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GS横島 剣客浪漫譚

るろうに横島?!


投稿者名:いぷしろん
投稿日時:06/ 5/23

 ――野太刀自顕流。

 幕末期に薩摩藩で奨励された剣術であり、同じ時期においても数少なかった戦乱の時代の香りを色濃く残した古流剣術である。元々薩摩藩では示現流が主流だったために長く不遇の時代が続いたが、幕末期に至ってその壮絶無比の攻撃力を買われ、文久元年(1861年)以降に藩に奨励されるようになった。
 その実態は、一言で言えば豪快な剣術である。基本にして究極の技が、怪鳥音に例えられる気合の声を上げながら一気呵成に目前の敵を叩き斬り伏せる、という実に単純かつ豪快な物なのだから。
 防御の事など始めから考えられていない――ともすれば目前の敵以外の事すら考慮の外に置く――という一歩間違えば特攻同然の剣術なのだが、幕末期に他の剣客から最も恐れられた超実戦派剣術である。
 なにせ、その攻撃力は凄まじいの一言に尽きる。生半可な防御などしようものなら、その防御ごと斬られる。構えた刀ごと敵を両断した、なんて伝説が残っている事からその攻撃力は推して知るべし。
 その代わり、長手数の打ち合いにおける攻防――特に防御という概念――という点では他の流派に劣るため、この流派の使い手と相対した志士達は常に初太刀を回避する事に腐心していた。必殺の初太刀を外さなければ話にならないという理由もあったが、初太刀さえ外せばその後の攻防で有利になるからだった。もちろん、相当に難しい事だったのだが。

 ちなみに、横島の操る野太刀自顕流は、横島なりのアレンジが加わっていたりする。サイキックソーサーを利用しての防御や、霊力を利用しての肉体能力の水増し等である。というか、そうでもなければハヌマンや雪之丞との鍛錬なんぞやってられないわけで。
 おそらく、日本GS業界でも一二を争う剣客なのではなかろうかという腕前を持っていた――そう、「持っていた」――横島なのだった。





 GS横島 剣客浪漫譚(2) 〜るろうに横島?!〜





 本来なら金成木財閥のパーティに呼ばれているはずのこの夜、俺達、美神所霊事務所の三人は何故か除霊現場にコブラで到着していた。……いやまぁ、俺の方もそーいやそんな事もあったっけっていう程度の記憶しかないどうでもいい事件なんだけれど。
 それはともかく、美神さんが仕事をダシにこれ幸いとパーティへの出席を丁重に断った理由。それは――

「美神さん、マジでやるんすか?」
「もちろん。雇い主としては、丁稚の大言壮語がどこまで信用できるか見ておかないとね」

 ……こういう理由だったり。
 その裏にはもちろん、除霊件数の引き受け件数アップとお札や精霊石等にかかる費用の削減という魂胆があるのだろうけど。……まぁ、一枚数百万から数千万が相場のお札、一個数億はする精霊石といったアイテムの代わりが時給255円の丁稚で済ませられるというのなら、美神さんにとってこれほどボロい事も無い訳で。
 もちろん、ホルダーにお札を数枚忍ばせ、神通棍も手に持ってはいる。美神さんとしては当然の用心だ。例え相手が悪霊が一体だけと情報にあっても、備えあれば憂い無しなのだから。
 そしてそれと同時に、よほどのピンチにでもならない限り俺の手助けはしないという方針も決めてある。最初から美神さんが動けば確実に除霊出来るだけに、そうでもしないと俺の実力の程が分からないとの事。

『くっくっく、この夜をどれほど待ちわびた事か……! 斬れる、斬れるぞぉーっ! もはや大手を振って斬って斬って斬りまくれるのだ! 往くぞ我が主よ、獲物は逃さん』
「少しは落ち着けこら。それじゃタダの危ない刀じゃねーか」
「危ないも何も、本来あんたの言うとおりの危険な妖刀なのよっ!」

 うおぅっ!?
 ちょ、神通棍のツッコミはマジきつい……。あ、なんか流血してる。これも久しぶりか?

