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GS横島 剣客浪漫譚

ドラゴンへの道!!(3)


投稿者名:いぷしろん
投稿日時:06/ 7/23


 後から聞いたところによると、この時の俺は今までの人生の中でも五本の指に入るくらいヤバかったらしい。
 この修業が、自分の霊格等いろんな物を取り出した物――つまり影法師だな――を直接鍛えてパワーアップする以上、向こうが受けたダメージはリアルタイムで自分の霊基構造が受ける事になる、と。つまりはそーいう事だな。
 ……で、あの時俺の打撃がちょっとばかしイイ感じで入り過ぎちゃったために、小竜姫様は思わず反射的に“本気”で打っちゃったらしい。そりゃもう、一片の容赦も無く。
 当たり前の事ながら、時々人間離れしてるとか言われる俺だってそんな一撃もらえば死にかけもする。……まぁ、そんな俺を応急処置一つで放置プレイかまして修業を続行した美神さんも凄い人だとは思うが。
 でも、その応急処置ってのが結構問題っちゃ問題なんだよな……。
 なんせ、ほんの少しだけとは言え、小竜姫様の霊基構造を分けてもらったらしいからなぁ。
 ……体ん中でいきなり変な反応とかしないだろうな?





 GS横島 剣客浪漫譚(7) 〜ドラゴンへの道!!(3)〜





「本当にごめんなさいね、横島さん」
「まぁ、過ぎた事だしもういいっすよ……」

 そんなこんなで、今俺は妙神山の宿坊で布団に包まってお寝んね中だったりする。ウチの煎餅布団よかよっぽど気持ちいいし、小竜姫様の看護までオプションで付いてるので実は少しばかり帰りたくないなーなんて思っていたり。
 まぁ、身体――というより霊体――からダメージが抜けきってないから、帰るも何も、まず動く事自体が一苦労なんだけどな。

「美神さんもなー。少しくらい待っててくれてもいいのになぁ」
「待っておられましたよ? でも、あんまり長い間帰らないと先生に心配かけるから、と言って山を下りられましたけど」
「え? ちょ、ちょっと待って下さい。俺って、そんなに長い間寝てたんですか?」
「三日ほどになりますね。すぐに処置はしたので命に別状がない事は早い段階から分かってましたけど、お二人とも心配されてましたよ」

 うはぁ……、それはまた……。俺ってば、結構マジでヤバかったのね。
 今更のように冷や汗を流していると、何故か小竜姫様が居住まいを正してこっちに真剣な眼差しを向けてきた。
 これから愛の告白、って雰囲気でもないし……。これはアレか。俺の霊基構造に“混ざり物”があるって事がバレたかな? それとも、よー分からんウチに過去に吹っ飛ばされたのがバレたとか?
 神族側からしてみれば、魔族の霊基構造で継ぎ接ぎされてる俺っていう存在は何かしらヤバそうな気もするし。時間移動に至っては、あれって確か相当規制が厳しい能力のはずだったもんなぁ……。やっぱ、バレたらまずいよな?

「横島さん、少しお聞きしたい事があるのですが……」
「何っすか? 小竜姫様のご質問なら何でも答えちゃうっすよ。身長体重スリーサイズから好みのタイプまでなんでも質問ばっちこーい、って感じっす」

 おどけて答えてみせるものの、やっぱり小竜姫様はシリアス入ったままだ。
 何か少し言いずらそうな、そんな表情を浮かべて少しの間言葉を選んでいた小竜姫様は、一度目を閉じてから改めて俺を正面から見据えてきた。

「横島さんは……、以前にかなりの重傷を負われた事がありますね? それも、肉体的にはどうか分かりませんが、霊体に関して言えばほとんど修復不可能と言っていい程の……、致命傷を」
「やっぱり、わかりますか?」
「霊視はどちらかと言うと苦手ですが、流石に多少なりとも自分の霊基構造を分け与えるような治療を行えば分かります」

 そーいうもんなんっすか……。まぁ、カオスのじーさんとかならまだしも俺じゃそこら辺の理屈はよー分からんからなー。

「ホントはあんましおおっぴらにしたい事でもないんで黙ってたんですけど……。やっぱ、こういうのってマズイんっすかね?」
「いえ、そういう訳ではないですが……」
「ならまー、いっか。知られたっつっても、小竜姫様相手なら別にいいですし」

