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BACK TO THE PAST!

決戦2


投稿者名:核砂糖
投稿日時:06/ 7/17



「くそ・・・なんて弾数だ・・・。これじゃ反撃できない!!」

降り注ぐ銃弾の雨。それをバンパイアミストやアクロバット飛行により回避しつづけるピート。
しかし敵は反撃する隙も与えないし、こちらの集中力も今にもとぎれそうだった。


「はははは!まともな物を喰って脳に養分が行き渡ったヨーロッパの魔王はちと手ごわいぞ?のうマリア」

「イエスドクターカオス」

得意げに高笑いするドクターカオスに、ピートは一抱えの不満を持った。おめーはさっきから何もしてねぇだろうが。と。

まぁ善戦しているマリアとその武装を作ったのは確かだが。


「このままじゃ埒があかない・・・よぉし!」

戦いの膠着状態、しかも自分にとって不利な状況になっている事を感じ取ったピートはそれを打開すべく移動パターンを変えた。
何と回避行動を止め、銃弾の嵐の中に突っ込んできたのだ。

「な、何ッ!?」
こんな所で特攻など愚の骨頂。その無謀な行為にカオスは驚きの声を上げる。

先ほどからノリノリのカオスであったが、相手は知り合い。
できることなら傷つけたくなかったのだ。

打ち込んでいる銃弾は全て横島に『複』『製』して増やしてもらった己特製の銀の弾丸。どうやって作ったは覚えていないが、確かむちゃくちゃ強力だったような気がする。
二・三発であればピートなら死にゃぁしないが、蜂の巣にされてしまえば只ではすまない。


―――やっべー。やっちゃったかも・・・


ちょびっと青ざめるカオス。しかしそれは杞憂に終わる。


「・・・・目標・何の抵抗も無く・直進中・ダメージゼロです」

「なんじゃと?!」

マリアの報告を聞き先ほどとは違う驚きの声を上げるカオス。


確かに見てみればこちらに突進してくるピートには、そのどてっ腹を何十発という弾丸が通り抜けているのにもかかわらず、その顔色は全く変わっていない。

―――もしかしてやせ我慢?

カオスは一瞬、そんなアホらしい事を考えた。


「目標・着弾の瞬間に・その部分に局部的なバンパイアミストを展開

こちらの攻撃を・完全に・無効化している模様」

「何とそんな事を・・・神がかり的な集中力が必要な技だぞ、それは・・・

ううむ、すばらしい。まさかそんな事を本当にしてくる吸血鬼が居るとはおもわなんだ・・・」

ふむふむ。と、心底感心したように頷くカオス。
そんな彼にマリアは感情の無い声で言った。
「ドクターカオス」

「ん?なんじゃ?」

「目標・あちらの射程距離に・到達しました」

「ぬおっ!?」


ピートは、カオスがついつい考え込んでいた間に、もう必殺の間合いまで接近していた。

「何とっ!何時の間に!!恐ろしい技じゃッ!!」


「彼方がぼーっとしていただけでしょうが!!



喰らえ!ダンピール・フラ「ロケットアーム」ばひゅ!!!」


ピートが得意技を放つのと、マリアが己の主の首根っこを引っつかんで交代しつつロケットアームを放つ(のと、カオスの首が激しく絞まる)のは、同時だった。

ロケットアームはピートの顔面めがけて飛来し、彼はそれを頭部を霧化させることによって回避したのでなにやら間の抜けた技名を叫ぶ羽目になった。


ピートはバンパイアミスト。そしてマリアたちは高性能なブースターにモノを言わせ、それぞれの攻撃は回避された。

「くそ、速い・・・やっぱり当たらないか・・・」


「ごほごほ・・・・こら、マリア。年よりはもっと大切に扱わんかい!」

「ソーリードクターカオス・それが限界です」


一瞬の様子見を挟み、再び衝突する三つの影。

「銃弾が効かぬなら・・・これでどうだ!」

カオスの指示により武装を変えるマリア。しかしピートはそれをものともせず、真っ直ぐに突っ込んでゆく。

「どんな攻撃も、霧化を極めた今の僕には効きませんよ!」

一直線に突き進むピート。
両手に霊力を溜め、立ちはだかる敵を打ち砕かんと、こちらに銃口を構えるマリアに向かい、勝負を仕掛ける。


マリアはそんな彼に無表情で・・・・





え?何か溜めてる??





