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GS横島 剣客浪漫譚

教室漂流!!(1)


投稿者名:いぷしろん
投稿日時:06/ 5/29

 いつの間にやら身につけていた霊波刀捌きのせいか、過去色々な人間に誤解された事だが、横島には剣術の才能などというものは一切無い。それはもう、どこぞの修行馬鹿二人が呆れ感心するほどに、無い。金輪際無い。全くもって皆無である。
 普段から切り札の文珠に頼り切ってどうでもいい局面でもポンポン文珠を使う、という横島の除霊スタイルを見るに見かねた小竜姫(何故そんな事を知っていたのかは、まぁ、言わぬが華であろう)が、パピリオに会いにそこそこ定期的に妙神山を訪れていた横島に対して栄光の手やサイキックソーサーを使用した戦闘法を教授しようと思い立ったのは、まぁ、普段の横島の姿からすればある意味至極当然の事であった。
 だがしかしである。洋の東西を問わず、古流剣術から軍隊式の最近の物まで様々な剣術剣法を試してみた(試させられたとも言う)横島だが、そのどれもが全くモノにならなかった。それも、ハヌマンや小竜姫の直々の指南を受けて、である。本人のやる気にもいささか問題があったとは言え、戦闘中の咄嗟の機転などには誰もを驚かせるような才覚を見せる男だけに、いかに剣術方面での才能が無かったかがわかるだろう。
 かと言って、文珠に頼りきった戦い方では文珠が切れた時に危険すぎる。やはり、切り札という物はここぞと言うべき時に切るものであり、文珠はまさしく横島の切り札だった。どうでもいい事にまで文珠を使うのは、控えめに言っても勿体無い。
 となると、霊波刀をある程度上手く使いこなせるようになる必要性がある。サイキックソーサーではいまいち接近戦に難がある以上、これはどうしようもない。
 ただし、それが某修行馬鹿二名のおかげでいかにして霊波刀による近接戦闘を極めるかというものに変質していったのは、横島にとってある意味予想通りで同時にかなり予想外の事だったが。……まぁ、小竜姫やパピリオが止めてくれるなどと期待した横島がアホなだけである。
 いや、それはともかくとしてだ。二人と一柱による徹底的な剣術修行一週間とちょっとの結果、横島にはそっち方面の才能は完膚なきまでに壊滅している事が発覚した訳である。

 ならばどうするか?

 答えは簡単な事だ。才能が無いというのならば、才能など全く関係の無い剣術を修めればよい。戦う者が全て才能溢れる者であるはずも無い以上、それは必ずある。
 ……例えば、野太刀自顕流のような。
 もちろん、かの剣術とて極みに達するのに才能が必要ないなどとは言わない。いやむしろ、世間一般に知られているほど単純なだけの剣術でもないのが実際の所だ。
 ……だが、例え凡人でも幾万幾億の打ち込みを重ねれば極みに届きうるというその方法論が存在しているのも、また一つの事実であるとは言えないだろうか?
 そしてそれは、凡人が天才を越える方法の一つだろう。ただ一つを粛々と積み重ね、そのただ一つをもって天が与えた才を上回ってみせる……。横島のキャラとは激しくズレがある思想だというツッコミもあるが、この際そんな事は脇に置いておく。要は、頂へ至る道さえあればよいのだ。
 たまたま鹿児島までの出張に行っていた雪之丞が帰りの手土産にそんな話を持ち帰ってきた事をきっかけとして、横島の地獄の鍛錬の日々が始まったのだ。
 どれぐらい激しく厳しかったかと言うと、アシュタロス戦時の美神の特訓にハヌマンを足したくらいだろうか。ちなみに、その地獄の日々は横島が色々な物――っていうか小竜姫の色香に迷いまくったおかげで、断続的に約半年に渡った事を追記しておく。





 つまり何が言いたいのかと言うと、そんな地獄の鍛錬を経て鍛え上げられた横島の肉体と今の横島の肉体には天と地ほどの開きがある、という事である。……当然、剣の技量もダダ下がりになる訳で。例えて言うなら、武器がただの長剣からちょっとばかり名の知れた魔剣にグレードアップした代わりにレベルが50くらい下がったようなものか。
 そんな訳で、日本GS界きっての剣豪だった男は、今やそこら辺を歩いている剣道有段者以下の腕前まで落ちぶれているのであった。これもある意味、彼らしいと言えば彼らしかったが。





