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小さな恋のメロディ

GS横島 極楽逝き?大作戦 #2


投稿者名:高森遊佐
投稿日時:06/ 3/15



 なんか厄介らしい魔族だかそれみたいなモノがいるという山に横島とその助手は到着した。
山はいかにも魔物が潜んでいるような瘴気を放ち、怪しげな鳥の鳴き声が響きわた……ってはいなかった。
むしろ休日になれば登山客がそこそこいそうなそんなのどかな山だった。

「…なんか平和な感じですね」

拍子抜けしたのか助手がちょっと間抜けな顔になって言った。
しかしそれも仕方の無いことだろう。
晴れた空から差し込む陽光を木々が受けそよ風に揺れ、ホウジロやメジロ等の小鳥が飛び回っている。
本当にそんな山だったのだ。
それこそなんか厄介らしい魔族だかそれみたいなモノが潜んでいるとは誰も思わないだろう。
ただ私有地で普段一般人は立ち入りが禁止されている為に基本的に道は無い。
開けているところはいいが、獣道のような所を通らなければならない事もあった。

「そうだな。でも一応注意はしとけよ」

見鬼君を片手に巨大な荷物を背負った横島が先を行く。
普段から荷物の大半を横島が持って行動するのだが今回は登山装備。
いつもより二割増くらいの荷物を背負いながら悠々と山登りをする横島を見やりつつ、いまいち緊張感が抜けてしまった助手が着いていく。

(それにしても所長、いつも思うけどすごい体力よね。そんなにムキムキって訳じゃないのに)

横島の常識離れした体力に尊敬と呆れを同時に抱くが、慣れない山歩きに自分は早くも息が上がってきてしまっている事が歯がゆい。
彼女自身は決して体力が無い訳ではない、寧ろある方だと思っていたがこうも体力差を見せつけられると流石に少し凹んだようだ。
こうなってくると鳥の囀りすら鬱陶しく感じてしまって来る。
しかし息が上がり口数が減っても弱音は吐かずに着いていく。

「はぁ……、はぁ…、はぁっ…っとっとっと、あうっ!」

一時間程歩いた頃だろうか、ついに助手は足がいう事を聞かず木の根に突っかかり転んでしまった。

「いたたたた…」

「ほら、大丈夫か? もう少しで小屋があるらしいからがんばれ」

怪我が無いことを確認して横島が助手の手を掴みグっと起き上がらせる。
その時力の入るタイミングが悪かったのか起き上がった助手が横島に抱きつく形になってしまった。

「ゎきゃっ……」

不意の事態に思わず助手は間抜けな声を上げてしまう。
事故とは言え、抱きつかれている上に普段の彼女からはなかなか聞けない可愛い声を聞き横島は………煩悩のスイッチが入ってしまった。

(ぬぉ、やーらかい…っ! それになんかいい匂いっ よく見るとこいつ可愛いし何よりジョシコーセーだしっ ジョシコーセー万歳! コレはもう行くしか!)

一瞬でそこまで妄想が膨らむ横島。何が行くしかなのかさっぱり分からないがワナワナと両腕を広げ抱きしめようとする。
助手は助手で横島に抱きついた形のまま動かない。横島からは見えないが僅かに顔に赤みが差していた。

「所長……」

腕を広げまさにあとは閉じるだけとなったところで助手が切なそうな声を上げた。
山歩きでも大して上がらなかった横島の心拍数が目に見えて増える。
美神達の元を去ってからこちら、今まで行ってきた覗きを始めとした直接的なセクハラをする機会がなくなっていた。
いくら去る時の心情や状況が重かろうと人間の元となるもの、横島の場合煩悩があっさり変わる訳も無く。女性とこんなに密着した事は独立してからは無かったのだ。
仕方ないと言えば仕方ない。横島は溜まっていたのだ。色々と。
そして最早理性の欠片もほぼ無くなりいざ極楽へ! となるその瞬間―――

「ジョシコーセー」

ぽつりと助手が呟いた。
一瞬で熱くたぎった血が冷め、体が固まる。顔が引きつったのがはっきりと分かる。

「ジョシコーセー万歳。もう行くしか………って、なんですかぁぁああぁあぁああああっ!!」

抱きついた体勢からゆっくり体を離しながら段々と声を荒げる助手の顔は…鬼だった。
そのまま何時の間に取り出したのか霊体ボウガンを横島に向けて構え安全装置を外す。
よくよく見れば目の端に涙が浮かんでいたのだが横島に気付ける余裕は無く…。

