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GS六道親子 天国大作戦!

封魔演義


投稿者名:Tりりぃ
投稿日時:06/ 3/17



カーン カーン カーン ……

遠い所から鳴る鐘の音にヘルメットを少し上げて上を見る。
そこにはおどろおどろしい腐った様な雲と漆黒の闇、そして光る稲妻…そして黒く浮き上がる大きい物体。

それはどこかのアニメ番組にあった宇宙という所にある人間が住む「コロニー」そっくりだが地面ににょきっと
建っているのはビルではなく柱の様なものだった。なぜか上の方に「封」と印字してある。

「さっさと調印してくれへんか、こっちもヒマやないさかい」

先ほどからこちらに向かってしゃべっている物体にやっと視線を向ける。

「ほなさっさとサインしなはれ。ここやここ。これでやっとワイも苦労が報われるっちゅうもんや」
「…本気、であんなもの作ったんですね」
「本気も本気、マジ本気やで〜。今ならお宅んとこの天使10柱位こっちに堕天してくれはったら
ちゃらにしてあげまっせ?」
「さっさと調印しましょうか」
「………いいやんか〜、天使の1柱や2柱や10柱〜 ワシとアンタの仲やのに〜」
「堕天を喜ぶ天使なんているわけないでしょ〜? サっちゃん、あんただけです、そんなの」
「こっちに来たら、酒もたばこもなんでもオッケ〜なのにな〜」

心底残念そうにするさっちゃんを余所に、キーやんは羽根ペン片手にさらさらとサインをする。





 GS六道親子 天国大作戦! 8 〜 封魔演義 〜 





キーやんのサインが終ると「コロニー」もどきが微動し始める。と、何か光るモノがすごい勢いで柱に衝突…
するかと思ったら吸い込まれて消える。
その動きにサっちゃんは満足気に、キーやんは心配そうに見守る。

「すごいですね〜。魂を吸収する封魂柱…人界のサブカルチャーから思いついたにしては」
「サブカルチャーってバカにするんやないで〜? 人間の想像力に乾杯や! これで三界の問題が解決
できそうなんやで〜?」

キーやんが深くため息をつくとサっちゃんは胸を張って自慢する。
その後ろにはなぜか黒板が鎮座しており、そこにはでかでかと「封魂演義」と書かれている。
そして、そこにはこの柱の建設理由やらなにやらが書いてあるのではしょって説明させていただく。

この計画は、アシュタロス喪失により天・魔・人界の魂分量のバランスが崩れてしまった事に起因していた。
魔界の魂量が少なくなったので他二界から補充しようにも天界はいやがり、人界は理解もせず協力もしない。
というワケで魔界は悪魔らしく、問答無用のステッキーな力技に出ることにした。
人界のサブ…小説「封神演義」に習いフィールド内で死亡した一定以上の魂の力を持った生き物の魂を吸収・
封印する「封魂柱」を作り、そこに魂を吸収、その量で魔界の魂量をごまかそうという無茶だ。
アフターサービス計画も既にある。吸引した後、その魂達が同意すれば魔族にしちゃお〜と言う、これまた
はた迷惑な一石三鳥計画だ。

「大丈夫、人界での魂の回収のみやさかい、天界の魂はフィールド圏外や!」
「……信じていいんですね?」
「ワイは今までウソは言ったコトないで〜! 冗談は口にするけどな〜」
「どこが信用できるんですか!!」

息まくキーやんにサっちゃんは「オ〜ノ〜」とオーバーアクションで答える。

「ま、ともかく! 一定の魂量より強いモノが死んだらこの『封魂柱』に吸い込まれてまうから要注意や〜。
吸い込み期間は3年やから、それまでは天界も魔界も人界に不可侵っちゅうことで。
勿論妙神山みたいな所も3年は封鎖やからな〜」
「そちらも、富士山の樹海にある魔界の入り口、閉じてくださいよ?」
「こっちは大丈夫や。目指せ! 魂量美神令子600人〜!!」

サっちゃんの自称目標にサっちゃんが頭を抱える。この果てしなく無理な目標を遠慮なく部下に下すサっちゃんが
目に浮かんだのだ。実際、キーやんが来る前にサっちゃんは部下にそう命令している。

「そんなでもないで〜、人界には天界に行くハズのモノやら魔界に堕ちるハズのモノがいまだ息を殺して
隠れてるんや…有名どころでは『九尾の狐』なんていう大物もおるからこんな目標軽いもんや」
「彼女がつかまれば…でしょうが」