 GS横島 剣客浪漫譚(3) 〜教室漂流!!(1)〜





「ふっ……。学校か……、久しぶりだぜ」

 いやー、マジに久しぶりだな。卒業以来だから、ほぼ二年ぶりか?
 っつーか、「前回」あれだけ苦労してなおかつ地獄の底も巡り歩くくらいして卒業したのに「もう一回♪」なこの状況、多少思うところはあるんだけど……。
 ま、なっちゃったもんは仕方ないから、今回はせめて地獄巡りだけは回避する方向で頑張るか。
 となると、今回は出席気をつけておかないとなー。いやほんと、冗談抜きでダブるのはもう勘弁だわ。……そういや、前回は修学旅行にも行きそびれたし、今回こそは行きたいな。
 あ、ちなみにカバンの中から袱紗がはみ出ているところからも分かるとおり、シメサバ丸は同伴していたりする。
 なにしろ、自宅に置いておいて盗まれでもしたら大事だ。責任問題もあるが、まず確実に美神さんに容赦無くシバキ倒される。……場合によっては、それが俺の命日になっているかもしれないな。
 ちなみに、俺の出現を見て周囲はざわついているが、そんな反応は敢えてスルーしていたりする。クラスも学年も違う奴らの反応にまで一々反応していたら身がもたない。

『ふむ、拙者は『がっこう』なるものは知らぬが、寺子屋のような物だと考えればいいのか?』
「まぁ、似たようなもんだ。……けど、学校の中では黙ってろよ。絶対騒ぎになるからな」
『承知した。……しかし、これだけ居るのならば誰か一人くらいこっそりと斬ってもバレないのではないか?』
「んなわけあるかぁっ!」

 まぁ、カバンの中からこんな声が飛んできたら周りのざわめきどころではないんだけど。

「違うわ! 変な宗教に引っ掛かってインドで行方不明に――」
「いや、俺が聞いた話だと……」
「お前らも本人の前である事ない事好き勝手うわさしてんじゃねーっ!」

 あー、こんなノリも久しぶり……でもないか?
 俺って何だかなー。





   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※






 ――2−5教室


 そして、俺はその机を見た時思わず硬直する事になる。というか正直、学校出てきていきなりこんな展開は予想してませんぜ?
 やたらと年季の入った古い机に、微かに漏れ出ている妖気。怪しいその机の正体は、言わずと知れた愛子その人(?)だ。
 見慣れたその姿は間違いない。驚いたがしかし、表面上は怪しくないように自然に振舞う俺。心臓バックンバックンだが、慌てて他の人間が飲み込まれようものなら事態がややこしくなる。そんな面倒な展開は、マジで勘弁願いたい。
 まぁ、これから愛子の中に文字通り飲み込まれてエライ目に遭うのは確定っぽいけど。ていうか、学校出てきて初っ端からコレは、ないんじゃないかなぁ……。もうどーでもいーけどさ。

「なんだ? 俺の机、やたら古いのに変わってるけど……」
「あれ? ホントだ」
「こーいうの、『イジメ』って言うんじゃない?」

 前回はここで無造作に机の中を覗き込んで飲み込まれたが、今回は俺もタダで飲み込まれるつもりは無い。素早くカバンの中に手を突っ込み、袱紗からシメサバ丸を引き抜く。

『お? 斬るのか? 斬ってよいのか?』
「いきなり物騒な事を言ってるんじゃ――どわああぁっ!」


                               ――バグン


 こ、心の準備くらいさせろやーっ!





   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※





 で、抵抗するも何もなくあっさりと飲み込まれましたです、ハイ。
 少しばかり気合を入れて飲み込まれたおかげか、今回は気を失って倒れることも無く無事(?)に異界空間の中へ移転していた。突然の事に、さすがのシメサバ丸も驚いているようだけど……。
 まぁ、そりゃあ二回目でもなけりゃびっくりするわな、フツー。

『これは……?』
「異界空間、だな。さっきの妖怪の腹ん中に閉じ込められたってところか……。そうなんだろう? そこにいる誰かさん」

 眼光鋭く愛子に視線を向ける。お、実は俺って何気に格好良かったりする?

「ええ、そうよ。……いつ気付いたの?」
「別に、隠れてる訳でもないしそんな所に堂々と立ってたら気付かない方がおかしいんじゃないか? あと、ここが化け物の腹の中だって事に気付いた事を言ってるのなら、窓の外を見れば一発で分かるしな」
『もっともな事だな』

 と、ここでようやく喋る刀という怪奇現象に気が付いたのだろう。ずざざざ、と顔を引き攣らせて後ずさる愛子。……まぁ、自分の腹の中であんなもんぶん回されたらどんな事になるか分かったもんじゃないだろーし、その気持ちは理解できるが。

