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GS横島 剣客浪漫譚

ドラゴンへの道!!(2)


投稿者名:いぷしろん
投稿日時:06/ 7/ 2


 さて、ここで一つ説明がある。
 “前回”の修業ですっかりおなじみ――ってほどじゃないが、一応は覚えているアレ。影法師(シャドウ)とかいう不思議物体は、対象者の霊能力を始めとする様々な要素を取り出し具現化させたものである、らしい。
 ここ妙神山修業場では、特殊な法円――魔方陣みたいな奴ね――を用いる事によってこの影法師を直接鍛える事により、人界では不可能な、精神や霊力を肉体を介さず直接鍛えるという行為を可能にする。つまり、地道にレベルアップしなきゃ増えないMPを無理矢理そこだけ鍛え上げられるって訳だ。
 ……一歩間違えば、メラしか唱えられない最大MP300オーバーのアホ魔法使いとか出来そうだけど、そこはそれ。美神さんにとっての唐巣神父のような『チミにはまだ早いよ』というお師匠様他を始めとする各種人脈から得た推薦状が無ければ修業云々以前な問題な訳で、そういった問題は今んトコ起きてないっぽい。
 でまぁ、そんな便利フルな修業が安全便利で使い易い、てな事があるはずもなく。修業の際のダメージで魂的な部分が「うわらばっ」てな事になって「ひでぶっ」てな事になる事もあるからそこら辺コミでよろしくね、ときたもんだ。要するに、死んでも責任は取らんぞ、と。
 “前回”と同じようにほとんどなし崩しに着替えだの修業コースの選択だのを済ませた俺は、そんな風な小竜姫様の説明を半分上の空で聞き流しながら、さくさくっと円形の広場の端に据えられた法円を何の躊躇も無く踏みしめた。
 その瞬間、自分の中身が吸い出されるような幻覚を感じ――
「……何じゃこりゃ?!」
 若干の問題を抱えつつ、ごく自然に、なし崩し的に修業を開始する事となった訳である。





