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GS横島 剣客浪漫譚

幻の修学旅行!!(1)


投稿者名:いぷしろん
投稿日時:06/ 8/15


 朝っぱらから、着替えやらシメサバ丸やらを放り込んだリュック――元々美神さんに支給してもらった物だけど、今や私物同然のソレを背負って集合。
 さらに、そのまま車に乗って移動する事数時間。
 最近色々とイベントてんこ盛りだったせいで疲れてるっていうのに、朝一は辛いとです、先生。……ま、自分で決めた事だからしゃーないけど。
 あん? 何してる、ってか?
 そりゃーもちろん……、修学旅行に決まってるじゃないですか旦那。
 “前回”は出発初日のちょーどこの日に除霊が仕事でコンニチワってな事で行けなくなっちまった分、今回は楽しみまくってやるぜこのやろーっ!
 具体的には、前回行けなかった怨念の分も含めて二回分。あと、修学旅行行ってる間に入れたであろうバイトの時給の元が取れるくらいだな。





 GS横島 剣客浪漫譚(8) 〜幻の修学旅行!!(1)〜





「少し疲れてるみたいだけど、大丈夫?」
「まー、最近色々あってな。疲れてるっちゃ疲れてるんだけど、修学旅行くらいは参加したかったからなぁ」
「ちゃらんぽらんなように見えて、横島君も結構苦労してるのね」
「こんくらいの無茶は普段やってる仕事に比べればなんて事ないんだけどな。まぁ、愛子が俺の事をどう思っているかってのはよーく分かった」

 隣に座る愛子に向けて軽くジト目を向けると、愛子の奴は何とも言えない笑みを浮かべてあっけらかんとこう言い返してきた。

「だって、他に言いようがないんだもの」
「……そりゃ、少しは自覚してるけどよ。本人目の前にしてそこまでキッパリ言い切るこたぁないだろーが」

 ぼやく俺の視線の先には、通路にデンと鎮座している愛子の本体がある。隣同士とは言っても、それは通路を挟んでの事だ。俺のもう一人の隣の人間は、ウチのクラスの担任その人である。修学旅行に参加できるかどうか最後まで微妙だったのだから、まぁ、仕方ない。
 ……しっかし、ウチの学校って時々スゲーな。まさか愛子まで修学旅行に連れてくるとは思わなかった。うちのクラスの連中の最後に愛子が机抱えて乗ってきた時の運ちゃんの顔は中々の見物だったな。今もこう、半ば現実逃避するかのように寡黙にバスを走らせてるし。
 職業柄そういう風に逃げる訳には行かない添乗員のねーちゃんはというと、これが意外とそこら辺あっさりとスルーしていたり。

「そんなに拗ねなくてもいいのに。こんな事言ってても、結構頼りにしてるのよ」
「そりゃ、何かヤバい事が起こった時限定だろ。フツーのレベルの霊的現象なら愛子がいれば何とでもなるだろうに、その上俺まで出張らなきゃならんよーな事態なんて、全力でお断りだ」
「そうかなぁ……。『学校の怪談』みたいな展開、結構青春してると思うんだけどな」
「色々とツッコミどころはあるけど、とりあえず一つだけ。――普段から仕事でアクションもホラーもじゅーぶんやっとるから、俺はもうそんな展開はお腹一杯だっつーの」
「そうなの?」
「そうなの。つい一昨日にも、デパートん中で人に襲い掛かってくるマネキンなんて妙な奴相手にしたばっかりなんだぞ。途中で停電して真っ暗になるわ売り場がやたら不気味で怖かったわどこから襲い掛かってくるか分からんで気が抜けないわ、大変やったんやからな。しかも、危うくマネキンにされて身包み引っぺがされる寸前だったし」

 奴のせいで前回はランジェリーを着けさせられるなんて屈辱を味わったからな。その分の恨みも込めて、どこぞの殺人貴ばりに斬刑に処してやったが。ああいう時にシメサバ丸持ってると楽でいいねぇ。