 知られたからどうこうって相手でもないし、数少ない無条件に頼れる相手だし、何よりメチャクチャいい人だしな。

「すみません、何か秘密を無理矢理暴いてしまったみたいで……。あの時ちゃんと寸止めできていればこんな事にはならなかったんですが」

 ほら、やっぱいい人だ。これが美神さんとかだったらゴメンねー、とか一言であっさり済ませられそうだし。

「ま、しゃーないっすよ。修行中の事故なら、そらもうどーしよーも無い事だってありますし、そもそも命を落とす可能性までアリの修業だったんだし」
「それでも、です。人と私達神族がまともに戦えば勝負になるはずが無いんです。だから、本当なら私がきっちり手加減しないといけなかったんですよ」

 ……いや、それはきっと違う。
 確かに人の身で神族や魔族と渡り合うのは酷く難しい。普通なら、戦いにもならずに瞬殺されるのがオチだ。
 けれど、美神さんや隊長はアイテムやら魔方陣やらの力を借りながら互角以上に魔族と渡り合ってた。それも、人界にマトモに出現する神魔族としては最強クラスのメドーサや、アシュタロスの調整のおかげでハンパじゃない強さの魔族として生を受けていたベスパとだ。
 かく言う俺だって、あるいは雪之丞やピートやエミさんや唐巣のおっさんだって、それぞれがそれぞれの手段で強大な敵と渡り合ってきた。
 そりゃあもちろん、そういう風にふるまえるのがごく一部の限られた人間だって事は分かってるんだけどさ……。

「横島さん?」
「あ……。いや、何でもないっす。ちょっと考え事をしてただけで……」

 そうだよな。ま、考え方なんて人それぞれだし。俺達人間が神族や魔族相手に付け込む隙なんて、相手が油断していてくれてこそだからなぁ。
 っていうか、種族としての平均スペックじゃ人と神魔族じゃ圧倒的な差があるからな。例えて言うなら、チワワとドーベルマンくらいの差。んでもって、そのチワワの中にたまーにドーベルマンの喉元に噛み付ける位のトンデモ能力を持ったアホがいる訳で。
 ……アホじゃなくて勇者だろ、なんてツッコミは却下。種族として根本的に勝てんよーな相手に噛み付く奴なんぞアホで十分。まぁ、俺や美神さんもそのアホの中に十二分に含まれている事実はあんまり見たくないんだけどさ。

「……横島さん、話はまだ終わっていませんよ」
「へ?」
「私が見た限り、横島さんの戦闘能力は美神さんのそれとかなりいい勝負が出来るレベルだと思っています。それも、一対一での近接戦闘に限れば恐らく美神さんよりも強いでしょう」

 まぁ、殴りあう事だけなら美神さんとタメをはる自信はある。ま、美神さんや隊長の本当の凄さっていうのは、そんな直接戦闘能力の高さとは別の所にあるんだけどな。あの二人と比べたら、俺なんてまだまだ半人前のひよっ子だわ。

「そんな横島さんを、霊的にそこまで重態になるまで追い詰める事が出来る相手となれば……。よほど超強力な地妖の類か、あるいは私と同格クラスの神魔族しかいないでしょう。それも、かなり特殊な能力を持った存在のはずです」

 ……あれ? なんか話の雲行きが怪しくないか?

「考えすぎですよ、小竜姫様。俺の戦い方って、一対多数じゃやりにくいですからそんな風に思うだけですって」
「いえ、考え過ぎではないと思いますよ。美神さんに聞いたところだと、つい最近まで彼女はあなたがここまで動けるとは全く知らなかったそうじゃないですか。そうなると、横島さんがこんな傷を負うほどの戦いを経験したのは彼女の事務所に入る前、という事になりますね」

 ……まぁ、考えようによっちゃ、そういう事になるかな。

「ですが、普通に考えるなら霊体にここまでのダメージを与える相手と――しかも恐らくは神族や魔族と共同で――戦う機会があったとは思えないんですが?」
「そんな機会があったから、今の俺がいるんですけどね……」
「……何より、横島さんの元来の霊基構造の量が、あまりに少なすぎます。補填された霊基構造の量を考えると、もし相手の方が私と同格クラスの神魔族でも――」
「その先は言わないで下さい。小竜姫様の考えてる通り、あいつは……」



                ――ルシオラは、俺のために死んだんだ。



 アイツのためにアシュタロスの野郎をぶっ倒す決意をしたのに、そのアイツの命を使って生き延び、あまつさえアイツの復活の可能性を自分の手で消す事でしかアシュタロスに勝つ事が出来なかった……!

