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GS横島 剣客浪漫譚

ドラゴンへの道!!(1)


投稿者名:いぷしろん
投稿日時:06/ 6/25


 カツーン……、カツーン……、と長く反響を残す足音が下水道に響く。
 足音の主は、ヒールを履いた美神さんである。後ろには、大きな荷物を背負って右手に抜き身のシメサバ丸を携えた俺とおキヌちゃんが続く。
 なぜ俺達がこんな場所にいるのかというと、もちろん除霊のためである。でなければ、好き好んで美神さんがこんな場所に足を踏み入れるはずも無い。

「死ねやーっ!」

 と、突然上半身だけの白骨に似た悪霊(上半身)が下水の水路から金属バットを握って飛び出してきた。
 ……だが、叫びながら飛び出てきては奇襲の意味が無いのではなかろうか。まぁ、派手に水音を立てながら飛び出てきているから奇襲も何もあったものでもないのだろうが。
 ちなみに、美神さんも俺もとっくの昔に相手の気配を察知してるので驚いたりなんぞしない。ごめんなおキヌちゃん、一人だけ驚かせて。

「出たわね! ザコがずいぶん手こずらせてくれたじゃない! これでも……、食らえっ!」

 ある意味この事態を待ち構えていた美神さんは、動揺する事無くお札を叩きつける。お札が直撃した事を確認した美神さんは、あっさりと緊張を解いて息を吐いた。
 あれ? そーいや前にもこんな事があったような?
 ……あ! そーいえば……!

「やーれやれ、やっと片付いたわ。さっさとこんな所から――」
「美神さん、まだっ……!」

 おキヌちゃんの言葉に慌てて振り返る美神さんだが、神通棍もお札も構えていない状態では何も出来ないに等しい。
 けど、思い出すのが一瞬早く間に合った!
 既にフォローに動き出していた俺が、美神さんと悪霊(下半身)の間に素早く割って入る。

「させるかぁっ!」


――斬!


 美神さんの頭部を蹴り飛ばそうとしていた悪霊(下半身)を一瞬の交差で両断する。おキヌちゃんも美神さんもまだ動けない中、動けるのは俺しかいない。という訳で、かなり無理矢理に踏ん張って体勢を立て直す。そりゃもー、渾身の力を込めて。
 ぐおお……! せ、背中の荷物が重すぎるぞコンチクショー! 
 のんびり荷物を降ろしている暇なんてどこにも無かったのだから仕方ないのだが、実に動きづらい。しかも、二人並んで歩くのが精一杯といった感のある下水道の通路が足場では、大立ち回りをするには狭すぎる。幸い、縦横無尽に動き回るような立ち回りが必要そうではないのは救いだが。

「だーっ! 重いわ狭いわ臭いわ、やってられっかーっ!」

 俺の本音をぶちまける叫びと共に、切れ味鋭くシメサバ丸が弧を描いた。それに一瞬遅れて、悪霊の構える金属バットが澄んだ金属音を立てて斜めに切断されて落ちる。
 そして、その振りきったシメサバ丸をすぐに構えなおして再度袈裟斬りに斬りかかる。金属バットをあっさりと斬り落とされて呆然としているが、悪霊本体は未だにピンピンしていたからだ。

「がっ……」

 もう一度振るわれた白刃に、さすがの悪霊も耐えきれなかった。断末魔の叫びも上げられずに真っ二つにされて消滅する。
 よしっ! 何とか上手くいったか……。





 GS横島 剣客浪漫譚(5) 〜ドラゴンへの道!!(1)〜





 下水道に潜っての除霊から数日後、美神さんは俺を連れて唐巣神父の教会へとやって来ていた。

「――という訳で、横島クンがトドメをさしてくれたんで除霊は出来たんですけど、ここんとこ調子悪いんですよねー」

 額にガーゼを貼り付けた唐巣のおっさんに対して、苦虫を百匹くらいまとめて噛み潰したような表情でそう語る美神さん。
 自分の調子が悪いだけならともかく、除霊の失敗をGS免許も持っていない丁稚――というか俺にカバーされたのがよほど頭に来ているらしい。実に分かりやすい表情だ。
 そういう弟子の心境が手に取るように分かるのだろう。唐巣のおっさんも苦笑しながら自分の近況を明かす。

