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BACK TO THE PAST!

やりたい事


投稿者名:核砂糖
投稿日時:06/ 7/31


バカ親子が落ち着き村への案内を始めた頃。

シロの父親がふと、思い出したように口を開いた。

「おお、そうだ。すっかり忘れていたが、まだ貴女の名を聞いていませんでしたな。教えていただけませんか」



そう言われて、俺はほぼ反射的に答えてしまった。

「俺の名か?俺の名前はよこしまただ・・・・・」

・・・お。と言い切る前にはっと思い出した。

俺今女体じゃん。と。


「よこし・・・まただ?」

「違うでござるよ。きっとヨコシマ、が姓でござろう」


・・・今更言い直しは効かないっぽい。

どうしよう。


あれこれ考えた挙句ふと、突発的にアイディアが浮かんだ。

しかし行き当たりばったりにもほどがあるような・・・・・・ええい、ままよ。









「お、俺の名は・・・・ヨーコ・シマタダだ!!!」

どーーーーん。



・・・言っちまった。
胡散臭げな目線が突き刺さる。
「・・・何故名を先に?」

「ついこの間まで異国に居たのだっ!」


・・・ああ。なんだかどんどんボロが出て行くような。

しかし犬塚親子はそれほど不審には思わなかったらしい。


「ではシマタダ殿。参りましょう」

と俺をいざなうと村に向かって先導を始めた。単純な奴らで良かった・・・







・・・って早速ペースが乱されてやがる!!!



俺、ヨコシマタダオ改めシマタダヨーコは漠然とした不満を抱えながら犬塚家へ向けて歩きだした。


そんな重々しい俺とは対照的に、
前方には、俺を引きとめられたのがそんなに嬉しいのか、スキップでも始めそうな軽やかな足取りで先へ進む犬塚親子。



・・・うわぁ殴りてぇ。









「どうぞどうぞ、遠慮せずに食べてください」
「父上の料理は絶品・・・とも言えないかも知れないでござるが、美味いでござるよ」

・・・俺は椀にたっぷりと盛られた料理を、なんとも言えない表情で見つめていた。

だってさ、俺さっきまで衰弱死してやろうかってぐらい何も食いたくなかったんだよ?
なのに今更食えるかよ・・・。


しかし椀から目線をずらせば、ワクワクドキドキと期待に満ち溢れる目ン玉が四つ・・・。








・・・・チィッ。



ぱくっ、もぐもぐもぐ。



俺が飯を口にした瞬間、瞬く間に破顔一笑する人狼の親子。

しかも思った以上に飯は美味しく、一口食べたとたん空腹感が襲ってきた。


・・・くそっ自棄食いしてやる!



ガツガツガツガツ!!!


「御代わり!!!」

「どんどん食べてください!」




・・・おめーら魔人の胃袋をなめるなよ?






「・・・いやはや。ついこの間まで寝たきりだったとは思えない食いっぷりですな」

俺の暴飲暴食は、この家の食料の半分当たりを食い尽くしたところでやっと止まった。
シロの父親はまさかここまで食われるとは思わなかったらしく、少し引きつっていた。
シロの方も唖然としている。

まんまと癪に障る二人の鼻を明かしてやった俺は、少し得意だった。

「はっ。見知らぬ客に好きなだけ食え何て言う方が悪いのさ」
ざまぁみろ。


俺はそう言い放ち、そして慌てて顔を抑えた。
・・・遅かった。もう時既に遅し、人狼の親子はにっこり笑って


「やっと笑ったでござるな」
「うむ。やはり女子は笑っているのが一番だな」




ああっ!!くそっ・・・またしてやられた気分だ!!