「そんな激烈にハードな日常を送っている身体を癒すべく、今日の宿が温泉旅館だったりしたら嬉しいなーっと。……っていうか、どこへ行くのか全然知らないんだけど、今どこに向かってるんだ?」
「知らないって……、みんなで決めたんじゃないの? 私はその時の事を良く知らないんだけど」
「ああ、その日はこいつは休んでいてな。どうせ横島の事だから朝の集合時間だけ聞いて修学旅行のしおりなんぞ見てもいないんだろう?」
「いやー……、はっはっは」
「笑って誤魔化しても駄目だぞ。お前も色々事情があるのはわかってるが、せめてしおりくらいはチェックして来たらどうだ」
「スンマセン」

 ぢつは、しおりを読んでないどころか既に紛失しちまってるんですが……。まぁ、先生にそんな事を言えるはずも無く。笑って誤魔化すしかないんだもんなぁ……。

「ちなみに、今日の宿は那須高原の近くにある旅館だぞ。一応温泉も付いているらしいから楽しみにしておけ」
「いよっしゃあぁっ!!」

 ふはははははっ! これは色々と楽しみだ。宿に着き次第地形の把握をして作戦に備えねば……。

「そう言えば、横島はGSの助手のバイトをしているんだったな。だったら、今日の最後に回る那須高原の話くらいは知っているか」
「那須高原? いや、全然知らないっすけど」

 那須高原、那須高原、那須高原……。那須、なす……。茄子?
 うぁ、唐巣のおっさんのとこでやったアレ思い出しちまったい。トマト爆弾やらトウモロコシミサイルやら、色々と“文字通り”食らったからな。ほんと、あん時はヒドイ目にあった……。
 いや、あの程度は日常茶飯事なんだけどさ。逆に言うと、あのくらいのドタバタでも「いつもの事だし」で片付けてしまえる俺の日常生活って……。
 とりあえず、そんな不毛な思考は完全に脇に除けて見ないようにして、だ。那須高原って何かあったっけって話だよな。

「おいおい、いくらお前でも殺生石の伝説の話くらいは聞いたことがあるんじゃないのか?」

 あー……、あるもなにも、タマモには色々と苦労させられたからな。まぁ、伝説になるだけあって滅茶苦茶ゴイスーな美少女だから大抵の事は全部許せるけど。
 ま、未来っつーか昔っつーか。“今”とはあんまり関係ないかもしれないけど。

「そりゃあ、まぁ、一応知ってはいますよ。けど、タマ――九尾の狐の伝説がどうかしましたか?」
「その殺生石があるのが那須高原だ」
「へー……」

 とすると、美神さんにしちゃ珍しく軍隊――っつーか自衛隊なんぞと手を結んで事に当たったあん時の現場が、今から行く場所か。
 ……あ゛。
 そーいや、もしここでタマモと接近遭遇かましたりなんかしたら結構マズイんじゃなかろーか。
 確か、あん時は隊長が裏から手を回したとか回してないとかって話も聞いた覚えがあるしさ。まぁ、それが本当かどうかは別にしても、隊長の名前があったからこそあの後も国やオカルトGメンも動かなかったんだよな。そこら辺の詳しい事情は俺なんかじゃ知りようも無かったけど、状況を少し考えてみれば俺にだってそれくらいは分かる。
 ……まぁ、そういうのが分かるようになる事が、「大人になる」って事なのかもな。
 で、話を元に戻すと、だ。タマモの事を考えた場合、万が一の場合に頼りにできる隊長がいない――いや、ホントはこの時間軸にいることはいるだろうけど、どことも知れないジャングルの奥地に旦那さんと二人っきりじゃいないも同然だし。あ、そもそもこの時期は死んだ事にして一切の外界との接触を絶ってたんだっけ?
  ……とにかく、隊長を頼りに出来ない事を考えると、他に誰か頼りにできそうな人を探しとかなきゃいけない。
 俺一人でタマモを護りきるなんて絶対に不可能だしな。物理的にならともかく、社会的にって事になると俺にできる事なんて何一つ無いも同然だ。もちろん、物理的に護るのだって俺一人の力じゃ限度ってもんがある。……悔しいけど、これは事実だ。せめてGS免許でも持っていれば話は別かもしれないけど、無い物ねだりをしても仕方が無い。
 ただ、だからと言って頼れる人間の方もそう多くはないんだよなぁ。
 まず、ウチの両親。あの二人はある意味とんでもなく頼りになるんだけど、霊的な事が絡んでくる事で頼るのは少しだけ不安があるし。……何より、いろんな意味でアレだからなぁ。どうしようもなくなった時の最後の手段だな。
 次に、美神さん。あの人も金とコネに物を言わせて大抵の事は対処してしまえる人なんだけど、今回の場合は期待しない方がいいかもな。少しばかり時間をかけて事情を把握してもらえば味方になってくれる可能性は高いけど、こと金が絡んだ時のあの人の態度は明快極まりないからなぁ。事情を説明する前に国に何億か積まれたりした日には、どーなる事かわかったもんじゃない。
 つってもなぁ、こんな話他の人のとこに持っていくのはさらにアレだしな……。いっそ見て見ぬフリができれば一番楽なんだろうけどさ。
 でも、いくらなんでもほっとけないよな。
 何をした訳でもないのに、あんなに大勢の人間にお札や銃まで使われて追い回されて、さ。人間の姿をしていた時だってせいぜい中学生って感じの女の子、まして狐形態の時なんて片手で抱きかかえられそうな程小さな子狐だったんだぞ。
 ……やっぱ、ほっとけないよな。

