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山の上と下

20 山の奥で・後編


投稿者名:よりみち
投稿日時:06/ 9/25

20 山の奥で・後編

茂みに横島とおキヌが目を向けると、そこから涼そしてれいこが姿を現した。

「格さん! それに”美神”さんも! 捜しに来てくれたんですか?!」
意外な二人に目を丸くする横島。

「まあそういうことだな」うなずいた涼はおキヌをちらりと見ると、からかうように、
「それにしても、いくら可愛い姿をしているとはいえ幽霊と夜の道行きとはねぇ 取り憑かれたとか魅入られたとかでもないようだが」

「俺は俺スッ! だいたいおキヌちゃんが人をどうこうする悪い幽霊に見えます?!」
冗談だとは判っているが、横島はおキヌのために一言返しておく。

「『おキヌちゃん』‥‥ねぇ たいした時間も経っていないのにずいぶんと仲良くなったじゃない」
そうジト目で横島を睨んだ後、れいこは和やかな感じで、
「まあ、たしかに質の悪そうな”気”も感じられないし悪い幽霊じゃないわね」

自分を受け入れてくれた様子の二人におキヌは丁寧にお辞儀すると、
「格様、れいこ様、キヌです。これからもよろしく、お願い‥‥‥」

 そこで言うのをやめたのは聞こえない相手に意味がないと思ったからだ。

「こっちこそよろしくな、おキヌちゃん。忠さんと同じで『格さん』と呼んでくれりゃいい」
「私も『”美神”さん』でいいわよ。よろしくね、おキヌちゃん」

?? 噛み合った答えを返す二人に目をしばたかせる横島。おキヌもきょとんとしている。
「”美神”さんも格さんもおキヌちゃんの声が聞こえるんスッか?!」

「それがどうかした?」れいこは挑発的に返す。
「まるっきり霊感とかがない人ならともかく、気持ちさえ動揺してなきゃ、幽霊の声なんてたいていは聞き取れるものよ」

「そんなもんなんスッか‥‥」横島は肩を落とす。

声が聴けたことがおキヌとの出会いになったことを思えば他の誰かが同じコトができることが何となく残念だ。

「何いじけてんの! 多少、霊力が出せる”しか”能のないくせに、一人前にうぬぼれるんじゃないわ!」
ダメを押すれいこ。
「そんなことより引き返すわよ!」

「『引き返す』って?」急に変わる話に横島はあっけにとられる。
「あの‥‥ ここに来たのは、おキヌちゃんが妖怪の住処を教えてくれるっていうからなんです。その場所まであと少しだそうなんで引き返すのはもったいないじゃないですか。そうだ、みんなで行きませんか? 元々、山に入ったのもそれが目的なんだし」

「ほぉ〜 ほいほい幽霊‥‥ おキヌちゃんについていったのはそういう理由だったの」 れいこは冷たく見据える。
「だいたいはそんなトコだと見当はつけてたけど、そんな大事な話、自分一人で何とかしようってどういう了見?!」

「え、ええっと‥‥ それはですね‥‥」

 しどろもどろの横島を助けようとおキヌが「そのことなら‥‥」

「おキヌちゃん、あんたが言い訳しなくていいわよ。自分でついていくって決めた以上は、このバカに全部責任があるんだから。どっちみち、離れた言い訳とか話を独り占めにして高く売りつけようって魂胆なんでしょ!」

「あ‥‥ 当たってます」答えると同時に次に来るであろう一撃に備える横島。
 ここまでの行動で少女のしようとすることについてはある程度予想が立つ。
‘‥‥ へっ? こない??’

