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GS横島 剣客浪漫譚

幻の修学旅行!!(2)


投稿者名:いぷしろん
投稿日時:06/ 8/30


 こう、あれだ。霊力を吸われるなんて事から真っ先に連想できるのは、いつかの『八房事件』の時のアレなんだよな。
 まさかこの時期にんな大事件が起こるとも思えんかったから、対策とかもあんまし考えちゃいなかったけど……。
 くおぉぉぉぉぉ……。なんつーか、力が抜けていく上に腹の底が気持ちワリィ……。
 なんつーか、結構リアルにピンチだわ、これ。っつーかこれ以上やられたら死ぬ。マジで死ぬ。





 GS横島 剣客浪漫譚(9) 〜幻の修学旅行!!(2)〜





 なんだか今までの走馬灯がくるくる頭ん中を回りだす寸前ってところで、霊力吸出しはトートツに終わってくれた。
 その隙にとりあえず一息ついて、このままぶっ倒れるってのだけは何とか避ける。
 流石に愛子は俺たち人間と違って元々の霊的ポテンシャルが高い分マシっぽいが、俺の方はちょっと立ってられないくらいヤバい。
 今更だけど、分かった。ワザとじゃないだろうが――これはタマモの仕業だ。
 つぅか、それ以外であってたまるか!

「大丈夫か?」
「私は大丈夫。でも、横島君は……」
「正直キツイけど、今まで渡ってきたヤバい橋に比べればこんなもんままごとみたいなもんだ」

 八割がたは強がりだけど、それだって言えないよりはよっぽどマシ。俺にはまだハッタリがかませるだけの気力体力があるんだ、みたいな。……見方を返せば、そこまで切羽詰ってるって事でもあるけど。
 とっさに周囲を見渡すが、どーやら巻き込まれたのは俺たちだけらしい……?
 どういう事だ? 今俺たちは殺生石の目の前にいるんだぞ。周りには結構な数の人間がいたはずなのに……。
 ――いや、むしろ俺たち二人が周囲から隔離された? まさか……、暗示か?!
 冗談じゃないぞっ! これだけの人数に無意識下での暗示を掛けるなんて、タイガーとエミさんのコンビを軽く超える能力じゃないか!
 これが全盛期のタマモの力だとしたら……、洒落にならんな。おキヌちゃんの時のナントカ姫とかってのとガチでやりあっても勝てそうだ。
 と、そこまで考えてイイ感じで自分の顔から血の気が引いていくのが分かる。
 そういえば、一番最初の頃のタマモって、俺に向かって幻術ブチかましてくれたりするくらいの関係だったよな、とか。今復活しつつあるであろうタマモって、当然の事ながら俺の事なんて知らないよな、とか。そーいう事に気付いちゃった訳で。
 しかもなお悪い事に、表面的な事態ですらこれだけで収まってくれそうにもない。

「横島君! 気付いてる?!」
「ああ。これだけ派手にやられたらな……」

 あれだけ周囲に満ちていた妖気や霊気が、ものすんごい勢いで殺生石へと収束していく。文珠の精製に感覚は似てるけど、規模が段違いだ。
 正確には分からないけど、俺の霊気と愛子の妖気が起爆剤になったっぽいな。……本当に、マジで最悪。
 この霊力が直接攻撃に使われるなんて事はないだろうけど、それでも収束しつつある霊気と妖気はちょっとした神魔族とタメをはれるクラスだ。そんなクラスの霊力を扱うんだ、何かの余波だけでも直撃すれば十分死ねる。
 だいたい、これ以上何か起こったってどーにか出来るような余力なんぞ俺にも愛子にも無いぞっ!?

