世界的にとても希少な能力、ネクロマンサー。オカルトGメンにはその能力者が数名登録されている。
その中に、ここ最近で急速に力をつけ、Gメン内部で不動の地位を得つつある者がいた。
彼女の名は氷室キヌ。
その力と美貌、そしてがめつさで、世界的に有名な、やがて20世紀最高とも呼ばれるGS故・美神令子の除霊事務所所員として活動していたと言う輝かしい経歴をもつ、元幽霊さんである。
決して広いとはいえないオカGの社員寮。その一室の寝室。
控えめな装飾と家具に飾られたその部屋は、まだ明かりは無く、主の規則正しい寝息のみが響いていた。
ぴぴぴぴ・・・
まどろみの中に響き渡る電子音。
心地よい浅い眠りと、残酷な現実の境界線から、確実に現実方面へと主人をいざなう悪魔の音色。
ぴぴぴぴ・・・
常人(特にあまり真面目ではない者)は、ここで諸悪の根源たる目覚し時計のスイッチを止め、再び眠りについてしまうところだが、いまベットの中でもぞもぞと動く女性はそうではなかった。
ぴぴぴぴ・・・
「う・・・」
彼女は眠たそうに上体を起こすとごしごしとこれまた眠そうに目を擦り、
チンッ!と音を立ててもはや役目を終えた目覚し時計を停止させる。
「ふわぁ・・・・」
続いてぐいっと可愛ららしく伸びをして、ついでに首をコキコキと鳴らす。
「ん〜・・・」
そしてベッドから立ち上がり、窓際に向かって足を進め、
カシュッ!
カーテンを開け放ち朝日のまぶしさに目を細め・・・ようとして止め、生憎の曇り空に、あ〜これじゃ・・・お洗濯物乾きにくいわね・・・とまるで主婦のような感想を漏らした。
氷室キヌ29歳独身。彼女の一日は何時もと変わりなくスタートした。
氷室キヌの朝は早い。
毎朝6時前には目を覚まし、自ら朝食の用意をする。
慣れた彼女がキッチンに立てば、野菜を多く使ったフレッシュな朝食がすぐに出来上がる。
おキヌはそれをもきゅもきゅと租借しながら、『三人分』の食器が用意された食器棚を見つめ、少しだけ悲しそうな目をした。
しかしぷるぷると顔を振り、ナニカを頭から追い出すと残りの朝食を掻き込み、出勤の準備へと取り掛かるのであった。
※
ぶるるるるん・・・
控えめなエンジン音と乗り手に全くの不快感を感じさせないサスペンションがが、その車の高級さと有能さを物語っている。
そのハンドルを握るは最近「流石にこの年で長髪はもう無理なのか・・・」とか思い始めた西条。そして助手席に座るは氷室おキヌその人だった。
・・・別にやましい事は無い。最近元気が無いおキヌを心配した西条が、自ら今日の除霊の同行を試みただけだ。
そもそも西条は数年前に魔鈴めぐみとゴールイン・・・つーか人生の墓場へと叩き込まれている。そして彼は彼女のお呪い(おまじない)、つーかお呪い(おのろい)により、やたらめったらと女性を口説く事はなくなった・・・。
さらば西洋のプレイボーイ西条輝彦。
信号で車が停止し、西条は隣に座るおキヌへと目線を動かした。
先ほど記述したように最近元気の無いおキヌはぼーっと窓の外を眺めている。
「・・・氷室くん」
そんな彼女に居たたまれなくなって西条は声をかけた。
「はい。なんですか?」
ふと、現実に戻ってきたような顔をしておキヌは西条を振り返る。その顔には、何時もどおりの笑顔が浮かんでいる。
しかし数々の女性を口説き落としてきたスケコマシ、西条輝彦の眼は、その笑顔が何らかの顔の上に貼り付けられた仮面であると言う事を難なく見抜く。
「君は・・・」
が、再び口を開いたときには信号は青に変わり、「あ、西条さん前前」とおキヌに注意され、閉口せざるを得なかった。
※
辿り着いたのはオカルトに携わる人間にとってポピュラーすぎる古びた洋館。
