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GS六道親子 天国大作戦!

恋せよオノコ!


投稿者名:Tりりぃ
投稿日時:06/ 6/27





この物語は天界から話が始まる。

韋駄天・八兵衛は浮かれていた。
ちょっと前に韋駄天のお仕事をしているときに見かけた武神の娘に恋をしてしまったからだ。勿論初恋である。

初恋であるがために、この想いをどうしていいのかわからずにいた八兵衛は姉の八重がため息まじりに
教えてくれた方法を実行していた。

想いのままを手紙につづり、相手に届ければよい。ぶっちゃけラブレターを書いたのだ。

かなり長くなったラブレターの巻物を懐に入れて勇んで外に出た八兵衛の足元に、必然としてバナナの
皮が落ちていたのはこの物語がGSだからである(?)。

「ああ?!」

当然ながら踏んでこける八兵衛。その懐から巻物が転がり出る。

コロコロコロ…ズボ!!

ついでにアシュタロスのお導きもあり、見事に巻物は下へ、人間界へと落ちていく。

「あああ〜?!」








GS六道親子 天国大作戦! 10 〜 恋せよオノコ! 〜






「と、言うわけです。天界への窓口はあと10日後には閉じてしまうので各GSはなるべく早くこの恋文を
発見するのにご協力ください」

電気がつけられ、マイクを手にした美神美智恵が真面目な顔で締めくくると、三々五々、立ち上がるGS達。
ある者は興味なさ気に、ある者は勢いこんで扉へと向かっている。

「いまいちわからん…あ、カオスのじいさんはどうする気だ?」

半眼になってしまった横島が声をかけると自信満々で振り返るカオス。

「勿論、探すに決まっておるではないか! 我が錬金術の極意、”ドラゴン・ボール・レーダー”を改修し
”韋駄天・レーダー”を開発すれば報酬は思いのままジャーー! これで今月の家賃が払える!!」
「っつうか、じいさんGSじゃないだろ?」

横島が真顔でツッコムが逝っているカオスには届いていない模様だ。勿論カオスに届いていなければその
助手にも届いていない。後ろからマリアががっちりカオスの肩を掴んで押している。

「イエス・ドクター・カオス・急ぎませんと」
「ではさらばじゃ! ハハハハハハ!!」

マントを振って大見得を切って消えるカオスに隣に座っていた冥子が拍手を贈る。

「すごいわ〜〜 でも〜 ドラゴン・ボール・レーダーって〜 何かしら〜〜?」
「…き、気にしないほうがいいっスよ?」

冷や汗をたらす横島にいつの間にか美智恵が近づいてきていた。

「横島君が協力してくれるなんて百人力ね、成功報酬で私個人からの贈り物もつけようかしら?」
「い? そ、そこまで期待されても?!」

妖艶な笑みを浮かべる美智恵に青ざめて首を横に振り続けるが、美智恵は止まらない。

「そうね、アメリカ行きの飛行機のチケットなんていかが? 令子が貴方に会えなくてさびしがっている
みたいだし」
「また、冗談を〜〜! あの美神さんですよ? 今頃肩で風切ってますよ〜〜!」

美智恵の悪い冗談(横島観点)に冷や汗をかいていると冥子のとなりから助けの手が入った。

「………おばさん、エコヒイキはいけないわ」
「お・ば・さ・ん?」

横島は感じた。今ここは氷点下の冬の北極に移動したのだと。
美智恵の背後からブリザードが吹きつける中、堂々と足を組んでいる女性が片眉を上げる。

ナインテールとしか呼べない髪の形、冥子のお古のワンピースを着ているタマモだ。
冥子が着るとお嬢様な格好だが、タマモが着るとお水風になってしまうのはどうしてだろうか?

