目覚めよ・・・
「いやだね」
目覚めよ・・・
「俺はもう疲れたんだ・・・」
目覚めよ・・・
「俺は成し遂げたんだ。もう放っておいてくれよ・・・」
まだ終わりではない・・・
「へぇ・・・そうなのか。でも俺の時間はもう尽きたんだ。もう終わったんだよ俺の物語は・・・」
「頼むから、もう放っておいてくれ」
・・・。
「疲れたんだ・・・・」
・・・そうはいかんのだ。
前も後ろも上も下も右も左も、それどころか今と昔まで無い暗闇の中・・・
―――彼は目覚める。
「目は覚めたか?ヨコシマタダオ」
ヨコシマは、その声を聞いたとたん、身体に電流が走ったかのように、びくりと身体を起こした。
とたんに最後の(今ここに自分が居るって事は最後じゃなかったようだが)記憶が蘇り、体中から汗が噴き出した。なにせ魂を引き裂かれる痛みだ。並大抵のものではない。
痛みと不快感で無意識のうちに芋虫のように身体を丸める。ぜぇぜぇとした荒い呼吸が続き、震えが止まらなかった。
「落ち着いたか?」
しばらくして。頭上(何やら宇宙空間に似たような場所なので、上と言う概念が無いのだが)から声が降り注ぎ、先ほどより幾ばくか体調がマシになったヨコシマはゆっくりと顔を上げた。
目の前には何やらぼやけた白っぽいヒトガタのようなものが、瞳の無い顔でこちらを見下ろしていた。どんなに目を凝らしてもぼやけてしまう。だが、そこに彼が居る・・・と言う事は分かった。
それは彼が人間の五感でははっきりと感知できない高次元なモノで構成されていて、また、かなりの高位な存在である証だった。
「ここは何処だ・・・?それと・・・俺はどうなっている?消滅しちまったんじゃないのか?」
くらくらする頭でヨコシマはまず頭に浮かんだ質問を口にした。
「ここかい?ここは空間と時空の終着点。
つまりは・・・この世の終りって事さ。ちなみに君は消滅しかかっていたのを何とか私が回収してかなりの時間をかけて落ち着かせた。損失していた身体も修復できたようだ。まあ魂のバランスが微妙なのは同じだからひどく不安定だけどね」
「この世の・・・終り?」
「ああ。コスモプロセッサの乱用によって世界の法則が入り乱れ、ついには自壊してしまった君の生きていた空間の、その慣れの果てさ」
「そんなばかなっ!俺は確かに・・・破壊したはずだ!」
ヨコシマは驚きの声を上げる。
宇宙を都合のいいように改ざんする夢のような・・・しかし悪夢のような装置コスモプロセッサ。彼はそれを二度も破壊してきた。一度目は恋人の命を、そして二度目は分身とはいえ己の魂を犠牲にしようとして。
「そうだね。確かに君はアレを破壊した。よくやってくれたよ。でもね・・・不十分だったんだ」
「なに・・・」
「君は、コスモプロセッサによる楽園計画を立てたのが・・・あれだけだと思うのかい?」
「それじゃぁ・・・アシュタロスや天界の奴らの他にも宇宙改ざんをしようとした奴がいたってのか!」
「ああ・・・それも半端な数じゃない」
魔人ヨコシマの最後の力で神界のコスモプロセッサ騒動が発覚し巨大な陰謀が明らかになった。そして魔を滅し、そして人間を完全に神の管理課に置くという計画が明らかになった。
これを知った神・魔・人の三界ではある種のパニックが起こったのである。
『もし自分達以外の誰かがコスモプロセッサを作ったら・・・自分達は大変な事になる』
その恐怖は尋常ではなかった。なにせコスモプロセッサとは戦力差など関係無しに、ただこの機械に向けて「敵を消去せよ」と命じるだけで敵を一掃できるシロモノである。
密かに・・・しかしありとあらゆる所で、コスモプロセッサは作られた。
そして・・・
「始めは小さなゆがみでも、積み重なれば十分に大災害だ。世界はゆがみに耐え切れずこうして崩れ去ってしまったわけだ」
白っぽいヒトガタは、あたりを見回し、ヤレヤレと肩をすくめる。
「・・・馬鹿な奴等だ。自分だけ助かろうとして、結局自滅かよ」
世界中から追っかけまわされていたヨコシマは自滅していった世界中の人があまり好きではなかった。自然に皮肉が飛び出してくる。
が、急に目の色を変え、ヒトガタに詰め寄った。
「おい!俺が消えた後シロはどうなったんだ!!タマモは?マリアは?カオっさんは!皆はどうなったんだよ!世界崩壊に巻き込まれたって言うんじゃ・・・」
「おいおい、そういきり立つな。何か勘違いしてるみたいだけどコスモプロセッサ戦争が起きたのはお前が消滅してから800年位してから勃発したんだ。皆とっくに朽ち果ててるよ。
ちなみにお前が最後にかけた大博打・・・上手く行ってたよ?何だかんだ言って斉天大聖が良くしてくれたみたいだ。全員お前に操られて仕方なく協力されてた事になって無罪だと。シロとか言う人狼もお前の本体・・・いや、魂の絶対量から言うとお前の方が多いからあっちが分身か?・・・とにかくそいつと結ばれて生涯仲むつまじく暮らしたそうだ」
「そう・・・か・・・・。はは・・・よかった・・・」
とたんに体から力が抜け、へなへなと座り込むヨコシマ(床なんて無いけど)
「よかっただって?・・・ちっとも良くない!
