椎名作品二次創作小説投稿広場


小さな恋のメロディ

GS横島 極楽逝き?大作戦


投稿者名:高森遊佐
投稿日時:06/ 3/10




 日曜の昼下がりの事務所で和やかに談笑する二人。
一人はこの事務所の所長の妻、もう一人は所長の助手である。
テーブルの上では紅茶が仄かに湯気を上げている。
事務所の主たる所長は所用で出かけていた。

「そうそう、私がいない間にた、忠夫さんとどんな感じでお仕事してたの?」

まだ言いなれていないのだろう、“忠夫さん”のところで赤くなりどもるのがひどく可愛らしい。
そんな様子を見て助手がクスっと笑う。

「そーですねー、印象に残った仕事で言えば……」

正直密度の濃い二年間だった為色々な出来事が思い出される。
そんな中ふと思い出した事件に助手は可愛い顔を苦笑いで歪ませた。

「うん……アレが一番ね。間違いないわ」

妙な引きを作って助手は話を始めた。

「アレは確か半年くらい前だったかな。いつも通り除霊に行ったんだけど―――」






「今日の相手はなんか厄介みたいだから注意しろよ」

仕事に赴く前のミーティングで横島が他人事のように言ってくる。
正直確かに自分は未熟だが自分だってよく凡ミスするくせに、とは思っても口には出さなかった。
その代わり

「厄介って厄介じゃない悪霊っているんですか。それになんかって何ですかなんかって」

言葉の隅を突付いた突っ込みをしてみた。

「細かい事は気にするな、大きくなれないぞ。………胸が」

最後の部分はついボソッと口をついてしまったのだがしっかり聞こえてしまったようだ。

「しょ・ちょ・お? 私の ど・こ・が 小さいんですか?」

ニッコリ笑ったまま額に青筋を浮かべて助手が怒っている。怖い。

「いやあのすんませんっ 決してもう少し大きくなったら見栄えいいだろうなぁとか制服を押し上げる胸が好きだとか考えてませんっ」

思わず自分の趣味嗜好を口走りながら自分の助手に謝り倒すその姿からは少しも所長としての威厳は感じられない。

「へー、所長は胸のおっきな女の子が好きなんだ」

「おう、それはもちろん!
 いや俺だけじゃない、おっぱいは全ての男の浪漫! 男の夢! その大きさに比例して男の希望がつまっているのだ!」

今の今まで土下座までしようかという勢いだったのに胸の話題になった途端声を荒げ力説しだす横島。
その様子に一瞬逆に押されたがすぐに冷たい目に戻り横島を見やる。

「はッ 視線が突き刺さる! そんな汚い物を見るような目で見ないで〜っ」

再び威厳が無くなる。忙しい男である。

(そっか…所長は胸が大きい方がいいんだ……)

情けない姿を晒す横島を視界の端に置いたまま呟いた助手の独り言は横島には聞こえなかったようだ。






「で、何が厄介なんですか」

おかえしとばかりにしばらく横島をからかった助手がようやく本題に入った。

「いや、ソレがよく分からんからなんか厄介つったんだ」

「はい? それじゃ厄介なのかどうかすら分かんないじゃないですか」

至極当然の疑問をする助手に向かい困ったように横島が頭を捻る。

「厄介なのは間違いない。なんでも今まで除霊に向かったGS達は全員除霊に失敗してるみたいだし」

「単純に強いって事ですか? それなら確かに厄介だけど…」

「強いか強くないかで言うと…どうなんだろうなぁ? 強い…んだろうなぁ。今まで何度も除霊に失敗してるんだし」

益々意味が分からない。要は横島も何も分からないという事だろうか。
その割には何か知っているような素振りも見せる。
煮え切らない答えに段々イライラが募ってくる。

「あーもー! はっきりして下さい。何が、どうなったから、厄介かもしれないんですか!」

「なんだ今日は機嫌悪いな。あの日か?」


ぷつん


何かが切れる音が聞こえた…気がした。
一瞬で事務所の空気が冷たく張り詰める。

「所長、どうやら極楽に行きたいようですね。そうですかそうですか。私がきっちり送ってあげます」

(やばい、殺られる…)

助手の様子にサーっと血の気が失せていく横島に何処から取り出したのか霊体ボウガンが向けられていた。

「この霊体ボウガンは霊体にも効くけど人間にもしっかり効くの、知ってますよね?」

満面の笑顔でどこかで聞いた事があるような台詞を吐く助手の目は…笑っていない。
口は災いの元。いまさらそんな諺が頭に浮かぶが横島は両手を上げて降参のポーズを取るしかなかった。

「OK、お嬢さん。時に落ち着け。その物騒な物を下ろしてくれないか」

最早ゼロ距離射撃の距離まで近づいて来た助手に馬乗りにされかけた横島が精一杯の抵抗を示す。

「…次真面目にやらなかったら……ちょっと風通りのいい体にしちゃいますからね」

「は、はひ。真面目にやらせて頂きますっ」

目が本気である事を物語っていた。
その様子に本気で命の危機を感じた横島は居住まいを正して恐る恐る説明を始めた。

「えーと、以前失敗したGS達はな、なんか全員怪我はしてるけど満ち足りて帰って来ちゃったみたいなんだ」

「満ち足りて? 除霊対象に洗脳でもされたんですか?」

「多分それに近いんだと思うんだが、兎に角放心しきって意識も半分ないような感じらしい」

横島の説明に拠ると、つまり対象に何かいい目を見させられ退治どころでは無くなってしまったらしい。
それどころかその状態がずっと続いていて日常生活を送る事すらできなくなっているらしい。
そして恐らく悪霊の類では無く、魔族若しくはそれに類するものであるらしい。確かに厄介な相手である。
しかし全ての情報が曖昧で確信にいたる物は無い、との事だった。

「それじゃ対策も何もできないじゃないですか」

「言ったろ。だからなんか厄介みたいだって。
 失敗したGS達は生きてはいるけどまともに会話もできない状態なんだから仕方ないだろ」

開き直った様に言ってくる横島に再びふつふつと静かな怒りが沸いてきた助手が突っ込む。

「なんでそんな他人事みたいに…これから私達が行ってその人達みたいになったらどうするんですか」

「なんとかなるだろ」

あくまで呑気に言ってくる横島に諦めにも似た観念を抱き助手が大きな溜息をつく。
確かに横島にも心配はあったが事務所の台所事情を考えれば仕事を選んでいる余裕は無いし、いざ危ないと分かれば助手だけでも逃がすつもりでいた。

「うだうだ考えても仕方ないだろ? 装備は防御系中心に用意してあるから」

ほれ、と助手の分の装備を持たせ事務所を出る用意をする横島の後姿を目で追って再度大きな溜息をつく助手であった。

(大丈夫かなぁ…大丈夫よね? 今までもなんだかんだでなんとかなってたし。
 うん、大丈夫。大丈夫に違いない。大丈夫だと信じよう。誰か大丈夫だって言って!)






<続く>


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