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GS六道親子 天国大作戦!

フォクシー・ガール!


投稿者名:Tりりぃ
投稿日時:06/ 6/ 5



タイガーが高校の制服姿で小笠原エミのオフィスのドアを開けた瞬間、部屋の空気が固い事に気付いた。

無言で周りを見渡し人気、それも数人の気配を察するのと同時にエミの声がその部屋から飛んできた。

「タイガー! お客がお帰りなワケ! お見送りしな!!」

タイガーが表情を変える事無くドアを開けて部屋へと入るとビックリしてこちらを見る背広姿の男性3人
そして、壮絶な笑顔を浮かべているエミがいた。
エミの態度とタイガーの(ハリボテだが)巨体に恐れをなしたのか、3人はおどおどと席を立って出て行く。

お客が出て行った事を目で確認したタイガーが明らかにほっとした顔をしてエミを振り返ると、やはり
そこには怖い笑顔のエミが灰皿の上で書類を燃やしている姿があった。妙に寒気がしたのはタイガーに
霊感があるだけではあるまい。

「まったく、まだ危害を加えるかもわからない妖怪を呪詛なんて、冗談じゃないワケ」

カチリと、ライターを閉じてじっと炎を見るエミは綺麗であり、怖い。

「私の力は、法ではどうにもならない時の為の力なワケ。そこの所、じっくりとわからせてあげないと…ね」

炎が消えて普段のエミに戻ったのを確認したが、まだタイガーの腕には鳥肌がたっている。
それはタイガーに霊感があるからなのか、気のせいなのか……






 GS六道親子 天国大作戦! 9 〜 フォクシー・ガール! 〜







どんよりとした雲が空を覆う中、物々しい装備をした数十人の自衛隊の兵士が歩んでいた。
彼らが持つのは精霊石を加工した弾を発射できる機関銃、顔には霊視ゴーグル、数人に1人はジャケットに
破魔札を入れられており、服さえ違えばオカルトGメンと言っても差し支えない装備だ。

彼らは数人で行動しながら、とある場所へと警戒しながら向かっていた。

その場所は、最近妖気を感じる様になった『殺生石』と呼ばれる岩がある広場だった。

緊張の為に誰かが生唾を飲み込んだ音が響く。
その音につられる様に足元にあった石をけっとばしてしまった者がいた。

カツ、コツ、コツ…

その石は、転がって一際大きい岩にぶつかる。

コツ

小石がぶつかって止まると、その小石のあたった場所から岩にヒビが入っていく。

ピシ、ピシ、ピシ!

まるで、卵がかえるように岩にヒビが縦横に入り、そこから煙の妖気が噴出する

「銃、構え!」
「ひきつけてから一斉射撃だ! 用意!」

数人のリーダーらしき人物達が兵士に指示を送る中、妖気が霧の様に辺りをただよう。地獄絵図の様子に
緊張感が更に高まり、兵士の手は震えている。

ブワ!!

岩から妖気が一気に噴出した瞬間、兵士達は見た。
岩の数センチ上に、十二単を着た女性が佇んでいるのを。
彼女の瞳は閉じられているが、顔からは妖艶さと気品を感じ誰もが息を飲む。

「目標補足! 準備OKです!」

男達が呆けている中で、女の声が木霊する。そう、男なら呆然とするその容姿に女性の兵士には通じて
いなかったのだ。その声で我に返る男達。

「用意……っうてーー!!」

号令と共に機関銃の音が広場に埋め尽くされた。











「………横島くん〜 気付いた〜?」

横島の意識が闇から浮かぶ瞬間にかけられた声…それは紛れも無く冥子の声だった。
うまく動かない四肢と感覚を総動員すると、只今柔らかいものが背中から頭にかけてあり、声からして
冥子に膝枕をされているらしい。らしいが…

「マコラかぁ〜 俺どうしたんだっけぇ〜」

冥子の式神マコラは変身を得意としている。前にも冥子が膝枕をしていると思いきやヤツがやっていた事があった。
そう判断した横島は覗くマコラ(冥子)の上から照らされている太陽の眩しさで顔をしかめた。

「今は昼だよな〜 なんで俺は寝てるんだ?」
「映画を見てたら〜 横島くん〜 寝ちゃったのよ〜〜」
「なんで映画なんて…」

それも屋外で…といいかけて頭がクリーンになっていく。
それと共に視界もはっきりしてきた。
頭の方にはヒーリングをしているシュウトラ。のぞきこんでいるのは冥子。そして、冥子の後ろには
心配そうに見ているマコラを始めとした式神達…

「冥子ちゃん?!」

ガン!!