「な、何が起こってるの……?」
「こんな曰く付きの土地で、こんなデカイ霊的現象が起こってるんだ。思い当たるフシなんて一つしかないだろ」
「まさか、玉藻御前の復活!?」
「たぶん、大当たりだと思うぞ」

 実際、目の前の殺生石を核として凝集していく力の波動は、“かつて”馴れ親しんだタマモのソレとそっくりだ。っていうか、タマモの復活以外のイベントだったりした日にゃ、俺も愛子もジ・エンドだわな。そんな可能性考えたくも無い。
 それでも、万が一の時のために愛子を背中に庇って身構える。動いている霊力の大きさを考えると身構えるのも無駄っぽいが、何もしないよりはマシだろう。


 ……まあ、そんな俺たちの事には一切お構いなく、始まった時と同じように、唐突に全ては終わったんだけどな。
 あっけないほどぴたりと静かになる空間。辺りに漂っていた妖気も霊気も霧散して、この体から霊力が持っていかれてなかったら白昼夢でも見ていたかと思いそうなほどだ。
 ただし、俺達の目の前にはこれが夢ではなかった証拠が存在している。
 まるで、今までもずっとそこにいたかのような自然な状態で眠る、一匹の子狐。ずっと前方の空間全てを警戒していたはずなのに、そんな俺を嘲うかのように手を伸ばせば届くような目の前に、文字通り出現していた。
 正直、これが悪霊だの魔族だのの攻撃だったら一発で死んでたな。多分、さっきの超強力な人払いの暗示と同じ系統の認識妨害系の暗示なんだろうけどさ。
 ま、何も起きなかったから良しとしておこう。なんか、無駄に身構えてた俺がアホっぽい展開だけど、逆に言えばそれが無駄にならなかったらもっとヤバい事になってたって事だし、その事に関しても文句は言わない。

「終わった、の?」
「たぶんな。っつーか、これ以上なんか起こったりしてたまるかっての。そこの子狐回収してさっさとズラかろうぜ」

 見た感じ、意識は全くないようだしな。あの未来を知ってる以上、ほっとく訳にもいかない。
 迷いはなかった。

「この子も? 横島君も分かってると思うけど、この子は……」
「俺だって馬鹿じゃないんだから、この子狐がナニかって事くらい想像はついてるよ。でも、ほっとける訳ないだろ」
「横島君……」

 タマモを制服の下に隠すように抱き上げる。おキヌちゃん辺りならこういうのも似合うんだろうけど、俺じゃ似合わないな。
 ま、宿に着くまでは我慢してくれな、タマモ。

「九尾の狐の伝説はいくつかあるみたいだけどさ、あんまりいい話じゃないだろ。コイツが復活した事が国やGS協会なんかに知られたらどうなるかくらい、分かるつもりはしてる。前世で何があったのかなんて本当の事は分からないけど、まだこいつ自身は何もしちゃいないんだ。……だから、匿えるなら匿ってやりたいし、俺の力の届く限りは守ってやりたいんだ。ただの自己満足かもしれないけど、さ」

 俺がこんな風に思っていても、タマモがそれを望むかどうかは分からない。だいたい、自分の身を守るだけでもヒーヒー言ってたのに、他の奴を守るだなんて少しばかりおこがましいんじゃないかとも思う。
 ……まぁ、それでも俺はやりたいようにやるつもりだけどな。

「なんで――」
「ん?」
「なんで横島君はそんなに優しくしてくれるの? 横島君はGSなんでしょ。だったら、私たちみたいな存在は問答無用で滅ぼそうとしてもおかしくないのに……」
「なんでって言われてもなぁ……。俺にとっちゃ当たり前の事だし、そんなに特別な理由なんてないぞ。だいたい、女の子しばいて滅ぼすなんて性に合わないしな」
「……なんというか、横島君らしいわね」