「そう、お・ば・さ・ん。私もそれ相応の報酬を期待してもいいのよね?」
「………貴方はたしか、冥子ちゃんのところのタマモちゃんだったわね? ええ、貴方だったら赤坂
プリンスホテルの高級日本料亭のきつねうどんとおいなりさんのセットご招待券なんていかが?」
「いいわね。それでいいわ、美神お姉さま」
「そう?」

コロリとブリザードをなくして微笑む美智恵に横島は女性の心をすこ〜〜しだけ垣間見た気がするのだった。





「とは言ったものの…どうやって神様のラブレターなんて探せばいいんじゃ…」

見鬼君片手にとりあえず駅に来てみたが、やはり見鬼君が発見するのは幽霊であった。
ピコピコ動く見鬼君を見ながら途方にくれるしかない。

「そうね〜〜 八兵衛さんの持ち物とか〜 あったら〜 探しやすいわね〜〜」

こちらも頭にクビラを乗せた冥子も困ったように同意する。タマモにいたっては探す気も失せてベンチに座っている。

「待てよ…かなり前だけど八兵衛の持ち物はあるんだったっけ」
「ええ〜〜? 本当〜〜!」

ビックリして振り返る冥子に、「まぁごにょごにょ」と言いながら尻すぼみになる横島。
相当飽きてたのか、タマモさえも横島ににじり寄る始末だ。

「ダメでもともと、その線で行くわよ!」
「いや、アレから俺が使っていて…」
「ここで〜 探しているより〜 よっぽどいいわ〜〜」

冥子の後押しもあって、横島一行は横島の家に向かうのだった。







「あ〜 これこれ、このTシャツだな」

ちょっとヨレヨレのTシャツを灯りにかざす。微妙に穴あきがある思い出のTシャツだった。

分もたたずに前の客間にTシャツを持って現れる横島。冥子は早速クビラをTシャツの上に置いた。

「どうです? 冥子ちゃん」
「大丈夫よ〜〜 これなら〜 痕跡が残っているわ〜〜」

にっこり笑う冥子に安心した表情を見せる横島、ふと横を見るといぶかし気な顔をしているタマモがいる。

「あ、お前は鼻で探すからさすがに無理か」
「無理じゃないわよ!! 余裕しゃくしゃくってもんよ!」

無意味に胸を張るタマモだがその目は窓の外に向いていた。
そこには電柱に隠れている髪の長い女性がいる。
なんだか寂しそうな表情を見せているが別に悪霊というわけでもない。ただの人間だ。それにここは横島の
家でその女性も横島を見ている様なのでタマモは視線を外す。

「ん? なんだ? その同情するような顔は?」
「はぁ… あんたに同情するべきなのか、あっちに同情するべきなのか、悩む所ね〜」




が、しかし依然として横島達は恋文を見つけられなかった。
後残す所3日という所で冥子は相変わらずのほほんとしているがタマモは鼻の頭に冷えピタを貼り、横島も
グロッキー状態で机にのびている。

「………もう他のGSに見つけられちゃったんじゃないっスか〜?」
「そんな事ないわよ〜〜 厄珍さんと〜 カオスさんが〜 見つけたらしいわ〜 一部だけらしいけど〜」
「! どーしてそういう重要な話をにぎったままなの!!」
「じゃぁもう仕事終了?!」

いきなりの冥子の話にタマモも横島も驚き、にじりよる。さすがに危機を感じたらしい冥子はちょっと
おどおどしながら横島の質問に答える。

「まだ〜 全部見つかってないのよ〜 だから〜」
「カオスは今どこにいるんスか?! アイツラに聞いた方が早いっスよ!」
「お仕事は〜 まだ〜〜」
「厄珍は厄珍堂の厄珍でしょ? 昨日アイツの店に張り紙してあったわよ。西白井病院にいますって」

昨日たまたまお札を買いに行った冥子について行った厄珍の店、そこに張ってあった張り紙を回想しながらタマモが
病院名を口にすると横島は手を叩く。

「よっしゃ行くぞ!」
「行くわよ、冥子!」

「終っていないのよ〜 …って待って〜 2人とも〜〜」

説明している間に扉の外に出る2人に慌てて冥子も早足で追いかけるのだった。











いつもの様に看護師(女性)を見かけると瞬間移動の様に動き手を握る横島を冥子の式神サンダラが
制する作業を3回ほど続けた後、3人は訪問先にたどり着いた。
「Dr.カオス」「厄珍」とネームプレートが掲げられているが、どちらも愛称の様な気がする横島を尻目に
冥子は持ってきたりんごを2人に渡した。

「おお〜! お嬢ちゃんはわかっているようじゃな! お見舞いというものを!!」
「………じいさん、実は見舞いは冥子ちゃんからだけしかもらってないだろう?」
「そんな事ありゃせん! ワシはなんといってもヨーロッパの魔王じゃ!」
「イエス・ヨコシマさん・マリア・カンゲキ」
「マリアーーー!!」