「ああ〜〜! 大丈夫〜〜? 横島く〜〜ん! シュウトラちゃ〜〜ん!」

慌てて身を起そうとした横島は哀れ、頭の上の方でヒーリングしていたシュウトラに頭突きをかまして
しまった。再度うなる横島と頭をふらふらさせているシュウトラに冥子は慌てるしかなかった。



なんとか怪我を治した横島はやっと辺りを見渡す余裕ができた。
自分達がいる場所には高級感あふれるソファー。そしてソファーから3m離れた場所にテレビ一式がある。
これだけなら普通だが、ここは郊外だ。後ろには富士山の樹海が広がり上には青い空があり、そしてここが
重要だが自分達がいる半径5m位は見事に焦げたりなんなりして不毛の地と化している。

「ぼ、暴走はしてないのよ〜〜 ちょっと〜 この子達が興奮しちゃって〜〜!」

横島の仕草に、慌てて冥子が注釈をつける。

「い、いや、気にしてませんから、まぁお互い様なんで…」

涙目の冥子に慌てて横島は首を横に振る。
ほっとした表情をしてから、顔を赤らめてうつむく冥子の頭をなでたくなってしまいとっさにあらぬ
方向を見てしまう横島。
場所が喫茶店であったらお見合いの場だと勘違いされそうな光景だった。




事の発端は横島の修行に付き合う冥子になにかお返しがしたいと言ったのが発端だった。

「気にしなくていいのよ〜 横島くんと〜 一緒にいれるのが〜 楽しいんだから〜」
「いえ、お札もかなり無駄に使っていますし」

練習するのに燃やしてしまったお札の数をきっちり覚えている横島としては冥子の申し出を素直に
のむことができない。渋る横島に冥子がポンと手を叩いた。

「じゃぁ〜、日曜日の〜 修行の時間〜 午前の2時間くらい〜 私につきあってくれないかしら〜」
「そ、そんなんでいいんっスか?」
「是非〜 つきあって欲しいの〜〜」

にっこり笑う冥子に横島は了解した。きっとショッピングの荷物持ちをやらされるんだろうと思いながら。



その考えは甘いと気付いたのはここについてからだった。
草原にぽつりと置かれたテレビ一式とソファーにいやな予感が突き上げている横島に冥子はのほほんと
今日の予定を口にした。

「じゃぁ〜 始めの2時間は〜 ドキュメンタリー映画を見ましょう〜 それからは〜 横島くんの〜
修行の時間ね〜〜」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい!! ドキュメンタリー映画ですか? 題名は?!」

顔色を青ざめて確認するが冥子は相変わらずののほほん姿勢を崩さない。

「題名は〜 わからないの〜 お母様から〜 見るように〜 薦められただけだから〜〜」
「ちょちょちょちょ! あ、今急に外国の母が危篤にぃ〜〜〜!」
「さ、見ましょうか〜〜」

その細身のどこにそんな力があるのかと疑う位の力を発揮して横島を引きずってソファーに座り、ビデオをつける。

「ああああ〜〜! 胸が右の腕に〜〜?! このかぐわしい香りはぁ〜〜?!」

逃げたい意思とこのままでいたい意思がぶつかり合う横島を尻目に映画が始まる。

横島の心の中では正に映画そっちのけでハルマゲドンが勃発していた。


『押し倒してしまえ! 押し倒してしまえ! ここには都合よくソファーだってあるじゃん?』

こうもりの羽を生やしたミニ悪魔横島が左でささやく。

《そんなの許されないぞ! で、でもここって誰もいないから…いや! 美神さんに見つかったら
どうする気なんだ!》

右にはミニ天使横島がぐらつきながらも正論を唱えている。思わず令子のフルしばきを思い出して
右側に傾きかける横島。

『お前はそれでも男か?! 上げ膳喰わぬは男じゃねー! ルパンダイブは男のロマンじゃーー!』
《め、冥子ちゃんの意思はどうなんだ?! そんなんロマンじゃねーだろーー!!》
『こんな所にこんなソファーを置く時点で冥子ちゃんの意思は明白だろがーー! この朴念仁!』
《そ、そんなもんか?! し、しかし! 美神さんの鉄拳が》
『失敗を恐れるヤツは男でもなんでもねーー! 成敗ーー!!』
《グハ?!》