 俺らしい、ね。まー、その意見は否定できないんだけどな。
 確か、南部グループだったっけ。美神さんを罠にはめようなんて世にも恐ろしい事を考えてた奴らに捕まった時に襲い掛かってきたアイツ――グーラーに《恋》の文珠使ったり《蘇》の文珠使ったりするよーな男だからな、俺は。
 ……しかしまぁ、アレだ。そんな事はどうでもいい。それより、懐に隠したタマモの感触がアレでナニな方がよっぽど重要だ。
 いや、あったかくて気持ちいいんだけどな。“あの”タマモが完全に身を任せて眠っているなんて状況、あの頃は想像もできなかったからなぁ。妄想だけでご飯三杯はイケるね。
 んでもって、さすがの俺もそれは人としてどうだろう的な事も思うわけで。こーやって百面相やってるわけだ。

「その子、良かったら私の中に隠す?」
「それも考えたけど、この子の事を考えるとなぁ……。むやみに異空間に放り込むのは良くないだろ。本人の同意があるならともかくさ」

 起きた時にびっくりする事間違い無しだからな。俺だってパニくって教室飛び出したくらいだしなぁ。
 いやまぁ、俺が抱え込んでるこの状態も、それはそれでバレる危険があるんだけどな。つーか、バレやすさでいったらこっちの方がヤバいのはヤバいだろうし。

「とにかく、クラスのみんなと合流しよう。暗示を食らったままだとしても、バスに戻った時の点呼で俺たちがいない事に気付くはずだろーし。それまでに戻っとかないと、な」
「人知れず巨大な謎に巻き込まれる二人。ああっ、青春だわっ……!」

 いや、それは何か違う気が……。





   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※





 ……で、所は変わって俺たちの現在地は今日の宿。
 ちなみに、何とかみんなに気付かれない内に合流する事はできてたり。もちろん、タマモの事も今んとこバレてない。
 途中で起きたらしく思いっきり腹を引っ掛かれたりもしたが、我慢我慢。心の中じゃ絶叫モンだが、顔には出てなかったはず。変な脂汗はかいたけどな。
 ……まあ、それはこっちに置いておいて、だ。修学旅行であるからには、当然寝る時は相部屋になる。っつーか、飯食ったり風呂入ったりっつー大抵の行動は班単位だったり部屋単位だったりする訳で。
 こんな子狐抱いたままじゃ何をどーやってもバレる。何とかバレない内に事情を言い含めておかないとえらい事になるのが目に見えてる。ので、宿に着いてすぐの時間、少し暇があるこのタイミングで俺と愛子はこっそりと二人っきりになっていた。
 具体的には、愛子の腹の中なんだけどな。

「よいせっ……と。ったく、容赦無く引っ掻きやがって……」

 いてててて……。あー、やっぱし蚓腫れになってやがる。
 タマモはタマモで、警戒心むき出しだしさ……。タマモの気持ちも分からんでもないけど、“知り合い”にそんな態度をされると少し淋しいな。

「あー、そんなに身構えるなって。心配しなくても、ここにお前の敵になるような奴はいないよ」

 とは言ってみたものの、タマモが警戒を解く様子はない。
 まぁ、仕方ないか。俺だって、自分が寝てる間に拉致られて異界空間に放り込まれた挙げ句にこのセリフじゃ、相手を信用するんて無理だからな。

「まぁ、すぐに俺たちの事を信用できないのも分かるからさ。とりあえずメシでも食って落ち着きな」

 そう言って、皆と合流する前にこっそり買っておいた稲荷寿司(三個入り)をずずいっと差し出す。
 それを少し警戒しつつ、ぱくぱく食べるタマモの姿に、知らず知らずの内に頬が緩んでいたらしい。
 きっちり稲荷寿司を三つとも食い切ってかつてのように変化してみせたタマモは、不満というか不審というか、そういったものを隠そうともせずにこちらを睨んできた。

「なに笑ってるのよ」
「あ……。いや、スマン。こうして見てると可愛いもんだなー、と思ってさ。気に障ったんなら謝るよ」
「な――!?」

 あ……。言ってしまってから気付いたけど、今のって結構恥ずかしいセリフなんじゃなかろーか。っていうか、今頃になってメチャクチャ恥ずかしくなってきた。
 言われた方のタマモも、顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。俺がやっててもアホなだけだが、伝説級の美少女だけあってやっぱし反則的な可愛さを発揮していた。こう、もうちょい体が大人だったら間違いなくルパンダイブかましてたな、ってくらいに。