 GS横島 剣客浪漫譚(6) 〜ドラゴンへの道!!(2)〜





「……何じゃこりゃ?!」
「それが、あなたの『影法師』です。さっきご説明したとおり、彼はあなたの分身そのものといっていいでしょう。その彼が強くなる事が、すなわちあなたのパワーアップとなります」
「それは分かったけど……、何というか、変な格好をしてるわね」
「ほっといてください」
 そんなん言われなくても見りゃわかりますってば。そこっ、おキヌちゃんも小竜姫様もその通りですねぇなんて納得しないっ!
 ……つっても、そりゃあ俺だってコレ見たら変なかっこしてるなぁとは思うけどさ。
 基本的な格好は和装の青年って感じだ。前にモンタージュをぶちのめしに映画の中に入った時にいた新撰組のおっさん――土方歳三だったっけ? あんな感じな。
 ……ただし、ごく普通の色合いの服装と容姿が実にミスマッチなんだよなぁ。
 それに加えて、元の地肌の色を塗り潰すように塗られた白粉に、右目の部分に星型の、左目の下に涙滴型の模様を模っているその容貌は、一言で言うなればピエロそのものだった。だというのに、道化服がお似合いのはずの衣装が土色の単衣と白の袴に一振りの刀である。似合うはずが無い。
 そしてさらに、その額にはバイザーとも額金とも見える金属製の“何か”を装着していて、それがまた服装にも容貌にも合っていない。
 ……分かっちゃいるんだけどな。あのバイザーもどきが、俺の中に残されたアイツの名残だって事は、さ。にしたって似合ってない事この上ないしなぁ……。
 まぁアレだ。やたらけったいな格好をしてるけど、前回のアレが出てくるよりはマシか。なんせ、アレじゃ戦う戦わない以前の問題だし。
 ……問題無い、シナリオ通りだ。とか呟いて現実逃避してもいいですか?
「これから、あなたには三つの敵と戦ってもらいます。一つ勝つごとにパワーを差し上げます。つまり、全部勝てば三つのパワーが手に入る事になりますが――」
「が?」
「一つでも負ければ命は無いものと考えて下さい」
「あ〜、やっぱしっすか……」
「つまり、真剣勝負って事ね」
「よ、横島さんでも大丈夫なんでしょーか?!」
「俺でも何とかなるクラスの敵ですよね?」
 何とかなるとは思っているけど、やっぱり怖いもんは怖いんだよなぁ。
「鬼門との試しを見ていた感じでは、大丈夫でしょう。――剛練武!」
 小竜姫様の声と共に、円形の格闘場の中央から見た目硬そうな岩石で出来た人型のモンスターが出てくる。
 以前見た時と全く同じその剛練武の姿に苦笑しつつ、俺は影法師に刀を抜かせて上段に構えさせた。
 おぉ、思ってたよりシンクロ率高いぞ。意識を集中すれば視界の接続までやってくれるとは。ほとんど某所の3分しか動けない決戦兵器もどきだな、こりゃ。
 ま、これなら多分、思ってる以上に全盛期に近い体の動きを再現できそうだから、その点は大歓迎か。……ついでに、痛み他諸々のフィードバックもキツそうで嫌だけどな。とは言え、嫌だ嫌だといっても苦も無く一発で倒しちまうのは、やっぱ拙いよな色々と。
 あの目玉に突きをぶちかませば一発で倒せるのは分かってるけど……。とりあえず、どこまでやれるもんかくらいは試してみてからか。
 構えは必殺、右上段。俺が出来る数少ない“武術”の動きをとるための構えだ。自慢するわけじゃないが、俺の必殺を受けてマトモですむ奴なんてそーはいない。生身の身体ではまだちょいと無理だが、影法師でなら……!
「では……、始め!」
 小竜姫様の掛け声に応え、雄叫びを上げて俺に突進してくる剛練武。構えも何もあったものではないが、そのパワーは折紙付きだ。マトモに食らえば、耐久力の無いやつだったら一撃で勝負が決まる。俺だって、二三発食らえばヤバいだろうなぁ。
 つっても、それは食らえばの話だ。あんましスピードもないしテクニックがあるわけでもない、ただ腕をぶん回すだけの攻撃になんぞ当たってたまるか!
 剛練武の肩がピクリと動いたのを見逃さずに、タイミングを計って摺足で素早く一歩を踏み込む。その一瞬でお互いの相対速度が一気に加速、剛練武はその岩の拳を叩きつけるタイミングを外される。
 そこが俺のつけ入る隙、一度目の勝機だ。自分でも会心の出来のカウンターだからな、悪いがこの勝負貰ったっ!
 心の中でガッツポーズを決める中、俺の影法師は身体に染み込ませるように習い覚えた動きをトレースする。
 右足を踏み込むと同時に腰を極端に落とす事で重心を沈下。鬼のような修練の結果習得した体重移動による踏み込みは、瞬間的に自重の十数倍に匹敵する力を生み出す。
 それとほとんど同時、間髪入れずに振りかぶった刀を振るう。耳にタコが出来るかと思うほど言われ続けた要点――踏み込みで得た力を逃がす事無く刀身へと乗せるその動きは完璧の一言。
 剣といわず拳といわず、同じ事を何万回も繰り返した(というかさせられた)だけに、一分の狂いも無い正確な動作だ。
 そして、今まで乗算するように積み上げてきた力を目の前の敵に叩きつけるために、全身全ての力を使って刀身を加速する。
 迷いは無し、躊躇いも無し。そもそも自分の意思さえ曖昧。ただ、「斬る」という動作だけに全ての意識肉体を集中する瞬間が、必殺の斬撃を生み出す――!
「おりゃあぁぁぁぁっ!!」