突撃するピートの目に、マリアの構える銃口に、なにやら大量の、やけにかぐわしい香りのするエネルギーが集中するのが映った。



この臭いはまさか・・・!!







「ガーリック光線・発射」

「なんですかそれはぁぁぁぁぁっ!!!」




ガッガッガーガッガッガー!!







「このネタ覚えてるヒトいるんじゃろか・・・」









「蝶のように舞い・・・」

「くっ・・・。前より身体捌きが良くなりましたねシロさん・・・」

「ゴキブリのように逃げるでござる!!!」

「なっ・・・!?」

「と見せかけて私が蜂のように刺す、と」

「熱っ!?」

「更に拙者も」

「痛っ!!」

「「そして二人してゴキブリのように逃げる!!!」」

「あ、あなた達と言うヒトはぁぁぁぁぁっ!!!」





「私たちって結構やるわね。あの小龍姫様とイイ線いってるじゃない」

攻め過ぎず、決して深追いしない見事なヒットアンドウェイを使い、数年前はまるで敵わなかった龍神を翻弄して、
タマモは少し嬉しげにそう言った。
しかしシロは、
「慢心は油断に、油断は敗北に繋がるでござるよ、タマモ。小龍姫様はまだ本気を出していない。
高々100年も生きていない我らが、本気になった小龍姫様に勝てるわけが無いでござろう」

「う・・・。分かってるわよそんなの。ただちょっと・・・言ってみただけよ。

ってゆうか何で私がコイツから説教を・・・いつもと立場が逆・・・」


数年前は毎日のように共に過ごし、そしてここ一年ほど共に戦っていなかった相棒と久々のコンビを組んで、少々浮かれていた彼女は、ゴニョゴニョボソボソと文句を言った。

てゆーか獣人モードで怒るシロがちょっぴり怖かったなんて言えない。


そんなタマモをチラと見て、ちょっとすまなそうにシロは言う。
「それに拙者達は小龍姫様に勝つ必要は無いんでござるからな」
「分かった分かった。もういいわよ。

ほら、来たわよ・・・。うひゃー怒ってる怒ってる・・・めちゃ怖っ!!」


二人は、こちらに向かって突進してくる怒れる武神・・・というか殆ど鬼神のような小龍姫に向けて、身構えた。













「おぉらぁぁぁぁぁぁっ!!!