「……そうか。実は近頃、私も苦戦が多くてね」
「師弟そろってスランプ、って事は無いっすよね?」
「ああ。私の考えでは、霊の方が全体的に強くなってきたんだと思うよ」
「全体的に? そんな事が……」

 信じられない、といった表情をするピート。まぁ、いきなりこんな事を言われてもすぐには信じられないだろうが。……俺だって聞くのが二回目じゃなけりゃすぐには信じられんからなぁ。

「殺虫剤を使っていると、やがて害虫は薬に抵抗力を持ち、効かなくなるという話を知ってるね。幽霊や妖怪にも同じような事があるんじゃないかな」
「というと?」
「つまり、除霊が盛んになってたくさんの悪霊が払われてきたが、一方でより強力な悪霊が生まれつつあるという事さ。我々も、さらに修業して力をつける必要があるね」

 唐巣のおっさんの言葉は、実は正確ではない。より正確を期すならば、以前に比べてより強くなった悪霊と戦うには、という条件が付く。悪霊を殺虫剤に抵抗力を持つようになった害虫と一緒にするのは少しばかり間違いだからだ。
 理由は至って簡単なものだ。害虫や病原菌なら殺虫剤に抵抗力を持たないタイプの物がいずれ全滅して抵抗力を持つタイプの子孫が繁栄するだろうが、悪霊などという存在にそんな原理が働くはずも無い。結果、強力な悪霊と以前と変わらぬザコ霊が混在する事となるのだ。……いやま、これって『未来』での隊長とかカオスのおっさんとかの話の受け売りなんだけどね。
 とは言え、美神さんの除霊方針は「おかねだいじに」である。「いのちだいじに」な唐巣のおっさんや「いろいろやろうぜ」なエミさんとは違って、強力になった悪霊をお手軽にシバいてこそのGS稼業なのだ。当然、唐巣のおっさんの言う通りに修業してより力をつけるほか無い。
 というかむしろ、今霊能力を鍛えておけば他のGSを出し抜いてウハウハなのだ、この機会を逃すような美神さんではない。

「……その事ですけど、先生。私、妙神山へ行こうと思ってるんです」
「妙神山!?」
「コツコツやるのは私の好みじゃないわ。どーせなら一発でどーんとパワーアップしたいんです」

 なんつーか、美神さんらしい理由だよな。ま、霊力に関してなら一発でどーんとパワーアップできるからなぁ……。その点、俺みたいな人間は嫌だろうと何だろうとコツコツ積み上げなきゃいけないわけで。そりゃあ、文珠が使えるようになれば楽だろうけど、まさか美神さんを差し置いて理由も無く老師引っ張り出すわけにもいかないし……。
 けどまぁ、小竜姫様が受け持ってる修業くらいなら一緒に受けても大丈夫だよな。
 一応文殊以外の霊能は使えるが、出力が弱いために実戦ではいまいち使いきれないのだ。特にサイキックソーサーの出力不足は深刻で、防御のために展開したソーサーを突破されようものなら命に関わりかねない。
 ……まぁ、理由も無くいきなり霊能力を発揮しては美神さんにどんな扱いをされるか分かったものではないという理由もあるのだが。
 いや、そもそも俺は必要ないんなら鍛錬も修業も全力でお断りしたいんだけどなぁ……。悲しいかな、今までの俺の人生を振り返ってみると、嫌々でも真面目に鍛錬を積んどかないとマジでその内ポックリ逝きかねないからな。具体的にはメドーサの時とかアシュタロスの時とか。っていうか、日常業務の最中でもヤバい時は普通に死ねるし。
 ……はぁ、もっとお手軽にパワーアップできりゃ良いんだけど。

「――何事も、やってみなくちゃ分からないわ」

 なにはともあれ、とりあえず美神令子除霊事務所一行の妙神山行きは決定したようであった。





   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※






 ――妙神山修業場・正門


 ……とまぁ、そんな訳で。
 唐巣のおっさんの教会を訪れてから数日後、途中何事も無く俺達は妙神山へとやって来ていた。
 いやしかし、ここも久しぶりだなぁ。文殊が複数展開できるようになってからはお隣さん感覚だったけど、よく考えたら結構敷居の高い所なんだよな……。普段の小竜姫様とか見てると、どーにもそんな感じはしないんだけど。