見ると涼が軽くだがれいこの腕を押さえている。
「一発かましたいのは判るが後回しで良いだろ。それほど暇があるわけじゃなし」

「ったく、命拾いしたわね!」れいこは忌々しそうに腕から力を抜く。

「え、ええっと‥‥ すごくあわてているみたいですが、なんかあったんスッか?」

再びカッとしかけるれいこ。それを押さえ込むと、「あんた、何も気づかない?」

「『何も』‥‥ って」背筋を震わせる横島。
 いつの間にか周囲に障気とでも言うべき冷たく濁った”空気”が漂っている。

「やっと気づいたようね。妖怪か何かが近づいてきている兆しよ」

「でも、どうして? まだ、住処まではだいぶん距離があるのに」

「バカね! あんなに開けっ広げで霊力を出しといてバレずにすむと思ってんの?!」

「そうか!」横島は初歩的以前の失敗に気づく。

れいこは『やれやれ』と一つため息をつくと、
「除霊師になりたいんだったらもう少し慎重にしなさい。今みたいなコトじゃ、すぐに店じまいよ。さっ、事情が飲み込めたんだからぐずぐずしな‥‥」
そこまで言ったところで、表情が強張る。

 涼も険しい表情で刀に手をかける。
「思っていた以上に早ぇえな。どうやら最初から目をつけられていたようだぜ」

 二人の反応に応えるように地面が盛り上がる。そして、
ぼごっ! それを割って人に近い姿をした妖魔が体をもたげた。



地面を割って出現した妖魔の上半身は、鋭い鈎爪のついた手と額から大きく伸びた二つの触覚とも葉ともつかないモノを別にすれば、人、それも成熟した美女に近い姿をしていた。もっとも、全てを見下すかのような尊大さと全てを呪うような鋭い目つきを見れば、『美女』という形容は、誰もが避けるところであるが。一方、下半身は太い木の根が絡まったような形で、そのまま地面につながっている。

「まっ、まさか、その姿‥‥ 死津喪比女?!」絶句するれいこ。

この地を訪れるのにあたりこの地の人外について調べたが、眼前のモノの特徴は死津喪比女のそれにかなり近い。

「だとしたらどうする?」死津喪比女の名前を否定せず妖魔は挑発的に嘲る。

「どうもしないわ。あんたが死に損ないのクサレ妖怪ならもう一度封印するまで。いや、再封印なんて手間をかけず、この場で極楽に逝かせてあげましょうか」

「小娘がよくさえずる!」妖魔−死津喪比女は軽く腕を差し伸べる。
 次の瞬間、肘から先の部分が弾かれるような速さで伸びた。

「!!」あまりの速さに、足が動かないれいこ。

ばしっ! 伸びた手を涼の抜き打ちが叩き落とした。

「ほう、やるな」死津喪比女は、何事もなかったように手を元に戻す。
「人で今ほどの速さを極める者がおるとはのう。なるほど、先に我が僕と互角であったのは偶然ではないということか」
 
「『僕と互角』‥‥か」全員を庇うように前に出た涼の目がわずかに細められる。
「『僕』って、あの人狼のことだな。さっきのコトを知っていることやその言葉遣い。”瘤”で人狼や人を操っているのはお前さんか?」

「『操る』とは人聞きが悪いな」さも心外であるという感じの死津喪比女。
「妾に刃向かうという大罪により命のなきところを永らえさせ、償う機会を与えてやっているのだ。優しいことと思わぬか?」

「当人に聞いてみたらどうだい? もちろん、操らずに訊いてみての話だが」

「それは一興やもしれぬ」死津喪比女は気の利いた冗談を聞いたかのように嗤う。
「人であれ人狼であれゴミにも等しい者共を眷属とするは気の進まぬところだが、やむをえぬ事情でな」

「『事情』ねぇ」

「そうよ、この界隈で人を集めようとすれば手広くしなければ追いつかぬからの。妾一人では手は足りぬわ」

「『人を集める』‥‥か、どうやら”神隠し”もお前の仕業だな」

「”神隠し”?! そういえば、土地の者たちはそう呼んでいるようようじゃな。たしかに、最初の頃は、目立たぬよう攫っておったから、そう呼ばれてもおかしくはない」

「それで、攫った人たちをどうしたの?」涼の後ろかられいこが怒りを込めて問う。

「攫った者か? 僕として使えそうな者を除いてすべては妾の”肥やし”としたわ」

「”肥やし”ねぇ」涼の顔に人狼と対した時にも見られなかった殺気が走る。
 一瞬だが、周囲に陽炎のような空気の歪みも。
「どうやら”神隠し”にあった人を助けるのは手遅れだな。後は、これ以上に犠牲者を出さないようにするだけか」