苦虫を噛み潰した様な顔をするキーやんにサっちゃんはビシ!! と指を突きつけた(不躾)。

「そこや」
「どこですか?」
「ナニをベタな…あんさんやろ? 日本にいた美神令子をアメリカにやったのは?」
「私がですか?」

にっこり清らかな笑顔をうかべるキーやんに更にサっちゃんは指を上下させる。

「文珠使いに12の式使い、バンパイアハーフと、コッチとしては封魂したいヤツ目白押しが都合よく
ちっさな島国におると狙い定めておったら『封魂したい魂ナンバーワン』がいきなりアメリカなんて
どういうこっちゃ? 面倒くさくなったんやで?」
「何もしてはいませんよ?」

後光が射す程清らかに言うキーやん、しかし相手が悪かった。もうずうっと長いこと顔を合わせていた
サっちゃん相手では面の厚さも看破される。

「紅茶片手におばちゃんにつぶやいたんやろ? 白状せいや?」
「紅茶ですか…しばらく嗜んでおりませんが、キリマンジャロは健在でしょうか?」
「キリマンジャロはコーヒーやろ!! ってそんな事はどうでもええわ。条約どおり、今からお前の
所は人界に干渉禁止やで?!」
「あなたのところもですよ?」
「干渉せえへんでもあっちから騒ぎだすんや。まぁ、これもこれで楽しいからいいんやけどな〜」

そう言いサっちゃんは空間に映っている人界に、ニヤリと笑いかけた。










バターン!!

美神美智恵が両扉を力いっぱい扉を開け放つと、ツカツカと靴音高く歩く。それは女王様が罪ある者を
処罰する歩みだ。後ろには幸薄い従者を従えている。

バターーン!!

奥の扉を力いっぱい開くとそこには罪深き羊がいた。かなり髪の薄くなった……そして

「あら〜、冥子ってやっぱりポテンシャルは高いのね〜。お母さん、鼻高々〜〜〜」

格闘テレビゲームで勝利してにっこり笑う六道幽子がいた。




「……師匠」
「あら〜、美智恵さん〜 唐巣神父の後に〜 アナタの所に行こうと思ったのよ〜 ハイこれ〜」

美智恵の迫力ににこやかに答えながら格闘ゲームのソフトを渡す。パッケージには「ゴースト・
スイーパー・アルティメットバトル」と書かれている。

「ナンですかこれは?」
「アシュタロス戦で活躍したGS達を格闘ゲームにしてみたのよ〜 勿論未成年者は名前を変えて
いるから〜〜」

説明書を開けると、確かに令子らしきキャラや唐巣神父、六道冥子らしきキャラはいるが、おキヌや
タイガー、横島らはいない。かなり違った面相のそういった能力者キャラがいる。
ちなみに今まで幽子は冥子の、唐巣は自分のキャラで格闘ゲームをしていたが1分で冥子にKOされていた。

「これは〜 あと10日したら〜 発売開始するの〜 もう予約がすごいのよ〜〜」
「そうですか、そんな人気のゲームをありがとうございます。それより…唐巣神父?」

あっさり幽子から神父に目標を変えた美智恵に、神父は怯えた目を向ける。
美智恵の後ろでは、いきなりキリスト教徒になった西条が十字をきっているのが見える。

「横島君の件…わかっていますよね?」
「いや、あの、よ、横島君は冥子君の教えを受けると言っているのだから?!
彼の自由意志を私は阻止できないんだよ?!」
「無責任じゃありません? 弟子を放り投げるなんて?」
「美智恵ちゃ〜〜ん、勘違いはいけないわ〜〜」

迫る裁判官に幽子がにこやかに割ってはいる。

「ほら〜〜、これが横島君の契約書〜〜 横島君は〜〜 六道女学院で〜 特別授業を〜
受けることにしたのよ〜〜」

ひらりと幽子が持っている横島サイン入りの契約書を美智恵の前にかざす。
そこには、『特別授業契約書』と書かれており、主に放課後授業を受けると書かれている。
土・日曜日の時間がある時は教会に横島は来るらしい事を神父は横から合いの手を入れる。

