椎名作品二次創作小説投稿広場


その光の先に

05- beyond beautiful


投稿者名:カラス
投稿日時:06/ 8/10

キーン・コーン・カーン・コーン・・・

今学期最後のベルが鳴り響く。

ここは横島の通う公立高校。これから始まる夏休みを喜び、期待に胸を膨らませて活気づく生徒の声が聞こえる。

が、

「横島さん。起きてください。横島さん!」

「んぁ?」

誰かの呼ぶ声に、横島が目を開ける。が、なんだか視界がぼやけてよく見えない。

それはそうだ。横島は机に肘をつき、その上に覆いかぶさり、自分の眼球を自分の肘で押しつぶしていたのだから。

白く霧のかかった世界の中に、横島が良く知っている顔が二つ浮かんでいた。

「なんだ。ピートとタイガーか・・・どしたんだよ。」

「“どしたんだよ“じゃありませんよ。もう終業式終わってしまいましたよ。」

困り果てた顔でまだ半分夢の中にいる横島を覚醒させるため、少々口調をきつめにして説き伏せるピート。

「それに今日ワシらは美智子サンの収集をうけておりますジャー。
早く行かないと間に合わんですの〜。」

とタイガー。

「あ〜〜。そうだった、そうだった。」

まるで脳に酸素を送りこもうとしているかのようにグルン、グルンと頭を横に振る横島。

「じゃ、いこっか。」

そう言ってガタ、席を立ち教室の出口の方へと向かって行く横島。

「「・・・・。」」

その様子を無言で呆けたように見つめる二人。

「ん?いかねぇのか?」

振り向き、二人に問いかける横島。

「あ、すいません。」

「今行きますのー。」

軽快に返事を返す二人。

そこには先ほどの表情は無かった。

「?どしたんだよ?」

横島はわずかに口元を吊り上げてそういいながら再び前を向き、歩き始める。

そのあとについていくピートとタイガー。

一瞬、タイガーとピートは互いに目配せをした。

まるで、お互いに確認をとるかのように。





「遅いわよ。横島君、ピート君、タイガー君。」

東京都庁の地下奥深く、政府が秘密裏に政策した霊的災害対策施設。

美知恵はそこの会議室の上座、もっとも位の高いものが座る席で肘を突いて手を組みそこにあごを乗せた姿勢のまま言った。

「すいません。学校終わってからきたもので。」

横島が三人を代表して答える。

もともと、横島のせいで遅れたのだから当然だ。

「言い訳は結構。」

ピシャリと有無を言わさない様子で美恵子が言った。

「さて、全員そろったことですし、早速はじめたいと思います。」

その声に三人はあわてて席に着いた。

そのとき横島は始めて周りをみて、この会議の異常さに気がついた。

いや、こんなところで行うこと自体、異常といえばそうなのだが。
あくまでも、「人間」のみで行う会議だと思っていた。

会議に参加している面子は美恵子、そして右から美神、おキヌ、シロ、タマモ、西条、唐洲神父、エミ、冥子、カオスとマリア、雪之丞、それに魔鈴の順番で各席にモニターが備え付けられた円形の机に順番に座っている。

 
ここまでは予想道理だ。

しかし、なんと小竜姫とヒャクメ、ワルキューレにジークまでもがいる。

横島は自体の大きさに驚き、少し戸惑った。

「二週間前、令子よりサトリ、及び猫又の能力、及び知能が上がっている。
との報告があり調査したところ、この一ヶ月ほどの間霊が突然強くなり、人に襲い掛かる現象が全世界で見られます。
その数、ICPOが確認できた物のみで1000件。
実際には少なくともその倍はあるというのが我々の見解です。」

そこで美智恵は一旦言葉を切り、周囲を見わたした。

みな私語一つせず、次の言葉を待っている。

「これらの事件には共通している事柄が何点かあります。
一つは先にも述べたとおり、能力が急に上昇したという点。
そしてもう一つ、知能も同様に上がっているという点。
それにより、今まで上下の関係しかなかった妖怪たちの間に並列の関係、
共通の利益のためにお互いに協力しあう。といった現象が見られます。
その最たる例がここにいる何人かも体験した六道女学園臨海実習での霊の大規模な上陸作戦。
あの時は何も感じなかったけど、今思えばあれは今回の事件の前触れだったのかも知れないわね。」