「ごめんなさい。……すこし、言い過ぎました」
「いいですよ、お互い結論をはぐらかすのは止めましょう。結局、小竜姫様は俺に何が聞きたいんです?」

 もういいだろう。どうせ、小竜姫様も分かっているんだろうからな。

「私が知る限りでは……、最近十年ほどの俗界でそのような高位神魔族が介入するほどの大規模な騒乱は起きていません。……横島さん、あなたはいったい何者なんですか?」
「未来から吹っ飛ばされてきた。そう言えば、納得してもらえますかね」





   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※






 結局のところ、俺がなぜか未来から時間移動してきてしまった件については特に罰則とかは適用されないらしい。
 なんでも、故意によるものではない時間移動についてまでは規制されていないらしいのだ。……まぁ、無目的に時間を移動するようなアホな奴もそうそういないだろう、というのがその理由らしい。
 そういや、前にカオスのじーさんが言ってたっけな。時間座標を特定するのは人間には難しいからもし無闇に時間移動をしようとしても迷子になる可能性が高いとか何とか。そん時は、俺には関係ないや、っと思って真剣に話を聞いてなかったもんだからうろ覚えだけど。
 ……俺、もしかしなくても結構危ない橋を渡ってた?
 ちなみに、これから起こるであろう数々の事件については、小竜姫様の方から話さなくてもいいと言われてしまった。
 俺がここにこうして“在る”だけで既に俺が体験した未来からは別たれた別の可能性になっているはずだから、大まかな流れは一緒でも細部に関してはかなり差異が生じる、という事らしい。特に、俺がより直接的に――言い方を変えれば“濃く”関わっている事象ほどその傾向が強まるらしい。
 まぁ確かに、前回では小竜姫様が大破壊しちゃった修業場は、今回は無傷のままだしな。それに、今回は美神さんだけでなく俺の霊力もかなり底上げされているっぽいし。
 とはいえ、大まかな流れが変わらないんならある程度大雑把な事くらいは話しておいた方がいいんじゃないか、とも思ったんだけど……。
 どこでどんな風に影響が出るか分からないから、誰に対してであれ話すのはやめておいた方がいいだろう、との事。

「……それに、あまり話したくない事もあるのでしょう? 聞いてしまえば、いずれ全てをお聞きしなければいけなくなるでしょうから」

 小竜姫様……。

「もちろん、あなたが持っている記憶を元にどのような行動をとろうと、それは横島さんの自由です。悔いの残らないよう、よく考えて行動してください」

 ああ、これはダメだ。今もう完璧にハートのど真ん中を打ち抜かれたね。そんな事をそんな風に暖かに言い切られちゃったら、ホントどうにかなっちゃいますよ、小竜姫様。
 頭が真っ白になるくらい感激した俺は思わず――

「それでわっ、悔いの残らないよう種族の壁を超えた禁断の愛を育みましょうっ!」
「なんでそうなるんですかっ!」

 ドゴムッ、て音がしそうな右ストレートで撃墜されていた。
 いや、頭が真っ白になっちゃったら思わず今まで押さえつけてきた熱い青春のたぎりがね。そんな俺のルパンダイブをとっさに拳一つで迎撃して見せるあたり、やっぱし小竜姫様ってこんな可憐な姿をしていても武神なんだなー、とも思うけど。

「今の今まで全く動けなかったはずじゃ……?」
「やりたい盛りの煩悩パワーをなめないで下さいっ! 身体が動かん程度の障害は気合と根性で乗り切ります!」
「そ、そんな無茶苦茶な。……あぁ、美神さんが言っていたのはこういう事だったんですね」

 美神さんは小竜姫様に一体何を話して帰ったんだ? ……まぁ、想像は付くからいいけどさ。
 ちなみに、気合で動かした身体は今度は小竜姫様の右ストレートのダメージでまたしても動かなくなっていたりする。
 くうぅぅぅ……。地味に痛てぇ。

「それにしても、横島さんがこんな方だったとは知りませんでした」
「俺の地はもともとこんなんですよ。いつの間にかシリアスな役柄もいけるよーになってましたけど」

 そういや、今回は珍しく真面目にシリアスやってたから小竜姫様は普段の俺を知らないんだったっけ。
 ……いや、普段も結構真面目にやってるんだけどな。どうしても、こう、人生ギャグ街道まっしぐらと言うか、ボケられる状況だと身体が勝手に反応してしまう大阪人の血のなせる業と言うか。