素直なマリアの暴露にカオスが爆発しているが、なんというか、元気な患者である。
厄珍はもらったりんごに早速かぶりついていた。冥子にりんごの皮をむいてもらおうとは思っていないらしい。

「ボウヤ達がわざわざ来るのは何アルか? 生憎商品は手元にないアルね」

あくまで商人の姿勢を崩さない厄珍に横島は苦笑して用件を切り出した。
野郎の病室にいても楽しくなと顔にはっきり浮かんでいる。

「いや〜、お前らが例の「ラブレター」を探し当てたって聞いてさ、その話を聞きに来たんだが」
「情報料っていうモノ知らないアルか?」
「りんご持ってきたヤローー!!」

極悪商人の雰囲気を醸し出す厄珍にりんごを指し示す横島の横でごにょごにょと耳打ちされていた冥子が
影からアンチラを出してシャシャっとシャドーボクシング(らしきもの)を始める。その有様にあっさり
厄珍は主旨変えをした模様だ。

「小さいB5位の紙だったアル。お札みたいに霊力が込められていたアルね。後はわからないアル」

霊能者ではない厄珍に話せる限りの情報だろうと見切りをつけた横島は横にいるカオスに視線を移す。

「あ〜、お〜、ウォッホン………忘れたのぉ〜」

無意味に胸を張るカオスに横島とタマモの顔に青筋が浮かぶ。

「マリア、記憶反転一号よろしく」
「ハイ・ヨコシマさん」

無表情なわりにはどこか楽しそうな感じでマリアがその怪力で丸い物体を左右に振った。
ぶっちゃけ「シェイク」と呼ばれる動作である。そのシェイクされた物体に横島とタマモが笑顔を向ける。

「ノォォォ〜〜?! マ・リ・ア〜?!」

勿論シェイクされている物体はDr.カオスの頭部という名前があるのは言うまでもない。





「っチ、じいさん案外使えないな…レーダー作った根性は認めるけどさ」

シェイクされながらもなんとかラブレターを探した経緯を語り終えたカオスはベッドに撃沈している。
その耳からは煙が上がって見えるのはこの物語がGSだからだろう。
病院に来るまでに件のレーダーは壊れてしまったとマリアに言われたタマモはぐったり椅子に座っている。

肝心のラブレターだが、偶然カオスの背中にくっついた為にカオス自身は覚えていなかった。

「イエス・紙がくっついていたので・マリア・はたきました」

その結果は横島には容易に想像できる。
ロケットアームか何かで背骨を強打したカオスが倒れ、介抱しているマリアのスキに風に吹かれてどこかに
消えたのだろう。もう目の前で絵柄も想像できる。

「だから〜 まだ〜 探さなきゃ〜 ダメよね〜〜」

冥子の宣言にタマモも横島もヘコんでがっくり頭を垂れる。

「うう…じゃぁ、マリア、お大事に」
「は〜、また探すのか〜〜」

冥子に続いて病室から出て行く2人にマリアが手を振る。

また、廊下で騒ぎを起しながら遠ざかって行く声を聞きながらマリアは窓へと近寄っていく。横島達を窓からも
見送る気なのだろう。











厄珍とDr.カオスから有益な情報をもらった横島達ではあったが、それが意気向上には向かなかった。
更に意気消沈した2人に冥子は六道女学院のいつもの視聴覚室へと誘った。
女子高生の香りを予想してうきうきする横島といつもの通りにニコニコ顔の冥子、うんざりした表情の
タマモが並んで廊下を歩いていたがふいに2人が校庭に視線を向ける。
しばらくして、気付かなかった横島が後ろを振り向いて首をかしげると2人は口を開いた。

「ラブレター、見つけたわ」
「見つけたわ〜 ラブレター」

「どこです?」

意気込んで訪ねる横島にタマモも冥子もあいまいな表情でとある場所を指差す。
そこには図書室で借りたらしい本を読む弓かおりがベンチに腰掛けていた。







「あそこね〜、カバンの上にある〜 封筒〜〜、アレだわ〜〜」
「あ、本にはさんだ」

3人が注視している中でかおりはその封筒を読んでいた場所にはさんで立ち上がる。

慌ててかおりの後を追うべく3人は急いだ。




すぐにかおりの後姿を見つけた3人だったが、その後はどうにも行動しずらかった。

「横島く〜〜ん」
「この前、ここに来るだけで問答無用にスプラッタだったんスよ?! 無理です!!」

泣いて嫌がる横島から視線を外してタマモに移すがタマモもちょっと顔をしかめるだけだった。
霊能者であればタマモは妖狐だとモロバレだろう。そんな生き物がいきなり目の前に現れて自分の持ち物を
よこせと言ったらどうだろうか? 相手がおキヌならともかく、かおりの場合は…タマモがイヤがるワケである。