「やっと着いたはいいけど、出迎えの一人もいないのかしらね」
「定番だと、ここで門についてる鬼の顔が喋るっていうのが相場ですけど。まさかそんなベタな展開じゃあるまいし……」
「「ベタで悪かったな!!」」

 俺の言葉にちょびっと涙目で逆切れする右の鬼門と左の鬼門。左右で区別されるだけで、個別の名前さえ持たないという少しばかりかわいそうな奴らである。
 ……すまん、鬼門。お前らの事を知ってるみたいに振舞うのは何かと拙いんだよ。

「おぉ、マジで喋った」
「ほんとになんの捻りも無いわね。しかも、ありがたみのかけらもないし」

 好き勝手言う俺と美神さんに自分達の存在意義というか存在そのものというか、そういったものをかなりの勢いで否定されて凹む鬼門。未だかつて受けた事の無いであろうぞんざいな扱いに、左の鬼門は力一杯吼えた。

「うぐぐ……。我らはこの門を守る鬼、許可なき者我らをくぐる事まかりならん!」
「この『右の鬼門』!」
「そしてこの『左の鬼門』ある限り、お主らのような未熟者には決してこの門開きはせん! 開きはせんぞーっ!」

 がーっ、と捲くし立てる鬼門達に美神さんとおキヌちゃんは額に汗を浮かべながら腰を引く。
 そりゃあ鬼の顔で滝のように涙を流しながらのセリフじゃドン引きするのも当然だ。そして、一人この後の展開を知っている俺は一人心の中で鬼門達に手を合わせていたりする。




 ――そして、その運命の瞬間は訪れる!




「あら、お客様?」
「あぅ……」

 その時、刻は止まった。
 これ以上無いほど真っ白になって凍りつく――というか石化して果てる左の鬼門と、いきなり内側から開かれて微妙な顔になって止まっている右の鬼門。
 世界でも有数の霊的修業場がこんなんでいいのかしら、と美神さんはけっこう真剣にここに来た理由を考え始めている。……その思考が後悔へと変わるのは時間の問題かもしれない。まぁ、ちゃんと修業すれば考え直すだろうけど。

「……5秒もたたずに開いたな」

 しょうがなくツッコミを入れた俺の言葉にも反応を返さない辺り、左の鬼門の復活は遠そうだ。
 ……合掌。

「小竜姫様ぁ……。不用意に門を開かれては困ります。我らにも役目という物が……」
「カタイ事ばかり申すな。私もちょうど退屈していた所です」

 さらに、小竜姫様の身も蓋もない――ついでに言うと容赦や思いやりといったものもない――言葉に、右の鬼門まで目の幅涙を流して轟沈する。
 しかも小竜姫様はそんな左右の鬼門に全く気付かぬうちに興味を美神さんや俺の方に移しているのだから、左右の鬼門にとってはやりきれないだろう。

「あなた達、名は何といいますか? 紹介状はお持ちでしょうね」
「私は美神令子。唐巣先生の紹介だけど……」
「唐巣……? ああ、あの方。かなりスジの良い方でしたね。人間にしては上出来の部類です。……そちらの方は?」
「こいつは横島っていって私のアシスタントだけど……、こいつが何か?」
「そちらの方も修業を受けに来たのではないのですか?」
「ああ、こいつ――」
「はい、そうです」
「――へ?」

 美神さんが小竜姫様の言葉を否定しようとするのを遮って、自らも修業を受けると明言する。もちろん美神さんにとってはそんな事は青天の霹靂であり、かつ、丁稚の分際であたしを差し置いて何勝手な事ぬかしてんのよ、となる訳で。
 いきなり抜く手も見せずに取り出した神通棍でドタマをしばかれ、ズザザザと小竜姫様から距離をとるように引きずられる俺であった。
 いやつーか、覚悟はしてたけどやっぱ痛いっすよ……。

「(あんた、あたしに何の断りも無く何勝手な事ほざいてんのよ!?)」
「(ちょ、タ、タンマ、タンマっ!! 待ってくださいよっ! コレには考えがあるんですってば!)」
「(ほほぅ。その考えがしょーもないもんだったら、それ相応の報いを受けてもらうわよ?)」

 冷や汗と血を額から流す俺の首に、ひたひたと神通棍が押し当てられる。
 やっぱこれって、そーいう事だよなぁ?

