合図と共にグラスが澄んだ音を立てる。
その後は無礼講だ。

「栄養じゃぁ―――! タンパク質じゃぁ―――!!」
「Yes・Dr.カオス・ですが・お飲み物も」
「ゲホガホゴホ?!」
「飲まないと・咽につまります」

むせ返るカオスの背を叩いて撃沈させるマリア。

「め、冥子さんが作ったんですか? この料理…」
「ええ〜 お口にあうかしら〜〜」
「お、美味しいです」
「美味しいでござるよ! 冥子殿!!」

冷や汗をたらしているおキヌとほんわかしている冥子に熱血しているシロ。

「ああ―――! エミさん大丈夫ですか―――?!」
「ちょっと、酔ったみたいなワケ。送ってくれないかしら?」
「い、いや、まだパーティは始まったばかりですし」

あせっているらしいピートとその背中にくっつく妖艶な小笠原エミ。

「ご無沙汰しておりました。先生」
「いや、Gメンでの活躍は良くテレビで拝見しているよ」
「ありがとうございます」

こちらは律儀な雰囲気を醸す美神美智恵と唐巣神父

「あ、お前、アッチにあるだろ!!」
「いいじゃない、ケチケチしなくても、アッチにあるんだから」
「あ〜言えばこう言う………」

手に持っていたお稲荷さんを取られた横島とお稲荷さんを頬ばっているタマモ、以上がパーティのメンバーである。





「そういや、シロ、お前の短冊、やっぱ散歩なんか?」
「『先生と散歩』でござる!!」

尻尾ふりふり得意気に横島に短冊を見せるシロに、隣に座っていたタマモが鼻で笑った。

「あ、また鼻で笑ったでござるな?! 油揚げの分際で!!」
「油揚げをバカにするんじゃないわよ!! きつねうどんだって、お稲荷さんだって油揚げがあるからこそ
存在するのがゆるされるんですからね!!」
「きつねうどんもお稲荷さんも存在しなくてよいでござる!! 存在してよいのは肉でござる!!」
「この肉肉犬が!!」
「狼でござる!!」

左右で始まった口論にまぁまぁと横島が割り入ったがタマモもシロも頬を赤らめて興奮が収まらないようだ。
いや、これは…

「…お前ら、酒飲んだな?」

確信を持って問いかけると、2人は酒臭い息を吐き出した。

「お酒なんて飲んでいないでござる!! 長寿の薬は飲んだでござるが!」
「そうよ! お酒じゃなくて、薬よ薬〜〜!」
「それを酒と言うんじゃ―――!!」

酔っ払って絡み酒となっているらしいので睨むと2人してへらへら笑い、コトンと机に沈んだ。
どうやら絡み酒から眠り酒に突入したらしい。

「あら〜、シロちゃん、寝ちゃったみたいね〜」
「タマモも撃沈してるっスよ…ったく、中学生以下のくせに…」

ぶつぶつ言いながら、タマモを抱いて部屋の隅に持っていく横島と式神マコラに運ばれていくシロ。
それをおキヌはうらやまし気に見送っている。
数秒、シロとタマモを見ていたが、そぉっと手を動かしてシロのグラスを自分の手元に引き寄せる。
チラリと横島を見てから手元のグラスに視線を落とした。

<これで私も…!>

グイ! と飲もうとした瞬間にその手が止められた。
止められた手を辿っていくと、そこにはにっこり笑っている美智恵とちょっと厳しい顔の神父がいる。

「ダメよ、年頃の娘がお酒に頼っちゃ」
「美智恵君、突っ込む所はソコかね?」
「ええ、良い女がそんな事をしたら、悪い女になってしまいますもの」

ほほほ。と笑いながらいさめられ、おキヌは頬を赤らめてグラスを机に置いた。


一方、一度部屋から外に出てかけ布団を2つ持ってきて2人にかけていた横島がシロが未だに持っている
短冊に気付いて苦笑いをした。

「笹につけないと願いが叶わないのにな〜」
「そうね〜 つけちゃいましょ〜か〜」

にっこり笑う冥子にうなずいて、シロの手から短冊をそぉっと取って笹の近くに近寄る。
既に、他の皆は短冊を飾っており、空いた場所を探しながら他の短冊も眺めていく。

「カオスのおっさんだな? 『金くれ』ってのは。夢がないな〜」
「エミちゃんのがないわね〜」

こちらは完全に他の人の短冊を探すモードに入っている冥子を横目にやっと上の方に空いた場所を
探しあててシロの短冊をかける。

その瞬間、

すさまじい霊的圧力が上空から降って来た。

「何?!」
「こ、これは?!」

もう物理的圧力とまでなったソレに対応できずに潰れた横島と冥子を余所に、美智恵と唐巣神父はなんとか
持ちこたえて、思わず天井を見上げる。勿論、そこには何も見えないのだが。

