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GS六道親子 天国大作戦!

狼には向かないお仕事!


投稿者名:Tりりぃ
投稿日時:06/ 7/13





人狼村。
それは名の通り人狼族の村であり、その周囲には結界があり他族の侵入が容易ではない村である。
しかし、中に入れば家があり、畑がある普通の村でもある。

ある夜、月の光りが静かに舞い降りている時刻に村の者達が集まり会議を行っていた。
彼らは群れで行動する。故に族長がいるのは当たり前であるが、一族の運営は独裁主義ではなく民主主義を
良しとしていた。なので、この場での長老の役割は議長に近かった。

「外の世は混乱の最中と言っても良い。
神族・魔族の押さえが無くなった今、妖物共は覇権争いに明け暮れておる。それに、何やら不気味な
臭いが世を覆っておる………危険じゃ」

サっちゃんあたりが人狼族がその鼻で『封魂柱』の存在を嗅ぎ取ったと知ったら大層驚くだろう。

うんうんとうなずく一同の中でスクっと立ち上がったものがいる。その尻には威勢良く振られた白い尻尾が
ついている。

「鎖国でござる! 今こそ鎖国の時代でござる! 鎖国は漢の浪漫でござる!!」

おお! と何名かの同意が響き渡る。その中に女性がいなかったのは仕方が無い。

「反対でござる!!」

その声にスク! と立ち上がる反発者がいた。こちらも尻尾をブンブカ振り回している。身なりは男で
あるが顔立ちからして少女だろう。白銀の髪に赤いメッシュが入っているのが印象的だ。

「ナゼ反対でござるか! 世は戦乱、鎖国が定石であろう!」
「鎖国は反対でござる! 何故なら………」 

「何故なら、鎖国したらペティグリーチャー○ーが食べられなくなるでござる!!」

「………そうじゃの、鎖国却下じゃ」
「却下でござるの〜」
「却下ね」

一族総出でダメ出しされてヘこむ人狼が1人。






 GS六道親子 天国大作戦! 11  〜 狼には向かないお仕事! 〜






「それよりも切羽詰った問題が発生しておる」

あっさり鎖国発言が無かったように議題を変える長老に皆が一様にうなずく。

「変な臭いよりも重大な問題じゃ」
「死活問題でござる!」
「どにかしなければならいないですわ」

老若男女、真剣に腕を組んでうなずく。只1人、先ほどのへこむ人狼以外は。

「「「「「もう、ペチグリーチャー○ーがないでござる!(じゃ)(わ)」」」」」

人狼族全員の合唱であった。思う所は只一つ。彼らの後ろには空き缶が山と積み上げられている。
…サっちゃんあたりが封魂柱より缶の中身が大事と聞いたら呆れるかもしれない。

「………ここは一つ」
「ええ、ここは一つ」

老人達と女性達が瞳を光らせて獲物、もとい若い人狼達に向き直る。
ビクリと震えて逃げようとする者、硬直する者をジリジリと壁へと追い詰めていく。

「「貴方(お前ら)の物は…私達(ワシら)の物よね(じゃな)?」」
















「なぜでござる、なぜ侍が交通整備をしなければならないのでござるか?!」
「………あきらめろ、これも運命でござる」

赤いライトを持つ警備員、犬田ゴンが尻尾をブンブン振って夜空に向かって抗議をする。
一方5m先にいる相方、犬井ペンは疲れた表情でゴンをなだめている。

「我らは志高い、至高の侍でござる! なのに車の整理とはあまりと言えばあまり…!」
「あきらめろ、それに車もあまり来ないではないか、我らを恐れて車が来ないというのだから
周りは我らを尊重しているでござる」
「そ、そうでござるか?」

キョロキョロと周りを見るゴンにペンが苦笑いをする。ゴンの方はそれで肯くが

「しかし、納得いかないでござる―――!」

諦めが悪く振り出しに戻るゴンにペンがため息をつく。
彼ら2人の納得の差、これは年齢ではない。実は結婚しているかしていないかの差だけである。
ペンは里から出る際に妻にしっかり釘を刺されていた。人狼一族は、かかあ天下な一族なのかもしれない。