くらいやがれぇぇぇぇぇぇっ!!!」


「ちょっ、まっ・・・・

お前本当に人間かっ!?」


除霊どころか、へたすると下級魔族にも致命傷を与えられそうな雪ノ丞の霊力の塊をひらりとかわし、横島が叫んだ。

更に、魔装術の一部を武器化した奥義・魔装剣での追撃を、魔力で黒く変色したハンドオブグローリーで受け止める。

「ちぃ・・・また避けたか・・・テメーちっとぐらいは当たれよ!!」
「当たるか!大怪我するわい!!」


どうやれば普通の人間がこれほどまでの域に辿り着けるのか。
雪ノ丞の霊力は下級魔族を超えていた。

しかも彼は、その力でも上位の存在に太刀打ちすべく、全ての無駄を省き、全てのチカラを研ぎ澄まし、全ての部位を完全にコントロールするすべを身につけていた。


しかもその上、文珠まで身につけたときたもんだ。




「くそっやっぱ文珠に頼るしかないか・・・」

横島と対峙する雪ノ丞は忌々しげに呟く。
どうやら、いくら同じ土俵に立つためとはいえ、相手の技を盗んだ事が気に食わないらしい。


雪ノ丞は「ふん!」と気合を込めると魔装術の一部を引き伸ばし、それを野球ボールぐらいの球体に変形させる。

そしてその部分を引きちぎり、両の手で思いっきり圧縮する。


手を開くとその中には文珠が生成されていた。



「・・・何度見ても雑な作り方やな〜」
「うるせぇ!!付け焼刃じゃこれが限界なんだよ!」

そう、彼の技はまるっきり付け焼刃であって・・・

「しょうがねぇな。
ちょっといい事教えてやるよ。


―――文珠は、戦闘中に作るものじゃねーよ」

・・・プロに敵うはずが無いのだった。



バラバラバラバラ・・・・


漆黒のマントの中から溢れ出す、予めストックしていた大量の文珠。それらは一斉に雪ノ丞へと殺到する。

そのそれぞれに込められたる文字は・・・『爆』




「くぅっ!!」

咄嗟に身体を縮め、両腕をクロスさせ防御体制をとる雪ノ丞。

一瞬のタイムラグ・・・そして大爆発。



目も眩むような閃光があたりを支配し、全ての音が消え、膨大な衝撃波があたりをなぎ払った。




ちょっと―――っ!!こっちまで巻き込まれるとこだったじゃない!!



タマモたちの文句が聞こえる。



「しまった・・・ちょっとやりすぎたか・・・」

タマモの文句が聞こえたせいという訳ではないが己の引き起こした大爆発に、少し後悔してる横島。


まあアイツなら大丈夫だろう。と、目の前に広がる爆煙から目を逸らし、妻の下へ援護に向かおうとしたその時、煙の中から人影が飛び出した。



「ヨコシマァァァァッッ!!!!」

「ぬおっ!?」

所々剥がれた装甲の隙間から、ぎらぎらと血走った瞳を覗かせ、突っ込んでくる雪ノ丞。まだ戦えるようだ。先ほどの文珠で、防御していたらしい。

横島は何とか衝突を回避し、お互いの両手を組み合うプロレスの力比べのような状態に持ち込んだ。

「ククク、ハハハ・・・。やってくれるじゃねぇか・・・」

滴る血液を拭いもせず、壮絶な笑みを浮かべる雪ノ丞。
はっきり言って横島よりもよっぽど魔人っぽい。


「あれくらってもまだ向かってくるかお前は・・・」

まぁそんな気はしていたけど。

「だが、それ以上は無理だ。体壊すぜ」

横島は決着をつけるべく、鋭い前蹴りを雪ノ丞のみぞおち目掛けて容赦なく放った。
そのつま先はひび割れた魔装術を打ち砕き、雪ノ丞に衝撃をモロに伝える。

「かはっ・・・」

その攻撃に、胃の内容物を吐き出す雪ノ丞。今朝食べたお茶漬けが宙を舞ってキラキラと輝いた。
しかし・・・


「くっ!?コレでもまだ離さないか!」

雪ノ丞はそれでも両手を離さなかった。
彼の目からは、闘志が消えていなかった。





「俺の取っておき・・・見せてやるぜ・・・!」



ゴキュリとイヤな音を立てて変形する彼の魔装術。



「オイオイ、まじかよ・・・」

横島は顔をゆがめた。













ドゴォォォォォォンッ!!





「先生っ!?」

横島が爆煙の中に消えたのを見たシロが、集中力を欠いた。文珠による超加速状態が解かれる。

「珍しいですね!あなたが戦闘中に余所見なんて!!」

そして小龍姫は、そんなチャンスを逃すようなのろまではなかった。

「隙有りっ!!」
「あぐっ!!」

神剣がきらめき、鮮血が舞った。

「シロっ!!」
すかさずタマモが援護に入り、小龍姫を遠ざける。
「すごい血じゃない・・・大丈夫?」
「くっ・・・これしきの事、心配無用でござる」
友を気遣うタマモ。しかし、どう見てもソレは大丈夫には見えなかった。

龍神の剣は彼女の腕をかなり深く切り裂いており、とにかく出血がひどい。
獣人モードの彼女の毛皮が、みるみる真っ赤に染まっていく。
文珠と、超回復能力を使えば回復できない事も無いだろうが、神を相手にした戦いで、もう文珠は打ち止めだった。