これ以上こいつらといるとまたなんか心をかき乱される・・・。


とっとと寝ちまおう・・・。んで明日の朝早くここを発とう。

もう引き止められようが泣き付かれようが俺は止まらんぞ。


俺はどこで寝ればいいのかと、シロ達に聞こうとした。

すると、

「拙者はこれから風呂に入りに行くのでござるが・・・シマタダ殿もどうでござるか?」
とシロ。
「そうだな、シマタダ殿はしばらく汗を流してないだろうし」

言われてみればそうだった。

くんくんと自分の匂いを嗅いでみる。



「・・・・臭うな」
当たり前である。何日も着替えもせずに布団の中にいたのだ。そりゃ臭うに決まってる。

「悪かったな・・・。お前らは鼻がいいから臭かったろう」
俺は目の前の二人に謝った。

「いやいや、そんなことは。むしろ堪能・・・げふんげふん!!」
「おい・・・」





どうやらこの村に要り限り身体を清潔に保った方がいいらしい。

俺はシロの申し入れを受け入れた。









「こっちでござる!」

両脇には草木の生い茂る暗い暗い夜道を横島は、パタパタと尻尾を振りながら楽しげに先導するシロについて行く。

しばらく無言で歩いていた横島だったが、やがてぴたりと足を止めた。

「どうかしたのでござるか?」

彼女の足音が止んだのを感じ取ったシロは自分も足を止め、暗がりを見つめる横島の顔を見上げた。


「・・・出て来いよ。そこにいるのは解かってるんだぜ」
「ほう、中々やるではないか人間の女」


横島が上げた声に応えて、茂みに中から一人の人狼の男が姿を現した。

「あっ、お前は・・・・犬飼殿!!」

そう、彼こそがその怖い顔付きと柄の悪さで、常に人狼の村抱かれたくない男ランキングの王冠を掻っ攫うモテナイ男、犬飼ポチその人であった。

「気をつけてくだされ。犬飼殿の人間嫌いは里でも有名でござる。

きっとケンカを売りに来たに・・・」
「ふふふ・・・。流石は犬塚の娘よ。察しがいい。


さて、解かっているのなら話が早い・・・おい、女!

拙者は貴様のような人間が誇り高き人狼の村にいることが気に食わんのだ!

我が刀が届かぬうちに、とっとと村から出て行け!!」


ポチは、腰の刀をすらりと抜き放つと、横島に向けて構えた。

「い、犬飼殿!?」
「邪魔をするなシロ。犬塚の娘とはいえ邪魔立てすれば只では済まさぬぞ!」

がるるるるる・・・と闘志を剥き出しにするポチに、横島はさもめんどくさそうな目線を向けた。
「やけにどたばたした一日だなぁ・・・やれやれだぜ。
そう怒るなよ犬飼とやら。どうせ明日にゃ出ていくから。


だが・・・」

横島は、先ほどからのポチの剣幕に怯えるシロを庇うように、前に歩み出ながら続ける。

「売られた喧嘩は、買うぜ」
そう言って彼女は、ニヤリと笑った。


「し、シマタダ殿!?無茶でござる!相手は人狼でござるよ!?」
それを聞いたシロが慌てて考え直さそうと喚いたが、
「あいつを見ろ。完全にキレてる。止めるにゃもう遅い。

それに・・・俺結構強いから」
横島はあたふたと慌てふためくシロを見て、思わず微笑を浮かべ
「下がってな」
彼女の頭を撫でると両腕にハンドオブグローリーを展開。「両腕に霊波刀!?しかも、す、凄い出力でござる!」

目前の男を睨みつける。



ケンカを売っておいてなんだが、まさか歯向かって来るとは犬飼ポチは、この女の予想外の行動に少し驚いた。
しかもたかが人間のクセに誇り高き人狼並みの霊波刀を使うではないか。


「・・・くくく。死んでも後悔するなよ人間がっ!!身の程を知れェェェェッ!!!」

ポチが人狼の瞬発力を最大限に生かし、横薙ぎの一撃を放ってきた。風を切り裂き、目にも止まらぬスピードの凶刃が迫る。
だが、目にも止まらないのは通常の人間に対してであって、もちろん百戦錬磨の魔人様には、その太刀筋がまるで読めていた。

(何だこいつは・・・俺の知ってる過去のシロと比べてもてんでよわいじゃねぇか・・・)

・・・実はそうなのだ。良く思い出してほしい。かつて(といってもこの世界にしては未来の事なのだが)犬飼ポチが妖刀八房を持ち出した時、横島が一発、長老が七発の分担で彼の攻撃を防いでいた。

つまり、八房を持ち出して己の能力も高めていたのにも関わらず、もし八房が一振りで一太刀しか切れない刀だったとすると、7人がかりでも長老に勝てない男なのだ。

確かに長老は村一番の海千山千。しかし所詮はじーさん。それほどまでに強いという訳ではない。


そう、犬飼ポチは人狼の村きっての貧弱ボーイだったのだ!!

・・・まぁ並みの人間と比べれば圧倒的に強いのだが。


話を戻そう。



とにかくそういう訳で彼の太刀筋を完全によんでいた横島は身体を引き、ギリギリで剣先をかわし、反撃に出ようとした。

しかし、そこには誤算があった。今の彼女の胸元には、前には無かった器官が存在しているのだ。

(げっ!?)