だって見てみろまわりを!!世界が終わっちまったんだ!
全く・・・何度も何度も導いてやったのに何で上手くやってくれないんだよ・・・
見てみろ!」
ヒトガタがそこを指差すとそこに太い木の枝が現われた。
「この辺が今居る所だ」
そして更にその枝の一部を指差す。そこは醜く腐り落ち、黒ずんでいた。
「これは・・・まさか世界樹!」
「そ、よく知ってるね。そして全ての原因がここ」
続いて指差すのは黒ずみの根元寄り・・・一番始まりの地点。
「丁度、アシュタロスが居る所さ。つまり全ての原因はアシュタロス。コイツがコスモプロセッサなんちゅーモノを引っ張り出してくれたせいで皆サルマネぶっここうとするんだ」
ぶつぶつと愚痴るヒトガタ。
「はぁ、確かに一番最初に導いたときはちょっと戦力不足だって事はわかってたよ。でもその分文珠なんていう反則アイテムやおっそろしいほどの幸運をプレゼントしたろ?
もっと上手くやってくれ・・・。
次に導いた時もそうだよ。もっと内密に処理してくれればいいのにあんなに大っぴらにしちゃってさぁお蔭で世界崩壊一直線だ。
・・・あ。もしかして三界連携の礎にしたの怒ってた?」
「・・・・何だって?」
「でもまぁ仕方ないじゃないか。他に適当な存在が無かったんだし・・・」
「俺に降りかかってきた不幸は・・・皆お前が・・・?」
わなわなと振るえる声のヨコシマに、ヒトガタはどうって事無いような声で返した。
「・・・ああ。そうだよ」
「貴様・・・・・・・・・殺してやる!!!」
踊りかかるヨコシマ。
怒りのあまり、使えば、ボロボロの魂など崩れ去ってしまいそうなほどのエネルギーを一気に開放する。
そしてこの世のモノとは思えないような咆哮と共に霊波刀をはなった。
「舐めるんじゃないよ」
が、ヨコシマの攻撃はヒトガタに届く前に不可視の力によって止められた。
「く、くそぉ・・・。ちくしょう!!」
「悔しがったって無駄さ。私はお前らとは・・・格が違うんだよ。
何せ宇宙意思直属の下僕だからね」
「宇宙意思・・・?」
「それに君があんな目に会うのは仕方が無い事だったんだよ。
だって君の魂は・・・・私が作ったんだ。宇宙意思の望まない事態を解決する為の端末として。
だからこそ世界の命運を決める戦いの中には何時だって君は居た。
見たろ?君の前世なんかアシュタロスからエネルギー結晶を奪うキーマンだったんだよ。
決して目立つ事は無いが、君は転生するたびに数々の英雄を影から支えてきたんだよ。世界の為にね」
空中に貼り付けられたヨコシマが、苦しげに言う。
「くっ・・・何故だっ!何故俺なんだよ!!こんなに力があるんなら自分でやりゃあいいじゃないか!」
「ああ、私もそう思うよ。でも直接的な干渉は宇宙意思が許してくれないんだ。
あきらめろ。
私たちは最初から世界の下僕だったのさ。
さて・・・・・・ここまで言えば分かるよな?