「第一、ペンは志が低すぎるでござる! 車に向けて剣を振るのは武士ではないでござる!」
「剣ではなくて、ライトではないか」
「ああ言えばこういうペンはやはり、ララに骨抜きにされたでござる! 武士の風上にも置けぬでござる!」
「………今おぬし、何と言ったでござる…?」

ララと言われた瞬間に眉を跳ね上がるペンにゴンがライトを突きつけて胸を張る。

「ララに骨抜きにされて骨なし武士になったでござる!」
「我が妻を愚弄し、尚且つ拙者の事もコケにしよるか小童! 成敗してくれよう!!」
「小童とは何事でござる! お前は拙者と同い年でござろう!!」

ジャキンとライトを構えてチャンバラを始めてしまう警備員2人。
打撃の音はライトなだけに「ぼこ」「ぺこ」という情けない音だが高速で繰り出す風鳴りは一流の殺陣である。

しかし、ここは車があまり通らないとはいえ、公道である。
そして、彼らは仕事で来ており、彼ら以外にここに仕事で来ている者達がいた。工事をしている者達である。
腕を組んで見ていた年長の男が長いため息をついてから顔を上げた。

「あ〜、お前らクビね。おう、雄司! お前あいつらの代わりに交通整理しろ!」
「へい!」
「それとお前ら、警察に連絡しておけ! バカな警備員が道路でチャンバラしてるってな!」
「へい!!」

後ろで作業している若い連中に指示をすると男はさっさと仕事へ戻るのだった。



さて、連絡を受けた警察だったがチャンバラをしている警備員の余りの速さとそのお尻あたりにある
尻尾を見て、事態をオカルトGメンに投げたのは賢明であった。


「…尻尾の生えた、男2人が公道を高速でチャンバラしているですって?」

警察から一報を受けた美神美智恵が眉間にシワを寄せる。最近の彼女がよくこの場所にシワを寄せるため
Gメンの間で、いつそこにシワが寄るかと話題の元となっているとは思ってもいないだろう。

ザっと部下を見回すと皆露骨に視線を泳がせる。その部下の姿勢にため息をついた。

まだ発足1年も満たしていないオカルトGメンだったが武装はそんじょそこらの民間GS事務所では
お話にならない位充実している。しかし、それを扱う職員はどうかと言えば、民間GS事務所の方が
ぶっちぎりに優秀だった。
なぜなのか?

はっきり言えば、寄せ集めだからである。

美智恵と西条以外は、警察組織の中で霊力がある者をトップから集めただけにすぎない。
霊力があっても霊能力があるとは限らない。
プロレスで言えば体力(霊力)があっても技(霊能力)がなければ勝てる試合がないのと同じである。

そんなある意味ど素人集団が悪霊に立ち向かうとなれば霊能グッズに頼るしかない。
誰でも扱えるお札や精霊石の弾丸、それらを多量にばら撒き弱った所を退治すればいいのだが、それでも
H(魔族退治は当たり前、これでもか! なやっかいな仕事)・S(魔族退治かも?等の仕事)・A+(上級悪霊複数退治)級の
仕事はお断りしている。B−級(中級悪霊単数と低級悪霊複数退治)も場合によっては危ないのだ。

(注・アシュタロス戦以降、ランクが見直されていると仮定しています)

おいおい、ピートの様な霊力・霊能力が高い者が入ってくるだろうが今は寄せ集めだけだ。

美智恵は今回のターゲットの分析を始める。
尻尾があるが魔族ではないだろう。人間ではなく妖怪その他だろうか
身体能力が優れているから離れた場所から機関銃で精霊弾丸をばら撒きたいが公道ではさすがにまずい。
お札をばら撒くのは有効かもしれないが、相手は素早くその場を逃げる可能性が高い。

2人1組にさせて1人を近接格闘、もう1人は相手がスキを生じさせたらお札か縄で拘束するのがベスト。
1組は自分と西条で大丈夫だろう。後1組は…部下をまた見てため息をつく。

民間GSに助っ人を頼むしかない。
頭を切り替えて時計を見る。夜の10時、さすがに未成年達には連絡が取りずらい。

<令子が日本にいたら迷わず支援を要求…できないか、あの依頼料の高さは………
エミさんの所は遠距離支援型、師匠の所は…鬼道さんだったかしら、彼がいいけど借りは作りたくないし。
神父も向かない型よね…>