「と、とにかくだ。一応確認しとくけど、お前は九尾の狐の転生体であってるよな?」
「……違う、って言っても信じるの?」
「だから一応って言ったんだ。さっきも言ったけど、心配しなくてもお前をどうこうしようなんて思ってないって」
「……まぁ、今は信じてあげる。何かするつもりならとっくにそうしてるだろうし、他に選択肢なんてないもの。――で、何が目的なの?」
「へ?」

 俺の返答とも言えない間抜けな返事に、それまで厳しい表情でこっちを睨んでいたタマモの気も抜けてしまったらしい。
 投げやり気味に言葉を足してきた。

「だから、私が白面金毛九尾の妖狐――玉藻の前の生まれ変わりだって気付いててこんなトコに連れ込んだんでしょ。なら、何か目的があってそうしたと考えるのが普通じゃない。……ま、何が目的だったにしてもコレじゃ役には立てないと思うけど」

 そう言って自嘲気味に両手を広げてみせるタマモ。前世の記憶もあやふやだろーし、タマモを何かに利用しようって奴なら何かリアクションを返すんだろうなぁ……。

「つってもなぁ、目的なんてないわけだし、そんな事を言われたってどうリアクションを返したものやら」
「はぁ……、そんないい加減な態度でこんな事しないでよ」
「いい加減って言うな。たしかに態度はアレかもしれんが、ちゃんと理由はあるんだぞ」
「ふざけた理由じゃないでしょうね?」
「……まぁいいや。今お前が置かれている状況を懇切丁寧に説明してやっから耳かっぽじってよーく聞いとけ」

 で、その後はタマモの復活が各方面にバレた場合の状況のシュミレートを小一時間。言い換えれば、かつて俺が美神さんの受けた依頼で体験した出来事をかいつまんで話して聞かせたとも言う。
 今はまだ――あるいは、もう、と過去形で言うべきか――そうなる可能性の一つに過ぎないが、説得力は十分あったはずだ。なにせ、俺自身が巻き込まれた実際に起こった事だからな。
 案の定、最初は半信半疑で聞いていたタマモも次第に真剣な表情で俺の話を聞くようになっていた。

「――なるほどね。あんたの言いたい事は分かったわ。でも、一つだけ分からない事があるんだけど」
「まだ何かあるのかよ」
「……あんたは、私を匿う事の危険性まで全部分かってて、なんでそこまでしてくれるの? それも、こんな体と霊力じゃ私があんたにしてあげられる事なんてほとんどないのに……。助けてもらう私が言うのもなんだけど、普通はこんな事しないわよ」

 ……あぁ、そういう事か。ま、こっちの事情を知らないはずのタマモとすれば当然の疑問だな。

「理由なんてない。そうしたかったからそうしただけだしな……」
「信じられないわね」

 ……一言でバッサリ切ってくれるなぁ。まあ、本当の事を話してるわけじゃないから、タマモの疑念は大正解なんだけどさ。つっても、本当の事を話せるわけもないしなぁ。
 実は俺は未来から突発時間移動で吹っ飛んできていて、その未来で知り合いだったから助けた。
 なんて理由、美神さんや隊長の事を知ってたり自分自身が実際に体験してなけりゃ俺だって信じないぞ。
 っていうか、そもそもあの時タマモを助けたのもかなり勢い任せの行動だったし、そういう意味じゃ理由なんてないんだよな。まぁ、知り合い一同に言わせれば「そんなトコが俺らしい」んだそうだけど。
 うーん、困った。どう言えばタマモを納得させられるものか……。