「くそ・・・これじゃ剣が・・・」

痛みと、それと神経が傷ついたのか、手が動かない。もはや満足に刀を振るう事もできなさそうだった。

そもそも先ほどの超加速が途切れた時点で、勝負は決まってしまったのだ。


「シロさん、タマモさん、悪い事は言いません。もう降参しなさい」
その事は、小龍姫にも分かっていた。彼女は超加速状態を解いて、降伏を要求した。

「ば、馬鹿ににしないで下され!」
プライドを刺激されて、声を荒らげるシロ。しかし小龍姫は、そんな彼女をなだめるように言う。
「・・・始め私はあなたがあの魔人めに操られていると思っていました。
ですがあなたと剣を交えて、彼方の思いが伝わってきたのです。

・・・本気でしたのね。


その想いの強さを知った今、なおさらあなたと戦いたくない。

退きなさい、邪魔さえしなければもう手を出しません。きっと仏もあなたの罰については考慮してくれるでしょう」

傷つき、ボロボロになり、勝機を見出せなくなったシロにとって、その誘いは甘美で魅力的だった。



痛い・・・苦しい・・・もう戦いたくない。・・・でも!

「本気だからこそ、退くわけにはいかないんでござるよ!」

片手で握る太刀は使いにくいのでタマモに押し付け、傷ついていない方の腕から霊波刀を出し、踊りかかるシロ。

「ばかっ!闇雲に突っ込んでもやられるだけでしょ!!」
止める親友の声も聞かず、方向を上げながら突き進む彼女は、どうやら完全に頭に血が上っているようだった。



「うおぉぉぉぉっ!!!」
「くっ・・・大人しくしていれば良いものを!」



気合と、威力だけで、守りも考えも無い直線的な攻撃をみすみす喰らう小龍姫ではない。

真正面から突っ込んでくるシロを打ち落とそうと、手の平に霊気を溜めた。


が、何を思ったか咄嗟にその場を離脱すると、先ほどまで自分が居たあたりに向けて霊波砲を放つ。

「ぴぎゃっ!?」

霊気弾は何時の間にか背後から忍び寄って来たらしい黒い影に直撃し、そいつを消滅させる。

(奴の式神っ!?なら本体は・・・)

小龍姫は、ぱっと素早くあたりを見回し、魔人横島を探す。



「こんの馬鹿たれ!!!戦闘中は熱くなるなってあれほど言い聞かせたろーが!!!」
「ぎゃいんっ!!・・・って先生!?」



居た。

魔人はシロの頭に拳骨を落としながら説教を加えていた。


「先生、雪ノ丞殿は・・・・ってええっ!?先生、腕がっ!?」

「これしきの事でパニくるな。お前だって大怪我してるじゃねぇか」
横島の左腕は使い物にならないほどボロボロになっていた。手の平には大穴があいていたし、折れていない骨を探す方が難しい。
もはや付け根も怪しくなっていて、プラプラと前後に揺れていた。

それでも彼は優しく笑いながら妻であり、弟子である女性の頭を無事な方の手で撫でると、文珠で彼女の傷を癒した。

「雪ノ丞は倒した。多分3ヶ月はベットの上だな。

ンでこの腕は奴の最後っ屁のせいだ。
魔装術の武器転用、『魔装剣』それだけでもすげぇのに・・・あのヤロウあんな技まで編み出してるとはな〜」



収束すれば、魔族の霊波砲ですら弾き返せるほどの硬度を持つ魔装のヨロイ。

それを筒状に形成し、ヨロイの欠片で蓋をする。
そして内部で霊気の爆発を起こさせ、そのエネルギーを全て,先ほどの欠片を射出するのに使用する。

これが魔人の片腕を吹き飛ばした雪ノ丞の隠しダマ、『魔装砲』だった。


「咄嗟に相手の腕を振り解いて防御できたから良かったものの、モロにくらってたら頭が吹き飛んでたかもしれん。

てゆーか咄嗟とはいえ全力で張ったサイキックソーサー五枚を全部貫通して、手の平もぶち抜いて肩の付け根破壊してやっと止まるって何事だよ、これ」


ユッキー・・・お前何者?