「できるか、人風情が!」

「試してみるさ!」売り言葉を買うように言い切る涼。
 地を蹴り踏み込むや、渾身の力をもって首のあたりを横に薙ぐ。

ガッ! やや濁った硬質の音が響く。

死津喪比女が掌を軽くかざし刀を受け止めている。動きの止まったところで空いた手が貫手のような形で涼の胸板を狙って繰り出された。

「っ!」それをかわし跳び下がる涼。胸の少し上に裂け目が走っている。

 嘲笑おうとする死津喪比女の顔が曇る。掌に目を落とすとそこにはわずかだが亀裂が走っている。
「なまなかな鋼に勝る妾の肌に傷をつけるとは! 除霊師とは異なる体系のようだが、己も”気”を使いこなすことができるようじゃな」

「だとしたらどうする? 逃げるのなら今のうちだぜ」

「目を開いたままでの寝言か! 寝たままアノ世に行くのも悪くはあるまい」
 死津喪比女は手を差し上げると軽く振り下ろす。

ぶん! 重くそれでいて恐ろしいまでの速さを感じさせる風が涼をかすめた。
 すぐ横で草と土が舞い上がり地面に一筋の溝が穿たれる。

「伸びた腕を鞭にしたのね」うめくれいこ。
 その動きは僅かに走った影としか認識できなかった。今の自分ではよけられないだろう。
「それにしても外すなんて遊びのつもりかしら?」

「いや、格さん、ぎりぎりで横に避てます。動かなきゃ頭が胴体にめり込んだとこっス」
震える声で訂正する横島。

「あんた‥‥」『見えてたの?』と続く言葉をれいこは飲み込む。

死津喪比女がもう一本の腕も伸ばし、涼へ攻撃を本格化したためだ。

 さっき以上に激しい風切り音が途切れることなく続き月明かりに影が乱舞する。それはまるで嵐であり周囲の灌木や茂みが見る見るうちにへし折られえぐり取られ砕かれていく。

 その一方的なまでの力に対し涼は体術と剣さばきの冴えで立ち向かう。
 しばしばかすめるものの攻撃を寄せ付けないのはさすがとしか言いようがないが、それが限界らしく攻め込むには至らない。

その均衡のまま時間だけが移っていく。

やがて黙っていられなくなった横島が、
「こんなに戦えるって、格さんって本当にすごいですね」

「いくら目が良くたって状況が読めなきゃ三流以下ね」れいこが冷たく応じる。

「どういうコトなんスッか?」

「たしかに今は『互角』。でも、人って体力も”気”も無限に続くようにできてはないわ。この調子だとすぐに限界が来ちゃうでしょうね、むこうはまだまだ余裕って感じだけど」

「それって‥‥?!」語られない部分を想像し横島は蒼白になる。
「だとしたら、ここで暢気に見物していていいんですか? ひょっとして、一対一の勝負だから手を出すのはダメとか思っているんじゃ‥‥」

「このあたしが負けたら終わりの場面でそんなきれい事を言うと思ってんの! 見ているだけなのは霊力も”札”もほとんど使い切っちゃったから。ここで無力の者が割り込んだって足を引っ張るだけよ」

