椎名作品二次創作小説投稿広場

GS冥子？

リセット

　ルシオラ・・・
　俺は彼女を助けることが出来なかった・・・助けに戻ったつもりが逆に助けられてしまった。

　『魔族には転生は別れじゃないのよ』
　ルシオラ。それは人間には大きすぎるよ。

　『これでハッピーエンドにしない？』
　美神さん・・・貴方はそれで納得できるんですか？

　あの時は確かにそう思い納得しようとした。
生まれてきた子供をルシオラを精一杯幸せにしようと思った。
　でも、時がたつにつれていつも通りの日常になるにつれて、どんどん彼女の存在が忘れられなくなっていく。
　まるで時間が戻ったかのように過ぎていく平穏な日々。
その合間に思い出すのは彼女のことだった。
　何もかもが元通りになって。
　平和になればなるほど、なぜ彼女だけが居ないのかと考えてしまう。
　前のように馬鹿をやってもなぜか心は満たされなかった。



　「美神さん・・・やっぱ俺ルシオラを自分の子供として生むことは出来ません」
　彼が最後に取った一つの小瓶。
そのラベルには“時空消滅内服液”と書かれていた。
　彼女のことで最初に頼ったカオスのじいさんの所から拝借してきたものだ。
　じいさんなら、ルシオラを何とか子供ではなくほかの方法で復活させる方法を見つけ出してくれるかもしれないとそう思って。
　だが、結果は火を見るよりも明らかだった。
　「後百年、千年以内には復活を」
　やっぱりあいつに頼ったのは間違いだった。
そもそも不老不死のあいつと俺とでは時間の感覚が違いすぎる。
　何よりあのボケた頭じゃいつまでたっても研究は進みそうにない。
　時間逆行も論外だ。
　体長を最後に時間移動は全面的に禁止されて俺が彼女を助けるために戻ることなど許してはくれない。
　強行すれば、神魔族から直に追っ手がかかるだろう。
　そうなれば彼女を助けるところじゃない。
　せっかくアシュタロスを倒したのに俺が時間を狂戻って変にわせると次はどうなるか分からない。
　「ルシオラ・・・本当にごめん」
どうして俺はあの時世界よりも彼女を選ぶことが出来なかったのだろうか？
何度もそう考えてしまう自分がそこにいた。
　これを飲めば誰も俺が居た記憶など残らない・・・誰も悲しむことは無い。
　俺は、小瓶の中身を一気に飲み干す・・・・・・

　バタン　
　「横島さん！！　何をやっているんですか！？」
　事務所の扉を開けて勢いよくオキヌちゃんが飛び込んできた。
　急いで俺から瓶を取り上げるがすでに手遅れだ。
　（ごめんオキヌちゃん・・・本当にごめん、でもこれもほんのわずかだから直に俺のことは誰も思い出せなくなるから）
　「ちょっと！！　横島クンこれを飲みなさい！！」
　オキヌちゃんの悲鳴に飛んできた美神さんが中和剤を飲ませてくれるが、
　（無駄ですよ、だって俺にはもう生きる意志がないんですから）
　だんだんと二人の声が遠のいていく。
体がもうほとんど消えかかっていた。
「みんな・・・本当に・・（ゴメン）」
全ての言葉を言い終える前に俺はこの時間から消滅した。
中和剤のおかげでその流れは遅くなっているが直に決着はつく。



気がついたとき俺は中学の制服を着て地面に倒れていた。
これからゆっくりと時間をさかのぼっていき最後には俺という存在そのものが消滅される。
「ひどいじゃないですか美上さん・・・最後くらい楽にさせてくださいよ」
次の移動が始まるまで何もやる気は起きなかったが、最後にもう一度ルシオラと見たあの夕日をと思いゆっくりと立ち上がる。



東京タワーに着いたとき夕日はすでに沈みかけていた。
そして俺に残された時間もほとんどない。
「ルシオラ・・・」
「あら〜こんなところに〜人が居るなんて〜めずらしいですぅ〜」
どこかで聞いたことのある声だが、精根つき果てている俺にはいまさらどうでもいい。
夕日の逆光でその姿は確認できないがその姿はどこか懐かしい彼女に似ていた。
「なにか〜いやなことでもありましたか〜」
妙に間延びしたしゃべり方だった。
「わたしも〜よくここにくるんです〜お母様に〜怒られたときとかそんなときにココに来ると〜とっても元気になるんです〜」
まったく返事を返さない俺を無視して彼女はしゃべる続ける。
「あなたも〜ここにいれば〜きっとまた元気になりますよ〜」
そういって近くに寄ってきてそばに座った。
そのとき一瞬見えた彼女の笑顔になぜか俺はルシオラを重ねてしまった、彼女がココに居るはずがないのに。
「きゃぁあああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜！！！　あなた〜体が〜〜〜」
とうとう時間がやってきたようだ、次は何時の時間まで戻るか検討もつかないが、どうせならこのまま一気に。
「どうしたんですか〜〜〜しっかりしてくださ〜い〜〜〜」
（俺にはもう時間が無いんです。お願いだから泣かないで下さい）
ココまで来て誰かを泣かしてしまう自分がとても恨めしい。
そして、薄っすらと映る彼女の涙がとてもつらかった。
「死なないで下さい」
「ルシオラ・・・ぐぁあああああああああああああああああああああああああ」
彼女の言葉にかつてのルシオラからの言葉がフラッシュバックする。
（私たち、何もなくしていない）
（ルシオラ・・・俺は死んではいけない・・・）
「がぁあああああああああああああああああああああああああああああああ」
消えていく体を前に霊力を最大まで高め抵抗するが、時空消滅内服液の前ではまったく効果がない。
（いつかまた後悔するかもしれない。この悲しみにつぶされるときが来るかもしれない。それでも俺は、もう二度とルシオラのために自ら死は選ばない！）
「ルシオラのために俺はッーーー！！！」
今にも泣きそうになる目の前の彼女にルシオラの姿が重なる。
（俺はもう後悔はしないッ！！！）
中学生の肉体では霊力はほとんど無いに等しい。それでもありったけの力を使って右手のその力を集めていく。
（出た！！）
一個だけだが確かに文殊を作ることが出来た。
これなら・・・
すでに右手の手首まで体が消えかかっているがまだ・・・
文殊に言葉をこめようとした瞬間・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
俺の意識はそこで途切れた。
ただ、最後に見えた彼女の顔は夕日に照らされながらとても美しかった。
（ごめんルシオラ俺はやっぱり弱かった・・・・・）