「急に考え込んだりして、どうかしたの?」
「ああ、いや……。なんでもない」

 とりあえず、現場についてからの話だよな。まだタマモが復活したと決まったわけでもないし。
 何か起こっちまったら……、そん時は唐巣のおっさんを頼るしかないかな。あの人なら、悪いようにはならないはずだし。それでもダメなら、そん時はあの二人に頼るという最終手段か。うぅ、そんな事を想像するだけで胃が……。





   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※





 そんなこんなで、感覚的にはかなり久しぶりに俺は那須高原の地を踏みしめた。もちろん、この身体じゃ始めて来る土地なんだけどな。
 しっかしまぁ、曰く付きの土地だけあって、みょーに霊気やら妖気やらが雑多に入り混じっていて、しかもかなり濃密な感じになって存在してやがる。コレなら確かに、霊感の薄い一般人でも“何か”を感じたって不思議じゃない。
 ……ってか、明らかに濃すぎな気がするんだがそこんとこどーよ?

「何というか、凄い土地ね。私はずっと色んな学校を転々として来ただけだから、こういう所に来るのは初めてだわ」
「俺だって、こんな場所は初めてだぞ」

 規格外って意味なら妙神山とかも入るんだろうけど、あそこは普通の人間が足を踏み入れるには相当大変な場所にあるからなぁ。こんな風に普通に来れる場所でこのレベルっていうのは、さすがに初めてだ。
 “前回”来た時はこんなんじゃなかったはずなんだが……。あれか、タマモが復活しているかどうかでルート管理されてるとか、そういう事か?
 だいたい、これだけ霊的に特異な――周囲の土地と比較すると馬鹿馬鹿しくなるくらいの霊気に満ちている場所なら、この雰囲気に惹かれるようにして雑霊も寄ってきそうなものなのに、ざっと見渡した限りじゃ悪霊雑霊どころか無害な浮遊霊すら見当たらない。となると、何らかの結界的機構がこの土地に対して働いていると考えるのが適当だな。
 ただ、そんな俺の考えとは裏腹にこの土地に対して何らかの封印結界が張ってあるとか、そういった類の術が存在している雰囲気は無い。もちろん、俺や愛子の感覚じゃ分からんようなレベルの高等結界術式でも存在していれば話は別だろうけど……。
 ああ見えて愛子は付喪神――長い年月を経て「自然な不自然」としてカタチを得た存在だ。その霊的ポテンシャルは人間なんぞとは比べ物にもならない。自身の中に異界空間を創造・維持しているという事実だけでも、その能力の高さが分かるはず。
 ……まぁ、本人の霊的資質や性格上全くと言っていいほど荒事には向いてないけど。仮にあれで荒事向きだったりした日にゃあ、俺はもとより美神さんを始めとする一流GSでも除霊するのは難しいだろう。実際、刀剣系を始めとする武具類の付喪神やそれに取り付いた悪霊なんかは、本当に優秀な霊能者――例えば美神さんなんか――をして「厄介だ」なんて言わしめるんだから。
 っと、話が逸れたか。とにもかくにも、俺が言いたかった事は、だ。