仕方なく、冥子が出ることにした。

「あの〜〜。えっと〜〜」

出てきたはいいけど何を言うかは考えていなかった冥子にかおりはアウト・オブ・眼中だった。冥子の横を
さっさと通り過ぎてしまう。

「あうあう〜〜。弓さ〜〜ん」

慌てて追う冥子だが、かおりはぶつぶつなにやら呟いていて気付いてももらえない。
がっくり気落ちしている冥子に、仕方なしに横島が出る事にした。悪い予感を抱えながら。

「弓さ〜〜ん」

横島の声にピタリと止まるかおりに冥子もタマモもほっとする…と目の前でかおりの姿に水晶観音の術が
目に映った。戦闘準備オッケ〜な格好である。

「また出ましたわね、狼藉者。ゴキブリの様に性懲りも無く復活しようと何度でも成敗してみせますわ!!」
「またかぁ〜?! また俺はこんな役目なのかぁ〜〜?!」

悲鳴を上げながらかおりの攻撃にマトリックス張りな神業アクロバットで避ける横島。その体さばきが更に
かおりの頭に血を上らせるとは気付いていない模様だ。

「あのスキにラブレターを回収…ってダメ?」
「ダメ〜〜!!」

タマモのある意味究極の提案に冥子はあせりながらも却下を下す。

「横島く〜〜ん! とにかく取り押さえて〜〜! 校舎がぁ〜〜」

既に亀裂が入る校舎を気にする冥子だが、そんな事を冥子が指摘する資格はないと美神令子がいたら言い切るだろう。

「そうしないと〜〜 補修費〜 横島君もちよ〜〜」
「! ラジャー!!」

更に令子のお友達である一端を見せる冥子に横島が反撃に転じる。勿論冥子は冗談のつもりなのだが。

サイキックソーサーを2個展開してダミー(だろう)腕を破壊していく。

「ック!」
「もらったぁーー!!」

腰が引けたかおりにそのままダイブしてかおりの両手を押さえ込む。その際転がってしまったのは別に横島の
趣味ではなかった。

「ううう〜、今の弓さんの格好じゃぁ〜楽しみがぁ〜〜」
「何しますの?! この犯罪者!!」

水晶観音の術で体に鎧をつけた状態のかおりでは横島のお楽しみは味わえない。その心境を口にするのは
いかがかと思われるが。
当然後ろにいた冥子もタマモも目が笑っていない。

暴れるかおりを頑張って押さえ込む横島だったが悪寒が背筋を突きぬけ、とっさに横に転がった。

ズドン!!

今まで横島の頭があった場所に突き刺さる霊波砲。

「な・な・な・な?!」

パクパク口を上下させる横島。
壊された窓からヌゥっと現れたのは雪之丞だった。目が憎悪に光り輝いている。

「良い度胸だ、横島………歯ぁ〜食いしばれぇ!」
「オワ?!」

今度は大げさに飛びのくと横島がいた場所に突き刺さる雪之丞の拳。

「あ〜〜! 床に亀裂〜〜!」

冥子の悲鳴が校舎に響く。何度も言うが冥子にそれを(略)
冥子の懇願が効いたのか、横島は窓から飛び出し逃げに入った。しかし、魔装術を発揮した雪之丞相手では
校庭で逃げ回るのがせいぜいである。
横島と雪之丞が出る時に壊した窓からタマモと冥子は心配そうに覗き込む。

「「キャ?!」」

いきなり後ろから霊圧が吹き抜けて行き悲鳴を上げるタマモと冥子の目に、雪之丞の背中に張り付いた紙が
見えた。その紙の大きさは大体B5位だろうか?