「じゃれあってないでさっさと行くわよ!」
『うむ』
「へーい」

 ……ちなみに、額から流血しながら刀持って美神さんの後ろを付いて行く俺を見て、おキヌちゃんが引きつった笑みを浮かべていたり。
 いやまぁ、どう見ても落ち武者そのものってカッコだろうし、下手な悪霊より見た目怖い自信はあるんだけどさ。





   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※






 で、肝心の今回の除霊現場はといえば。バブルが弾けた後に業者が夜逃げして放置された幽霊ビルってやつなんだな、これが。
 この類の物件にはよくある事だけど、例に漏れずこのビルにも怪談話というのは幾つかあった。……問題は、その怪談がヨタ話などではなく本物だったという事で。

「で、コレがその今回の相手ね」
「けけけーっ!」

 がんがんと壁に頭を打ち付けるその悪霊を見て、思わずげっそりとする。以前痛い目にあった時の事を思い出したのか、美神さんの表情も微妙に嫌そうだ。
 ……つーか、こういうタイプの悪霊が一番ウザいしタチも悪いんだよなぁ。

「……またこんな奴っすか」
「知性を失ってる悪霊っていうのは結構多いものよ。ほら、もたもたしてるとこっちに来るわよ!」

 美神さんが自分の後ろで神通棍を構えるのを尻目に見ながら、シメサバ丸をすっと持ち上げる。
 この構えは、時代劇なんかで見る普通の構えとはかなり異なった物だ。
 まず、握りからして違う。右利きの場合、普通は右手が上で左手が下――例えるなら野球の右バッターのような握りで握るのが普通なのだが、俺の握りはその逆なのだ。
 これは、細かいコントロールを捨てて全力で刀を振り下ろすための握りだ。
 そして、その刀を右肘を引いた状態で顔の横に構える。右の視界を自ら殺すこの構え、他の流派ならまずしない構えらしいんだが……、この場合はこれでいい。
 右の視界を代償に、渾身の一撃を正面の悪霊に叩き込むのが目的なのだから。
 視界? 細かい制御? どーせ俺にそんな高度な事に気配りしながら刀ぶん回すなんて出来るはずがない。なら、俺に出来る事を、出来る範囲で――全力でやるだけだ!

「ふーん、よく分かんないけど様にはなってるかしら。……なんだか横島クンじゃないみたいね」

 珍しく俺の事を感心しながら見ている美神さんの前で、突っ込んできた悪霊と俺が交錯する!

「けけけーっ!」
「おんどりゃあーっ!」


――斬!


 よしっ!
 すれ違いざまの一閃は、確実に悪霊を捉えた。自分に向かって振り下ろされてくる悪霊の腕ごと本体を叩き斬った俺自身は無傷。決め台詞を吐く余裕まである。

「……ふっ。また、つまらぬものを斬ってしまった」
『まだだ、手応えが浅いぞ!』
「何ですとーっ?!」

 ありえねぇ! とばかりに振り返った俺の目に映るのは、右腕を斬り落とされて井桁マークを額に浮かべる悪霊の姿である。もちろん、奴の目標はただ一人。……つまり俺だけどなっ!

「けけーっ!!」

 オンドレなにさらしとんのじゃー! とばかりに突進してくる悪霊に対して、俺は構えも何もあったものではない。つか、無理。あれでダメだったらちょっと無理っすよ。

「せ、戦術的撤退ー!」

 当然逃げる。それはもうゴキブリのよーにわき目も振らずに一目散に逃げる。そして、その俺をこれまたわき目も振らずに追いかける悪霊。

「横島さーん!」
「……しょせん、横島クンは横島クンか」

 後ろから二人の声を聞きながら、全力疾走。いやだって今止まったら確実に死ぬってばよ……。っつーか、呆れた声を上げてる間があったら助けてくださいよ美神さーんっ!