横島は先ほど、うわーん、いてーよ!何しやがんだよコンチクショー!とか叫びながらボコボコにして地面にめり込ませてきた親友に向けて 畏怖の目線を送った。



「大丈夫なのでござるか・・・?」
話を聞いている間に、腕の治療をしてもらったシロ。しかし自分の事よりも、むしろドえらい事になっている横島の腕の方が何倍も心配だった。

「ん。大丈夫大丈夫。文珠使わなくとも時間さえあればすぐにでも新しく生えるさ」
「生えるんでござるか!?」
「おお、そりゃもうピッコロさんばりにな。魔族をなめんなよ?
だが今はハンドオブグローリーの応用で代用するしかないな・・・」

横島は、役立たずになった左腕を「はぅあっ!」ととても痛そうな気合と共に引きちぎり、中身の無いハンドオブグローリーを生やす。実質、腕が有るのとあまり変わらないように見えるようになった。


するとビジュアル的にも幾分ましになった横島に、タマモが声をかける。
「・・・ちょっと、あんたらの腕が良くなったのはいいんだけどさ、
今戦闘中よ?わかってる?」
「解かってるよ、流石に。

でもだいじょーぶ。小龍姫様ならこっちの会話を邪魔するほど無粋じゃないから」
ケラケラと笑う横島。
それを聞いた小龍姫は少々コメカミを引きつらせて


「お褒めに預かり光栄です。・・・ですがもうそろそろ我慢の限界ですので、覚悟なさい」

霊波砲を打ち込んできた。



「やっべ、怒らせちゃった」
打ち込まれてきた霊波砲をサイキックソーサーで打ち消し、シロタマを庇うように前へ出る横島。
「もー。タマモが余計な事言うから」
「あんたのせいでしょうが!!」
「・・・てへ」
「『てへ』じゃないいいいいい!!!」
先ほどから小龍姫の恐ろしさを体感してきたタマモは頭を掻き毟った。
ここんところのひどいストレスのせいか、数本の金髪が宙を舞い、キラキラと輝く。

「先生!そんな事言ってる間に小龍姫様が!!」
シロが注意を呼びかける。
横島とタマモが漫才をしている間に、小龍姫は必殺の間合いまで近づいていたのだ。




「あ、やば・・・」
横島は慌てて防御を試みるが彼は武神の、必ず殺すと描いて必殺と読む、必殺の間合いの中。
時既に遅し。
「天誅!!」
彼女の神剣が空気を切り裂き、横島の首が中に舞った。




「せんせーーーーぇぇぇぇっ!!!」
漫才に夢中になってる隙に殺されるという、あんまりにも間抜けすぎる夫の死を受け入れられず、シロの悲痛な叫びが辺りに響き渡り、


「残念、実は幻術でした。隙有り!」
「くぅっ!?」


当然の如くぴんぴんしている横島の出現で、その叫びは怒声に変わるのであった。
「心臓に悪い戦い方は止めてくだされぇぇぇぇっ!!!」
「わりいわりい。はっはっは」
「ほんとに怖かったんでござるよぉぉぉぉっ!?
わぁぁぁぁん!タマモォォ!!先生がいじめたでござるぅぅぅ!!」
「はいはい、泣かないでシロ」




びえぇーーー!と言う泣き声が聞こえる中、ちょっとやりすぎたかなーとか考えている横島は、そろそろ気合を入れるべく、小龍姫に向かい直る。

「やっとやる気を出してきましたか・・・」
今までとは雰囲気が打って変わっているのを感じ、剣を握りなおす小龍姫。
吹き付けるようなプレッシャーに、冷や汗が浮かぶのを感じた。