慌てて更に身体を捻って何とか胸元をえぐられる事を避ける横島中年(30)、もといヨーコお姉さん(ぱっと見20前後)。

「あ痛っ!!」

しかし大きな胸を完全に間合いの外まで動かすのは無理だったらしく、胸部に鋭い痛みを感じた。手をやって見ると真っ赤な血液がぬるりと手の平を汚した。











「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「シマタダ殿!!!・・・大丈夫でござるか!?」









抑えた胸元から血を滴らせるその姿を見て、シロが駆け寄るが、横島はそれを制する。咄嗟にギャグを飛ばせるということは、結構余裕っぽい。
しかし流れ出した血液は、まるで拳法殺しのハート様よろしく横島の理性を吹き飛ばし、彼女は目の前の刀男を、まさに魔人の形相で睨みつけた。

「てめぇ・・・覚悟しやがれ!!」

ここ最近でずっど感じっぱなしだった理不尽からなるストレスが、横島から手加減と言う概念を吹き飛ばした。

彼女は右の霊波刀をキャンセル。代わりにサイキックソーサーを展開し、先ほどの人狼の瞬発力を更に超える神速で、ポチに走り寄る。

そして先ほどから何故か、ウドの大木のようにぼーっと突っ立っているポチのみぞおちに右手を押し当て、


「サイキック・・・・インパクト!!!」
「ピ、ピンク――――――ッ!?」


ポチは、ナゾの断末魔を残して暗闇の中を吹っ飛んでいった。


ばきどがぐしゃ「ぴぎょぉあっる!?」・・・という耳を塞ぎたくなるSEが何処からともなく流れてきたのを聞いて、はっと正気に戻るヨーコさん。

(やっべ・・・かなり本気でやっちまった。ギリギリで正気に戻ったから何とか全力で攻撃するのは避けられたけど・・・。まぁ人狼だし生きてるだろう。たぶん。

しかしピンクって何の事やねん?)

横島は疑問に首を傾げ、そしてふと己の胸元に目をやり納得する。
そこには、先ほどのポチの一撃で服が裂かれ露出した、見事な双球が、ででんと己を主張していた。
(なるほどね・・・。色気に迷って敗北とはな。こりゃ悔やんでも悔やみきれねーだろーなぁ。

とは言っても相手が迷って無くても俺は負けんが)

横島は、十数年前の自分を棚に上げて、ポチの事をこき下ろしていると、

「し、し、し、シマタダ殿!!!怪我が・・・」
半泣きシロが自己主張を始める。
「いや、大丈夫だこれぐらいの傷自分で・・・「今拙者がヒーリングをっ!!」ちょっww!?





やめろっ!おまえ・・・そんなとこ舐めるなぁぁぁぁッッ!!!」


突然飛び掛るようにして傷・・・つまり胸元に舌を這わせ始めたシロ。横島は当然そんな彼女を引っぺがそうとしたが、シロは自分の村の者がヨーコさんを傷つけたという事に加え、もし彼女を引き止めて家に泊め、そして温泉に誘わなければこんな事にならなかったという負い目が有るので必死でしがみ付いて舌を動かす。





ぺろぺろぺろぺろ・・・!!!

ぎゃーーーやめろーーー!!!クセになるからーーーーッ!!!





夜の闇に奇怪な悲鳴が響き渡った。









「悪いな・・・」
「いえ、こちらこそ・・・」

色々有って、俺は現在人狼の村のはずれの温泉にその身を浸けていた。
隣には、大きなコブを作ったシロが浸かっている。
先ほどの舌攻撃のさい、つい俺がこさえてしまったコブだった。

ちなみにここまで来るまでのゴタゴタのせいで時間がずれたのか、温泉には俺とシロ以外誰もいなかった。

自分の体でさえもこっぱずかしい上、この身体ゆえ女湯に入らざるを得ない俺にとっては、余計な刺激が無くて有り難かった。
・・・流石に10代の湧き上がるパトスは無いからな。でもちょっと残念。


「それにしても我が村の男が、本当にすみませぬ」

俺が温泉に肩まで浸かり、暖まっていると、しょぼんとした声でシロが口を開いた。

「いいんだよ。別にお前のせいじゃない」
「でも、シマタダ殿怪我を・・・」

心底すまなそうに俺の胸元を眺めてくるシロ。目線の先にはまだ完治していない刀傷が移る。

「心配するな。すぐに自分で治せるから」
肩身を狭くしているシロのために、俺は痛まないからと言う理由で完治させていなかった傷口を、さっと指でなで、ヒーリングをかけた。