「(か、勘弁してくださいよっ……! ただ単に、俺が一緒に修業を受けた方が美神さんにとって有利だって事じゃないっすか)」
「(どういう事よ?)」
「(だって、こっちの腕を試されるような事になった場合、二人同時ならその分戦力はアップするじゃないっすか。同時じゃないなら、俺が先に受ければその分美神さんは情報収集できるわけですしっ!)」

 俺の念頭にあるのは、前に受けた際の影法師による戦闘だ。一人一人受けるなら俺が先に受ける事で美神さんの戦いは幾分楽になるし、雪之丞と一緒の時のように二人同時に受けるなら自分が前衛に出れば美神さんも俺も戦いやすい。
 もちろん、そんな事はここに来る事が決まった時から考えておいた言い訳に過ぎないんだけど。
 ここで修業を受けとけばこの先の展開がかなり楽になる……ハズ! いやそらもう全然訳分からんしホンマに楽になるかどーかも分からんけど、なんもせんよりはマシなはずやろ。
 悪かったなー。あんまり頭良くなくて。

「(ふーん……。あんたにしちゃマトモな事考えてるじゃない)」
「(いやまぁ、実際はただの思いつきなんすけどね)」
「(思いつきでも何でもいいわ。そうと決まれば、さっさと修業を受けてドーンとパワーアップするわよ!)」

 こいつもパワーアップすればその分楽に稼ぎたい放題だしねっ! という内心を隠す事無く、拳を握り締めて小竜姫の方へと戻っていく美神さん。その後ろから、俺も苦笑を浮かべてついて行く。

「もうよろしいのですか?」
「ええ、待たせてごめんなさいね」
「では、修業を受ける資格があるかどうか、試させていただきます」

 小竜姫様の言葉に合わせ、待ってましたとばかりに門の両脇に構えていた鬼門の胴体部分が動き出す。

「その方ら、我らと手合わせ願うぞっ!」
「お主らのようなうつけ者、意地でも通さんっ!」
「へぇ、こいつらを倒せばいいのね?」
「はい。がんばってくださいね」

 小竜姫様の言葉に頷くと、美神さんはニヤリと小悪魔の笑みを浮かべてポケットに右手を突っ込んだ。
 あー、あれは前の時と同じく封魔札を出すつもりだな。

「じゃあ、一丁軽くやりますか。横島クン、援護お願い!」
「りょーかいっ!」

 俺がシメサバ丸を抜き放つと同時に鬼門達が俺達へと突っ込んでくる。が、当然のように美神さんはそれを相手にせず、鬼門が振り下ろした丸太のような腕を軽業師のようにヒラリと避け、門へと一直線に走る。
 うーん、流石だ。じゃ、次は俺の番だな。

「お前らの相手は俺やーっ!」

 さらに、波状攻撃のように俺が動きの止まった鬼門へ妖刀シメサバ丸を振りかぶって突進。背後へ抜けた美神さんが気になるよーだが、シメサバ丸に秘められた霊力の大きさに鬼門達は一瞬相対する相手を迷ってしまった。
 あー、そんなんだから使えないなんて言われるんだぞ、お前ら。

「ぬぉっ!!」
「あ、あぅ……」

 ビタン、と鬼門達の顔面に貼られたのは、超特大の封魔札である。その性質上、鬼門達は光学的な視界だけではなく霊的視界まで封じられてしまったのだ。
 こうなっては勝てるはずも無い。もちろん、はなっから負ける気なんて全くしなかったけど。

「もらったぁーっ!」

 好機とばかりに、シメサバ丸を鬼門達の脛へと振り下ろす。もちろん峰打ちではあるが、イイ感じに霊力を乗せたその一撃は鬼門達の動きを容易く止める。ま、脛を思いっきり鉄パイプで殴られたようなもんだろうしな……。
 ちなみに、普通の刀でこんな事をしたら一発で歪むか曲がるかして使い物にならなくなる――らしいけど、これは妖刀。それも、まず一級品の数百年モノのブツだから、そこら辺は気にせずやりたい放題やってたり。
 悪いけど、美女相手ならともかく野郎に対して容赦なんてするつもりはこれっぽっちもないんでな。追撃させてもらうぞっ!