「は、ははは…。また、やっちゃった?」

固まったままいつもの妄想を口にする癖を悔やむが遅かった。

「所長の、ばかあああああああああっ!」

「やっぱりお約束なのかああぁぁぁあっ 俺ってやつはーっ!」

叫びと同時に連射で放たれる矢を人間とは思えない動きでかわしながら己の運命を嘆く。
環境が変わってもやはり横島は横島なのであった。合掌。





 体力が限界に来ていたはずの助手の攻撃は何故か普段よりも的確に急所を狙って来ていたが、なんとか全てを避けきって宥めてすかして助手の機嫌が直った頃には逆に横島の方が疲れきっていた。
とりあえずお互い休憩を取る為にあるはずの小屋を目指してゆっくりとだが歩き始める。
しばらく獣道を進むと急に開けた場所に出た。依頼人の話に拠るとこの辺りに小屋があるはずなのだが、と辺りを見回すと果たしてそれはあった。
外見からはうらぶれてはいるものの屋根も壁もしっかりとしているように見える。依頼人の話に拠ると元は山の管理の為に年に数回はここを訪れていたとの事だった。
しかしここ数年は依頼人が高齢等の理由で訪れてはいないそうだ。

「ん、なんか変だな」

一先ず中に入ろうと近づいていくと横島は感じた違和感を口にした。
数年放置されていたにしては何故かその小屋に生活臭のような物を感じたのだ。
緊張感を切らさぬように慎重に小屋に近づいて行くにつれて違和感が確信に変わっていく。

「誰か使ってるな。簡易結界があるからそれを張って俺から離れるなよ」

後ろを付いてくる助手に道具を渡し自分は背負った荷物を降ろす。
小屋から十メートルほど離れたところで小屋の周りを中を探るように回る。
小屋の裏手には何故か鶏小屋があり小さな羽根が落ちている。古いものではない、寧ろ確実にここ数日中に落とされたものだった。
しかし奇妙な事に白い羽根、つまり鶏の羽が全く見つからず、雛と思われる黄色い羽根しか見つからなかった。
訝しげに考えるが理由は思いつかない。
とりあえず鶏小屋から離れ再び小屋の方に注意を向け辺りを一周した。

「とりあえず今は気配は感じないな。……一応中も調べるぞ」

正体の見えない何かに緊張しているのか助手は黙ったまま頷き横島についてくる。
引き戸の両脇に陣取り横島がタイミングを計り、一気に開ける。鍵は掛かっていなかった。
そのまま中に入る横島の背を守るように助手は外を向いたまま後ろ向きに入り口に身を滑り込ませドアを閉じる。
屋内に入ると一層生活臭が強くなる。いや、確実にここで生活している何者かがいる。
しかし一間しかない屋内には自分達以外は誰もいないようだ。出かけているらしい。
囲炉裏では弱火に調整された薪が赤く燃えていた。

「……出かけてるみたいだな。火の始末が完全じゃない。すぐに戻って来そうだな」

「人間、ですかね?」

助手の質問は暗に今回の除霊対象のことを示していた。
横島はその質問に答えず短く考え込む。
何者かがすぐに戻って来る可能性が高い事を考えれば早急に小屋を出るべきだったのだが、横島は何か引っかかる事があるのか動かなかった。

「所長、とりあえずココ早く出た方が良くないですか? もしかしたらもしかするかも知れないんだし」

助手がそう言い終えるより早く横島が入り口のドアの方を見る。
何者か、が帰ってきてしまったようだ。
一人、いや一人と複数の気配…。
複数の気配に身を強張らせつつも外から見えない位置に身を隠す。
とっさに対応できるように文珠を予め一つ左手の中に創り、助手を自分の背に隠すように前に出る。

(鬼が出るか蛇が出るか…)

幸い相手は中に自分達が居る事に気付いていないようだ。
右手に栄光の手を発生させタイミングを計り…相手が入り口に差し掛かる瞬間に飛び出す。
完全に不意は付いたはずだ。後は相手が人間であれば拘束し、事情を喋らせる。
それ以外であれば…。

(俺の脅しになんとかなる相手であってくれよっ)

祈りにも似た思いを抱いて横島は気配に向けて襲い掛かった。
薄暗い室内から一瞬で開けた視界に入り込んだ相手は―――






<続く>


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