「あー、そんなに怯える事は無いと思うぞ。一応無害な奴だし。ちょっとバーサーカー入ってるけど」
『うむ。……ところで、こやつは斬ってもよいのか? さっきからこう、斬りたくてうずうずしてるのだが』
「いきなりそういう事を言い出すんじゃねぇっ! あ〜、そっちもそんなに怯えなくていいから、な? 重ねて言うけど、言動がちょっと危ないだけだから」

 そう言ってみるけど、愛子にしてみれば説得力は皆無だろう。というより、普通ならあまりお近づきにはなりたくないわな。
 あの顔は、こんなオマケが付いてくるなんて知らなかったわよ〜、と内心では泣きそうになっている顔だな。まぁ、一度取り込んでしまった以上下手に放り出せば問答無用で除霊されかねないし……、愛子としちゃあどーしよーもないか?
 まさに前門の虎、後門の狼ってやつだな。……この場合、半ば以上自業自得のような気がしないでもないが。

「そ、それだけで十分怖いわよっ……! あぁっ、こんなに問題の多そうな人が来たのは初めてだわ」
「問題が多くて悪かったな」

 多少なりとも自覚はあるけど、どーしよーもないだろ。
 っと、何か廊下から人が来てるぞ?

「まぁまぁ、これも一つの個性だと思えばいいじゃないか、委員長」
「高松くん……」

 喋る刀持ったいかにも危なそうな奴を個性の一言で済ませてしまうとは、意外と豪の者ではなかろーか。やるな、高松君。
 隣では愛子が非行少年を皆で改心させるのも青春よねっ、と燃えていたりもするが。いや、愛子が燃えてるのはいつもの事だから別にいいんだけどさ、非行少年てのはちょっと……。あー、まぁ、あんまり否定できる材料が無いのはもう苦笑するしかないか。

「来たまえ、仲間達を紹介しよう」
「……なんつーか、前向きだよなぁ」

 実に朗らかに新入生として歓迎されてしまった俺は、今のところ展開に押し流されつつ苦笑するしかないのだった。





   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※





「それでは、第10983回ホームルームを始めます! 議題は『新入生の歓迎及び自己紹介と、よりよい学園を目指して』ですっ!」

 ちなみにこの回数、一日一回ホームルームを行っているとすれば一年365日計算で……ざっと30年分くらいか? まぁ、300×30=9000だから、そんなもんだろ。
 半ば以上操られているとは言え、よく飽きないものだ。普通の人間なら半月も経たない内に飽きるだろう。つーか、俺なら飽きる。間違いないね。

「よくもまぁ、それだけ面白くも無いホームルームを延々続けられるなぁ……。もうちょっと他にやる事は無いのか? 皆で水泳したりサッカーしたりバスケしたり水泳したりバレーしたり水泳したり。水球でもいいな」
「……なんでそんなにプールにこだわるのかは知らないけど、それこそ飽きるほどやっているわよ。私達が何年ここにいると思ってるの?」
「ホームルームの回数から計算すると……、ざっと30年くらいか」
「ここではあまり時間の概念は意味を成さないが、この愛子クンが一番古株でね。既にここに閉じ込められて32年になるらしい」
「32年、ね……」

 よく考えてみれば32年もこんな事を続けてた愛子のパワーはハンパじゃないんだよな……。俺と美神さんであっさり終止符を打っちまったけど。

「何か言いたい事があるなら手を挙げて」
「いや、おおかたポピュラーなスポーツを一通りやり尽くしたのなら、今は何が流行ってるのかな、って気になっただけだ」
「ああ、それなら今はクリケットなんかをよくやるね」
「クリケットぉ? なんじゃそら」
「確かにマイナーなスポーツだが、やってみると意外と面白いものだよ」

 外でやっているから一歩間違えば迷子になってしまうのだけどね、と何でもない事のように言う高松くん。しかし、異界化空間で迷子になるのはかなり拙い気がするのは気のせいだろーか?
 こいつもなんかズレてるんだよなぁ、としみじみ思うけど、俺もあんまり人の事を言えない事に気付いて少しばかり凹んでみたり。人生ギャグ一直線だしなぁ。

「そろそろホームルームに戻ってもいいかしら、二人とも?」
「ああ、構わないよ」
「俺も別に――」
『主殿、前方の空間が歪み始めておるぞ! 何か来る!』

 俺のセリフを遮ってのシメサバ丸の警告に、心の中でため息を吐きつつシメサバ丸の柄に手をかけた。
 どうせこっちに来るのは美神さんだと“知って”いるしなぁ。もちろん、今ここでシメサバ丸を抜く事なんて全く考えていない。美神さんが来たら後は適当に任せればどうにでもなるからなー。
 だから、いきなり現れたその姿には心底驚いた。

「きゃぁっ!」
「お、おキヌちゃん!?」

 え、マジ? そんなんアリ?




〜続く〜


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