ミニ悪魔横島にキックをされたミニ天使横島が煙と共に姿を消す。
これでもう横島はミニ悪魔の手下になるしかなかった。元よりミニ天使の力が弱かったという点は置いて
おくにしても。



「め、冥子ちゃん! 僕はも…?!」

グワッと目を見開いて右を見た横島は固まってしまった。
そこには青い顔をして震えながら横島の右腕に抱きついている冥子がいた。
慌てて画面を見ると、そこには本物の戦争を映したドキュメンタリー映画があった。
迷彩服を着て銃を乱射する兵士。傷つく兵士や民間人。手榴弾や地雷で揺れる大地………

ぎゅうっと冥子の右肩を抱き寄せてしまった横島だったが、忘れていたことがあった。
それは、冥子は「六道冥子」であり、彼女には屈強なボディガードがいたという事を、である。








「どう〜〜? ここなら〜 目標はいっぱいだし〜 周りに迷惑は〜〜 かからないわ〜」
「すんません。がんばります」
「気にしないで〜〜」


冥子はのほほんと笑顔だが、横島は肩をすぼめている。なにせ今日は日曜日。売れっ子とは言わないが
それなりに(調査系の)仕事がある冥子が仕事をずらして横島の為に今日を開けてくれたのだ。
横島なりに恐縮してるのも無理はない。結果が伴っていないならなおさらだろう
ちなみに鬼道は、テストの採点で来れなかったので今は2人だけだ。

「最近〜 天界と〜 魔界の〜 窓口が一時閉鎖になったからか〜 妖怪とか悪霊とか〜
いっぱい現れるように〜 なったから〜 ここもすごいと〜 思うわ〜〜」
「へ? 閉鎖って、またどうして?」
「なんでも〜 バランスをとるとかで〜 詳しくは知らないわ〜」
「妙神山もっスかね?」
「多分〜 閉鎖じゃないかと〜 思うんだけど〜〜」

冥子も人差し指を口元にやって首をかしげる。その仕草は十代といっていい可憐さがある。
息を飲み込んでから、頭をぶんぶん振って横島はポケットからお札を取り出した。霊視用のお札だ。

「がんばってね〜〜」
「が、がんばります」

冥子がビニールのシートに座りながらにこにこして応援する中、横島の霊視の修行が始まる。

ボン!!
「おわ?!」

一回目でアフロ横島が誕生しているが。













雪之丞は1人、世の無情を感じていた。
足元に今まで持ってきた全財産入りバッグ(といっても数着の服だけ)が転がり、黒い外套が風を受けてゆらめく。

「……ユキノジョウです。迷子になりながら、人食いワニとか、男色天狗とかをまいて、やっと目的地に
ついたとです。でも、でも、扉が固くしまっているとです。ユキノジョウです。ユキノジョウです……」

フ、と斜め下に視線を落とす雪之丞の前に大きな扉が固くしまっており、扉には紙が貼られている。

『一身上の都合で休山します。 管理人より』

「開けろぉ〜〜〜!!!」

爆発して魔装術を展開して扉を蹴るが、あえなく跳ね返される雪之丞だった。








「すんません。お昼までいただいちゃって…」
「いいのよ〜 横島くんのために〜 作ってきたんだから〜〜」

そこかしこにお札のこげたカケラを量産した横島が汚れた顔を冥子からもらったタオルで拭きながら
お礼を言う。対する冥子は満面の笑みだ。

冥子と横島の座った所には、まるでピクニックに来たかの様に広げられているお重の弁当。横島の高校の
屋上でもおなじみの光景だ。
ただし、今日はなんだか色取りが鮮やかだが。

「こら美味いーー!! タンパク質独り占めーーー!!」

誰も取らないというのにバクバク食う横島とにこにこ笑っている冥子。

「森に〜 ピクニックでお弁当なんて〜 デートみたいね〜」
「へ? そ、そうっスね。じゃ〜、この前から俺ら、デートしてるんっスね〜? お邪魔虫が3人程いるけど」
「デートなんて〜……キャ〜〜!」
「………」