悩みに悩んだ結果、鬼道と魔鈴をチョイスして電話をかける美智恵に、どうやら自分達は後方支援だと
安心した職員達だった。













「離すでござる―――! 武士の情けでござる―――!!」
「せめてもう一発…! ララの為に!!」

じたばたもがく尻尾男2人を尻目に鬼道はため息をついた。
公道がめちゃくちゃだったのだ。
ライト一本でどうしたらこうなるのかという裂け目・割れ目にこの2人のすごさはわかる。わかるのだが…

「武士は、武士は…警備員ではないでござる―――!!」
「ララ、ララ、ララ―――!!」

叫ぶ2人を見ていると、脱力をしてしまう。
鬼道の後ろでは西条が転がっていて、魔鈴の手当てを受けていた。
頭と左腕に包帯、そこかしこの軽傷はキズバンドをされている。

「………私は、警備員じゃない警備員と、愛妻家に負けたのか…?」
「先輩…ほら、一番キズは負っていますが軽傷ですよ? 道はこんなになってしまいましたが血税で
直りますから先輩も気にしないで下さい」
「う………」

魔鈴の何気ない最後のトドメに精神的ドロ沼に落ち込んだようだ。
ご愁傷様、と小さく声をかけている鬼道の横では、こちらは傷がない美智恵が携帯電話を切っていた。

「魔鈴さん、ありがとうね、鬼道さんもありがとう。これからお礼をしたいところなんだけど…
また、仕事が入っちゃってね」
「こないな時間に、お仕事ですか」

もう明け方に近い4時である。悪霊はたいがい2時辺りが活発に活動する時間なので、これから仕事という
言葉に首をかしげると美智恵が苦笑する。

「ええ、なんだか24時間ファミリーレストランで尻尾が生えてる男が”御代代わりに切腹を”って
騒いでいるらしいのよ」
「「………」」

思わず転がっている尻尾男2人を見てしまう鬼道と魔鈴。

「っていうわけで、西条クン、行くわよ!」
「私は…私は………」

正常な判断が下せない状態の西条だったが美智恵の「行くわよ」に反応してゾンビの様に後ろをついて行く。
大半のGメン職員も美智恵についていくのを鬼道は見送った。魔鈴はなぜかハンカチで涙をぬぐっている。

「頑張って下さいね、命は1つですから」
「「「縁起でもないこと言わないで下さい!!」」」

魔鈴の応援は余計な一言になっているようだが。












10畳一間の急造の取調室に美智恵はいた。
そこは、取調室らしくグレーの机に豆電球に粗末な椅子、とドラマに出てくるまんまである。
美智恵は静かに罪状を読み上げていく。

「チャンバラと食い逃げと脅しに道路交通法無視と国会議事堂殴りこみ…」

「食い逃げではござらん! 名誉の為に切腹を」
「こら、ご飯粒を飛ばすでない! チョビ」
「あれは武士の決闘でござる! チャンバラではござらん!」

何人かは反論するがあとの大半はもしゃもしゃとどんぶりを平らげているだけだった。

「貴方達、どういうつもり――――――!!」

美智恵の怒声に全員が首をすくめる。やはり、かかあ天下な一族らしい。
総勢20数名、若い尻尾のある男達が皆がみな、尻尾を丸めて股にはさんでいる。
美智恵の鋭い視線にさらされた男がおずおずとしゃべりだした。

「せ、拙者は一族の為を思って」
「一族の為に道路交通法違反してるんじゃない!!」

スパン!! とどこからか持ってきたハリセンを頭に一発決める美智恵。
そのまま、一人一人尋問していくが、まともな返事が返らず、ハリセンで沈めていく美智恵。最後の
1人がハリセンで沈んだ所で西条が進み出ていく。
ちなみに、西条の今の格好はミイラ男よろしく、包帯ぐるぐる巻き状態だった。長髪だけが彼とわかる状態だ。

