椎名作品二次創作小説投稿広場


その光の先に

01 - all the things she said


投稿者名:カラス
投稿日時:06/ 7/27

「おはようございま〜・・・あれ?」

学校から直接ここ、美神霊能事務所に出勤してきた横島。しかし・・・

「だれもいない・・・か。」

オフィスはもぬけの殻だった。

「おキヌちゃんはまだ学校としても・・・美神さんにそれにシロにタマモは?人口幽霊。」

『はい。オーナーは次のクライアントのところへ打ち合わせに。シロさんとタマモさんはオーナーのお使いで厄珍堂まで霊具を買いに行かれました。』

「そっか・・・。最近。また霊症が増えてきたからな。」
とソファーに腰を下ろしながら相槌を打つ横島。

『えぇ。これから夏になれば、さらに増えていきますし、今のうちに買いだめを。しかし、両名はもうそろそろ帰って来てもいい頃合なんですが。・・・と・・うわさをすれば。』


ドタドタドタ せわしなく足音が鳴り響き、オフィスのドアが勢い良く開いた。その瞬間。一つの白い影が横島めがけて突進してきた。

「先生!来てたのでござるか!」

といい、しっぽを振りながら横島の顔をペロペロと舐めるシロ。

「ちょっ・・・分かったから。・・・こら!やめろシロ!」

「あ〜あ〜発情しちゃって。ほら中身がこぼれるじゃないそれ。とっとと置きなさいよ。」

そう言いながらいつもとなんら変わらない歩調、様子でタマモが入ってきた。手には厄珍堂の紙袋が握られていた。

「ちっ、分かったでござるよ。」

シロのてに握られていた紙袋はシロが振り回したせいで紐が伸び、中身が今にもこぼれそうだった。もしこぼれて、請われでもしたら美神の鉄槌が飛ぶことになる。さすがにそれだけはどうあっても避けたいので、横島から離れ、従うことにした。

「・・・で、美神は?まだ帰って来てないのね。おキヌちゃんは?」

「おキヌちゃんはまだだよ。学校はもう終わってるだろうけど、今日は夕食の買出ししてから来るって言ってから、もうしばらくかかんじゃねぇか?」

「ふーん。」

と荷物を部屋の隅に置きながらサバサバとした様子で相槌を打つタマモ。

「それより美神さんだよ。今日打ち合わせなんか聞いてないぞ。緊急か?」

「そうみたいね。」

「なにか、依頼主はとても切羽詰った様子でござったな。電話口から大声でまくし立てておられた。」

クールでいつも必要最低限のことしかしゃべらないタマモに変わって補足説明をするシロ。

「ふ〜ん。何か不足の事態でもあったのかな。」

そう言いながら、横島は美神のデスクの上においてある資料を何枚か手にとって眺めた。

「う〜ん、どうすっかな〜なんも指示が無かったら動きようがねぇなぁ。勝手なことしたら美神さんに殺されるし・・・。」

そのとき、シロの瞳が妖しく光った。そして、

「せんせ〜い!何もすることが無いんだったら、さんぽに行くでござるよ!!!」

「だ〜〜〜!今の話聞いてなかったのかよ!勝手なことしたら美神さんに殺されるって。大体、いつ帰ってくんのかわかんね〜し。」

「大丈夫でござるよ!」

しっぽをバタバタ振りながら。無邪気に答えるシロ。

「要は、美神どのが帰ってくるまえに済ませたらいいのでござろう?」

「そりゃぁそうだけど、お前の散歩はいつも長い!時間も距離も!」

そのとき、横島の脳裏には散歩につき合わされ(ひっぱられ)、東京の郊外まで行ったときの苦い記憶がよぎった。それ以来、本人曰く、自重するようになったものの、世間一般のものさしで図れば、「さんぽ」と呼んでいいものではなかった。

