椎名作品二次創作小説投稿広場

小さな恋のメロディ

独白 - 横島忠夫

夢を、見ていたんだ。



苦しくて、悲しくて、寂しくて、でもどうする事もできない夢。
あの時以来眠るたびに見たんだよ。
おかげで毎日怖くて眠れない日が続いちゃってさ…。
皆に心配かけちゃいけないって日中がんばってさ。
それでも夜に一人でいると怖くて仕方なかったんだ。


やっぱり気付かれてたんだなぁ。
君はよく俺の部屋に来てくれたよね。
部屋の掃除に来ましたとか言ってさ。
その頃なんかしょっちゅう来てくれたおかげで部屋は割と片付いてたのにさ。
それでご飯なんか作ってくれたりしてさ。
他愛無い話をしたりしてさ。

本当に感謝してるんだ。
君が来てくれた日はあの夢は見なかったんだ。






ある時聞いちゃったんだ。
その日は話が弾んじゃって遅くなっちゃって、それで君も俺の部屋で眠っちゃってさ。
夜中にふと俺、目が覚めたんだ。
そしたら君が近くで眠ってて。
つい寝顔を眺めてたんだ。
かわいいなぁとかぼんやり思いながらさ。
そしたら君が言ったんだ。
寝言で俺のこと、好きだって。
すごい幸せそうな顔して言ったんだ。


その時俺嬉しいなぁって思うより先に怖くなっちゃったんだ。
眠る君の夢の中では君は俺と幸せな時間を過ごしてるんだろうね。
でも現実の俺は君の想いに答えられないでいる。
君はあの時以来口にする事はなかったけど、君が俺の事を大事に思ってくれてたのは知ってたんだ。
いくら俺が鈍いって言われててもそれくらい分かってたよ。
俺も君の事は大事に思ってたんだ。

でも………やっぱり彼女の事も忘れられなかったんだ。

彼女は俺が幸せになる事を願った。
でも彼女が掴めなかった幸せを俺だけが享受するなんて、俺にはできなかったんだ。
だから―――



俺が皆の元からいなくなったきっかけになった事件、覚えてるかい？
気をつけろって言われてたのにうっかり悪霊の罠に嵌っちゃってさ、そいつに幻覚を見させられて。
でも俺にはさ、その幻覚が未来の映像に思えたんだ。
俺はこのまま君と一緒になっても君を幸せになんてできない。
それまでもうっすら考えてたんだけど、それ以来そうとしか思えなくなっちゃって。
それで何も言わずに皆の元から、
君の元から、


逃げたんだ。


ごめんな。
本当に馬鹿だったと思う。
その所為で四年も君や皆に辛い思いをさせちまって、俺はそれが一番の選択肢だと疑わなくて…。





何も言わず俺の事を許してくれた君には本当に感謝してるんだ。
俺の一生をかけて君を大事にする。幸せにしてみせる。
だから、さ








本当にありがとう、おキヌちゃん。



これからもよろしくな。







了