「お札を使うから〜 便宜上〜 冥子の事務所に入る事になるけど〜〜 それだけよ〜〜」
「………」

速読でなめるように契約書を確認している美智恵に更に上乗せを口に出す。

「横島君の〜 バイトも〜 こっちでお世話するわ〜〜 神父のところじゃ、お金〜 出せないものね〜」
「……ほっといてください」

涙を流す神父だが、現実にお金がないので力なくつぶやくしかない。
契約書から目を離した美智恵は幽子に不敵に笑いかけた。その笑顔に幽子もにっこり笑い返す。
美女が笑うという眼福な光景だが、西条・神父は気圧されたらしく仰け反っている。

「ふ、横島君は流れに流されてるだけですわ。すぐ冥子さんの所をやめる様が目に浮かびますわ」
「まぁ〜 美智恵ちゃん強気ね〜〜」

お互い、横島の元に送った最終兵器へと勝負がもつれ込んだ事を察知し、携帯電話を取り出した。






バタン!!

横島が異様な殺気を感じて振り返ったそこには、息を弾ませた女性が扉を開け放って立っていた。

「おキヌちゃん?! ど、どうしてここに?!」
「うふふふふ。横島さん、聞きましたよ? 私を捨ててどこへ行くのですか?」
「まぁ〜〜 横島くん、おキヌちゃんを捨ててどこかに行くの〜〜?」

横島の横でおっとりお弁当(お重)を広げていた冥子が涙目で横島にすり寄ってくる。

「どこにも行きません〜〜!! 捨てるものもありません〜〜〜!!」

好奇の目で3人を見るタイガー・ピート・愛子にも説明するように横島は叫んで否定していた。



息を整えているおキヌの横に座ってお茶を出しながら、愛子は周りの無言のプレッシャーに負けて
質問を口にする。

「おキヌちゃん、六道女学院はどうしたの? 今は試験じゃないし、休日でもないでしょ?」

横島・ピート・タイガーが学校に来ているという事は同じ高校生のおキヌだって授業がある日だ。
彼らはお昼になったので冥子に連れられて昼食を食べに屋上へと来た訳だが、違う学校のおキヌが
ここに現れるのは不可解だった。

「学校どころじゃありません。横島さんにおききしたい事があって来たんです!」
「放課後でもいいんじゃ…」
「バイトしてるので放課後はダメなんです!!」

きっぱり言い切るおキヌの中での順位は バイト>横島>学校 であるらしい。

「バイトしてるんだ? おキヌちゃん」
「え、ええ。美神さんの事務所がなくなっちゃったんで、バイトして少しでも仕送りをして下さる氷室家の
足しにでもと…占いグッズのお店の店員をしてます」

おキヌがちらりと冥子を見てからバイト先を話す。彼女はネクロマンサーという変わった技術を持っているが
GS免許は所得していない。卒業後試験を受けようと思っているが、在学中もなるべくならオカルト関係の
仕事を受け持ちたいがノーマルなお店で働きたかった。なのでバイト先を六道女学院から紹介してもらっていた。
そのバイト先が横島の家と反対方向にある事に今更ながら誰かの作為を感じる。

「それより、横島さんが冥子さんの所に行くって聞きました! 
もう、美神さんの言いつけを守らないのですか?!」
「い?! ど、どこでその事知ったんだ?! おキヌちゃん」

あの番組を見て怒鳴り込んで来るのなら昨日中に来ていただろうおキヌの有様に横島が脂汗をたらしながら
情報元を問いただす。おキヌは涙目でふ、と横に視線を外す。

「美神美智恵さんです」

数秒、誰もが心に隙間風を感じた。勿論一番感じているのは

<まずい、まずい、隊長に知られたというコトは同時に美神さんに知られたも同然?! ああ、死神が
自由の女神の格好してアメリカからやって来るのが目に見えるようだ〜〜〜!?」

「……相変わらずダダ漏れじゃノー、横島さん」
「でも、正しい未来予想よね。青春って血の香りがするのね」
「迷わず、主の下に行って下さい。アーメン」

『そうや! 迷わず女神の拳でコッチ来なはれ〜〜!』
『何弱気な事言っているんですか!! 貴方の未来はまだ続くのですよ!!』

どこからか、声が聞こえるが一同無視を決め込む。

「お願い〜〜〜!! クーリングオフって事で冥子ちゃん許し?!」

ガバっと冥子の肩を掴もうとした横島の首に小さなカマが当てられていた。
一同驚く中で、横島は視線だけを動かしてカマを持った人物へと向ける。

そこには黒いマントをはおった貧乏神から福の神になった貧ちゃん位の大きさの、三つ編みを両肩に
たらした幼い少女がおどおどしながらカマを横島の首に押し当てている。

「け、契約は……ぜ、絶対なの…」

ぷかぷか浮くその姿にいつぞやのエンゲージが重なる。
しかし、その姿はタイガー・ピートはともかく愛子やおキヌでも簡単に制圧できそうだ。
眉をしかめる横島に肩を震わせながら、エンゲージ三つ編みは震える声でなお言葉を続ける