いきなりピタリと止まった雪之丞に横島は油断無く栄光の手を掲げていた。
閉じていた雪之丞の瞳がクワ! と見開かれた瞬間、横島はとっさに屈みこむ。
その上を雪之丞が人間弾丸の様に過ぎ去っていた。そして豪快に地面に突き刺さる。

陥没した地面から土煙を上げながら這い出してくる雪之丞に横島は戦慄した。それは一度体験した
経験から裏打ちされたものかもしれない。

「ゆ、雪之丞、今の心境をちょっと語ってみないか?」

青ざめた横島に雪之丞はゆっくりと笑みの形に唇を動かす。そして瞳は…

「キスしてキスしてキスしまくるだけだろう?」
「やっぱりぃ〜〜?!」

逝っちゃってる雪之丞は更に頭から高速で横島に向けて突出する。

「…あ〜、あの紙には”貴方の事を夢に見る日はいつも心からキスを贈っています。ああ、かぐわしき…”
ま、ラブレターな内容ね」

動き回る雪之丞の背中に張り付いた紙の内容を教えるタマモに冥子は目を白黒にさせる。

「ちょっと、どういう事ですの? アレは?!」

水晶観音の術を解いたかおりがタマモの後ろから息巻くが現状は改善しない。眼下では雪之丞の頭突きと
横島のゴキブリの様な逃げが展開されている。
かおりの疑問はもっともな事だ。その疑問を答えたのは意外にも冥子だった。

「思いのたけが〜 情熱となって〜 呪符になっちゃったのね〜 きっと〜 キスするまで〜 
止まらないんじゃないかしら〜」
「………だからか、カオスがマリアって娘にこてんぱにやられたのは」

何の暴走かはわからないが、カオスもそんな恋文に操られてしまったのだろう。と結論付けたタマモだったが
それはここでは口にすべきことではないだろう。そのタマモの言葉にうなずいたかおりの表情を見れば。

「…こてんぱにやってしまえばよろしいのですね? うふふふふ」

ゆらりと黒い波動を散らしながら水晶観音の術を発動させたかおりにタマモも冥子も前を譲る。

その数秒後、六道女学院の校庭に爆弾が投下された様な衝撃と土煙が起こった。
それをたまたま目撃した生徒が涙ながらに後に語る。

「ええ、大魔王が降臨したんです。何本も手を生やした黒い生物が凄まじいエネルギーを校庭にいた
男の方たちに…いえ、誰が魔王なんてとても言えません。きっとあの、空似ですから…」

と。

















「あら、お久しぶりね。横島君」

体の傷は癒えたが心に残る恐怖がいまだ癒えていない横島が、いつもの場所に生ゴミを捨てに家を出た時
だった。声をかけられたのでそちらを向くと、カバンを手にした美神美智恵が微笑んでいた。

「あ、おはようございまス、隊長」
「おはよう。今日も暑くなりそうね」

笑顔に世間話を進める美智恵が気がついたようにポンと手を叩く。

「そういえば、前にあげたチケットでアメリカ行くのでしょう? なんだったらホテルを予約しておいて
あげましょうか?」

善意の笑顔にちょっと横島の顔が曇った。

「さすがに令子の部屋にお泊まり、っていうのもなんだし、予約はしておいた方がいいわよ?」

横島ならソレを期待してホテルに予約を入れないかもしれないが、アメリカは日本と違って治安が悪い。
アメリカ行きをプレゼントした美智恵としても是非ともホテルに予約を入れたいところだ。
横島のアメリカ行きを強く推奨しているとも言えるが。

「そ、それが、あのチケット、六道さんにあげちゃいまして…」
「あげた?!」

グルリと般若な顔になった美智恵にビビりながらも説明を続ける。

「アメリカで急に精霊石のオークションが開かれるんスよ。タマモに良い精霊石を見つけるのに六道さんに
お願いされまして…」
「そ、そう………」
「あ、ち、遅刻しそうなんでコレで」

コソコソと学校へ歩いていく横島の背はなんというか哀愁が漂っている。

横島が見えなくなってから、こちらは出勤してきた西条が上司に気付いて近づいて来る。

「おはようございます…せ、先生?」

返ってくる暗き波動に西条が体を強張らせる。
西条の耳には地獄から這い登ってきたような声が届いた。

「………しぃ〜〜しょ〜〜うぅ〜〜」

今日も荒れそうなオフィスを思い、西条はため息をつくしかなかった。


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