「食らえ、必殺っ! 小指地獄打ちっ!」

 ……人間だって柱の角やタンスの角に小指ぶつけりゃ悶絶するのである。
 当然、俺+シメサバ丸の霊力と体重が最高に乗った一撃(柄打ち)を食らえば、鬼門だってそりゃ痛いだろ。というか、さっき痛打された弁慶の泣き所だって相当に痛いだろーのにもかかわらず、これだ。
 まさに必殺、血も涙も無い攻撃である。……食らわせたのは俺だけどさ。

「「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」」
「――六秒! 新記録ですね。やり方はかなり変則的ですけど」

 背後でもんどりうって足抑えて悶絶している鬼門達をよそに、冷静に美神達の勝ちを分析する小竜姫様。
 そりゃあ確かに実際には大したダメージは受けていないだろうけど、さすがにこれは冷たいのではないのだろーか。
 少しばかり、鬼門達に同情するな……。

「こんなバカ鬼やあんたじゃ話にならないわ! 管理人とやらに会わせてよ!」

 あ、ヤバっ! その発言は拙いですってば美神さん!
 美神さんの発言に小竜姫様が微笑むのを見た瞬間、俺は咄嗟にシメサバ丸をごく自然な納刀の動作に見せかけて小竜姫様の方へと向けた。
 次の瞬間、小竜姫様から発せられた膨大な霊気の圧力になすすべなく美神さんとおキヌちゃんが吹き飛ばされる。

「あなたは霊能者のくせに目や頭に頼りすぎですよ、美神さん。私がここの管理人、小竜姫です」
「な……?! こ、ここの管理人……!? あんたが?!」
「外見で判断してもらっては困ります。私はこれでも、竜神のはしくれなんですよ」
「一瞬前まで何の気配もさせなかったのに……。今はただ立ってるだけで凄まじい霊圧だわ……。――っていうか」

 そこで、美神さんの視線が俺の方へと向く。
 普段こんな場面なら自分の横で顔面から門戸に激突して鼻血でも出しているのがお似合いの男は、自分の斜め前で平然とシメサバ丸を鞘に仕舞っているのだ。美神さんとしては気になるところだろう。
 けど、俺だって二回もあんな目に遭うのは嫌だしなぁ……。

「……どういう事よ?」

 ちなみに正解は、それ自体がかなりの霊的内圧を持つシメサバ丸が小竜姫様からの霊圧を“斬り裂く”形である程度分散させていたためである。もちろん、あの頃の俺と違って今の俺の地力がある程度ある事も一因だが。

「よく今ので飛ばされませんでしたね?」
「いや、ただの偶然っすよ。コイツがなきゃ俺だってぶっ飛ばされてましたから」
 と、シメサバ丸の柄をポンポンと叩く。
『その割にはぞんざいな扱いだな』
「まぁまぁ。お前にはマジで感謝してるんだぜ」

 おかげで顔面から扉に突っ込まされずに済んだからな。
 俺の回答に納得したのだろう、小竜姫様も美神さんも二人して頷いている。
 ……そういや、元々知ってる美神さんはともかく、小竜姫様は喋る刀という怪奇現象を見てスルーですか?
 いや、神魔族にとっちゃそれなりにありふれた物なのかもしれないか。喋る刀どころか、喋って動く土偶まで存在してたくらいだからなぁ。

「なるほど。確かにかなりの霊力を持った霊刀のようですね。――まぁそれはともかく、鬼門を倒した者は中で修業を受ける権利があります。さ、どーぞ」

 さぁ〜て、いっちょ頑張りますか!




〜続く〜


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