顔を赤らめてイヤンイヤンを始めた冥子の姿におキヌの姿をダブらせる横島。

<おキヌちゃんも、時々こうやってトリップするよな…女子高経験者っていうのはこういうモンなのか?>
<デートなんて〜〜 デートなんて〜〜 ……>

見事にすれ違いを起している2人をそぉっと木陰から見つめている瞳に、まだ誰も気付いていない。






冥子の発作(?)も終って、なごやかにお昼を再開した横島だったが、ふと視線を感じた。
冥子の感じではない。もっとこう、殺気に近い視線だ。

おいなりさんを片手にそおっと周りを探る。が、近くに悪霊がいる様に感じない。
最後に冥子を見た横島の眉が上がる。冥子の手には、いつの間にかクビラがいた。
冥子の唇が動く

『う・い(し)・お』

「いい森」という雰囲気でぐるりと見渡しながら後ろを注視すると、そこには小動物の気配がする。
どうやら視線の主はコイツらしい。

視線の主が特定できたところで冥子に視線を戻すと彼女は困った表情をしていた。

<なんで〜 殺気を〜〜 出しているのかしら〜?>

彼女の疑問はありありとわかる。そして、この殺気の種類を感じとるのは冥子には無理だという事もわかっていた。
自分は日頃慣れ親しんだ殺気ではあるのだが。

「さて、修行をはじめましょうか!」
「え? え、ええ〜〜」

手にしたおいなりさんをお重に戻した横島に戸惑いながらもうなずく冥子。
横島がお重を片そうとする冥子に手をふって遮る。

「3時には残りのおいなりさんももらうんで、片付けないでいいです」
「そうなの〜?」

片す手を止めて、数メートル離れた横島の元へと移動すると、横島から合図が送られている事に気付く。

「………今日は〜 普通の霊視の〜 練習だったんだけど〜 これから六道式陰陽術を〜 教えられるわ〜」
「へぇ〜…危なくはないっスよね?」
「危なくはないわよ〜 安心して〜〜」

彼女の「危なくないレベル」というものをこんこんと突き詰めたい気がする横島だったが状況がそれを
許してくれなかった。

ガサ! 

草を掻き分ける音と共に飛翔する小動物の影。その勢いは霊力も使っているらしく、横島はともかく
冥子では避けることも叶わない速さだった。

「檻ぃ〜!」

冥子が霊力を込めた言霊に即座に反応したのは冥子の影から現れようとした式神…ではなくお重だった。

お重そのものはそこにあったが、まるでそこからもう一つのナニカが噴出すように突進した小動物を囲って
正に檻となって動きを封じる。捕まった小動物は暴れるが見た目小鳥のかごはビクともしない。

「普通〜 陰陽術というのは〜 長い呪文を言わなきゃいけないんだけど〜 これだったら形を明確に
意識して〜 言霊で呪に命令すれば〜 形になってくれるのよ〜〜」
「…お重に呪を使っていたんスか…?」
「で〜 あの子ギツネちゃんを〜 どうするの〜 横島くん〜」

半眼の疑問をあっさり無視して問いかけてくる冥子に、横島も意識を切り替える事にする。
これからは、冥子の持ち物に関しても注意しようと肝に念じながら。

一方、捕らわれた小動物もとい子ギツネも慌てていた。

先ほど自分を捕らえようとしていた変な術を使う武人達から巻いてきて、へなちょこな普通の民を脅そうと
したら、こちらで「陰陽術の根幹を理解している陰陽師」にブチ当たってしまったのだから。
陰陽師といえば、国の役人でもある。先ほどの変な武人に差し出されるだろう。