「大丈夫でござるよ!」

さっきよりしっぽを1・5倍ほど、激しく振りながら、なおも笑顔で答えるシロ。

「短距離モードですませるでござるから!」

そういいながら横島の袖を引っ張るシロ。

「た、短距離モード?それっていった・・・い〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!?」

横島が最後まで言い切るまえにシロは横島をひっぱ・・・引きずりながら全速力で玄関に向かう。あとには、タマモと、砂煙が残った。


玄関から声が聞こえる。

「せんせ!!ほら!早く自転車に乗るでござるよ!(ガチャガチャガチャ)」

「ま、待て!」

「紐でつないで・・・と。よし!いざ!!」

「待てって言うとろうが〜〜〜〜〜!!?いやあああああああぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・!」

横島の声がだんだん小さくなり、やがて消えて言った。

「大変ねぇ、横島も。」

その言葉のわりにまったく感情が入っていない感想を洩らしたタマモ。

「さて、冷蔵庫に油揚げ入ってたかな・・・と。」

そういい残し、彼女もまた、オフィスから消えていった。




三十分ほど経っただろうか。

「・・・・・ぃぃぃぃぃぃぃいいいや〜〜〜〜〜〜〜!!!」

横島たちが帰ってきた。

「ふう・・・いつものゆっくりとした散歩もいいでござるが、こちらのほうも味があってなかなかでござったな。ね?先生。」

「ぁ、あほかー!!どこの世界に100m五秒の速度で行う散歩があるかー!モーリス・グリーンも真っ青やわ!!」

そういいながらヨロヨロと自転車を降りる横島、その身体は擦り傷やアザだらけ、簡単にいえばボロボロだった。

「しかも2〜3回カーブで振り落とすしよー!」

「ま、まぁよいではござらんか。ほら、先生もこのとおり無事なんだし。」

「どこがじゃい!」

確かに見た目の割りに横島はピンピンしていた。相変わらず恐るべきタフネス。


オフィスに入るとそこには無心に油揚げをたいらげているタマモと、ソファにすわり、本を読んでいるエプロン姿のおキヌがいた。

「あ、お帰りなさい。横島さん。」

「おキヌちゃん、美神さんはまだ?」

「えぇ。夕食の下ごしらえはもうすんでいるんだけど、美神さんがいつ帰ってくるのかわからないから始められなくて困ってたんです。

「そっか。ん〜・・・どうすっかな。作っといて、もしそれまでに帰ってこなかったら先に食べ始めとく・・・とか?」

「だ、だめですよ!そんなことしたら、美神さん、本気で怒りますよ。」

心なしか多少青くなりながらおキヌが反論した

「じょ、冗談だよおキヌちゃん。俺もそこまで愚かじゃないよ。」

さっきといい、今といい、彼らの中にいる美神令子という人物像は一体どうなっているのだろう。まぁ、確かに事実ではあるのだが。

二人がそんなやり取りをしているとき、シロとタマモの耳がぴくっと何に反応したかのように動いた。

「ねぇ、もうそんな心配要らないみたいよ。」

とタマモ。

「「え?」」

「美神どのの車の音がするでござるよ。」


その言葉のとおり、なるほど、耳を澄ませば美神愛用のコブラ独特のエンジン音が聞こえてくる。明らかにほかの国内車とは違う音なので横島やおキヌにも聞こえてきた。
「ほんとだ。聞こえてくるな。」

「はい。けどこれ、ちょっと速すぎませんか?」

確かに、こちらに向かって来るその音は、だんだん大きくなってきた。しかしその大きくなる間隔が、あまりに速すぎる。一体、何キロ出しているのだろう。交通神話日本、どこに消えた。



キッキキキキーーーッ!!!
激しいブレーキ音が鳴り響く。

「あっ帰ってきた!」

「いけない!急いでしたくしなくちゃ!」

そう言っておキヌが立ち上がったそのとき、

バーーーン!