「それで格さんが負けたら?」

「判っているのに聞きたい? 『肥やし』の意味を自分の体で知ることになるでしょうよ」

「そんなのいやや〜!」顔が崩れるほどの泣き顔になる横島。
「百畳敷きの大広間一杯に透ける長襦袢のきれいなねーちゃんをはべらせ徹夜で宴会するまでは死にとうない〜」

「あんたねぇ〜 そんな望みを思いつける自分が情けなくない」
妄想すら通り越した内容にれいこは頭痛がするようにこめかみを指で押す。

「そうスッ? 自分じゃ、ずいぶん控え目な望みって思ってたんですけど」

『もう良い』と手を振るれいこ。
「まっ、格さんならこの程度の修羅場は何度も潜ってきてるみたいだから、奥の手の一つや二つあって何とかしてくれるかもしれないけど」

「アテにしていいんスッか?」

「さあね」れいこは横島のすがるような視線を突き放す。
「それより、格さんがやられたら二人で死津喪比女に突っ込むわよ」

「『突っ込む』? 『逃げる』の間違いじゃ‥‥」

「聞いたままよ。普通に逃げられるんだったら、格さんが戦いだした時にやってるって」
れいこはさりげなく微妙な発言をかます。実際、戦いの最中に逃げ出す隙がないかを窺っていたが、死津喪比女の注意が途切れることはなかった。

「だとして、二人で突っ込む意味って? 俺なんて一撃で終わると思うんですが」

「その一撃、二人で二撃分の手間を掛けさせるためよ。その手間をかけさせればおキヌちゃんが空へ逃げることができるわ」

「あ、あの‥‥ 囮だったら私が。私、死んでますから、何かあっても大丈夫だと思うんですけど」

「軽く考えるじゃないの! 霊体が傷つくと成仏できなくなって半永久的に苦しむことになるわ。大事な知らせを持ってきてくれたあなたをそんな目に遭わせたんじゃ”美神”の名が廃るってものよ」
 れいこは年上であるかのようにたしなめる。
「それに死津喪比女の住処を知っているのはあなただけでしょ。それを伝えてもらわなきゃ、ここでのいっさいが無駄になっちゃうじゃない」
そこまで言うと横島に向き直り、
「丁稚未満! 最低でもさっき出した程度の霊力を出しておきなさい。あれぐらいでも無いよりはマシだから」

自分の掌を見る横島。自信なさげに「やっぱ、それしかないんスか?」

れいこは苛立たしげに語気を強め、
「しつこい!! 女の子を助けるための犠牲なんだから、あんたには勿体ないほどの死に様じゃない! ”漢”だったら格好の良いとこ見せなさいな!」

横島は真剣な顔でおキヌをそしてれいこを見る。その表情に、見られた二人もつられて緊張する。

数瞬の後、
「いやや〜 死ぬのはいやや〜 きれいなねぇーちゃんとな〜んもしてないまま死ぬのはいややぁぁぁぁぁ」

緊張した分だけ派手にずっこけるれいこ。おキヌも浮力を失いかける。
「この期に及んで嘘でも格好をつけられんのか、オノレは!!」

「そんなあぁ 格好つけても、死んじゃ終わりでしょうがぁぁぁ 智恵様や助さんが感傷に沈んだ顔で『忠さん、あなたの犠牲は無駄じゃなかった』なんてつぶやき、俺の顔を空に思い浮かべたってうれしくなんかないですからね〜 生きて帰って、『無事だったの!』って言われて、智恵様‥‥ なんてぜいたくは言いません、助さんのやや控えめな胸でいいから抱きしめられたいんじゃぁぁぁ」

「もういいわ!」杖を振り上げるれいこ。
 ないはずの霊力が戻ったのか杖が霊力を帯び光っている。
「これ以上ガタガタ言ってたら、死津喪比女より先にアタシが引導を渡してやるから覚悟しなさい!!」

「うわっ! 本気っスか?! その迫力ってマジやばそうなんですけど‥‥」

迫るれいこと両膝をつき拝むような姿勢で謝る横島。おキヌは両者の間でおろおろするばかりだ。



「何かと後ろが騒がしいようだが、かまわぬのか?」
死津喪比女が間合いを仕切り直すため引いた涼に声を掛ける。

「んっ?! ああ、気を使ってもらって悪いな。戦っている後ろで”漫才”をされるのは慣れててね、かまわねぇよ」
バカ、いや若殿を助けて悪家老と戦っていた頃を思い出す涼。あの頃は、たいてい後ろで若殿が誰かと”漫才”を演じていた。
「それにしても、少し攻撃が”ぬるい”んじゃねぇか? これといって手加減してもらう理由はねぇはずなんだ」