横島は、そんな彼女を見て・・・





―――ゾクッ

「(って危ない危ない・・・。何か今魔族の破壊衝動出そうになったぞ・・・。
やっぱアレだな、小龍姫様って神族だし可愛いから出やすいんだな。


おちゃらけ混ぜながら戦わんと魔族の本能に支配されるなんて・・・何つー難儀な体質だよ、まったく・・・。ま、ここは一つセクシャルな方向で・・・)」


一瞬、シリアスの顔をしたものの、途中からぐへぐへ笑い始めた横島を見て、シロが叫ぶ。
「先生!!なんか変な事考えてはござらんか!?」

「じゃぁかしい!!・・・・その通りだよチクショー」

「・・・えっちなのは、えぬじーでござるよ?」

「へーい」
横島は、ちぇっと舌打ちをすると手の平に隠していた幾つかの文珠をマントの中に仕舞った。

「な、何をしようとしていたのですか・・・」
一連の話を聞いていた小龍姫は、ちょっと身を引く。
「知りたい?」横島ウィズ笑顔。
「遠慮しておきます。

とにかく・・・そろそろ本気で行きますよ!!!」


一向に本格的な戦闘が始まらなかった横島対小龍姫。
しかし、小龍姫が超加速状態に入り戦況は一気に加速するように見えた、が





「コ、コレは!?」


次の瞬間には、小龍姫は大量の糸のような物に絡め取られていた。

「くっ・・・切れない・・・」

脱出しようともがくものの、より深く複雑に、余計に絡むだけのようだ。
ソレは細く、少し見ただけでは気付けないほどで霊気も感じないのに、鋼のように、いやそれをはるかに超えるほど丈夫だった。


「小龍姫様、まだまだマセていませんね。ダメですよ俺みたいのにこんなに時間を与えちゃ・・・。

おかげでもう、戦いは終わっちゃいましたよ」


くんっ
「あぅっ・・・」

横島が左腕のハンドオブグローリーを引くと、小龍姫を拘束する糸が更に締まり彼女の手から神剣が零れ落ちる。
糸は爪形態ハンドオブグローリーの5本指、それぞれの先端から伸びていた。

この技は、かつてシロをからかったハンドオブグローリーの触手を応用したもので、一本一本の触手を目に見えぬほど細く、そして霊気を漏らさないほどまでに収束させて、剣形態並みの強度を持たせたものだった。
それは明らかに神業とも言えるテクニックで、彼の天性の器用さと、度重なる修練の賜物だった。

横島はこの糸を、だいぶ前から密かに、そこら中に張り巡らしていたのだ。


「ひ、卑怯な・・・『くんっ』はぐっ!?」

恨み言を言う事すら許されず、小龍姫はもはやただ相手をにらみつけることしかできない。

「どうします?もう反撃できませんか?」

くんっ
「くっ・・・」

「ふふふ・・・いい格好ですね。小龍姫様」

くんっ
「はぅ・・・」

「どうやら、本当に俺の勝ちのようですね・・・」

くんっ・・・ぎりぎりぎり・・・
「あぁっつ・・・!。何を、する、気ですか・・・」

「ん〜。どうしましょうかねぇー」

くんっ!
「ひぁっ!!」

「とりあえずはその邪魔な衣類を「何をしているでござるかぁぁぁぁっ!?!?」「ロケットアーム!」へぶらぁぁぁああっ!?」


順調に小龍姫を新たな世界に堕落させつつあった魔人横島であったが、飛来してきた妖刀がケツに、鋼の拳がドタマに直撃し、どうやら正気に戻ったようだ。

「Oh!頭蓋が!ってゆーかケツに刀がっ!!

無茶すんじゃねーよシロ、マリア!!!」

「センセーが悪い!!!」
「マリア・ミセス・シロに同感です」




「やれやれ、またなんかやらかしてるみたいじゃのう」
マリアと同じく、ピートをニンニク漬けにしてきたカオスも、タマモの元へやってきた。
「あれ、カオス。生きてたの」
「ひどい言われようじゃな。狐のお嬢ちゃん・・・。
しかしどうやら小龍姫様も封じたようだな。これで後は待つだけだ・・・」