「た、確か令子ちゃんの所が人狼族の里に行った事があると聞きました。横島君辺りなら場所を知っている
でしょうから、村の長老方にお聞きしたらいかがですか」
「………そうね…長老と話をした方が早いかもね」

ハリセンをさっとどこかに戻した美智恵に、西条がほっとした表情を見せる。
美智恵は西条に向き直った。その痛々しい姿に優しい表情を見せる。

「すごい怪我ね、里には私1人で行ってくるから西条クンは休んでいなさい」
「は、はい」

よく言えばキャリアウーマン、悪く言えば人使いが荒い彼女にしては珍しい労わりの言葉に西条が
ジ〜ンと瞳を潤ませる。

「………だから、調書と報告書の作成、お願いね」
「ハ?!」

さっさと取調室を出て行く美智恵に手を伸ばすが届かず、無情に扉が閉まる。

西条は改めて見渡す。
なんだかわからないことを言う男達20数名の調書と報告書を作るのと人狼の里に行く事。どちらが
より大変だろうか?

「せ、先生〜〜」

がっくりうなだれる西条だった。













「帰ってこぬの〜」
「……帰って来ませんね〜」

一方、人狼の里では帰らぬ出稼ぎ組みに業を煮やし始めていた。

「長老! 拙者を…拙者を外に行かせてくだされ! 必ずやペティグリーチャー○ーを…!」

ガバ! と長老の前で土下座する人狼、犬塚シロに長老がとまどいながらもうなずく。

「では早速!」
「まて! お主は仮にもオナゴじゃ! 何も準備せずにお前を外の世界には放り出せぬ!」

男なら「仕事して来い」と平気で放り投げる事ができるらしい長老の言葉に、シロが瞳を潤ませる。
内容はともかく、自分を気遣う言葉であるからだろう。

「我が家に職業を斡旋して下さる、大層気風の良い者達に来てもらっておる!」
「か、かたじけなく存じる!!」

ガバ! と平伏するシロに長老がうんうん、とうなずき肩を叩く姿は青春ドラマも真っ青な光景だった。









長老に紹介された男達はスーツを着た40歳位の男性2人で、長老とシロが訪れた時にはなにか談笑していた
らしいが、あわてて身づくろいをしている。

「どうじゃ? ちゃんとスーツを着ておるし、年齢は若くもなく、年を取りすぎてもおらず、良い塩梅じゃろ?」
「まったくでござる!!」

シロは力強くうなずくので、もう少し彼らの描写を細かく進めて行きたい。
頭は1人はなぜかパンチパーマ。もう1人はボウズ頭。2人ともサングラスをかけており、パンチパーマは
白のスーツ上下に赤いシャツ、ボウズは紫のスーツ上下に黒のシャツ、そしてどちらも顔にナイフで切られた
様な痕がある男達だった。そう、横島が見たら即、土下座をしそうな客人である。

「じゃぁ、お嬢ちゃんの仕事をかいつまんで説明してやるぞ」
「お嬢ちゃんではござらん! シロという立派な名前があるでござる!!」
「おう、シロちゃんか。こりゃ随分威勢がいいな」

ニヤリと笑うパーマにシロがフン! と胸を張る。ちなみに今のパーマの笑顔を見たのが横島だったら
足をガクガク震わせて虚勢を張るだろう種類のモノだったりする。

「シロちゃんの仕事は、座っている事だ」
「座ることでござるか?」

あまり得意でない分野にシロの顔が不機嫌になる。

「そして、テーブルに出された食事と酒を飲む。勿論これはお前持ちじゃない」
「無料で食事を食べてよいのでござるか?!」
「ああ。無料だ」

無料という言葉に手を合わせて空を見上げるシロ。そんなシロにまだ説明は続く。

「あと、衣服はこちらが用意するからそれを着る。勿論これはコッチで持つ」
「衣服も無料でござるか?!」
「住居は申し訳ないが給料の中からすこ〜しだけ抜かせてもらう。だが、相場よりは断然安い」
「しょ、しょうがないでござる」