動きの鈍い陰陽師の横にいた男がゆっくりと歩いて来るのに子ギツネは威嚇の声を発する。

「お前、お腹がすいているんだろう?」
「グルルルル」
「その子〜〜 お腹がすいていたの〜〜?」

じりじりと後ろに下がる子ギツネを無視して横島はおいなりさんを一つ目の前にかざす。

ぎゅるるるる…

子ギツネの顔は変わらなかったがお腹は正直だった。その様子に横島は苦笑する。

「ほら、く」

ひょいと子ギツネの目の前においなりさんをかざすと横島の手もろとも子ギツネの口に入ってしまう。

「グルルルル」
「い、いたくない…いたくな…痛いだろッこのヤロー!!」

思わず手を振る横島にやっと噛み付きをやめる子ギツネ。手を振りながら痛がる横島を尻目に冥子が
残りのおいなりさんを皿にのせてそっと子ギツネの前に置く。

感心しながら見る冥子と、式神シュウトラの治療を受けながら見る横島の前でおいなりさんを食べ終わった
子ギツネがフン! と鼻を鳴らす。

「すごい食べっぷりね〜〜」
「よっぽど腹が空いてたんだな〜」

「……感謝なんてしないわよ!」

冥子と横島の言葉に子ギツネが返したかと思うと子ギツネ(とかご)が煙に包まれたかと思うとそこには

「ムキ?! このかごぉぉ〜〜!!」
「おお?! いや! ドキドキなんてしてないぞ〜! 新たな道になんて進まんぞぉ〜!」

鳥かごにぎゅうぎゅう詰めに押し込まれた中学生位の女の子と、何やら地面に頭突きをする横島が現れたのだった。






鳥かごから開放された子ギツネはちょっとバツが悪いような、どこかで見た誰かさんの様にすねた表情を
しておいなりさんとお茶をご馳走になっていた。
子ギツネの視線の先には、修行を再開した横島と冥子がいる。

「もっと〜 発音は〜 明確にしないと〜」
「なんですと?! 呪文は京都弁じゃなきゃいけないんスか?!」
「ちがうわよ〜 落ち着いて〜 横島くん〜」

札を片手に悪戦苦闘している男…横島を見ながら首をかしげる。

「あと〜 少しよ〜 お札も発火は〜 しなくなっているんだから〜」

冥子の言葉通りにお札は発火(アンド爆発)はしなくなったが不良品の様にうんともすんとも言わなく
なっている。ただし、冥子や子ギツネの目から見たらあと少しで正常に作用しそうだった。
 
「くそ〜〜! なんて難い日本語なんや〜〜!! 日本語なのにぃ〜〜!!」
「口がまわらないのね〜 じゃぁ〜 早口言葉から始めましょうか〜 『この餓鬼よく子供(ガキ)食う餓鬼だ』 はい〜」
「……なんスか、ソレ?」

いきなり言われた変な句に横島の目が点になる。
横島の反応にも何処吹く風に冥子はニコニコして疑問に答えた。

「六道女学院で教える早口言葉よ〜 餓鬼の特徴も捉えた〜 良い句でしょ〜 
GS協会お墨付きカルタにもあるわよ〜」
「………そうっスか」

うら若き女子高生達がクラスで先生に言われてそんな早口をみんなで言う状況が目に浮かぶ。なんとも
いえない光景だと思う横島だったが、ここは指導している冥子に従わなければならないだろう。

なにやら不穏な早口言葉をつっかえつっかえ森に向かって吼えまくる横島の横にいた冥子はにっこり笑うと
子ギツネの方へと歩いてくる。
ゆっくりと隣に座る冥子に子ギツネは警戒感でにらみつけた。

「ところで〜 子ギツネちゃんは〜 これからどうするの〜」
「………」
「きっと〜 お母さんとか〜 仲間の方々が〜 探しているんじゃないかと思うんだけど〜」
「………」
「子ギツネちゃんが〜 都会にあこがれる気持ちもわかるわ〜」
「…ちょっと待って!!」
「でも〜 お母さんはきっと声をからして探しているわよ〜 きっと幼馴染さんも兄弟さんも〜」

子ギツネが無視していた冥子に慌てて振り返る。しかし、冥子の目は既にお星様がはりついていた。
きらめく輝きに子ギツネは及び腰になる。

「でも〜 もう少し成長してから〜 外に出たほうがいいと思うのよ〜 そうしたら〜」
「あんた! すんごく勘違いしているわよ!! あたしの歳は1000歳越えてい」
「周りのみんなも〜 納得して送り出してくれると思うのよ〜」
「聞け!!」