「……ま、何か言えない理由があるんならそれでもいいわ。今は聞かないでいてあげる」
「いいのか?」
「いいも何も、喋る気ないんでしょ」

 いや確かに、そう言われると何も言い返せないんだけどさ。

「でもまぁ、名前くらいは教えてくれるわよね」
「そういや、自己紹介もまだだったっけ……。俺は横島忠夫、霊能持ちの高校生だ。で、こいつは学校妖怪の愛子な」
「よろしくね」
「ふーん。私は……、私は、タマモ。ただのタマモよ。しばらくはお世話になるつもりだし、よろしくね、横島」





   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※





 とまぁ、俺的にはほぼベストな形で落ち着いたのは良かった。それに関しては文句なんて全くないんだけど……。
 一つ聞きたい。
 何でタマモは堂々と俺の向かいで飯食ってるわけ? しかも、周りの奴らもそれをとーぜんのように受け入れてるし。

「なに? さっきから人の顔じろじろ見てさ」
「いや……、なんでお前はそんな堂々と飯食ってるんだ?」
「そんなの、愛子に聞いてよ。……言っとくけど、幻術なんて使ってないわよ。あれって、対象が増えれば増えるほど難しくなるし疲れるんだから」

 ……それって、裏を返せば相手が少なければ使うって事か? まあ、この集団の中で自分が激しく浮いてるって事は理解してるらしい。
 いやいや、んな事はとりあえず後まわしだ。
 タマモの横に座ってる愛子の方へ視線をずらす。……っていうか、そもそもこいつも厳密に言えばうちの生徒じゃない気もするが、それもとりあえず放置プレイ。

「どーいう事なんだ?」
「先生には『昔から知ってる妖怪仲間だ』って話しておいたわよ」

 ……あぁ、なるほど。確かに、愛子はタマモの事を“知っていた”し、妖怪仲間っつっても間違いはないから、嘘は吐いてないな。……限りなくそれに近いペテンではあるけど。
 タマモもその辺りは理解したようで、感心したように頷いている。

「でも、だからってここまで受け入れてくれるものなの?」
「行く所もないみたいだし、しばらく一緒でもいいですか――って聞いたら……」
「一発オーケーだったってか。それって、タマモも学校妖怪なんだと思ってるんじゃないか?」

 で、引き受け手の無い生徒なら我々が引き受けようじゃないか、と。……じゅーぶんありうる。
 まぁ、いい意味でも悪い意味でも、ぶっとんだ教師も多いからなぁ、うちの学校。俺たちにとっては都合がいいから別にいいんだけどさ。

「じゃあ、私も愛子と横島みたいにガッコウ……って所に行っておいた方がいいのかな?」
「まぁ、住む所はとりあえず俺ん家があるから、どっちでもいいんじゃないか? 別にタマモが学校に通う必要なんてないんだし、それくらいのフォローは俺と愛子でしておくからさ。……まぁ、美神さんのトコに一日中詰めてる日以外は学校にいるから、タマモにもついて来てもらった方がいいかもしれないけど」
「なら、そうする。復活したてで知識も力もないし、する事も無いし」