『横島さん、な、何者かが! 結界がも、もちません…!』

パシン!!

人口幽霊一号の悲鳴と同時に笹が非常識な輝きを発した。

「! 笹から出てくる? なんと非常識な?!」
「かなり高位の霊体?!」

輝きに手を目の前にかざすこと数秒、輝きが治まり、一同恐る恐る笹の方に視線を向ける。
笹の手前には誰かがいた。
カオス並みの巨体。
すさまじい霊力。
そして、長い髪に中国のお姫様な格好。

横島なら飛びつくだろうその格好だが、目にした当人は顔色を青ざめて悲鳴を上げた。

「物体えっくすぅぅぅ?!」

後ろにいた美智恵と神父が苦笑をもらす。格好だけは完璧に美女であるのに顔とガタイは完全に
シュワルツ○ッガーそっくりだからだ。

ふしゅるるる〜、とその物体えっくす(横島命名)は息を吐き出しながら顔をあげた。正に『ギロリ』と
擬音が響く眼差しだ。

「ひぃ?!」

その視線だけで悲鳴を上げる横島。冥子はきょとんとしたままであったが、その2人にむけて体に
似合ったこわばってぶっとい腕が上げられた。
がしり、と非白魚の手が横島の左上腕部をつかむとその腕一本でぬいぐるみの様に横島を引き寄せる。
その様子をカオスはフライドチキンにカブリつきながら冷静に観察していた。

「………Dr.カオス・アレは」
「うむ、どこぞの天神じゃな。珍しいこともあるもんじゃ」

完全に野次馬モードに入っているカオス・マリアの暖かい声援を受け、横島は自分の腕を拘束している
謎生物に話しかけを始めた。気分は交渉人である。

「な、な、な、何か用っスか?! 御用の際はオフィスを通していただけるとコンチクショウです!!」
「………横島君、言葉遣いが間違えているよ」
「まぁまぁ…」

横島の言葉にうつむいて眼鏡を直す神父におキヌが助けの手を入れる。
ギャラリーとその他に一瞥をくれていた謎の天神は大きく一つうなずいた。その仕草に安心して体の
力を抜く横島だったが

「短冊にこめたお主の願い、ワラワがしかと受け止めた。 その願い、叶えようぞ」
「た、短冊? な、なんのコトだ??」

1人納得でうなずきを繰り返す天神に横島は混迷を深くした。とにかく放して欲しいのでつかまれている
指を剥がそうとしようとするがビクともしないのが腹立たしい。

「短冊〜? 横島くんの〜 お願い事は〜 『世界に平和を』だったわよね〜〜?」

こちらはまだのほほんとした構えを崩さない冥子が小首をかしげる。冥子は横島と一緒に短冊を笹に飾った
ので横島の短冊の言葉を知っていたからだ。

「ふふふふ、それはダミーじゃ。その前にこ奴の願いは既に掲げられていたのじゃ」
「ま、ま、ま、まさか…」

顔色を青白くさせていく横島に冥子を除く一同が半眼になっていく。
この騒動で起きたタマモとシロも例外ではなかった。

「………おおかた『世界中の美女を我が手に』って書いたんじゃないの?」
「違う!! 『美女との遭遇』だ!!」
「………先生ぃ〜」

想像通りの願いに一同ため息をつく。『世界に平和を』という願いよりもそちらの方が納得がいくのは
日頃の行いの賜物である。

「納得がいったようじゃな。では、望み通りワラワと一夜を楽しもうではないか」
「納得いってない!! っていうか、美女もってこい!!」

余りの強引さに暴言で返してしまった横島だったが、それは正当に報われてしまった。
もう片方のえせ白魚の手が横島の頭を掴んだのである。
その手の甲には血管が浮かび上がっている。ついでにミシミシという音がしている気がする。

