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上を向いて歩こう 顔が赤いのがばれないように

指令その一:美神令子、及び横島忠夫を拉致せよ !!5


投稿者名:由李
投稿日時:06/ 3/ 7

「ニニニニニ 逃ゲナイ デヨオ!」

「誰でも逃げるでござるよ!」

「シロー! 私を置いていくなー!」

「美”神”さ”ーん”」


工場にできた結界の中を行ったり来たりしている四人。その四人の様子を楽しそうに見ている者が一人。
かつて雪之丞と戦い、そして敗れた男。あえて名前は伏せよう。一度死んだのだから。


「脳天 カチ割ッテ アゲルゥ!」


真っ赤な斧が天井のライトに煌めいた。頂点から振り下ろされる斧。
サンタ姿の男の前には、銀髪の少女が一人。

ひゅっ   ガァン

間一髪で斧を避けたシロは、斧が空中で結界に当たり、弾かれるのを見た。
シロはそこまで余裕が無かったが、見えない壁――結界が微妙に揺らめくのを令子は見ていた。
そして結界が揺らめいた瞬間、今までこちらをけん制するように白装束の老人から放たれていた霊圧が低くなった。
令子がそっと老人の様子を横目で見ると、一瞬顔が苦痛に歪んでいるのが見えた。
老人はすぐに冷静を取り戻したが、令子は一つの答えを導き出していた。
それは…


「アンタがこの結界を操っているやつね」

「いかにも」


老人は、それがどうした、とでも言いたそうな憮然とした表情で微動だにせず立っていた。
老人の後ろの方で、サンタに追いかけられているシロとおキヌが通り過ぎる。
令子は神通混の出力を上げて、ムチ状にした後、老人に向かって走り出した。


「……何が起こってるのか知らないけど、GSを舐めると痛い目に遭うってこと教えてあげる!」

「うむ、知っておる」


老人の言葉は無視し、走り込んだ勢いと全体重を乗せてムチを振り下ろした。

ギュインッ

しかし神通混は老人に当たる直前結界に当たり、その瞬間令子は結界を視認した。


「えぇ!? 結界の中に、結界!?」


言いつつ令子は神崎マイコのことを頭の隅で思い出していた。
確かあのとき、マイコは結界を何重にもして……結界士の技…そういえばアナウンスに結界士って………。
待って。でもマイコの結界は破られたわ。誰に……あ!
そこまで考えたとき、自分の後ろ側から騒がしい声と足音と奇声と絶叫と阿鼻叫喚と……シロたちが来た。


「助けてください美神殿何でもするでござるからー!」

「助けてあげてください美神さん何でもさせますからー!」

「メリィィィィィ!」


令子は絶好のチャンスだと思い、シロたちをそのまま自分の方に来るよう誘導した。
そう、あの惨劇のクリスマスを再現する為に。


「ここよ! ここまで来て!」

「お主………まさか……?」

「そのまさか……よ」


令子のところまで走り込んできた二人のすぐ後ろにサンタがついていた。
こんな至近距離でストーキングされていた二人の気持ちを考えると身震いしそうになるが、令子はそれをぐっと押さえ、サンタを見据えた。


「えっ、ちょ、待て、ワシはっ!」


サンタは斧を真横になぎ払うように振り抜いた。
令子がシロとおキヌの頭を伏せさせなければ、見るも無惨なプレゼントがその場に転がることになったであろう。
斧は令子たちの首ではなく、令子の後ろにある結界をぶち破った。


「シロ!」


令子が言うが早いか、シロはリンリンにつけられた右腕の傷を庇いつつ、霊波刀を出し、老人を攻撃する。


「せっかく…再登場したのに……」

――再生怪人は弱いってのが、お約束なんだよ、メ……


足下から崩れ落ちる老人とともに、周りを囲んでいた結界が無くなるのを令子たちは感じ取った。


「逃げるわよ!」

「賛成!」

「大賛成!」


令子、おキヌ、シロは結界に弾かれた斧をぼやーっと見ているサンタを尻目に、一目散にそこから走り出した。
しかしハッっと何かに気がついたシロが立ち止まる。


「シロちゃん! 早く逃げるわよ!」

「いや、違うんでござるよ……だって…あいつが…こんなところに……でも……」


シロは目を泳がせ、落ち着きが無く、手足は震えていた。
令子たちは一体どうしたのかとすぐさまシロに駆け寄るが、シロの後ろで立ち上った火柱が二人の足を止めた。


「やっと会えたのになんで……なんでこんなに胸騒ぎがするでござるか!」


令子とおキヌはシロの後ろで燃え上がる斧と、その火柱の向こうに野獣のように赤い目をもった少女がいるのを見た。
シロはぎこちない動作で後ろを振り返り、タマモと目が合うと一言、「――――」と言った。
最終ラウンドを告げるアナウンスにかき消されたシロの声だったが、タマモには届いたであろうか。
シロ自身、何故そんなことを言ったのかわからなかった。
まるで、自分の中の誰かが、その言葉を喋らせたかのように……シロはそれが、自分の言葉とは思えなかったのだ。


――おかえり





**





黒服の男たちが空中を舞い、床や壁や机やさらには飛んでいる黒服の男同士がぶつかり合って、骨と骨が激突する鈍い音がそこらじゅうから聞こえる。
一人残らず気絶させると、トロは大きく息を吐き出し、社交辞令的な声を遠巻きに見ているものたちに投げかけた。


「怪我はない? ああそうよかったじゃ早く逃げて」


答える暇なくまくし立てたトロに、そこにいるものはやるせなさを覚えた。


「あ、ありがとう。でも貴方はどうするの?」


既に逃げ出し始めているものたちもいる中、小鳩はトロに心配そうに尋ねた。
トロは小鳩を一瞥した後、小鳩の後ろに視線を移し、キッと目を鋭くさせる。
小鳩の後ろには机に座っている愛子がいた。


「な、なによ」

「……人外が学校にいるなんて、不釣合いだなって」

「なんですってー! あ! あんたよく見たら六道女学院の……!」

「覚えてても名前を呼ばないでね。愛染の名がけがれるから」


愛子はよっぽど大声で叫んでやろうかと思ったが、黒服と同じ運命を辿りたくは無かったので、歯を食いしばりぐっとこらえた。


「愛子さんに謝ってください!」


小鳩は横にいる愛子が飛びのくほどの剣幕でトロに言い寄った。
トロは一瞬頬を引きつらせたが、小鳩の言葉は無視し、小鳩たちに背を向け歩き出した。
途中崩れた瓦礫の一部を粉々に砕けさせ、背中を見つめる小鳩たちをビクッとさせたトロは、屋上に続く階段がある角を曲がった。
愛子が小さい声で「愛染サツキー」と言ったのを小鳩は聞いていた。


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