 まぁ、する事が無いってのは、そうだろうなぁ。俺だっていきなりこんな状況に身一つで放り込まれたら何したらいいかわからんだろーし。
 ただ、とりあえずタマモ自身はそれでいいとしても、一応の保護者役としては今後の事を考えておかないとな。
 具体的には、生活費はどーすんの、とか。居住空間狭くないか? とか。
 住まいに関しては、なんとかならないでもない。右隣の部屋は三浪生が抜けた後は小鳩ちゃんのところが入居するからどーしよーもないけど、それ以外の部屋なら何とかできそうだし。
 普段の生活を一緒にしておいて、寝る時とか一人になりたい時にでももう一部屋の方を使えばいい。ま、タマモも四六時中俺と顔つき合わせっぱなしじゃ嫌だろうからな。
 そうなると、問題は生活費かぁ……。
 仕送りを増額してもらうのが一番いいんだろうけど。あのオカン相手にそんな事しようものなら、根掘り葉掘り聞かれてタマモの事がバレて大事件か、あっさり拒否されるかのどっちかだろうしなぁ。
 なら、美神さんに給料アップを頼んでみるか? 前より地力は上がってるんだし、少しくらいは目はあるだろ。……まぁ、一蹴される可能性の方が高いけど。
 ……うーん。やっぱり厳しいな。
 最後の手段として、いつかの雪之丞よろしくモグリのGSをやるっつー選択肢もあるにはあるけど。
 正直、既にタマモっていう弱みを持ってるからあんまりリスクの高い方法は控えたい。それ以上に、オカルトGメンができた時に西条に弱みを握らせるのも気に食わないしな。……あの野郎、人の弱みを握るのは得意だからな。
 かと言って、バイトを増やそうにも、時間も体力も余ってないから増やせないし。第一、美神さんとこで何かあったらって考えるとなぁ。
 いや、この業界で働きながら掛け持ちを考えてる時点で色々とアレなんだけどさ。
 ちなみに、美神さんの所以外で働くっていう選択肢は無い。なんだかんだ言っても最後には頼りになる人だし、色々な事件の中心にいる人だからな。あと、シメサバ丸の事もあるし。離れようにも離れられない。いやほんと、こうして考えると本っ当にどーしよーもないな。はっはっはっはっ……。

「なに泣きながらご飯食べてるのよ」
「いや、ちょっとな。これは今の労働条件を思うと自然と出てくる心の汗なんだよ」
「そんなに悪いの?」
「悪い。フツーならこんな時給で働くかってくらい安いくせに重労働かつ命の危険アリ」
「……私、時々横島君の事が分からなくなるわ」
「成り行きでこんなんなったんだからしゃーねーよ。もうある程度はあきらめた」

 というか、そうでもないとあの人には付き合いきれない。
 まー、そんな過酷な労働条件に見合うだけの価値はある職場なんだけどな。具体的には美神さんのチチシリフトモモとかっ。

「何となくだけど、横島君がそこで働いてる理由が分かったような気がするわ」
「……ほっといてくれ」





   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※





 まー、アレだ。今んとこどうしようもない事はとりあえず見ないふりでもしておこう。たぶん何とかなるだろ。
 そ・れ・よ・り・も!
 今我々は温泉旅館に泊まっているわけで。温泉旅館という事は当然温泉があるわけで。しかも露天風呂付き。
 ……もう一度言うが、露天風呂付き。
 ふっ、ふっふっふっふっ……。今ここで征かねばいつ征くというんだっ! もはや誰にも俺は止められん! いざ征かん、全て遠き桃源郷へっ!

「わはははははっ! 数々の修羅場を潜り抜けて美神さんの入浴シーンを覗き続けてきたこの俺にとって、ただの旅館の覗き対策なんて子供騙しも同然っ!」

 現在高笑い中の俺の装備は、全身に木の枝を括り付けた待ち伏せスタイルだ。こういった野外の風呂を覗く場合、こちらから見えるという事は向こうからも見えるという事になる。そんな事にいつかの出張で気付いた俺が編み出したのが、この格好だったりする。
 ……まぁ、それでも美神さんにはバレてたんだけどな。
 それはともかく、唯一俺を止め得る美神さんがこの場にいない以上、俺の勝利は約束されたもどうぜ――




――カチッ




「……へ?」

 うわ何かヤバ気な音がしたぞおいこら滅茶苦茶嫌な予感がするんだけどそういえば昔スキー場に行った時にもアホみたいにガードの固い温泉があったないやあの時もかなりマジに命がヤバかったが気合いで突破して結局美神さんに殲滅されたっけ。
 ……あー、つまりドカーンでピョーンでグシャッでバタッ、ですかそうですか。




――轟!




「たわらばっ!?」


〜続く〜


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