その言葉に美神事務所の一向とエミ、それに冥子が反応した。

あのとき、妖怪たちは海坊主という司令官を中心に効果的かつ統率された攻撃をしていた。

「あのときは〜〜〜すごかったわね〜〜〜。お魚さんもいっぱいいて〜〜〜〜。」

ガクッ

冥子がまるで楽しい思い出話をいているようなうれしそうな声で間の抜けた発言をし、まわりの緊迫したムードを一掃してしまった。

「・・・・・。そ、そして最後の、最も重要な点は、」

眉間を押さえ、話の腰を折られたことで多少苛立った声で美恵子が続ける。

「“残虐性”です。
今までよほどのことが無い限り人を襲わなかった霊、妖怪達が率先して人間を殺そうとしている点です。」

その発言に、周りの空気は再びピンと張り詰めたものになった。

「この事実、特に残虐性は急を要する深刻なものと判断し、私は妙神山へと赴き神魔両界へコンタクトを取りました。すると、この二ヶ月ほど異変は人界のみにとどまっていないことがわかりました。」

「ど、どういうワケ?」

いままで沈黙を続けてきたエミが口を挟んだ。

その口調は思わず口から言葉が漏れてしまった。といった感じだった。

「小竜姫様、お願いします。」

美智恵の呼びかけに小竜姫は立ち上がり説明をはじめる。

その顔は引き締まり少しやせたようで、気のせいか少々顔色も悪いようだった。

「実は・・・今、神魔界はデタントが崩れるかどうかの瀬戸際に立たされているのです。」

「なっ・・・!!」

「馬鹿な!!」

「あんたたちは何してんのよ!?この役立たず!!自分の世界くらい安定させなさいよ!!」

ガタガタとイスが動き、みなが立ち上がり口々に思い思いの言葉を洩らした。

ちなみに、さっきの言葉は雪之丞、唐洲神父、そして最後のまさに神をも恐れぬ発言は美神である。

「(み、美神どの、美神どの。でたんととは何でござるか?)」

「やかましい!!今は会議中よ!」

ボカ!

「キャン!」

シロが声を抑えて隣の美神に問いかけた。

シロにしては十分に周りの空気を読んだつもりだった。

が、今の美神にはとてもわずらわしかったらしく一発どつかれた。

美神の声がシロの何倍もでかかったのだが・・・ようはストレスのはけ口にされたのだ。

「み、皆さん落ち着いてください!いま事情を・・・」

「そのことについては、私から話そう。」

といきなりぶちぎれたみんな、というか美神をなだめようとする小竜姫の言葉をさえぎり、ワルキューレが立ち上がった。

「アシュタロスの死後、神魔のバランスを整えるために四大魔人の一角を、ソロモン72柱に属している精鋭悪魔五人が一つの役職につくことで一時的に、その中の一人がアシュタロス級の魔神になるまで補おうとした。

が、何者かに殺害された。五人全員な。

二ヶ月前のことだ。」

「な・・・っバカな!!一体誰が!」

と西条が椅子から飛び上がるように立ち、叫んだ。

「それが問題なんです。」

とジーク。

「魔界のタカ派は“これは神族による暗殺、宣戦布告だ!!”といきり立ってしまいまして・・・。」

「そして神族のほうも。」

とヒャクメが深い、口から魂が抜け落ちそうな位深いため息をしながらジークのあとに続いた。

「“何を言うか!これは魔界の陰謀だ。自作自演のなにものでもない!”って阿修羅様や明王一族の方たちを筆頭に魔族完全討伐の声が高まりつつあるのね〜〜。」

「今は互いの最高指導者とそれに従うものが必死になって押さえつけていますので戦闘こそ起こっていませんが、まさに“冷戦”。一触即発です。」

最後に小竜姫が締めくくった。

道理で小竜姫以外の神魔族も心なしか顔色が悪く、疲れているわけだ。

もっとも、ワルキューレをジークは元々顔色が悪いのだが、それでも目の下にはクマができていて、ここ最近ろくに休養をとっていないのが容易に想像できる。

「・・・ちょっと待ってください。」

と今まで黙って聞いていた唐洲神父がテーブルに肘を突いたまま軽く手を上げ、話し始めた。

「確か、バランスを保つため力のある魔族、神族は半強制的に復活させられるのではありませんでしたか?
かの魔族の爵位、ソロモン72柱に名を連ねるほどの魔族、ましてや、バランスが崩れている今などすぐに復活させられるのでは?」