しかしネクロマンサーおキヌへの依頼とあって、中々濃密な霊気がプンプンと漂い『眼』を凝らせば洋館二階の窓付近には、浮遊霊がぶんぶんとそこらを飛び回っていた。
「うわぁ〜典型的な幽霊屋敷ですねぇ」
全国平均のど真ん中というか、基本形と言うか。そのあまりのそれっぽさに、おキヌはなんともいえない笑みを浮かべた。
「あ、あなたがGメンの方ですか。ようこそいらっしゃいました。」
そして門の前に車を駐車した西条、おキヌを出迎えたのはダークグレーのスーツを身にまとった60前後の紳士、同じく60前後の淑女。
そして若く、眼を見張るような美女だった。
「・・・・・・・・。では、早速ですが依頼内容のほうを確認させていただきます」
反射的にまず美女に目が行く西条。しかし気を取り直して仕事を進め始めた。
「解かりました・・・。依頼に付いては依頼書の通り、この屋敷に集まってくる大量の霊を除霊してほしいというものです。
それとなぜか霊たちは二階だけに留まっていて一階には降りてこないようですから中に入っても大丈夫ですよ。
・・・とりあえず上がりますか?」
主人らしい紳士に導かれ、Gメンの二人は屋敷の中へと足を踏み入れる事にした。
屋敷の中はやはり良くある洋風の作りで、これといった特徴は無い。
豪華な二階まで吹き抜けの玄関には、正面に大きな階段があり、そこから二階へと上れるようになっていた。
「(思ったより荒れてないな・・・)」
西条はふと頭を捻る。
彼の疑問どおり、この屋敷の一階は幽霊屋敷にしては割と片付いていた。
その分二階に霊障が集中しているのか?と、頭の中で結論をつけこの疑問から頭を切り替える。
依頼人の二十歳ぐらいのとても美人な女性がとても気になるが(その時何処からともなく『あ・な・た?』という妻の声が響き、心臓に鈍い痛みを感じたので)頭を切り替えるったら切り替える。
「ではそろそろ除霊に取り掛かりますので皆さんは危険ですから外に出ていてください」
そう言って西条が依頼人達を促した時、二階から何かが割れるような『パキン!』という清んだ音と共にヤル気満々の悪霊どもが、決壊したダムを思わせるような勢いで漏れ出してきた。
「ルォォオオオオッ!」×超いっぱい
「皆さん!僕の後ろから離れないで下さいっ!!」
悪霊退治はオカGの花道っ!ここはエリート公務員の腕の見せ所。とばかりに素早く対応する西条。
霊剣ジャスティスをすらりと抜き放ち、依頼人達(特にレディー)を庇うように前へ出る。
その時レディーから、自分が最も自信のある角度から見えるようにしているところなど・・・もはや神業だ。
そして同じくベテランオカルトGメンのおキヌもネクロマンサーの笛取り出して、
「西条さん、私一人でカタをつけます!ですから結界でクライアントをっ!!」
霊弾の中に飛び込んでいった。
「なぁっ!?」
後方支援を得意とするネクロマンサーにとって、あまりにも無謀なその行為に依頼人の紳士が驚きの声を上げる。
そして「解かった、氷室くん!」とか言いながらいそいそと結界を張り始めた西条を見て、慌てた声を出す。
「さ、西条さんとやら。彼女は大丈夫なんですか!?」
声をかけられた西条はやや眉をつりあげた。
「・・・おや?どうやらネクロマンサーが接近戦を不得意としている事をご存知のようですね。
しかし心配はご無用ですよ。彼女は我がオカルトGメンの誇る、世界で唯一の攻撃型ネクロマンサーですから。
まぁ見ていてください」
こう言って彼は、ニッっと人当たりの良い笑顔を作って見せた。(ちなみにこの笑みは若い女性の依頼人方にも向けられていたが、無視された)
「こ、攻撃型ネクロマンサー・・・なんじゃそりゃ・・・」
相反するはずの二つをくっ付けた造語に、依頼人の紳士はごくりとつばを飲み込んだ。
ピリリリリリリリッ!!