住む所が有料らしいが、食費・衣服費が無料ならプラマイ0だろう。シロはそう納得をする。

「時々、お客様を迎えに行ってもらう。なんせ、お客が不案内なのでな」
「体を動かすことは得意中の得意でござる!!」

すっかりやる気のシロに客人2人はほくそ笑んだ。
そう、読者の皆様はわかるだろう。この仕事の内容は”水商売”である。

店で出された食事は客持ちなのでシロが払うものではない。
衣服は店からいなくなった商売女達の置き土産がたくさんあるのでどうってことない。
住居にいたっては店の従業員用の部屋が確保されているのでそこに放り投げるだけである。
そして、同伴と呼ばれる行為はまぁ、お客を案内する事と変わらないだろう。ウソは言っていない。

一方、話を聞いていた長老はちょっと怪訝な顔をしている。
何か不審を感じているようだが、話の展開が速くて考えが追いつかないのだろう。
客人は長老がクチバシを挟む前に決めようとアイコンタクトを交わした。

「どうだ、この仕事」
「やるでござる!!」

即決して宣言するシロにボウズ頭がにやりと笑って紙を突き出した。

「ほら、これがこの仕事の契約書だ。サインしな」
「合点承知でござる!!」

ちょろいもんだと笑う2人の前ですずりを取り出すシロ。
水を入れてしゃこしゃこ墨をすり始めるシロに目が点になる。

「………ナンで墨すり始めるんだ?」
「サインに墨は必要でござる!!」
「今は何時代だ! 江戸時代じゃねえ!!」

思わず叫ぶパーマにシロはきょとんとする。するとボウズがペンを渡した。

「これで書きやがれ!! まったく、今時分の子供は…」

ぶつぶつ言いながらもサインしようとするシロに、ニヤリと心の中で笑う客人2人。
このまま、シロは商売女になってしまうのだろうか? いや、そんな事はない。だってこれはGSの物語
なのだから。



「必殺! 天誅GSキ―――ック!!」

どこからともなく現れた麗しい足とハイヒールが客人2人の頭に叩き込まれた。
唖然とするシロに、突如現れた人物は詰め寄り契約書をひったくって見る事3秒、ビリビリと破き始める。

「そ、それは拙者の」
「何?!」
「な、なんでもござらん!!」

ブンブンと否定に頭を振るシロにフン! と鼻息をかけてから客人2人に向き直った人物、それは
まぎれもなく美神美智恵である。
こんな山奥でも彼女はスーツとハイヒール姿で決めていた。さすがは美神令子の母親である。
ちなみに、ここは和室なので土足は禁止だろうが、誰もそこにはツッコみを入れない。

「こんな山奥まできて、女性を、それもこんな小さな女の子を! 悪の道に引きずり込もうなんて
お天と様が許しても、このオカルトGメン美神美智恵が許しません!」
「いや、オカルトGメンってそんな仕事じゃ」
「天に代わって成敗!!」

思わずツッコむパーマだったが正義の味方が悪者の反論を無視するのは世の常識である。

「GSハリセンチョ―――ップ!!」

またもやどこからか出されたハリセンで2人の頭にチョップをかます…が、チョップと言うには余りに
桁違いの威力を発揮して2人の頭は床を壊して撃沈している。

「あ、ありがとうでござる」
「いえいえ、どういたしまして」

一応、こーいう時にはお礼を言う場面だろうと、律儀にお礼を口にするシロとにこやかにそれに答える
美智恵。これで人狼の里は平和を取り戻すだろうか

「…して、いかな用で、この村においでになったのじゃ?」
「ええ、こちらの若い村人たちが大挙して犯罪行為に走っている原因を知りたくて」

長老に向き直った美智恵の笑顔は冷たい微笑だった。と後にシロは語る。
人狼の里の平和はあと1人、長老が正義の味方のハリセンを受ければ戻るだろう。
















「………というわけで、拙者、美智恵殿にこちらの住まいをご紹介いただいたのでござる!」
「へぇ、大変だったのね〜」

おキヌが胸を張ってこれまでの経緯を語るのに相槌を打った。誰が大変なのかはツッコんではいけない。

おキヌがいるのはいつものバイト先の店「魔法ショップ・りんりん」である。
名前はアレだが、店の中に置かれているのは女子高生達が好きそうなラッキーグッズや可愛いカップで
おキヌはこのバイト先を気に入っていた。
おキヌが着ているのはピンクの着物と紫のハカマで、エプロンもしている。店構えも古い洋館チックなので
足を踏み入れれば大正ロマンが味わえる趣向だ。
お店のオーナー、亀井りんは六道女学院の卒業生であると同時に美智恵の友人でもあった。
友人の頼みにりんはシロの同居を了承したのだった。