指が通り過ぎると、もうそこには傷痕は影も形も無い。
文珠を使えない時のために練習していたから、専門職には敵わないだろうがヒーリングはわりと得意だ。


「ほれ、お前も来い」
「あ、あわわ・・・」


続いて俺はその光景を、尊敬と驚きの目で見ていたシロの腕をつかむと、背後から抱え込むような位置に移動させる。

そしてさっき俺がこさえてしまったコブにもヒーリングをかけた。
一食一晩の礼と、そして本当は違うんだが懐かしさも込めて、ゆっくりゆっくりと時間をかけて・・・




俺は、何となく治療が終わってもシロの事を抱え込みっぱなしだった。
シロの方も嫌がらなかったし。

幼子のすべすべとした肌が心地よい。


・・・・って別に変な意味じゃねぇぞ。
お、俺はロリコンやない・・・。(←未来では結局手を出しておいて何を言うか)





・・・。





「あの・・・シマタダ殿」

しばらくの間続いた沈黙を破って、シロの声が上がる。

「ん、なんだ?」

「やっぱりシマタダ殿は・・・ここを出て、死に場所を探すのでござるか?」

その言葉に、偉大なる温泉パワーで、ついつい軟らかくなりかけていた口調を、シリアスモードに持ち直す。


ちっ・・・バアさんの差し金か。
俺はつまらなそうに息を吐き出し、先ほどとは打って変わって不機嫌な声を出す。

「・・・そうだ」

「なんで・・・!?」

「生きる意味が、なくなっちまったのさ。いやむしろ・・・生きるのにもう満足したと言ってもいい。

お前にゃわかるまい。・・・お前は若い、色々な可能性に満ち溢れているからな」

有無を言わせないような口調で、シロを黙らせる。

「そもそも、俺は死ぬはずだった。なのに邪魔されて生き延びちまった。

なんてこたぁない。その勘定を払うだけの事だ」


また沈黙。
何人たりとも動きが無い空間。唯一、時折ひゅうひゅうと吹く夜風が、もくもくと上がる湯気を巻き上げ、予測不可能な動きをする。


「大切な人が居たんだ。
その人は、丁度今みたいに目的を失っていた俺を支えてくれた。
だから、俺はその人の為に生きていた。残りの命、全部あいつのためにつぎ込もうと思った。

全てのチカラを使った。んで満足いく結果を出した。


だから、もういいんだ」


少なくとも、並大抵の人間では持てないような人生経験をつんだ俺の言葉に、流石のシロも口をつぐむ。
悪いなシロ、年季が違うんだ。

だが俺の意思を変えるのに諦めきれないのか、シロはまた搾り出すように声を出す

「だからって、命を無駄にするのは許せないでござるよ」

するりと俺の腕の中から抜け出し、そしてこちらを見返してきた瞳から、子供らしさが薄れてゆく。
その様子を見て、俺は内心自分のデリカシーの無さを呪った。


(あ〜・・・そっか。直接は聞いたことは無かったけど・・・。こいつ、お袋がいないんだっけ)


「拙者は、生きたくても生きられなかった人を、知って居るでござる。
まだやりたかった事も出来ず、無念のまま逝った人も居るんでござるよ。


シマタダ殿は、生きているのでござろう?だから・・・」

恐らく、感情の赴くままに喋っていたのだろう。
シロは、述べたい事が上手く整理しきれなくなったのか、次第に声がフェードアウトしていった。

一方俺の方もシロへの申し訳ない気持ちが募る。
・・・ヤバイ、劣勢だ。

「俺はもうみんな成し遂げたんだ。俺の生きる目的だったあいつは、もう死んでも会えないところに居る」

「・・・すみませぬ」

「いやいいんだ。気にするな・・・」




・・・。




なんだか、お互いに地雷踏みまくってる気がする。


とってもブルーな気分になってきた俺は、この場を退散する手段を考え始めた。

「・・・・あっ!」

するとあちらもナイーブな表情で水面(正しくは湯面とでも書くのだろうか?)を見つめていたシロが顔を上げ、声を出していた。
どうやら何かいい事を思い出した模様。しまった、ピンチかもしれない。いやん。