――――ご、ごあっ・・・
霊団に向かって行ったおキヌは、まず霊力のたっぷり込められた音色を奏で、我を失い突っ込んで来た悪霊達の出鼻をくじいた。
そしてその浄化の旋律から逃れようと身を捩る悪霊達を依頼人から遠ざけるよう部屋の隅へと追い込むように、ゆっくりと前進する。
「す、凄い・・・。なんて霊力・・・そして肺活量だ(←もしかするとこっちの方がスゴイ)。これだけの悪霊を押さえ込むなんて生半可な力じゃ無理だぞ」
老紳士が唖然とした顔をする。
その光景は、お世辞じゃなくとも凄まじいの一言に尽きた。
だが、彼女の能力の本質は浄化や攻撃ではない。霊を力でねじ伏せるのではなく霊を導く事にある。
そしてこの能力は怨念の少ない相手には無類の威力を誇る広範囲の除霊を仕掛けることが出来るが、ある程度怨念の強い者や自我のしっかりした者には効き難い。
つまり敵の中にある程度チカラを持っている奴が居た場合は、ネクロマンサーの笛で両手が塞がっているおキヌにとって、とても都合が悪い事になる。
案の定、今回の敵の中に何体か力の強い者が居たらしく、両手が使えぬおキヌに向かって突進していった。
(思わず彼女を助けようと前へ出た老紳士の足を、麗しきレディーが思いっきり踏みつけた。)
「(はぉっ!?なにすんじゃー!!)」
「(いいから黙って見てなさい!!)」
しかし、もちろんこんな事などおキヌは予想が付いている。
タンッ、と床をけって距離をとると、その場でくるりと一回転。
次の瞬間には風を切って唸る強烈な回し蹴りが悪霊達をなぎ払っていた。
更に彼女はこれを皮切りに反撃を始めた悪霊達も、華麗な足技で下してゆく。
今まで袴に隠れていて見えなかったが、時折覗く彼女の足には、心霊兵器の香りがプンプンと漂うめっちゃごっついブーツがはまっていて、巫女装束とのギャップが彼女の凄まじさをかき立てている。
これだけの動きをしながらも、決して口にくわえた笛の音を乱さない所は・・・もはや人間業ではなかった。
「うおっ!?」
その可憐で清楚な雰囲気とはとても似てもつかない強く、逞しい除霊方を見て、依頼人の老紳士は何故だか変わり果てた友人を見つめるような顔をして驚いていた。
そして「聞いてないぞコラ?」みたいな顔をして妻と、若い女性のほうを睨む。
妻らしき女性はなんとも言えない苦笑いをし、若い女性は「だって聞かなかったじゃん」みたいな顔でそっぽを向いた。
そんな彼を見て西条はニヤリと得意げに笑った。
「どうです?これが攻撃型ネクロマンサーの戦いですよ」
・・・何となくセンスの無い名前だが、他に彼女を説明するのに相応しい言葉が無いのでしかたがない。
「・・・素晴らしい。いや、凄まじいですな。しかし、この粋に達するには生半可の努力ではなかったはず。なぜここまでして・・・」
老紳士の問いに対し、西条は少し顔を曇らせて語る。
「昔は彼女もごく普通のネクロマンサーだったんです。それも見た目相応に純情で戦いなどとても出来ないような。
ですが今から大体十年前。彼女は大切な人を失いましてね・・・。その人も一流の霊能者で、その上接近戦を得意としていましたから、以来直接戦いに参加できない自分にコンプレックスを抱くようになってしまったんですよ」
彼の話を聞いていた老紳士がどうしてかたじろぐ。すると先ほどからずっとそばにいた妻と思わしき老女が彼の手をぎゅっと握った。
「そしてそのスランプから脱出する為に自ら作り上げたスタイル・・・それがこれです」
時折おキヌが打ち漏らす悪霊を霊剣で斬り伏せながら話す西条。
一方おキヌの方は敵から「コイツは手ごわいぞ!」と言う認識をもたれ、ぐるりと周囲を囲まれていた。
しかしこの程度でやられては『世界最高のGS美神令子の助手だった』ネクロマンサーの名が廃る。
ピリリリリリリリッ!