   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※






 しかしなぁ……。これでも一応、「未来」じゃ雪之丞の奴とピートと三人で霊的近接戦闘最強コンビ+1なんて呼ばれてた腕はあるんだけどな。……いやまぁ、俺はほとんど嫌々っつうか否応無しっつうか、気付いたらそんなんなってただけだけど。
 ……だってなぁ、パピリオに会いに行くたび行くたび修業しろってうっさいんだもんなぁ、あのサル。パピリオはパピリオで俺と一緒なら修業するとか言い出すし。
 いやいや、今はそれどころじゃないな。まず、あの程度の雑霊程度がぶった斬れてないなんて、感覚に違和感があるにも程がありましょうぞっ、と。

「おかしい、あの手応えなら腕ごと本体叩き斬れてるはずなのに……」
『拙者の霊格が低いわけでもないぞ。右腕はきっちり斬ったのだからな』
「けけーっ!」

 後ろから迫りくる悪霊から逃げながらもシメサバ丸とそんな会話を交わす俺。……実は結構余裕あるだろとか思ったりもしないでもないが、状況的には余裕ナッシング。

『ま、鍛錬不足が妥当なところだろう。踏み込みが若干浅かったようだしな。これが終わったら精進せいよ』
「ちくしょー……、やっぱそれしかないか。あんまり気は乗らないんだけどなぁ」

 かつての日々に思いを馳せ、げっそりとした表情を浮かべる。俺の努力っていったい……、てなもんである。

『贅沢を言うでない。お主がよほどの天才なら話は別だが、そうでないなら高い実力を得るにはそれ相応の鍛錬が必要なのは必定。楽をしようなどという考えは捨てる事だな』
「なんか、お前って知り合いのサ――じじいに良く似てるな。ガラにも無く正論吐きやがって」
『はっはっは。お主の腕が良くなればそれだけ獲物にありつけるからな』
「お前さてはそっちが本音かーっ!」

 俺の全力ツッコミに対し、双方の利害が一致して実に合理的ではないか、などとうそぶくシメサバ丸。その通りっちゃその通りだけどさ、はいまいち納得がいかないと言うか何と言うか。

「……で、後ろの奴はどうするよ?」
『拙者に聞くな』

 重ねて言うが、俺らの後ろからは悪霊がものすんごい形相で追いかけてきている。ちらっと後ろを振り返った俺は、そんな悪霊を見て泣きそうになってたり。
 こっちの体力だって無限にあるわけじゃねーんだぞっ! つーことはだ、いつか絶対追いつかれるって事じゃねぇか!

「マジで何か手は無いのか? このままじゃ殺されるっ」
『無い事も無いが……』

 積もった埃を巻き上げながら角を曲がったところで、俺は顔に縦線入れて立ち止まった。
 そこには、完全無欠の行き止まりがあった。崩れた瓦礫を何とかすれば直進できるだろうが、そんな暇があるはずも無く。そして、この袋小路を飛び出して別方向に逃げるには悪霊との間合いが近すぎる。加速しきれないうちに、背中からばっさりやられるのは目に見えている。
 典型的な、逃げ場無しの状況だ。言い換えれば、絶体絶命とも言う。忠ちゃん大ピンチっ、てかよっ!

「あるなら何とかしてくれっ!」
『なら、少しばかり身体を借りるぞ』
「へ?」

 一言でもって身体を乗っ取られる。実に簡単に身体の制御を奪われた事に間抜けな声を出す俺だが、そんな程度で済むはずも無く。
 くるりとターンして悪霊とご対面、だ。もちろん、そんな心の準備なんて出来ているはずが無いが、そんな事は関係ない。ついでに言えばターンした瞬間に足首の筋を捻って激痛なのだが、やっぱりそんな事も関係ない。

「のわーっ?!」
『往くぞ、悪霊。秘剣――』
「けけけーっ!!」


――斬……


『――不動剣』
「けけっ?!」

 カウンター気味に入った斬撃で胴を真っ二つに両断される悪霊。それまでの突進の勢いで壁に激突し、そのまま消滅する。壁をすり抜けた訳ではなく完全に祓われたようで、それまで現場に漂っていた瘴気もかなり薄くなっている。この残りかすのような瘴気を祓ってしまえば、除霊は終了だ。
 ……っつーかそんな事はどうでもいい! 痛い痛いイデデデデデデデデ!!