 低く重心を落とした体勢からさらに上体を前のめりに落とすようにして斬り下ろされる渾身の一撃は、完全に虚を突く形で剛練武の首筋――というより、頭部と肩部の境目にあたる部分に突き刺さった。
 基本にして極技、剣技『一の太刀』。ま、半年みっちり鍛えさせられたのも無駄じゃ無かったって事だな。
 人狼の身体能力を活かし、『八房』の域に至る事をもってして必殺を具現したあの頃のシロとはまた違う道程・概念で至った必殺の域だ。俺の半年分の血と汗と涙もオマケに付けてやるから、ありがたく食らって極楽に行きやがれっ!
「ゴアァァッ!?」
 ちっ!?
 思ったより手応えが浅いか。さすがに、装甲だけは一級品なだけはある……!
 ガギンッ! と甲高い音を立てながら刃を振り切った影法師の前で、剛練武が苦悶の声を上げる。見れば、両断こそされていないものの剛練武の左肩に大きな亀裂が入っている。
 ……が、それだけだ。人間だったら頚動脈の一本や二本は確実にぶった斬られて即死してるだろーが、あいつにゃそんなもん無いしな。
「あの剛練武の甲羅をたった一撃で……。へぇ……、思っていたよりもやりますね」
「あれだけ気勢の乗った攻撃を受けて、あのダメージ? なんつー硬い装甲持ってんのよ……」
「横島さんっ! まだ……!」
 言われなくても分かってる。
 反撃なんかさせるヒマすら与えてやらない。どっかの格闘バカと違って複雑な動きは苦手だが、こと単純な“疾さ”だけならちょっとしたもんなんだよっ!
「もらったぁっ!」
 振り下ろした刀を跳ね上げ突き出す。最速の軌道を描く切っ先の目指す先は、アイツの最大の弱点である巨大な目だ。
 そうはさせじと剛練武も両腕を迎撃に動かすのがちらっと見えたが、その速度は哀れなほど遅い。結果など、この先は見なくても分かりきっている……!
「……ほとんど秒殺だったわね」
「やった……!」
「たぶん、美神さんがやっても似たよーなもんですよ」
「まぁ確かに、対策は立てやすい相手だったわね」
 何しろ、持ち味も弱点も見たまんまなのだから、倒し方は分かりやすい。特に、影法師が何か武器を持っているタイプなら尚更だ。
 そんな事を俺達三人が話しているうちに、剛練武の体の構成が解けて影法師へと吸収されていく。それは、主に影法師が纏う和装の下側で形として具現しているらしい。その事に気付いたおキヌちゃんが、ふよふよと影法師へと近付いてそれを観察しだした。
「これって、鎖帷子ですよね? ほら、胸元のあれ……」
 おー、確かにそうっぽいな。心なしか額のバイザーも頑丈になったっぽいし。
「布の服が鎖帷子にバージョンアップかぁ。防御力は倍どころじゃないな」
「そうですね、霊の攻撃に対してあなたは今までとは比較にならないくらいの耐久力を手に入れた事になります」
 あー、小竜姫様。俺が言いたかったのはそういう事じゃないんっすけど……。
 ……ま、いっか。
「それでは次の試合を始めますけど、いいですか?」
「あ、オッケーっすよ」
 小竜姫様に言われ、再び構えをとる。
「禍刀羅守、出ませい!」
 小竜姫様の合図と共に出てきた禍刀羅守は、やっぱり俺の知るとおりの悪趣味かつ痛いデザインのモンスターだった。
「悪趣味ねぇ……」
「グケケケーッ」
 何ともいえない表情で眺める俺達をよそに、呼び出された途端に自らの近くにあった石柱を斬り飛ばして自分の力を誇示してみせる禍刀羅守。
 もっとも、その程度で怯むようなヤワな神経の持ち主などこの場にはいない。……というより、そんな程度の神経の持ち主では美神除霊事務所と関わり続ける事すら不可能だな。ずっと関わってきた俺が言うんだから間違いない。
 まぁそれはともかく、禍刀羅守の行動は俺や美神さんの失笑を買うだけであった。
「始めていいっすか?」
「そうですね。それでは――始め!」
 さっきの剛練武と同じく、小竜姫様の声と共に機先を制しようと動き始める禍刀羅守。だが、今回に関して言えば、それは少しばかり遅かった。
 既にこれで三度目の相対となるから、禍刀羅守の事など良く知っている。故に、禍刀羅守がこちらを侮っているであろう事くらいならお見通しという訳である。
 ……若干反則気味な気もするが、まぁ、反則なんてものはバレなければいいんだしな。第一、実戦ならば反則だの何だのという事なんて言ってられないのだから。こいつだって前は反則やらかしたんだし、目には目をって事で。
 “今回”は反則してないとかいうツッコミは無しな。
「グケ――ケケッ?!」
 既に開始の合図の前から重心を前傾気味に移していた俺の影法師は、禍刀羅守が反応したその時には既にトップスピードに乗って小走りに殺到している。
 距離は至近。その比較的幅広な身体も相まって、禍刀羅守は既に逃れられない必殺圏内に取り込まれていた。
 ふん。相手をなめきってるお前なんて、俺にとっちゃタダのデカイ標的とあんまりかわんねーんだよっ!
「おーじょーせぇやあぁぁぁぁぁっ!!」
 禍刀羅守の持ち味は、その外見に似合わぬ高機動性とその外見通りの高い攻撃力だ。
 だが、機先を制されて攻撃されてしまうと、その持ち味の双方が消えてしまう事になる。後に残るのは、防御力の低さと攻撃を避けようも無い大きな身体だけだ。なお悪い事に、身体の構造上バランスが悪いため、ひっくり返ると起き上がれないなんていう致命的な弱点まである。言っちまえば亀と同じだな。
 まぁ、今この時に関して言えばその弱点は大した事ではないか。