音色と共に、どぅと放たれた霊力の塊。
それは前方の悪霊達を吹き飛ばし押さえつけ、行動を封ずる。
そしてその機を逃さず彼女は手ごろな敵を踏み台にし、上空へ跳躍。包囲網を突破した。
『オ、オレヲフミダイニシタァーーー!?』←悪霊
おいおい、マジかよ・・・。
現役だった美神令子にも何とかついて行けるのではないか?という身のこなしに、老紳士は冷や汗を流した。
とかやっている間にも、西条の話は続く。
「・・・彼女はついこの間、また立て続けに仲間を失ってしまいましてね・・・。以来更に自らを極める事に没頭しているんですよ」
その言葉を聞いてレディーはなんだか急に髪を弄りだし、老女は居心地悪そうに目を伏せる。
「誰かを失うって事は本当に辛い・・・。でもその現実から逃げちゃダメだ。
今の彼女は、技を研ぎ澄ますと言う過程に逃げ込んでいるような気がします。・・・ですが僕じゃいくら言い聞かせても無駄みたいでしてね・・・。
・・・っと。すみません。初対面の人に話すような事じゃありませんでしたね。
何故でしょうか?あなたを目の前にしたら急に話したくなってしまって・・・。何だかどうしても始めてあったような気がしないんですよ。ははは・・・」
「イ、イエ。ハジメテデスヨ?モチロン」
「は、はぁ。そうですか・・・・」
西条の話を聞き終えて、何故か動揺するクライアント達。
何となく先ほどから感じていた西条の違和感は、だんだんと大きくなってきた。
「・・・・・・・・アレ?すいません。
ちょ、ちょっと待ってください・・・・何か・・・何かが頭に引っかかるような・・・ん?」
「気のせいっ!気のせいですからっ!!無理に思い出さなくて結構です!」
急に頭を抑えだす西条。クライアント達の動揺はそれと比例してピークに達した。
が、クライアントの救世主は、意外な所からやってきた。
「さぁ〜〜〜いぃ〜〜〜じょぉ〜〜〜おぉ〜〜〜さぁ〜〜〜ん・・・・!!!
また私の事ダシにしてナンパしようとしてましたねっ!!」
何時の間にか全ての霊を無事昇天(あくまで最終的には笛で浄化してあげている)させてきたおキヌだった。
「ひ、氷室くん!いやだね、これはナンパではなく本当に・・・」
「もー、また『何故でしょうか?あなたを目の前にしたら急に話したくなってしまって・・・。何だかどうしても始めてあったような気がしないんですよ。ははは・・・』で親近感をゲット。そのまま『どうです?どこかでお茶でもしながら何時何処で会っていたか重いでして見ませんか?』って繋げる気なんでしょう!
まったく・・・。今度という今度は私だって怒りますよ?魔鈴さんと一緒に私たちの力の及ぶ限りのお仕置きしますよ?」
「だから今回はナンパとかそーゆーコトは抜きで本当に何処かであったような気がしたんだって・・・・・・!?イテテテッ!!
ぐぉおお・・・!!!魔鈴に気付かれた・・・・。呪い・・・もうしないから・・・ごめんよ魔鈴・・・息が・・・くるし・・・・たすけ・・・」
ぷりぷりと怒るおキヌ。平謝りする西条。そしてなぜか突然途中で苦しみだし、喉をかきむしって床に転がる西条。
「それにですねー。私が必死こいて技を磨いているのは逃げてるわけじゃないんですよ」
まるで、たった今釣り上げられた、口に針がついたままの魚のようにのた打ち回る西条に向かって、人差し指を立てながら、お姉さんが子供を諭すように語り掛けるおキヌさん。
・・・やや黒が入ってるかもしれない。
「私はですねー。シロちゃんやタマモちゃんが死んでるなんてこれっぽっちも考えていないんですから」
クライアントの女性二人組みの肩が、ぴくりと動いた。
そしておキヌには見えないようにだが、何故だかとても申し訳そうな目をして彼女を見た。
「ですから彼女たちが帰ってきた時に・・・
思いっきり蹴っ飛ばしてやろうと思ってるんですから。
・・・人に迷惑と心配かけて、トラウマ掘り起こしてくれちゃって。
そこまでされちゃぁいくら温厚な私でも怒っちゃいます」
ずしゃっ!