「それは何となく納得できるんですが……」

 いや、納得されてもそれはそれで悲しいものがあるんですが……。

「まだ何かあるんすか?」
「いえ、今こうしてみている姿と修業中に見た豪快な太刀筋がどうしても一致する気がしないので」
「あー、まぁ、直接シバキ合う時だけは意識を集中して切り替えてますから」

 そうでないといけないって教えてくれたのは小竜姫様なんすけどね……。ま、自分が油断してたせいで誰かが怪我なんかしたりした日にゃ、寝覚めが悪すぎるからな。
 つっても、油断一つが命取りになるようなヤバい奴となんて絶対に真っ正面から真っ正直にやりあったりしないんだけどな!
 そこっ、ヘタレとか言うな。
 んな格闘マンガみたいな役柄は雪之丞辺りに任せてるんだよ。敵が強ければ強いほど喜ぶなんて真性のアホは、俺の周りにはあいつ一人いればそれでもうじゅーぶん。
 あいつがパーティの先頭で殴りあう戦士だとしたら、俺は商人か遊び人。あいつが敵をばったばったとなぎ倒していく世紀末覇者だとしたら、俺はその後ろで成り行きを眺める村人A。それぐらいでもうお腹一杯なんでこれ以上は勘弁して下さい。
 そーでなくてもあいつには色々と面倒だったり厄介だったりする事に巻き込まれてるんだ。巻き込まれるのはダチだからしゃーないとしても、積極的に関わり合いになんぞなってたまるかっ。……その割には何時巻き込まれてもいいように常に鍛錬を積んでたりする辺り、ふと気付いて割と真剣に凹んだりした事もあったけど。

「さて、と。あんまり長い事学校休んでるとリアルに進級がピンチになるんで、そろそろ山を下ります」
「身体の方は大丈夫なんですか?」
「特になんとも無いっすよ。それに、もし何かあるんなら今までに症状が出てるでしょうしね」
「私としては、あまり前例のない事を行ったのでできればもう少し様子を見たいんですけれども……」
「大丈夫ですって。ま、何かヤバそうだなーと思ったらすぐにここまで来ますんで」
「はぁ……」

 実際、授業に出られるなら出ておいて出席確保しとかにゃ後々困るからな。自分の体も大事だが、それ以上に高校生活もう一年追加なんて洒落になっとらんからなー。
 もう二度とあんな地獄を見るのはゴメンだ。いやほんと、俺にとって幾つかある思い出したくない記憶の一つだな、ありゃ。
 ……うわ、ちらっと思い出したら鳥肌立ってきたよ。
 どんな事があったかなんて、詳しく思い出すのもゴメンだ。ただ一つだけ言う事があれば……。あれだな。

 ――グレートマザー襲来はもう勘弁な。いやほんとマジで。





   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※






 あー……、そういえば。圧倒的な(そして思い出したくない)過去の記憶の前に霞んでるけど、霊力の方はかなり強化されてました。具体的には、栄光の手とサイキックソーサーの安心して使えるクラスの出力での展開に成功、っと。香港の事件の時よりちょっとばかし強力なくらいだけど、よっぽどヤバい相手――例えばメドーサとかとガチでやりあったりしない限りは大丈夫だ。
 さらに、一回猿のじーさんとガチンコバトルやってる影響が魂に残っているおかげなのか、文珠が出せそうな感じもあったり。今回も隙あらばじーさんとの修業にも手をだそうかなー、とか思ってたんだけど、今はちょうど大陸の方の別な修業場の方へ出張しているそうで。小竜姫様曰く、妙神山が基本的な下界での滞在場所になってはいるが、他の修業場や霊的重要拠点にも足を運ぶ機会が多いらしい。まぁ、ああ見えても色々と制約の多い立場に立ってるらしい。
 ……もしかして、あのプチ精神と○の部屋でのゲーム猿ぷりって普段の反動か? あぁ、いやそんな事は“今は”どうでもいいんだけどな。
 そんな訳で、ある程度文珠に関しては諦めていただけにコレは嬉しい誤算だった。ただ、一月に一回出せるかなー? ってな感じの感触だから、出るかもしれんし出ないかもしれん、ってトコだけど。
 ま、とりあえず当面の間はコレで十分。気長にやっていくか〜。





〜続く〜


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