「みんないる!?」

美神がドアをまるで蹴破るように乱暴にドアを開け、姿を現した。

「おかえりなさい。」

とおキヌ。

「ごめんなさい。ご飯まだなんです。今作りますから、ちょっと待ってください。今日は美神さんの好きな・・・」

「そんなことはいいから!出かけるわよ!みんなすぐしたくしなさい!」

「「「「へ?」」」」

と四人。

「へ?じゃないわよ!つべこべ言わず、すぐ支度する。十秒後に駐車場前集合!!!」

「は、はい!?十秒って・・・」

いくらなんでも無茶苦茶である。横島もそう抗議しようとした。しかし、

「じゅ〜〜う、きゅ〜〜う・・・」

無常にも運命のカウント・ダウンが始まってしまった。

「や、やべ!急げ!!」

事務所内は騒然となった。




二分後 駐車場前

「おっそい!!十秒なんかとっくに過ぎてるわよ!!」

怒鳴り散らす美神。その矛先にはぐったりと、肩で息をしている四人の姿があった。横島はいつも道理大きなリュックを背負い、おキヌは巫女の霊衣をまとっていた。

「あ・・・あほか〜〜!!霊具つめて、リュック背負っておりてくる。十秒で終わるか!おりてくるだけで終わってしまうわ!!おキヌちゃんなんか、巫女服着てんねんぞ!!」

確かに、横島にはシロ、おキヌにはタマモがそれぞれついて作業を手伝ったとはいえ、十秒は物理的に不可能だ。二分でも賞賛に値する記録だろう。っというか、二分でも普通は無理なのだが。

「つべこべ言わずにさっさと乗る!事態は一刻を争うんだから!」

美神の言葉に有無を言わせない強固な意思と焦りを感じた四人は黙って支持に従った。

「一体、何があったんですか?」
車に乗り込みながらおキヌが尋ねる。

「説明は移動中にするわ。とりあえず今は車を出すことが先決よ。人口幽霊!」

『はい。オーナー。』

車にとり憑いた人口幽霊一号が美神の呼びかけに応え、車を発進させた。

「大急ぎで飛ばして!目的地は・・・!」



首都高をハイスピードで移動する人口幽霊が駆る自動車。

「さてと・・・んじゃ、説明するわね。」

運転席に座っていた美神はくるっと後ろを向き全体を見わたす。

「まず、事の経緯から順に説明しなくちゃね。三日前、私のところに今回の依頼主から『サトリ』の除霊依頼が来たの。」

「え、サトリってたしか、人の心を読むとか言う・・・」

と横島。

「そう、テレパシーで登山者の心を読み、先読みして相手の心の声を当てて混乱させいたずらする。ただそれだけの妖怪。確かに厄介な相手だけど、サトリは一回につき、一人の心しか読めないから、複数でかかれは問題なく倒せるの。元々戦闘能力のかけらも無いやつだからね。だから、当然のごとく断ったわ。そんな除霊。」

「じゃぁ、なんで?」

おキヌが合いの手をはさむ。

「私が断ったから、先方は新米の安い、男女二人組みのゴースト・スイーパーにまかせたの。二人は依頼を受け入れ、除霊するために森に入っていったの。それが昨日。けど、」

「・・・今日になっても帰ってこない。」

とタマモが続きを受け持つ。

「そう、それで、うちに連絡が回ってきたの。こっちは簡単な除霊といって断った手前、ほっとくわけにもいかなくてね。それで私が現地におもむき、二人の探索に当たったの。」

「それで・・・見つかったのでござるか?」

シロが尋ねる?

「・・・見つかったわよ。女の子の方だけだけど。」

「ほっ、よかった。」

と胸を撫で下ろすおキヌ。

「ただし・・・」

そう言って一枚の写真を取り出す美神。四人はその写真を見ようと顔をのぞき込む。が、次の瞬間、みんなの身体が強張った。横島は「うわっ!」と声をあげ、シロ、タマモは「ううぅ・・・!」とうなり声をあげた。おキヌにいたっては声も出ないようで口を手で覆ってる。そこに写っていたのは、

「・・・死体でね。」

無残にも切り裂かれた死体だった。顔などはとてもじゃないが判別できないまでに原型を失い、衣服でようやく女性と判別できる程度だった。

「男性の方はまだ行方不明よ。私たちの任務は、行方不明者の救出。及び目標の除霊よ。心してかかりなさい。」



首都高を一台の幽霊車が走ってゆく。


日は、もうかなり傾いていた。

夕刻は、近い。


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