「ああああ?!! なんだかいつもより数倍以上に痛い気がぁぁ??!!」
「ヌハハハ、冗談がきついぞ、マイダーリン♪」
「ギブギブ!! マジでギブギブ!!」

豪快に笑って横島にちょっかいをかけていた天神が不意に鋭い視線を自分が出てきた笹に向けた。
すると、同時にまた人口幽霊の悲鳴があがった。

『新たに正体不明の霊体が侵入!』

今度は地味に、ドライアイス(みたいな物)を吐き出して笹から霊体が現れた。
ドライアイス(みたいな物)の影から現れたのは、地味な顔、地味な中国風衣装、総じて地味目な男だった。

「うむ。こちらもかなり高位の霊体じゃの。あちらの天神とどっこいじゃのぉ」

お稲荷さんを頬ばりながら暢気に解説するカオスとは逆に、物体えっくす天神の方は舌打ちしてから
手の力を更に加える。当然手につかまれている横島の悲鳴が更に上昇した。

「移動手段はどこじゃ?! 車とかバイクとか、あるじゃろう?!」

異様に現代社会に詳しい天神さまだとカオスが感心しながら見ていると、あっさり力負けした横島が
下の方を指差した。

ガコン!! と騒々しい音と共に巻き上がる木材他ほこり。そしてできあがった穴。消える天神と横島。

幽霊一号の悲鳴をBGMに、横島の声がみるみる下の方へと移動する。更に続くエンジンの音。

「………逃げたのぉ」
「Yes・Dr.カオス」
『ああああ?! 私の体がぁ?!』

美智恵と神父は、階段に続く扉の方へと走っていった。冥子とおキヌは窓へと走り寄る。
一方、後から出てきた天神の方は、床に作られた穴からすごい速さで出て行っていた。




「なんだ?! なんだ?! あんた、なんなんだぁ?!」

令子のコブラに乗せられた横島は顔色を青ざめ、めいいっぱい隣に座る運転手兼誘拐犯人兼謎生物から
なるべく離れた位置に体を縮こまらせていた。
ちらり、と横島に目を向けた天神が舌打ちをした。

「…お〜り〜ひ〜め〜! 今日と言う今日は〜 逃〜が〜さ〜ん〜〜」
「ヒィ?!」

突如降って沸いた男の恨み節に、横島は後ろを振り返る。
そこには先ほど現れた謎天神2号が刑事映画さながらに車の後ろに張り付いていた。

「そなたの顔など見とうない! とっととうせるがよい!」

おりひめ、と呼ばれた天神はさっさと向き直り、慌ててハンドルを掴む横島を余所に後ろの天神の腕に
手刀を繰り出した。
鈍い音と共に綺麗に腕を切り落とされて道路に消える天神。

「ヒェェ?! ターミネー○ー?!」

残った手もゴミの様に捨てるおとひめに横島は更なる悲鳴を上げるのだった。





ごっつい声の乙女笑いと悲鳴を上げる男の声を乗せながらコブラが高速で去っていくのを見ながら、美智恵と
神父は道に転がる天神へと走り寄った。
すっぱり切れているが、血が出ていない左腕に絶句していると、その謎天神がくるりと振り返った。

その男は泣いていた。涙はだくだく流れ、鼻水もぐちょぐちょに流れ、正に情けない男の見本がそこにあった。

「………逃げられちゃいました…」

コメントも女房に逃げられた男そのものである。
とりあえず、美智恵はポケットティッシュを差し出すより他なかった。





爆走するコブラの上では尚も続く恐怖に横島はさらされていた。

「ゴ、ゴーストスイーパーは妖怪に屈することなどない! ないから車止めて下さい?!」

啖呵なのか、懇願なのか、声を上げる横島に天神はニヤリと笑ってウィンクする。
勿論横島にとって、その笑顔とウィンクはライオンにウィンクされたのと同意味に映っている。