そう、あの哀れな魔人アシュタロスを苦しめた“魂の牢獄”あのロジックがある限り、暗殺などは、混乱の種にはなるだろうがほぼ無意味なものだろう。

「そうよ。とっとと復活させて、直接犯人を聞けばそれで事件解決なワケ。」

とエミがギィっと音を立て椅子の背もたれにもたれかけながら言った。

「それができたらとっくにやっている!」

とワルキューレがイライラした口調を隠そうとせず、に反論した。いや、隠したかってもそんな余裕など無かったのだろう。

「なぜか魂が復活に必要な絶対量まで集まらんのだ!
まるであの時のルシオラのように!!」

その言葉に、周りの空気はただ緊迫したものから、気まずい、重苦しいものへと変わった。

みんな一様に横島の方をチラリと向き、あわてて視線をそらした。

ワルキューレは最初苛立っていて気付かなかったが、みんなの視線の先にいる横島の姿を確認し、はっとした。

「す、すまぬ横島、そんなつもりでは・・・最近イライラしていて言葉も・・・選ばずに・・・」

だんだんと小さく弱々しくなっていくワルキューレの声を聞き、ずっと自分の机の方を向いていた顔を上げる横島。

その表情は、またしても切ないそして優しいものだった。

「ん?・・・あぁ、気にすんなよワルキューレ。続けてくれ。」

その返答に、すまなさそうな顔をしてコクリと、まるで謝罪をするように頭を下げ、言葉を続けた。

「・・・このことがさらに両界で波紋を呼んだ。
そんな芸当ができるのは、神魔界でも限られた、ごく一部の存在だけだからだ。」

「現在、神魔界の諜報部員が総力を挙げて調査しているけど、なかなか前に進まないのが現状なのね〜。
これで、現状報告は終わりなのね〜。」

と最後にヒャクメが締めくくり、一同席に着いた。

「・・・ここからはこれからのこと、つまりは各界の対策について説明していきます。」

と美智恵。

「急成長した妖怪たち、政府はこれらの存在を

“ニュータント”

と名づけました。
そのニュータントと魔界で起きた事件との関連性は判明していませんが、
どちらにせよ、事態を深刻なものと捉え政府とGS本部は合同で、
いまだかつて無い、ある“組織”を造りました。」

そこで美智恵は言葉を切り自分の前にあるキーボードを叩いた。

ブォン・・・

するとそれぞれの席に備え付けられたディスプレイに電源が入り、
同じ映像が現れた。

いや、映像といっても、ただアルファベッドが四つ並んでいるだけだが。

S・E・A・T

と。

「国境、その他のあらゆる束縛、規制の対象から除外された国連直属の組織、
オカルトGメン、民間GSその他プロ、アマ問わず真の実力者のみで編成する特殊部隊。

超常能力特殊部隊 Special Esp Assemble Team

通称 SEAT(シート)!!」

画面が変わり日本地図が現れた。

「現在、ニュータントに殺害されたのは一般市民以外に、プロのGSもいます。
よって、ニュータントの存在を確認したらすぐさまGS本部に連絡することを義務づけます。
連絡を受けたGS本部はすぐさまSEATを現地に派遣、目標を捕獲、もしくは殲滅します。」

地図の中の東京からいくつもの矢印が伸び、北海道、東北、関西、四国、果ては沖縄など、あらゆる場所に到達した。

「すごい・・・。」

とおキヌが率直な感想を述べた。

「世界を又に駆ける特殊部隊・・・なんともスケールのでかい話ね。」

と頬を突きながら美神が答えた。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

とピート。その声には多少の興奮の色が見られる。
が、本人はそれをめいいっぱい押さえ込もうと努力しているように見えた。

「そんな今さっき、この団体は民間であろうが、プロ、アマでもかまわないとおっしゃいましたよね。」

「ええ、そうよ。」

と美智恵が答える。興奮を抑えきれないピートの様子がかわいらしかったのかおもしろかったのか、心なしか口元が上がって、少し意地悪な“あなたの言いたいことは分かってるわよ”的な雰囲気を醸し出していた。

「そして、ぼくらが呼ばれた。
そ、それは・・・つ、つまり・・・。」

ここでピートの興奮は最高潮に達したのか、顔を赤く染め、必死な様子で美知恵に話の先を促した。

「ええ、そう。SEATの入団条件は国連、GS本部、もしくはSEAT支部隊長の推薦。
もしくはシュミレーション・プログラムと戦って勝つかです。
そして、政府は私をSEAT日本支部隊長に任命しました。

支部隊長としてここに宣言します。
西条くん、令子、横島くん、おキヌちゃん、シロ、タマモ、エミさん、タイガーくん、冥子さん、ドクター・カオス、雪之丞くん、魔鈴さん、唐洲先生、そしてピートくん。
以上15名本日付でSEATの隊員に任命します。いいですね?」