 ――愛子が全く気付いていない以上、この土地にはいかなる霊的術式も存在していない。

 という事だ。
 もちろん、それだけだと今この場所の現状とはズレが存在するから、現実と理論の隙間を埋める存在が必要な訳で。
 俺の感覚っつーか予感っつーか少しばかりの推測っつーか、そういうものによると、どうもタマモ――っていうか殺生石の発する妖気がこの土地に侵入しようとする悪霊をシャットアウトしてるんじゃないかと。例えて言うなら、絶好のお花見ポイントでどう見ても堅気には見えないごっつい兄ちゃんが腕組んで座ってるようなものか。……まぁ、普通の人間なら絶対近付きたくは無いわな。

「私はよく分からないけど、こんな風な土地だったら人間は何とかしようとするんじゃないの?」
「まぁ、否定は出来ないなぁ……。けど、GSだって慈善事業でやってる訳じゃないから、これだけヤバ気な場所をどうこうしようって言うんなら億単位の報酬を積まなきゃ手出しなんてしないと思うぞ」
「億単位って……」
「結構マジな話だぞ。少なくとも、美神さん――俺の雇い主なら十億は要求するね。んでもって、依頼人からすればそんな金どっから出すんだ、って話にもなる」

 実際、美神除霊事務所に依頼が回ってきたのは国からだったし、それもタマモの復活が確定した後だったもんな。
 まぁ、金を出す側の気持ちも分からんでもない。この土地がかなり昔からこんな状態だったのなら、それこそ地元の人間にはこれが「自然な状態」として認識されちゃってるだろうし。そうなると、何か問題が起こるまでは放置プレイしておきたいっていうのは、分かるよなぁ……。
 さわらぬ神に祟りなし、って奴だ。さっきの例えを持ち出すなら、本当に花見場所に陣取ってる怖い兄ちゃんが何とかできるかどうか分からんのに、わざわざ金払ってまで用心棒を雇うか? って事だ。しかも、その際周囲の被害は考慮に入らない。
 こうやって考えると、実際にその兄ちゃんが暴れるまでは見て見ぬ振りでそっとしておきたくなるよな。
 もちろん、ただ放置プレイかましてるだけじゃなくて、何か起こった時の為に一応の監視くらいはしているらしい。実際、ここの話を聞いた時からそれなりに注意深く霊的異変を探していたけど、バスがここに近付く時に一度だけ、何か膜みたいな物を突き破るような感覚があったからな。
 それこそ注意してなければ美神さんレベルの霊能力者だって見過ごしそうな微かな違和感だったけど、それは巧妙に隠されているからそうだというのではなくて単純に出力が弱すぎるせいだったりする。
 まぁ、それもそのはずだよな。バスガイドさんに交通マップを借りて殺生石のあるであろうポイントから俺が違和感を感じた場所までの直線距離を測ってみると、ほんとに大雑把な数値でしかないけど十キロ以上の距離があるらしいからな。結界系の術式っていうのは、それが大規模になればなるほど加速度的に必要とされる霊力が跳ね上がる仕組みになっている。ま、地脈を利用しているとしても、この規模の結界を張れているだけでも驚きだわ。
 ただ、何かを封じたり護ったり、ていうような効果はさすがに無理だろうし、探査系の結界だとしても結界の範囲内全てをカバーするほど強力なのは無理だろう。って事はだ、恐らくこれは内部から対象とする「何か」が結界の範囲外に出ようとすると自動消滅するか何か霊的な信号を発信する事で異常を知らせる半永久稼動型の探査系結界で間違いない。それも、おキヌちゃんの時の地脈装置と同じくある特定霊波長に特化したタイプだ。
 いつの時代からこんな物が展開されているのかなんて分からないし知らないけど、まぁ随分とタマモの事を恐れているもんだな。……ほんと、事情を知ってる側からすればアホらしい。