「ワラワは織姫。七夕の織姫と彦星といえばわかりやすいじゃろ?」
「か、神様なんか〜」

織姫の言葉に安堵で座席をずり落ちる横島に乙姫は笑顔で更に続けた。

「うむ。という訳で今宵はおぬしがマイダーリンじゃ。アバンチュールな夜を楽しもうではないか」
「誰が誰とアバンチュールじゃぁ?!!」

やはり危険ゾーンにいると確信した横島だった。





一方、公道で嘆き悲しむ彦星は、横島の家の居間にあげるとグチ調子でポツポツと事情を話し始めていた。

「伝説どおり、我らは逢えるのは年に一度なのですが、ここ数百年は織姫が浮気ばかりして逢えなかったのです」

鼻水は流れていないが、相変わらず尽きる事無く流れる涙に美智恵は唇を引きつらせて笑うのを堪えるのが
やっとだった。後ろではしきりに神父も咳払いをしている。

「織姫が申すに『ケンタイキ』とやらで…しかし、私は彼女を愛しているのです!
なのに、なのに今年もまた浮気………」
「だ、大丈夫よ、アレで横島クン、意外と好みが激しいし」

どんより落ち込む情けない男そのままに落ち込む彦星に美智恵が励ます。
確かに横島は女性に対してのアプローチがすごいが、今回の織姫は…まぁ、横島の中では女性に入るまい。
うんうん、とうなずくギャラリー達だったが彦星を説得するに至らなかった。

「大丈夫じゃありません!! 我々天星神族は、どんな姿にもなれる変身能力があるのです!!」

一瞬で室内が凍り付いてしまった。

「うむ。まさに夫婦の危機じゃのぉ〜」
「Dr.カオス!」

あっさりと現状を口にしたカオスを牽制するが、彦星の暴露はまだ終らなかった。

「それに、アイツは心の内もある程度読めるのです! 昨年は初恋のヒトに変身して浮気をし放題だったと
豪語していたのです!! 相手の最愛のヒトに化けるなぞ、お茶の子さいさいなのです!!」

室内はまさに氷河期に突入した。神父などは毛が何本か肩に落ちている。

そこに、救世主が現れた。スックと立ち上がると健脚美を披露して宣言をかましたのである。

「拙者が先生をお救いして申し上げるでござる!! 我が鼻と足の優秀さをとくと見よでござる!」
「あははははは!! 横島の弱みが拝めるのね?! とくと拝見!!」

まだお酒が抜け切っていない赤ら顔で腰に手をあてて宣言したシロとタマモが猛ダッシュで外へと駆け出した。
そして、横島達が消えていった方角とは反対の方へと消えて行く。

「………か、彼女たちはどこに行っているのですか?」
「…まぁ、彼女達は置いておいて、とにかく横島君と織姫様を追いかけましょうか」

ため息をつきながら携帯電話を取り出し、六道幽子に電話して織姫探索を依頼しようとした神父の手に美智恵の手が
重ねられ、そして携帯電話が奪われた。

「美智恵君?!」
「織姫様と横島クンを見つけることなんて、警察の手にかかれば簡単なことですわ。
首都圏のラブホテル・宿泊施設に横島クンを極秘に指名手配すればいいだけですもの」
「い、いや、それではナンと言うか、遅すぎるというか、過激というか」
「泊まらせて、ルームサービスで従業員を部屋に入れさせたりすれば、時間は稼げます」

美智恵の強固な瞳の輝きに神父が周りに助けを求め、見渡した。

芋のにっころがしを頬ばるカオスとその横に鎮座しているマリア。マリアはともかく、カオスは面白そうに
見ているだけで手を貸してくれそうな気配はまったくない。
冥子とおキヌはそわそわ、もじもじと手を動かして上の空だ。まぁ、正気であっても美智恵に抵抗する
気概がある娘達ではないので除外だ。
エミとピートは先程から変わらず「送っていって」「そういうわけには…」と、2人の世界に突入している。
この世界を壊したらエミから後でどんな呪いが送られるか、考えただけで除外だ。ピートの救いを求める
瞳も、この際無視だ。

「お願いします!! どうか、どうか、アイツの浮気を阻止して下さい!!」
「わかりましたわ、Gメンが全面的に貴方をバックアップいたしますわ」
「ありがとうございます!!!」

迷っている神父を余所に、彦星は感謝の涙を流して美智恵に感謝を送っていた。それを笑顔で受ける美智恵。
神父からは「悪魔に魂を売った」ように見えたのは…気のせいであってほしい。