・・・・もう一働きしてもらうよ」
ヨコシマの身体が光り輝く。
「歴史のやり直しなんてのは本来宇宙意思に規制されてるんだけど、今回は流石に許可を出したみたいだ。これから君を過去に送り込む。恐らく何かしらゆかりのある場所に落ちるはずだ。
今度こそ上手くやってくれよ?」
「待ちやがれ!俺は承諾なんてしていないぞ!」
不可視の力で拘束されながら、次第に輝きの中に消えてゆくヨコシマ。
「・・・初めから君に拒否権なんて無いんだよ。
まぁそう怒るな。人生やり直せるんだよ?それにアシュタロス事件を完全に抑えてくれれば次の人生までは何も頼まないからさ」
「自分の物じゃないって気付いた人生をやり直して何が嬉しい!!
この崩れかけた体で何ができる!
・・・ちくしょうちくしょう!次に会ったらきっと・・・・!!!」
―――――殺してやるからな!!!
耳鳴りのするような呪詛を残し、ヨコシマは消えていった・・・。
「・・・殺してやる、ね。・・・願っても無いよ。
私なんか、未だに何のために宇宙意思の意思を汲み取らなきゃいけないかすら分からずに滅ぶことも許されず、眠る事も無く永遠にこき使われてるんだ。
ヨコシマ。君が羨ましい。
・・・・死ねるって、どうゆう気分だい?生きれるって・・・・どうゆう気分だい?」
前々からちょくちょく顔を出していた人が正体を現しました。
しかし横島がまたいじけモードに突入です。
書きだめはまだ有るのですがきりが悪いのでしばしお待ちを。
ではコメント返しおば
蓮葉零士さん
いやはや気が合いますなぁ。あっはっはっはっは・・・・はぁ・・・。
闇の皇子さん
魔人ヨコシマの戦闘力はここで明記しちゃうと
後々私の首が締まりそうな感じがするので勘弁してください(汗
本気モードのときは少なくともアシュよりは強いと思います。
aoiさん
耳血!?なんかやばい事になってますねw
小龍姫様は壊れてこそ魅力があると確信しておりますので(おい!)シリアスな今回ではあまり暴れさせることが出来ませんでした。残念。
激励、ほんとありがとうございます。
ケイタさん
うわぁどうしよう。なんだか照れます。
こう言われるとほんとに二年間頑張ってよかったなぁと思えてきます。
読者様が喜んで下さるのが書き手にとって最大の喜び。ありがとうございました。
斜陽さん
未来編ですか・・・。とても興味深いですが流石にパワーがっ!
和也さん
冷静沈着なご意見、ありがとうございます。
私もこのSSを書いていく上で、これらの事は常に意識しておりました。
実は結構書きたくても省いた所も有りますし、何度か全く別の作品として独立させようかと考えた事も有りましたが、結局この形に纏まりました。
恐らくこれからも皆さんに受け入れられないような形をとる事も有ると思いますが、
こればっかりはどうにもなりません。
こういうものだと思って頂くほか有りません。
ですが和也さんのように「ここはもっとこうした方が良いのではないのだろうか」と言う旨のコメントは大歓迎ですし、大いに参考にさせていただきますので、どしどし書き込んでください。
E.さん
・・・・・・うおぉっ!?そうなんですか!?!?
気付かなかった・・・。
すみません。 (核砂糖)
宇宙意志の下僕…
具現化できる意識の最高系ですね。
アシュタロスをギャグ世界に引きずり込んだのが彼だったのですね?
しかし、重い重い話ですね…
もしかしたら、アシュタロスは魂の牢獄よりも、こんなにも干渉してくる宇宙意志が嫌いだったのかもしれませんね。アシュタロスレベルになれば彼の存在をじかに感じられるんではないでしょうか?
コスモプロフェッサの完成まで、本当に長かったんではないでしょうか?
宇宙意志が手助けした宇宙意志に気づいたときからの幸運の具合から、コスモプロフェッサの開発中は、本当に本当に不運の連続だったのでしょうね。
その考えなら、美神さんに宇宙意志へのレイプ?と言われた時は、逆に勝ったと思っていたり?いろいろ考えられます。
原作のキャラの特徴を捉えていて、オリジナルのストーリーのすばらしさに加えて、この最後の上手さ(続けてもよし)、もう本当にすばらしすぎます。
あんまり、本読まないんですけど…上位5位に入る作品だと思いました。 (凡士)