『生きておるか? 肉を切らせて骨を絶つ、と言うには少しばかり手傷は深かったかもしれんが』
「こ、このやろ……。咄嗟にソーサー張ってなかったら心臓抉り取られてたぞ……」

 どうやら、肉体的な制御と霊能力の制御は別枠だったらしい。でなければ今頃俺は即座に死ぬと書いて即死で昇天していたのだから、実に運が良かった。
 足首その他諸々の関節が滅茶苦茶痛いけどなっ!

『なに、無事だったのならそれでいいではないか』
「いい訳無いだろ……」

 ばったりと倒れ伏している俺のシャツの胸元はさっくりと切れている。とっさにサイキックソーサーを胸部に展開したから良かったものの、まともに受けていれば致命傷の一撃だ。
 ちなみに、手以外の部位にソーサーを展開できるようになったそもそもの原因も、雪之丞と一緒に修業してた時にハヌマンの如意棒で心臓をぶち抜かれかけたからだったりする。いやー、あん時はマジで死んだと思ったね。
 あれ? 俺ってこんなんばっかりな気が……。

「横島クン、生きてるー?」
「大丈夫ですか、横島さん?」

 すぐそこの角からひょっこりと顔を出した二人に、思いっきり恨めしそうな視線を向ける。

「全部終わってから助けに来るなんて遅いっすよ……」
「その様子だと撃退できたみたいね。やるじゃない、横島クンにしては」
「すごいですねー」

 色々と言いたい事は多々あるんだけど、既に口を開くのも億劫な状態だったりする。っつーか、痛いんだってばよ。マジで。今なら重度のリウマチに苦しむじーちゃんばーちゃんの気持ちが分かるかもしれんくらいに。

「で、何時まで寝転がってる気よ? これで終わりじゃないのよ」
「寝転がってるんじゃなくて倒れ伏してるんです! 筋捻って立てないんすよ!」

 変な捻り方をしたりはしていないが、だからといってすぐ立てるわけでもない。でなければ誰が好き好んでこんな埃っぽい所に寝転がるか。

「ふーん……。じゃあ、しばらくそのままでいいわ。私の方も最後の始末があるから、まだ帰らないし。おキヌちゃん、何かあったらすぐ知らせてね」
「はーい」
「あのー、頑張った俺にご褒美の膝枕とかご褒美のキスとか無いんすか?」
「まだ仕事が残ってるのにあるわけ無いでしょ、そんなもの。じゃ、後よろしくね、おキヌちゃん」

 言いたい事を言い放つと、俺が何か言う前にさっさとビル内の他のポイントへと移動する美神さん。目が¥マークになっていたりするところをみると、どーせ脳内では8千万のお札と時給255円の俺が天秤にかけられてカッコーンと俺が上に吹っ飛んでいたりするんだろーな。
 つまり、今現在美神さんの認識では俺の事なんぞアウトオブ眼中という事だ。放っておけばスキップしだしそうな足取りで立ち去っていく美神さんを、俺は目の幅涙を流しつつ見送るのであった。
 何回も言うようだけど、マジで結構痛いんだってば。……まぁ最初に比べりゃマシになってきたけどさ。

「うぅ……。今更だけど、俺の扱いってかなり酷いんじゃないか?」
「でも、結構かっこよかったですよ、横島さん! ……最初のうちだけでしたけど」
「微妙なフォローありがと、おキヌちゃん」

 おキヌちゃん、それってフォローになってそうでフォローできてないぞー……。

『ふぅ……、馬鹿ばかりじゃな』

 んなこたぁ分かってるからほっといてくれ……。




〜続く〜


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