「先の人狼との戦いを”見る”限り、かなわぬ相手と無駄に戦う阿呆ではあるまい。小娘が言うように『奥の手』の一つや二つはあろう。それを見極めるまではうかつなことはできぬと思うてのことよ」
死津喪比女はここでにやりと笑うと、
「もっとも、”気”が尽きかけた今となってはどのような奥の手も使えはせぬだろうがな」

「なるほど、じんわり消耗させたてから料理をって寸法か。地味に嫌みな性格をしてるじゃねぇか」

「褒められたものと取っておこう」満足げな死津喪比女。
「では、妾に挑んだ己の愚かさを悔やみ死ぬがよい!」

あらかじめ仕掛けていたようで、その言葉と同時に槍の先端を思わせる鋭さをもった”根”が何本も涼の足下から突き出された。

「まだ、終わっちゃいねぇぜ!」
 並みの人間なら飛び退く(そして追い撃たれ仕留められる)ところだが、一瞬で”根”の間隔を見切った涼はその隙間に体を躍らせ間合いを一気に詰める。

終わると油断したのかその動きに対応しない死津喪比女。

‘やれるか?!’
 思った瞬間、額から生えた髪の毛とも触覚ともつかぬモノがしなり襲ってきた。

 身をひねりわそうとするが、全力を出しきっての後だけに余裕はない。
 かろうじてかざした腕に触手が巻きつき、動きが止まったことでもう一本の触手も腰にまとわりついた。

「ぐっ!」猛烈な力で締め上げられ刀を取り落とす涼。
そのまま、抱き上げるような形で死津喪比女の息が掛かるほど間近かに引き寄せられる。

「退かずに踏み込んだことは素直に褒めておいてやろう」
 そこで猫が捕らえたネズミにするような舌なめずりを一つすると、
「ふむ、間近で見るとなかなか良い男ぶりよな。気が変わった、僕としてしばらくは生かしておいてやろう」

「願い下げだな! だいたい俺がてめぇの言いなりになるとでも‥‥ぐっ!」
強められた締め付けに言葉が途切れる涼。

「あの犬っころも似た台詞を吐いておったな。お前の意志などに意味はない」

「これでもか?!」涼は空いた手を差し上げる
「解禁! セイリュートー!」

声に応じ懐から自ら輝く勾玉のようなもの飛び出すと、差し上げた手に光の剣として収まる。間髪を入れず、片手袈裟に切り下げた。霊波刀に比べると硬質な質感を持った光の剣は、死津喪比女の肩から斜めに臍あたりまでを一気に斬り裂いた。

『どうだ!』という涼の顔が強張る。体を絡めている触手の力がほとんどゆるまない。

「クッククク‥‥ それが”奥の手”か。しかし、この程度とは興ざめもいいとこよのう」
 斬られせいで体がやや傾く形の死津喪比女が嘲る。

「少しは”行ける”って期待はしていたんだがね。まっ、この程度でくたばるてめぇだったら、あの人狼だって苦労はしねぇからな」

「まだ、そのような口が叩ける‥‥」そこまでで口をつぐむ死津喪比女。
 涼の顔に勝利の確信を見たからだ。一気に縊り殺そうと力を入れる。

 が、それより早く「抜刀!!」の叫びが響く。

天頂から放たれた稲妻のような光の柱が死津喪比女を撃つ。瞬間、凄まじい−破魔札なら数十枚、いや百枚分はゆうにあろうかという−爆発が生じた。

爆風で地面に投げ出される涼だが、巧みな受け身で体勢を立て直す。万が一の反撃に備えてのことだが、一目でその必要がないことが判る。

死津喪比女がいた場所は半間ほどの深さですり鉢状に抉られ、その体は粉々に。四散し断片が青白い炎をあげて燃えている。

その不気味な色合いのせいか、涼の表情は重苦しく勝ちを得た喜びは読みとれなかった。


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