噂をすれば影、と言うことか。カオスが言うな否や・・・・



ソレは始まる。





大地が揺れ、空は文字通り裂ける。

大気を振動させながら、巨大な天へのゲートが次々と大空に穴を空けた。

そしてその穴の半分から清浄な空気と共に光を背負って神族達が
もう半分からは禍々しい瘴気と共に闇を纏って魔族達が、それぞれ大空を埋め尽くさんとばかりに溢れ出した。


「神魔混同文珠部隊、前へ!!目標の転移術、隠匿術を妨害しろ!」

彼らは十数人の文珠使いの部隊を展開。強力なジャミングが始まる。
富士の樹海の周りを、巨大な結界が覆った。

「ジャミング、終了しました!いかにヨコシマと言えどもコレだけの結界を破って逃亡する事は不可能と思われます!」

「よし!ではこれより作戦を開始する。
小龍姫及び人間界の協力の足止めで出来たチャンスを逃すなっ!」











「どうやら間に合ったみたいですね・・・本隊の到着が」
『縛』の文珠で無力化され、樹海に放り捨てられる寸前、小龍姫が言った。


「・・・想像していたとはいえ、こうして目の前にするとやっぱすごいな」

「拙者達は・・・・勝てるんで、ござるか?」

「やっばーー・・・腰抜けそう・・・」

「マリア・・・敵の数は?」

「現在7万・まだ増えつづけて・います」





・・・。




空を埋め尽くし、まるで獲物に群がる蟻の大群のように迫ってくる数多の敵に、横島達は流石に言葉も無かった。

前回をはるかに越える数の敵軍。
今までは、こちらには文珠という一つの利点があった。しかしもうそれはこちらの専売特許ではない。

―――無理だ・・・退路も断たれ、勝機も見出せない。

そんな考えが、一瞬彼らの脳裏をよぎった。


だがやるしかない。
未来を勝ち取るには、この逆境は避けては通れないのだ。



例え勝ち目が無くとも。




「・・・ごめんな、皆。こんな事に巻き込んじまって」

最後になる戦いを前にして、横島は少し弱気になった。

「でも俺、頑張るから。ぜってーおめーらの事は何とかするから、

最後まで、付き合ってくれ」

彼の言葉に、一同はこくりと頷いた。


横島の手の平の中で文珠がきらめいた。
込められた文字は・・・『単』『体』『同』『期』。かつて魔人ヨコシマが世界を股に掛けて大暴れしたときに使った大技だった。

「小僧!危険だぞ!!」
「なりふりかまってられるか!!」
それをみたカオスが声を上げるが、横島も怒鳴り返す。

本来強力な味方がいないと使えない『同』『期』。しかし自分の中に複数の霊体組織を持つ彼は単体でソレを行う事が可能だった。

しかし今彼の身体は、複数の霊体組織の絶妙なバランスの上に成り立っている。
そして単体同期はそのバランスを崩してしまう事でもあった。


だが本人の言う通り、なりふりなど構ってはいられない。


敵は強大なのだ。これで最後なのだ。





「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」


爆発するような力が、横島の身体から迸った。

目に見えるほどの濃密な魔力が彼の身体を取り巻き、両腕に展開したハンドオブグローリーがメキメキと音を立て、より巨大で、禍々しい漆黒の腕へと変化する。


・・・・ビキッ!

「っ!?・・・く、おおおおおおおっ!!!」

一瞬、体中が引き裂かれるような痛みが走ったが、それでも気合で身体を制御する。


少しの時間が過ぎ、溢れ出す力が落ち着くと三界最凶と言われた悪魔、魔人ヨコシマが、そこにいた。

まさに魔人というに相応しい絶大な力にあてられた仲間達は、少し硬直していた。


「・・・へへへ、わりぃ。怖かったか?」
一番近くにいて、モロにプレッシャーを受けてしまったであろうシロに対して謝る横島。
しかし彼女は、
「そんな事よりも・・・先生を失うことの方がよっぽど恐ろしいでござるよ」

横島は、「そっか、ありがとうな」と醜く変形した両腕で、彼女を傷つけぬよう慎重に慎重に抱きしめてキスすると(ちょっとマリアは不満そうだった)




「シロ、タマモ、マリア、カオス。


俺の背中から、絶対に離れるんじゃないぞ・・・!


よぉぉぉぉっっし!!!


行くぞぉぉぉぉぉぉ!!!」





横島達は飛び立った。

最後の最後の一瞬まで、足掻きつづける為に。


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