                                ――斬!


 『一の太刀』の極意は、初太刀にて敵を確実に斬り伏せる、という事だ。だからこそ防御や回避といった概念を切り捨てて攻撃に集中するんだし、だからこそその初太刀を外された場合はそれなりにヤバい訳だ。
 とはいえ、それは初太刀を躱せるか防御しきれるかのどちらかの手段を持つヤツに限定される。攻撃がまともに効く相手ならば、その斬撃を受けて無事で済むはずも無い。
「ゲ……、グゲゲッ……」
 禍刀羅守がそのどちらも持ち合わせてない以上、こうして胴を両断されて果てるのはある意味当然の事だな。
 うーん、俺ってば少しカッコイイ?
「一撃……か」
「禍刀羅守は横島さんとの相性が相当悪かったようですね……」
「横島さんって、実はすごかったんですねぇ」
「そりゃあ俺だってやるときゃーやるんですよ」
 今回の影法師のパワーアップは、すぐに形となって現れた。
 まず、今まで持っていた刀が野太刀とも言うべき大型の太刀に変形する。そしてさらに、その太刀とは別の小太刀程度の大きさの刀が大小二本差しのようにして腰の部分に出現した。
 つっても、二刀流なんて使えるほど俺は器用じゃねーんだけどなぁ……。もう一本つけてもらっても意味ねーぞ?
『ふむ、どうやら主殿の霊力の増強の余波で拙者も力が上がったらしい』
「おわっ?! ……って、そーいや俺ってお前を持ったまま法円踏んでたっけ」
『声を掛けたくらいで驚くでないわ。……まぁ、喋る事も無い故にずっと黙っておったからな。忘れられていても無理はないか』
「すまんなー」
『もうよい。……それより、今までの話の流れからすると次の相手が最後ではないのか?』
「その通りですよ。最後の相手は、私がします」
「……はいぃっ!?」
 やる気満々で言い切る小竜姫様に、俺はアゴが外れるかと思うほどの絶叫を上げた。
 なまじ小竜姫様の腕を知っているだけになぁ……。絶対に勝てっこないだろ、それ。第一、超加速なんて使われたら打つ手無しだし。
 でも、なんか小竜姫様の様子見てたら逃げようが無いしなー……。覚悟決めるしかないか?
「あのー、小竜姫様……? さすがにそれはコイツじゃ勝てないと思うんですけど」
「大丈夫ですよ。私もそれ相応に手加減くらいしますので」
「いや、手加減するも何も……。俺って、初太刀を躱されたら何も出来ないも同然なんすよ?」
「あなたの実力の程が分かればそれでいいんです。……準備はいいですか?」
 有無を言わせない小竜姫様の言葉に、渋々といった感じで俺は太刀を構えた。それを見て、小竜姫様もその身に影法師を纏う。
「あなたの剣がいかほどのものなのか、見せてもらいますよ……。では、行きます!」
 げ。そういう事っすか? あれっすよね、それはつまり武神として血がたぎる相手とは一度手合わせしてみたいとか何とか、そういうノリっすよね?
 そんなノリは雪之丞相手だけでじゅーぶん……!?
「でぇぇええええ!?」
 今、ぶわっ、っていうかドシュッ、っていうか、ヤバ気な音を立てて至近距離を神剣が通過していきましたぜ、旦那。
 こりゃーちょっとマジで洒落になってない……っ!
「んがぁっ!」
 ガギン、と音を立てて小竜姫様の打ち込みを鎬で受ける。もちろんこのまま鎬を削りあうなんて展開じゃ勝てっこないわけで――
「こなくそーっ!」
 全力で太刀を押し込む。それに対して小竜姫様は当然身を引いてこっちのバランスを崩しに来るから……、その隙に全力で跳び退く!
 よし、何とか上手くいった……。
「ぜはーっ、ぜはーっ……。し、死ぬかと思った……」
 頬に感じる濡れた感触は、やっぱり薄皮一枚斬られたんだろーな、最初の時に。
 こりゃー、こっちも相打ち覚悟で打ち込むしかないか?
「……どうやら覚悟を決めたようですね」
「そりゃー、こっちにはバカの一つ覚えでも何でもコレしかないんで」