「――横島君」

 俺の目から見れば、タマモはどこにでもいそうな女の子、という風な感じだったしな。まぁ、少なくともタマモが日本をどうこうできるっていうなら、美神さんなら世界をどうこうしてしまいそうな感があったし。いやマジな話、傍で見ていてもあの人は凄いように見えるだろーが、俺やおキヌちゃんみたいに間近で見てるとそれ以上に凄いように見える……てか感じるもんなんだな、これが。

「……横島君?」

 まぁ、類は友を呼ぶというか……。一時期お世話になっていたエミさんや、式神とトレードされた挙句影の中に閉じ込められかけた事もある冥子ちゃんも、規格外という意味では美神さん並み――

「横島君ってば!」
「……ん? 呼んだか?」
「さっきからずっと呼んでたわよ……」
「あー、……すまん。ちょっと色々と考え事をしてたもんでな」

 そんな俺の言い訳に、両手で抱えている本体の机を落としそうになって慌てて抱えなおす愛子。……そんなにあからさまに驚かんでもいいだろ。

「もう何か言う気も起きないけど、何かあったのか?」
「……やっぱり変だわ」
「いきなり面と向かって失礼だなオイ」
「だって、ここに着てからずっと変な違和感を感じるし、横島君はらしくも無く考え事なんてしてるし」
「俺だってたまには考え事くらいするっちゅーの……」

 ったく。でも、そんな事に構ってられない発言でもあるんだよなぁ、愛子の言葉は。

「愛子が俺の事をどう見てるのかは後でゆっくり話し合うとして、だ。違和感って、何か感じるのか?」
「何となくでしかないんだけど、何か大きな生き物に飲み込まれたみたいな……、変な感じがしない?」
「飲み込まれた、ねぇ……」

 それって、俺達が結界か何かの中に取り込まれたか踏み込んだかした、って事なんだろうな、やっぱ。それらしい霊力の動きはないんだけど……。

「ここら辺一体を囲んでる超広域結界の事じゃないよな……?」
「うん、それは違うと思う。確かにあれには私も気付いたけど、どっちかっていうと壁とか膜とか、そんな感じがしたから。ただ、今感じてるのも、ほんの少し普段と何か違うんじゃないかな、っていうくらいでしかないし……」

 愛子の感覚でもそれなんじゃ、俺の鈍い感覚でどうこう感じられるとは思えないな。それこそ、専門の道具が必要だわ。
 ……けどまぁ、だからって放置プレイかますのも土地柄が土地柄なだけに拙いか。

「愛子に分からんもんが俺に分かるとは思えないけど、ま、一応何か変なもんが無いかどうかくらいは探してみるわ」
「お願い。私ももう少し頑張ってみるから」

 こういう時に文珠の一つでもあると重宝するんだけどなぁ。小竜姫様んトコから戻ってきてから何とか作れたのが僅かに二つだけじゃ、そうほいほい使うわけにもいかない。
 なにせ、今手元にあるやつの片方なんて、昨日の夜に作り出したばっかの出来立てホヤホヤだ。つまり、この先半月ばかりは新しい文珠は打ち止めって事だからな。
 そりゃあ、この先一番厄介なメドーサがらみの事件の時は最後の最後まで手札として晒すつもりはないし、何を言われるか分かったもんじゃないから美神さんにも極力見せるつもりは無いんだけどさ。それでも、切り札として文珠を温存しておくのはデカイはず。
 それにしても――?!

「ぐ……! な、なんだぁっ?!」

 いきなり身体から霊力が吸い出されて……!?

「なにコレっ……!」
「あ、愛子もか!」

 あー、もうどちくしょーっ!
 なんでいつもこんなんばっかなんやーっ!!




〜続く〜


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