こいつは俺の知っているシロじゃないって解かっている。解かっちゃいるが、やっぱりこいつは犬塚シロで、いろいろと世話になった訳で、心のそこではこいつなら俺を救えるのでは?とちゃっかり期待している訳で、
結局の所、俺はこいつの言葉にゃ弱いのだ。


「虹の橋・・・と言う場所を知っているでござるか?」
「知らんな」
「そうでござるか。虹の橋というのは・・・」


それからしばらく、ボキャブラリーと表現力が乏しい幼少シロのつたない説明が続いた。
かなり解かり難い説明だったか、要約するとこんな所だ。





天国の少し手前に、虹の橋という所がある。

この世界で誰かと愛し合っていた者は、皆そこへ行くのだそうだ。

そこには苦痛も欲望も無く、傷ついていた者や病気だった者、老いていた者も皆元気に暮らしているという。

やがて愛する人がその場所を訪れるまで。


そして望むものとの再開を果たした者は共に手を取り合い・・・一緒に虹の橋を渡って行くのだそうだ。




「きっと、シマタダ殿の大切な人も虹の橋であなたを待っているでござるよ。

シマタダ殿の大切な人でござる。おそらく、今のシマタダ殿を見たら怒るのではござらんか?

・・・たぶん・・・でござるが・・・」

言っている途中で(解かっているかのような事言ってしまった)と少し内心後悔しつつ、シロは言う。
だが、それを聞いた俺は何だか可笑しな気分になった。


だってよう、もし今の言葉を言ったのがこいつじゃなかったら俺は気を悪くしていただろうが、俺の大切な人ってのは他でもないこいつなんだ。

もちろんルシオラ、美神さん、パピ、・・・他にも数え切れないぐらいの大切の人がいるが、誰だって同じように怒ると思う。


きっと嵐のように怒り狂ってよってたかって俺をシバきまくり、原型が無くなって物体Xと化した俺に向かってこう言うだろう。





「それできっと・・・こう言うのではござらんか?



今度は、自分のために生きてみてはどうでござろう・・・って」




出すぎた真似をしているな・・・と自分でも感じているのか、消え去りそうな声で呟くシロは、かつてわき道に逸れた俺の首根っこを引っつかみ、ぐいっと道に引き上げてくれた、あのシロの面影が、確かにあった。






――――あ〜〜〜・・・。その通りなんだよちくしょう・・・。





そしてまたもやこいつは、臍を曲げていた俺の頭を引っぱたいてくれた訳で、
俺は、全身を取り巻いていた憂鬱な感情が周りの湯に溶け出すような感覚が、広がってくるのを感じた。

こうして邪気を抜かれてみると、今の俺が前に比べてどんなにいい状況に置かれているのかがだんだんと分かってくる。


俺はこれから何が起こるか分かっているうえに力だってある。
守れなかった人を救う事だって、悲劇を回避する事だってできる。

確かにこの世界のみんなは俺の知っているみんなとは違うかもしれない。でも、どいつもこいつも、本当にいい奴らだ。きっと昔のように最高の仲間になれるだろう。


そもそもこれって十数年前に俺が望んで止まなかった時間逆行だ。
ルシオラも、美神さんも、パピも・・・みんな助けられるかもしれない!


俺は、己の体内に、例えようの無い高調感が湧き上がるのを感じた。

まったく、俺って奴は・・・





「俺自身のためにやりたい事・・・か。

そうだな・・・二、三あるかも知れねーなぁ・・・」




俺は岩製のごつごつした温泉のふちに寄りかかり、満点の夜空を見上げた。

先ほどまでの重すぎる馬鹿な悩みの反動か、例えようも無いほどのすがすがしい気分だった。
夜闇も、夜風も、湯気も、温泉も、全てがありえないほど心地よい。




あ〜〜〜・・・・ええなぁ・・・・。
さっきまでの気持ちは何やったんやろーか・・・。

宇宙意思だの寿命だのなんだの不愉快な事も多いが、とりあえずは気にしなけりゃモウマンタイ。ハクナマタタ・・・か。

























過去へ飛ばされ、人狼の村に厄介になって約一週間。

俺は、また生き返った。












「・・・・・ぶくぶくぶく」
「ってシロ!?何沈んでんの!!!」

どうやら、極度の緊張状態がそうさせたのか、湯当りしたようだった。


・・・悪い事をした。すまんシロ、お前の死は無駄にしない。









「・・・って死んでないでござるよ!!!」


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