 右肘を引いて、とんぼの構えをとる。本来なら先の先を取る戦法なんだが、こっちから仕掛ければまず間違いなくカウンターを食らうはず。これは俺の推測でしかないけど、小竜姫様は俺の太刀筋を既に見切っているはずだ。
 ま、さっきから俺の太刀筋は何度も見せているからな。小竜姫様ほどの武神なら、その程度の芸当は見せても不思議じゃない。
 なら、どうするか?
 今んトコ、俺に取れる手段はそう多くは無い。一つは、今こうして対峙しあっているようにこちらもカウンター狙いで後の先を取る事。
 そしてもう一つは、太刀にこだわらずに戦う事だ。
 ……ただ、剣道三倍段の例えを持ち出すでもなく、小竜姫様相手に素手でどうにかできるなんて思えないしな。そりゃあ、生身の時のようにサイキックソーサーや栄光の手を展開できるなら話は別だけど。
 まぁ、影法師にそこまでの高性能を期待するのもアレだしな。
「打ってこないのですか?」
「どーせ、俺の太刀筋なんて見切ってるんでしょう? そんな相手にカウンター入れる絶好の機会を提供するほどバカじゃないんで」
「なるほど。ですが、私にはこういう技もありますよ……!」
 げ、超加速が来る!?
 それは反則ですよ小竜姫さ――アデデデデデ……!!
「ちょ、そんなん無理やぞーっ!」
「もう一回……!」
 も、もう一回って……。こっちは片膝突いて構えも何もない状態やっていうのにどないせーと?!
「こんぢくしょーっ!」
 とにかくぶん回せ! 当たればめっけもん程度やけど、なんもせんよりはマシ――
 て、何か手応えあり?! 嘘? 当たった!?
「に、二刀流ですか……?!」
 小竜姫様の声に左手を見てみると、いつのまにやら抜いていたらしい小太刀の姿が。
 ……あー、無意識のうちにもう一本も抜いてたのね。
 いやいや、そんなこたーどうでもいい。今この時を逃したらもうチャンスは無い。
 未だに少し呆然としている小竜姫様を見据え、左手の小太刀を床に突きたてて太刀を両手で握りなおす。そこから右上段への構えは瞬時の動きだ。
 この構えだけは、何があっても忘れはしない。地獄の猛特訓で、魂に刻み込むレベルで覚えたからなっ!
「……っ!?」
「チェストーっ!!」
 小竜姫様の隙を突いたこの一本、届かなければもう俺に打つ手は――
 って、それを超加速で避けますかーっ!?
 あ、ヤベ。それってつまり今俺は誰もいない空間に向かってこの太刀を振り下ろしている訳で。しかも、本気と書いてマジと読む勢いで振り下ろしちゃってるこの刃、俺自身でももーどーにもならんくらい止めらんない訳で。
 じゃあ、超加速で後ろに回りこんでいるであろう小竜姫様の事はどーすれば?
「……っ!」
 諦めるな俺っ! 振り下ろしてるこの動きが止められないなら、“そのまま振り切って”しまえばいい!
 右肩が外れるかと思うほどの勢いをつけて加速した刃を、真っ直ぐではなく斜め横に振るようにして思いっきり振り抜く。
 ヂッ、と音を立てて床を掠めた刃先が、さらに影法師の左側を弧を描いて後ろ側へと加速。
 腰から上の半身を捻じ切れるかと思うほど捻り、さらにもはや役に立たない右腕を柄から離して左手一本で太刀を振る。
 ……全身を一振りの刀と同じと思え、ね。あのゲーム猿も中々役に立つ事言うじゃねぇかっ!
「づぁぁぁぁぁああああぁぁぁーっ!」
 ドッ、という鈍い音と共に、左腕に手応えが伝わってくる。影法師との共感現象でもー全身いろんなトコがガタガタだけど、とにもかくにも一本はとったらしい。
 って、小竜姫様? あのー、そのヤバ気に残像ちらつかせながら迫り来る神剣は何すかもうこれで試合は終わりでしょ――
「お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛……!?」
 あ、コレはヤバい。意識が……




〜続く〜


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