おキヌの背後で、老紳士が思いっきりずっこけた。
続いて女性陣がガタガタ震え始める。
おキヌは真面目な人物である。なのでやるといったら必ずやるのだ。しかも眼がマジだった。
美神除霊事務所による下積みの上に築かれた彼女の脚力は、そらもうえらい事になっているだろう。
まともに喰らってしまっては、いかに人狼や妖狐でもただでは済むまい。
ってな感じで、
クライアントは一人がコケ、残りがガタガタ震え、
西条は床でゴロゴロと悶え苦しみ、おキヌさんは黒っぽくクスクス笑い、
今日の彼女の仕事は無事終了した・・・。
「あ、そうそう。これ二階にあったんですけど、どうやら霊障の原因はこれみたいですね」
「カガミ・・・?」
「この鏡が霊達を引き寄せていたみたいです。でも霊圧に耐え切れなかったのかさっき割れちゃったみたいですね。まだ危険かどうかは分かりませんが、我々で回収しますね」
「あ、はい。そうして下さい」
※
「では、本当にありがとうございました」
「いえ、これが我々の仕事ですから。またいつでもお呼びください」
洋館前の道に止められたオカGの車の傍らで、老紳士と西条が形式通りの会話を交わす。
「氷室くん。行こう」
そして別れの挨拶を終えた西条は車の扉を開けておキヌを促した。
「あ、はい」
呼ばれた彼女はごっついブーツを履いているわりには軽快にトタトタと車へと歩み寄る。
そして扉を開けてくれた西条に礼を言いつつ助手席に着いた。
ぶろろろろろ・・・
控えめな音を立てて、車は走り出す。
おキヌはサイドミラーを使って車後方に並んでこちらを見送るクライアント達が、やがて洋館へと戻ろうとしているのをしばらく眺めていた。
しかし、突然意を決したように車の窓を開けると身を乗り出し(「ひ、氷室くん!?」西条は突然の事に慌てた)、大きな声で叫んだ。
「さっきはーーー!もしシロちゃんやタマモちゃんが帰ってきたら蹴っ飛ばすなんて意地悪なコト言ってましたけどーーー!
その後、ちゃんと謝りますからーーー!そしてお帰りなさいって抱きしめて、私泣いちゃいますからーーー!!
きっと、あなた達は今・・・とても大事な事をしてるんでしょう!そうなんでしょう!?
それなら待ってる・・・。私待ってますから!
だから・・・なるべく早く帰ってきてくださいーーーっ!!!」
「何ッ!?さっきのがシロくんとタマモくんだっていうのか!?」
西条が慌ててブレーキを踏む。
キキーーーーッ!!!
鋭いブレーキ音を出して減速する車。しかしあまりにも無茶な運転だったので車のボディーがガリガリという不快な音をたてて近くの民家の塀を擦った。
「ノオッ!?」←西条
一方遥か後方のクライアント達はおキヌの発言に目を丸くしていた。
が、おキヌが次に発した言葉を聞くと老紳士の顔が驚きから、何やら底の見えない複雑な物へと変化する。
「・・・それと、魔人、ヨコシマさん。
私はあなたを覚えていない。でも・・・私はあなたを知っているような気がします。
恐らく何らかの理由であなたか、それとも他の誰かが封じた私の記憶・・・それが恐ろしい悲劇なのか、素晴らしい思い出なのかは、もう私には解からない。
でも、私の中にあるあなたのカケラが・・・あなたが信用に足る人物だと教えてくれた・・・ような気がします。
ですから、
シロちゃんと、タマモちゃんを・・・お願いしますね」
狭い路地で、必死にユーターンを決行しようとしている車の窓から、
おキヌは、じっとこちらを見つめていた老紳士がしっかりと頷き、老女と若い女性と共に洋館へと消えてゆくのをその目で見た。
それから少しして、車を傷だらけにしながらも何とか洋館前まで道を引き返してきた西条達の眼に映った物は、先ほどの洋館など影も形も無く、掘っ立て小屋さえ何処にも見えない小さな空き地だった。
−注意−
ちなみに窓から顔や手を出すのはとっても危険です。良い子の皆は決して真似しないようにね!
魔人ヨコシマとのお約束だよっ!!