天空から、まるで雪崩のように押し寄せてくる神魔の大群。それに向かってまるで矢のように一直線に魔人たちは突き進む。
愛する者の為、友の為、応援してやりたい者の為、そして自分の為。
彼らは前進する。
接触まであと少し。
先陣を切る横島は両腕のハンドオブグローリーをそれぞれ高層ビルのように巨大な鍵爪に変形。前方を阻む神魔達をまるで掻き分けるようになぎ払い始めた。
神だろうが悪魔だろうがお構いなしに、ソレが只の障害物であるかのように掻き分け、押しのけ、叩き落す。
しかし、いかせん数が違いすぎる。敵軍のど真ん中を突き進んでいるうちに、徐々に最初のスピードは衰えてゆく。
しかも横島は仲間を庇っている。敵が有利なのは当たり前だ。
神魔達は己の中心部まで飛び込んできたこの命知らずを、その圧倒的な兵力で押し潰さんべく、横島たちめがけて殺到した。
横島はその程度でやられる訳には行かない。
『結』『界』
目も眩むような光が迸り、強靭な文珠の結界が神魔の攻撃を阻む。
・・・今までならこの結界でしばらく持ったことだろう。
しかし今回は敵にも文珠使いがいる。敵の文珠使いの妨害で、結界は一瞬で消え去った。
殺到するおびただしい数の敵。
その時、相手の合間を縫うようにして幾本ものハンドオブグローリーの触手がまるで蛇のように伸びてゆき、近場に居た神魔軍の文珠使い達を数人貫いた。
その隙を逃すわけも無く、横島達は文珠で周りの敵を吹き飛ばすと前進を再開する。
三歩進んでは二歩下がり、時には押し戻されながらも、彼らは確実に、天へと上ってゆく。
その目的に気付いた神魔達は、何としてでも横島たちを止めようと圧倒的な火力を持って妨害したが、彼らは止まらなかった。
そしてついに・・・
※
「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
喉が引き裂けそうなほどの咆哮と共に、ドリル状に変形させたハンドオブグローリーで最後の上級神族と、そして巨大なキメラを弾き飛ばし、横島はそこに辿り着いた。
そこは異界へと続くゲート。
その先には敵の本部があるはずの、一番大きな異空間ゲートだった。
もはや退く事も、隠れる事も出来ない横島達に残された唯一の手段、それは特攻だった。
彼らは、敵の中枢に攻撃を仕掛けるべく敵の中心を目指した。
「・・・・さぁ!お前ら・・・・覚悟しろよ、ここからが、本番だ!!!」
激しい戦いで、満身創痍になった横島は愛しい仲間たちに呼びかけた。
こちらもボロボロになった仲間達は信頼の篭った目を彼に向け、無言で頷くと気合を入れなおす。
そして、ゲートを・・・抜ける!
ゲートの中へ飛び込んだ彼等が最初に見たのは、何も無い空間と・・・・
「隊長・・・ベスパ・・・」
銃を構える二人の戦士だった。
―――お前さえいなければ・・・私は家族を失わなかった!!!
彼女らは何も喋らなかった。しかし真っ直ぐに向けられた銃口が、そして射貫くような目線が、全てを語っていた。
やっぱよまれていたか・・・・。ここに来る事も、
俺が、この銃弾を避けられない事も・・・。
二発銃弾が、横島の胸に吸い込まれる。
「先生!!!」
シロの叫び声が上がった。
だが、横島は人間ではない。この程度では死なない。しかし、この銃弾で出来た隙を逃さない者が居た。
「伸びろォォォォォォォォォォォッッ!!!!」
ズドン!!!!
ソレが横島の胸に大穴を空け、仲間達の悲鳴が上がる。
あー・・・そういやどっかに居るに決まってますよね。
斉天大聖様・・・。
ずるりと如意棒が引き抜かれ、横島は真っ白な異空間の床にどさりと倒れた。
「馬鹿者が・・・」
この世とは異なる場所に在住していたため、この不肖の弟子のことを覚えている斉天大聖は、何に対してか・・・ただ一言そう呟いた。
せんせい・・・せんせい・・・めをあけてくだされ・・・
「先生!!!」
横島は、呼びかける声で目を開き、そして全身を駆け巡る痛みと不快感で顔をゆがめた。
「(一瞬意識が飛んでたみてぇだな・・・)」
とりあえず周りの状況を確認する。
まず俺・・・だめだこりゃ。もう体が動かない。トドメを刺されるのを待つだけか。
猿のじーさんは・・・我観ぜずのポーズで一服か。
隊長にベスパは・・・遠くから俺がくたばるのを見てるだけか。最後の別れの時間をくれるって事か?
シロはここにいて、タマモとマリアとカオスはシロに遠慮して一歩引いた位置からこっちを見てる。
時空ゲートは閉じてる。逃げ場は無いか・・・って事はやっぱり最初から全部罠だった見たいだな。
でもおかげで今を邪魔する奴はいねぇみたいだな・・・。
しっかし・・・
「やっぱ、無理だったか・・・。
そうだよな。アシュタロスだって、あの孫悟空だって無理だったんだもんな・・・」
全世界への宣戦布告。
全てに敵対されるなら、その全てを押しのけて生きてやろうという意思。
「ただの、悪足掻きに終わっちまったか・・・」
横島は全てを受け入れた顔で、はははと笑った。
「いやだ・・・・・いやだ!!!
約束したではござらんか!!絶対に置いていかないって!!!」
横島の顔に、ポロポロと涙が落ちる。
涙の出所は彼の頭を抱きしめるように座り込むシロだった。
「拙者はまだ終わりたくない・・・。
もっとあなたと一緒にいたい・・・もっとあなた色んな事がしたい・・・もっと、あなたと生きたいでござる・・・」
ポロポロポロポロと、涙は流れ落ちる。
横島はそんな彼女の涙を拭ってやりたくなったが、身体が言うことを聞かなかった。
「(クソッ!俺には惚れた女の涙を拭くことすら出来ないのかよ!!
動けっ、この怠け者がっ!!腕一本で良い・・・動けッ!!!)」
その想いが届いたのか、がくがくと振えながらも彼の右腕が上がり、シロの涙を拭う。
そして彼は彼女を泣かしたくない一身で、血まみれの顔を歪めて精一杯の笑顔を作って見せた。
それを見た、シロの顔も泣き笑いのような顔になる。
彼女の笑顔は、彼の中の諦めをかき消す想いを呼び覚ました。
もっと生きたい・・・・コイツと一緒に。
それは突拍子も無い考えを生み出した。
もしかしたら・・・いけるかもしれない。
「なぁ、シロ。最後の最後の悪足掻き、してみるか?」
横島はシロ以外、誰にも聞こえないように小さく呟くと、彼女の頭を引き寄せ、作戦を伝え、そして深く口づけすると、目を閉じた。
・・・。
「貴様ァァァァァッ!!!よくも今まで拙者を持て弄んでくれたなぁっ!!!!!」
しんとした空間を、突如切り裂く怒声。
何事かと皆があたりを見回すが、その声の中心地は、最も有り得ないとも思える者、犬塚シロだった。
「拙者だけならず、わが友までの心身を思うままに操るなど・・・虫唾が走るわ!!
死んでその罪を償え!!!」
しかも何と彼女はそう叫ぶと、腰の刀を抜き放ち、横島目掛けて突き立てたのだった。
皆様は横島の最後の策、解かりますか?
(たぶんばればれだろーなー・・・) (核砂糖)