ナインテールとしか言いようの無いふさふさとした頭の毛を逆立てるも冥子の語りは治まらない。

「都会は冷たい世知辛い風が吹いているわ〜 悪いことは言わないから森にお帰りなさい〜」
「………ええ、今世知辛い風を受けているわね」

がっくりうなだれた子ギツネに冥子は首をかしげる。そこで横島が慌てて帰って来た。

「冥子ちゃん! なんか仰々しいのがいっぱい現れてきているんスけど!!」

冥子は指差された方向に目を向けると、そこには迷彩服と物々しい装備をした集団が続々と森から現れ
出ている所だった。
彼らはザッザッと足音を揃えて冥子達の方へと移動していた………銃を構えて。

「なんかヤバいっスよ?! 逃げましょう!!」

横島が青ざめながら叫ぶが冥子は動かない。
ぎゅっと子ギツネを抱えながら、瞳をめいいっぱい開けて集団を見ていた。
横島は冥子の前に立ちはだかり、震えながらも栄光の手を発動した。
冥子は、その横島の霊波に我に返り横島の背を見つめた。

<じゅ、銃を構えているのに〜 横島くん〜 怖くないのかしら〜〜?!>

冥子自身は怖いが十二神将がいるので発砲されても多分大丈夫だと思っていた。しかし横島は違う。
栄光の手だって、まだ出していないサイキックソーサーだって本来は弾丸の速さについていける
術ではないのだから。


一方、戦闘集団もとい、自衛隊のメンバーはほっとして3人に近づいていっていた。
民間人と思える若者達が標的を確保してくれたのだ。これであの標的を始末して帰れる。
リーダーが手を上げ口を開いて………

慌てて横島は冥子を抱きしめて背中にサイキックソーサーを展開しようとした。
なにせ彼は軍人ではなく一般のGS見習いだ。銃を向けた軍隊に平然と特攻するだけの勇気は持ち合わせて
いなかった。特攻するよりサイキックソーサーを展開しながら逃げる方を選択した。

冥子は横島の、その青ざめた表情と前方にいる軍人達の光景を見開いた瞳に映していた。
そして、先ほど見た映画のフラッシュバック

「そこの………」
「イヤァァァ!!」

冥子最大の十二神将攻撃が炸裂したのは言うまでもない。
そして、第一犠牲者は冥子の霊波に吹っ飛ばされた横島だったのは言うまでもないことだろう。








ポタポタと頬に落ちた雨に横島は意識を浮上させた。

<う…雨か? は、早く起きないと服が>

あまり洋服を持っていない横島にとって、上着が濡れるというコトは避けたい事態上位に位置するものだった。
なぜかくらくらする感覚を無視して目を開けるとそこには冥子のドアップがあった。

「よかった〜 横島くん〜 無事だったのね〜〜」

冥子の瞳からまた涙がこぼれて横島の頬を濡らす。
それで横島は頬を濡らしているのは雨ではないことに気付いた。

「ごめんなさい〜〜 横島くんも〜 守ろうとしたんだけど〜〜 巻き込んじゃったわ〜〜 頭大丈夫〜〜?」
「だ、大丈夫っスよ」

いつものプッツンに巻き込まれた事を認識した横島が苦笑すると冥子がやっと泣き笑いの表情を見せた。
暴走した時は、たいてい謝っても悪いことをしたという感じを見せなかった冥子が本当に後悔をしている
表情も見せるのはとても珍しい。
しかし、これを見たのは横島だったのでそこは横島なりに解釈をした。

「こ、これは責任とって俺と…横島カンゲキィー!!」

今までのめまいを物ともせずに一気に抱きつこうとしたが、そこには冥子がいなかった。
そのまま地面に己を抱きしめた格好で転がる横島。

一方、冥子も冥子らしく、横島の言葉から一気に気分を変えて今まで気になっていたある物に向かって
歩き出していた。
それは数歩離れた所にある岩だった。
その岩はなぜか

「なんでシッポがあるのかしら〜?」

冥子が言った様に、岩にふさふさのシッポがにょっきり生えている不思議な岩だった。
あまりのシュールさに冥子は首をかしげる。
そこへ復活した横島がたどり着いた。冥子が見つけた不思議生物に横島の眉が上がる。