「は、はい!!
ぼく、政府で人のために働くのが夢だったんです!!」

「う、うお〜!男、タイガー寅吉大出世ジャ〜!」

と、感無量、今にも泣き出しそうなこえで叫ぶピートとタイガー。

「タ、タマモ!拙者たちもでござるよ!拙者たちも特殊部隊入りでござるか!?」

「うっさいわな!そう言ってたじゃない!
ちょっ、ちょっと!ゆすらないでよ!」

興奮した様子で肩をゆすっているシロと、それをうざったく思いながらも心のどこかで心地よい何かを感じ少しほほを染めるタマモ。

「世界中のニュータントが相手・・・悪くねぇな。」

とどこかのバトルマニアが言う。その顔はどこか狂気じみていた。

ほかのメンバーも頷くなり、“はい”というなり、とにかく“YES”の反応を示した。

が、ただ一人。

「いやよ、そんなの。」

と周りの高テンションそっちのけで一人低い声で愚痴る美神。

ガク、とせっかくの周りのテンションの上昇も止まってしまった。

「なんで〜?令子ちゃん〜、一緒にお仕事しましょ〜よ〜。」

と令子のそばによってきてすがりつく冥子。

「え〜い!嫌なもんは嫌なの!大体、何であたしがそんなボランティアじみたことしなくちゃいけないの!どうせ給料も一定だろ・・・。」

「なお、言い忘れていましたが基本給のほかにニュータント撃破につきGSより恩給が支給されます。その額一体につき500万円。」

「世界の人々のため、美神令子、一生懸命がんばります!」

と言い、ビシッと敬礼を決める。

さすが美智恵。わが子のことはお見通し。

「れ、令子ちゃん・・・。」

やれやれ、と半場呆れ顔で令子を見る西条。

「さて、ではこれより部隊を3チームにわけそれぞれに早速任務を言い渡します。
令子、西条くん、エミさん、冥子さん、唐洲先生はA班。
あなた達にはこの施設で常時待機してもらい、出動要請があればすぐさま現地へ飛んでもらいます。」

みな一様に頷いた。

「そしてドクター・カオスと魔鈴さんはB班。
あなたたちには捕まえたニュータントを科学と魔法の両点から研究、及び有効な攻撃とアイテムの開発をしてもらいます。
必要な費用、施設はこちらで用意します。いいですか?」

「もちろんじゃ。研究させてもらいしかも費用と施設まで提供してもらえるとは・・・願ったり叶ったりじゃ!」

とカオス。

「私も、とてもうれしいです。けど・・・。」

とためらいがちに発言する魔鈴。どこか悩んでいるようにも見える。

「なんですか?」

「お店は・・・続けられるでしょうか?
私には、私の料理を待っているお客様がいるので、それを続けられないのでしたら・・・。」

“この話を引き受けるわけにはいかない。”大学時代よりずっと魔法を研究し続けてきた魔鈴にとってこれほどうれしい申し出はなかなかないだろう。

しかし、悩みながらもやはり客を犠牲にはできない。まさに客商売の鏡。

「美神君のそれとはまさに天と地の差だね・・・。」

「な〜に?先生?なんかおっしゃいましたか?」

美神の顔に張り付いたまさにお面のような笑顔を、いやその裏にある夜叉を見て、唐洲は思わず致命傷を口にしてしまった自分の口を手で覆った。

「い、いや・・・その、だからだね美神君・・・。」

二人がそんなやり取りをしているのをよそに美知恵が口を開いた。

「そう・・・わかったわ。あなたは自宅勤務で結構です。
必要な道具も全て運び込ませましょう。
ただし、命令がでた場合はすぐ従ってね。」

それを聞いた魔鈴は顔を輝かせて、

「は、はい!ありがとうございます!一生懸命やらせていただきます。」

その笑顔からは安堵と喜びの両方を感じ取ることができた。

美知恵はその笑顔を微笑ましく見つめていた後、横島たちの方をくるりと向いた。

その顔はすでに司令官のそれに戻っていた。

「さて、残るC班、横島くん、おキヌちゃん、シロ、タマモ、雪之丞くん、タイガーくん、ピートくんに任務を言い渡します。」

「待ってました!」

と言い、バチンと拳で自分の手を叩く雪之丞。

「何なりとご命令ください!」

「どんな危険な任務でござるか?」

ピートとシロは完全に興奮しきったようすだ。しろにいたってはシッポをはち切れんばかりに振っている。

が、周りの興奮をよそに、一人沈んでいる人物が一人。

(このパターンは・・・まさか・・・。)

その顔には苦笑いを浮かべながら。

その一名をのぞいて自分に熱い視線を送ってくるみんなに向かって美知恵が言った。

その言葉は周りの期待を裏切る、その一人の予想に近いものだった。

「一ヶ月猶予をあげます。
強くなりなさい。」

「「「「「「・・・はい?・・・」」」」」」

(やっぱりな。こんなこったろうと思ったよ。)

横島はふぅっと息を吐き、天を仰いだ。


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