一方、シロはTシャツにジーパンをはいているので店を手伝う格好ではない。

「では、おキヌ殿、拙者そろそろ行って来るでござる!」
「え…っとどこに?」
「先生の所でござる!!」

当然! とばかりに尻尾をフリフリ宣言するシロにおキヌは弱いながらも反論をする。

「横島さんは…今日は忙しいんじゃないかな…」
「忙しければ近くで待っているでござる! では!」

気合を込めて扉を開けるシロの後姿に、おキヌは寂しそうに手を振るしかなかった。














美神美智恵は、仕事もひと段落終りコーヒーを口にしていた。
窓の外にある空は赤く染まり始めている。
美智恵のデスクに並べられたのは今回の騒動の書類だ。空を見ながら友人・りんの所に居候しているシロを
思い浮かべて苦笑する。

<きっと、あの娘は今頃、横島クンの所へ急襲しているわね>

里から出る時に、あれ程横島のことを口にしていたシロだから、六道女学院にいようがその鼻で所在を
突き止めてしまうだろう。まったく面白い。

<おキヌちゃんも、シロを見習ってもう少し冥子ちゃんと張り合わなきゃ>

漁夫の利を収める令子像を描いている美智恵としては、今のおキヌはいただけない。
なので、カツを入れる為に無理を言ってりんの所に居候させてもらっているのだ。
シロの態度におキヌも少しは引きずられるといいのだが…

<ふう、やっぱり令子に早くコッチに来てもらわないと………>

ため息をついてから携帯電話を取り出して令子の番号をプッシュする。呼び出し音が続く間、
見るとはなしに前方の机に倒れこんでいる西条を見つめる。
美智恵が見ている書類を揃えたのは彼である。あの、意味不明な事をしゃべりまくる人狼20数名を
相手に、辛抱強く色々と聞き出し書類を整えたわけだが、その代償に払われた体力他諸々で今の西条は
ミイラそのものである。心なしか髪の毛も薄くなっている気がする。

一応、メールで前もって電話する旨は伝えてあったのでコール数回で令子が出た。

『ママ? どう、そっちは』
「相変わらず仕事は大変。それ以外も大変だけどソッチはどう?」
『仕事は順調よ。アメリカって言っても仕事の内容は日本と変わりないし』

令子の声に重なる紙をめくる音。令子はなにか見ながら話しをしている様だ。

「一段落したら早く日本に来た方がいいわね。特に横島クン関係」
『あんにゃろ、冥子に教えを乞うているんですって? いい度胸だわ』
「正確には鬼道さんだけど」
『ま、ソッチはいいけど、ママの用件って?』

メールで聞きたいことがあるとあったので令子はそちらに話題を移す。美智恵はそれまでの微笑を引っ込め
仕事用の顔へと変えていく。

「貴方が人狼達にペティグリーチャー○ーで餌付けしたって、本当?」
『ひ、人聞きの悪い! お礼にあげただけで餌付けなんてしてないわよ!!』
「あげたのね?」
『う………』

言葉に詰まっている令子に美智恵がため息をつく。

「人狼族はアレにはまってしまったのよ? まったく、野生の動物に勝手に食べ物を与えちゃだめって
いうのは常識でしょ? 彼らの生活を壊す様な物をあげるなんて」
『わ、わるかったわよ、つ、つい、その、アレをあげると人狼族って融通効かせてくれるから』
「令子!!」
『あ、う、あ! し、仕事が入っちゃったみたいだから、またね!』

切られた電話を数秒見つめて美智恵はふと、西条を見た。
書類を整えるのに、ペティグリーチャー○ーを与えながら聞けば、あんなに苦労せずに済んだのでは
ないだろうか…?

美智恵は苦笑して携帯をバッグに仕舞った。
この疑問は哀れな西条にだけは言わないでおこう。と思いながら。


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