「け、契約は、守らなきゃ、守ってもらえないと、私、私、もう失敗ばかりで今度契約守ってもらえないと
エ、エンゲージのお仕事から、は、外されてケルベロスの、え、えさになっちゃうのぉ。
だ、だから、だから、お願い、け、契約を守ってぇ〜」

つっかえつっかえ言うエンゲージにおキヌはもとより横島でさえもカマを押さえることさえできない。
不憫なエンゲージに同情しない者はこの場にはいなかった。

「よ、横島さんが冥子さんの所でバイトしても、良く考えれば問題はないって思います!」
「そ、そうだよな〜! バイトといっても半分学ぶためのバイトだからな〜! それなら美神さんだって
わかってくれるよな?! はっはっはっは!」
「そうよ〜 横島くんが〜 契約を守らないなんて〜 ないわよ〜〜」

エンゲージは震えながらカマを引き上げるとふっと消えるが、また横島が「クーリングオフ」と騒げば
何処からともなく現れるだろう。それを思うと説得に来たおキヌは無力感に襲われながら、携帯電話で
美智恵へと連絡を入れるしかなかった。







「……そう、おキヌちゃん、ありがとう……令子にはこっちからうまく言っておくわ」

携帯を切った美智恵はゆっくり振り返ると、幽子はメールを見ていた。
そこには冥子からのメールが来ていたらしい。笑顔に小憎らしいくらいの余裕を感じる。

「横島くん〜 自分の意思で〜 冥子のところで〜 学ぼうとしてたでしょ〜?」
「はい、疑ってしまって申し訳ありません」
「いいのよ〜 疑うことは〜 大事なことなのだから〜〜」

2人の微笑みに唐巣は二大妖怪対決が終了した事を察知した。
願わくば、この重苦しい霊圧を解いてさっさと2人ともご退場して欲しいところだ。霊圧で教会が壊れないうちに。
ハラハラする神父の視線には気付かずに美智恵は心の中で状況を冷静に計算し始めた。圧倒的に不利だ。

<く、おキヌちゃんと一緒に横島君の所に行けばよかったかしら?! これは早く令子を復活させて横島君の
手綱を握らせないと不利だわ!!>




美智恵の瞳が輝いていた時、その当事者たる令子と言えば「ハックション!」などとお約束な事はして
いなかった。アメリカで健気に頑張っていた。

「I hope then. 」
「いえ〜す、ぷりーずりーぶいっつ」

にこやかに商談を終らせているがジャパニーズ英語を繰り出す令子が商談を全て理解できたかイマイチだ

「The amount of money 」(金額はこれ位で)
「I get the amount of money of this. 」(これ位の金額はいただきます)
「It will be too high. 」(高すぎませんか)
「It is an average. 」(平均ですわ)

金額の話になると途端に流暢な英語を繰り出す令子にマイクもお茶出し嬢もでっかい汗を貼り付ける。
とにかく、令子はアメリカでアメリカ一のゴースト・ハンターになる為頑張っていた。




一方、美智恵の顔を見ながら微笑む幽子は気楽に構える姿勢ながら弟子の考えを完璧に読んでいた。

<ふふふ〜。美智恵ちゃん〜 アメリカから令子ちゃんを呼び寄せようって腹ね〜? 策は二重三重が基本よ〜>

にっこり笑う幽子の懐には横島が「ケガの保険」でサインした「エンゲージの契約書」があった。









遠い空からこの騒動をキーやんとサっちゃんが無言で見入っていた。

「…あっぱれと言うべきか、なんと言うべきか、人間というのは侮れませんね〜」
「あの2人がこっちに来たらもう目標達成するような気ィがするわ〜」
「た、確かに………」

あの陰謀権謀が振るわれたら人間はもとより神族さえも、魔族へと堕ちていくのが見える2柱だった。


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