美智恵はてきぱきと携帯で連絡を入れ、携帯をテーブルに置いて瞳を閉じる。

<…これはチャンスよ、令子! 織姫が変身するとしたら間違いなく令子の姿! ちょっとばっかり
危ない姿勢になっている所を踏み込んで、写真にとればもう安全! 美神忠夫…良い響きよね>


おキヌは心配そうに美智恵の隣に座って、美智恵の声を聞きながら瞳を閉じていた。

<織姫様、誰に変身するのかなぁ…美神さん…だったら…>

うなだれてしまうおキヌだったが、すぐに顔を上げる。

<でも、美神さんは今はアメリカだし、結婚もしているから除外よね? それ以外で、だったら…
も、もしかして…私?>

頬を赤らめ、思わず顔もほころんでしまう。

<そ、それだったら、記念に写真をとってもいいですよね? 証拠ってわけでもないですけど、
その、思い出を残すってことで…>



冥子はおキヌの横に座り、残っていたジュースを口に含みながら横島が消えていった方へと視線を向けて
いた。冥子にはっきりと見えるわけではないが、織姫の霊気が移動している方向へと。

<これって〜 楽しい思い出って〜 いうのよね〜>

冥子にとって、思い出の中に楽しい思い出というものは少ない。
小さい頃から、式神達と慣れ親しんだせいか友達は令子とエミの2人だけ。それも成人してからの話で
それまで、学校でも家でも一人ぼっちであった。修学旅行にマクラ投げなんていうのは勿論経験さえ
していない。

今日の七夕パーティも、冥子から提案したものだったが、準備と招待をしたのは横島だった。冥子だけでは
企画倒れになっていただろう。
冥子は、持ってきていたカメラをなでて微笑んだ。
今まで、冥子のアルバムに収められているのは大部分が式神達、そして数枚はエミと令子と映っている。
これからは、それに横島の写真も納まるのだ。

<織姫様との〜 写真も〜 とらなくちゃ〜。横島くん〜 怒るかな〜>



ニヤリ
ニヤリ
くす

美智恵は使い捨てカメラを手に、おキヌは携帯電話を手に、冥子はカメラを手に同時に笑った。
三人を見ていた神父は顔色を青ざめて視線を上に向ける。

<天に召します我らが神よ。これから起こる惨劇から憐れな子羊を救いたまえ…アーメン>

神父の祈りは真剣だったが、やけに能天気に『いや〜、ソレ無理です』と脳裏に声が響いた気がする。
当然、それは無視。

「小僧も大変じゃのぉ〜。見ている分には楽しい限りじゃが」
「Yes・Dr.カオス」

無表情に相槌をうつマリアを見て、カオスはため息をついて最後の芋を頬ばった。








数分後、料理をつついていた所で警察から連絡が入り、美智恵と唐巣神父、おキヌと冥子、彦星とマリアが
車でとあるホテルへと直行した。

美智恵を先頭に歩く一行の異様な気配にホテルの従業員も青ざめて対応した。

「ご照会のありましたお客様は6階の603号室でございます」
「ありがとう」

にっこり笑ってマスターキーを受け取りエレベータへと向かう女王様を止められるモノは存在しない。
ここまで来れば冥子とおキヌも自力で織姫の霊力を感じることができるので、6階に着くと一同迷わずに
603号室の前にたどり着いた。

客室の前に来て扉に耳を当てなくてもわかる。くぐもった女性と男性の声。そしてなにか大きなものが
倒れる音。

この瞬間、誰よりも早く動いたのはおキヌだった。
美智恵の手から鍵を分捕り、鍵を開けてドアを蹴り破り室内に踊り出すその早業は、美智恵には脅威に
冥子にはとても追いつかないレベルだった。

「横島さん!! 何してるんですかぁ?!」

おキヌの後ろから美智恵が追いつき、室内の様子に驚愕する。

「織姫! 今年で浮気は終わりだ!」
「彦星?! く、しつこい奴じゃ!」
「お前の方こそ、いい加減あきらめろ!!」

今、まさに襲わんとしていた体勢の織姫が彦星に怒鳴りつける。
そして、とてとてと2人の後から顔を出した冥子がゆるやかな動作でカメラを構えてシャッターを切った。

「これも〜 思い出よね〜〜」

冥子のつぶやきに天神たち以外は、時間を取り戻した。


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