「………この、日本昔話風情が俺の甘い未来予想図をジャマしたんかぁぁ?! 責任とれ責任!!」

素早く近づいて岩に対して梅干をかます。
すると煙が立ち、晴れたときには梅干をされている小さなキツネが現れた。

「なにするのよ、この変態!! ああああ?!」
「うっさい!! 天罰を黙って受け入れろ!!」
「イタタタタタ!」

この時、横島はお札も(多分)煩悩も使わずに高度な霊視を行っていた。そうでなかったら化けた
キツネのコメカミを正確に把握することができなかっただろう。
 
しばらく天罰? を受けたキツネは横島の手から離れてヘバってしまった。
ぐったりしているキツネに更なる天罰? は、もう目の前まで迫っていた。

「きゃ〜〜 可愛い〜〜 貴方の名前はクンちゃんよ〜〜〜」

ヘバったキツネに良い子良い子していた冥子がキツネの反論を待たずに「呪」を首輪と綱に変えてキツネの
首にかけてしまう。

「やっぱり可愛い〜〜〜 クンちゃんお座りは〜〜」
「私は犬じゃない!!」
「《お・す・わ・り》」
「キャイン?!」

冥子の「呪」に屈服してお座りをするしかない子ギツネだった。








 





数日後。いつもの様に鬼道の授業を受けに来た横島は最近風物詩となった光景を目にしていた。

「クンちゃんお手は〜〜」
「私は犬じゃない! ……キャン!!」

相変わらず座敷犬の芸を仕込む冥子と拒みながらもしてしまう首輪をしている中学生位の少女に
横島は苦笑いしている。

「さ、さすがに冥子はん、それはまずいんとちゃいますか?」
「だって〜 可愛いんですもの〜〜 ねぇ〜 クンちゃ〜〜ん」
「私はクンなんて名前じゃないわよ! タ・マ・モ・よ!!」

顔を赤らめて抗議する子ギツネ…もといタマモだが冥子は相変わらずスルーの様だ。

「それは〜 さすがにタマモちゃんに〜 悪いんじゃないかしら〜〜」

そこにいつの間に現れたか、六道幽子がお茶を片手にのほほんと割り込む。
冥子はともかく、横島と鬼道はド肝を抜かれた。気配も音もさせずに登場したのだから。

<こ、このお人を怒らせたらあかん! 後ろからなにされても後の祭りになりそうや?!>
<この人の前世は猫か?! 着物なのに音もさせずに来るなんて…実は幽霊?!」

混乱からか、変な事をやはり口にしている横島の足をぎゅうっと踏む幽子。
冥子は幽子の登場と同時にマコラに持ち上げられて手足をばたつかせている。

幽子は首にされていた「呪」の首輪を外すとタマモの前に書類を差し出した。

「………契約書〜?」
「ええ〜 貴方の身分を〜 保証するのに〜 冥子の保護下が一番〜 いいと思って〜 でも〜 あの〜
冥子の〜 クセを〜 止めさせたいんだったら〜 事務所のメンバーにしたら〜効果バッチリよ〜〜」
「事務所?」
「GS事務所よ〜 さすがに冥子も〜 自分の社員に〜 パワハラはしないわ〜 それにこれなら〜
貴方も給料もらえるし〜 ………お金、欲しいでしょ〜?」
「う…」

タマモもさすがに昨今の社会の仕組みを理解していた。今は冥子の家でお世話になっているがお金が
あれば、おやつを冥子のおこぼれではなくきつねうどんやおいなりさんが買えるのは魅力的だ。

「どう〜〜?」
「ま、仕方ないわね…って言うより、アンタがアイツの親でしょ?! ちゃんと躾なさい!!」
「無理〜〜」
「こ、この…」
 
いきなり投げ出す幽子にタマモが青筋を立てながらサインをする。
すると、マコラが幽子の支配下から放されて冥子の影へと戻って行った。

「クンちゃん〜 私の所の社員になってくれたのね〜 嬉しいわ〜〜」
「タ・マ・モよ」
「た、タマモちゃんだったわね〜 とにかく嬉しいわ〜」

さすがに冥子はパワハラになる事はしない主義らしく、今度は冥子が我を曲げた。それに満足気に
うなずくタマモを見る2人の男性はタマモとは違う感想を抱いた。

「…これは、理事長の勝ちというべきでっしゃろか? それとも、冥子はんの…」
「いや、冥子ちゃんは天然だと思うぞ…恐るべきは理事長の手腕じゃないか…?」

あの冥子ちゃんの事務所にあんなに自然に入らされるとは…と驚きの視線で見ている横島を鬼道は
複雑な目で見る。
なにせ、横島だって今は冥子の事務所のメンバーになっているのだから。


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