椎名作品二次創作小説投稿広場


小さな恋のメロディ

別れという名の始まり #2


投稿者名:高森遊佐
投稿日時:06/ 3/ 2




「今日の相手はそんなに強い相手じゃないみたいだけど、油断しちゃだめよ。特に横島クン」

そう言ってくる美神の目が怖い。先ほどの事をまだ怒っているようだ。
いつもならとっくに機嫌は直っているはずなのだが説教が中断されたからだろうか、とにかくまだ機嫌が悪かった。
おキヌの方を見るとこちらは目も合わせてくれない。

「うぅ、辛い…っ」

思わず泣きが入る横島だったが荷物から必要な道具を取り出す。
美神に神通棍と御札、いくつかの精霊石を渡し、また荷物が満載のリュックを背負いなおす。

今回の依頼は某県の山奥の集落からの依頼だった。
古い祠が最近になって発見された。
集落からも離れた場所にあった為に放っておいてもよかったのだが、探検と称して祠に入っていった若者が精神を壊された状態で発見されたのだ。
外傷は見当たらなかったが恐らく霊的なものの仕業との事で美神の元に依頼が入ったのだった。

「確か、精神攻撃の可能性があるんですよね」

「そういう話ね。そういう輩は大抵心の傷に攻め込んでる分性質が悪いわね」

「心の傷っスか…」

横島の顔が僅かに曇る。
美神が特に横島に注意を促したのは決して横島が未熟だからだけではなかった。
最近になってようやくルシオラの事を吹っ切っれてきた所に、再びその傷を抉られたら横島クンは…
そんな心配をしていたのだ。
顔を曇らせた横島におキヌが心配そうな顔を向ける。
未だ自分は横島の心の傷を埋めきれていないのは分かっている。

「…ま、まぁ油断しなければ大丈夫よ。それじゃ行くわよ、気合いれなさい!」

横島を励ますようにそう言って祠に入っていく美神。顔を両手で一度叩き横島も後に続く。


この時点では気付かなかったのだ。既に悪霊の罠に嵌っている事に…。





「んー…、特に霊気を感じるわけではないしソレっぽい物もないわね。
 横島クン、見鬼君に反応はある?」

「ないっスねぇ。本当にココで合ってるんですか」

祠はそれなりの長さがあった。
元は自然の洞窟だったのだろう、微妙に曲がっていたりしたがとにかく何者かが出てくる気配はない。

「行き止まり、ですね」

「そうね。二人共、何か怪しい所あった?」

振り返って横島とおキヌに聞くが期待はしていない。
案の定二人とも首を横に振った。

「勝手に成仏しちまったんスかね」

「そんなわけないでしょ。…一度ココを出て周りを調べて見るわよ」

そう言って入り口の方に向けて来た道を戻る美神に付いていく二人。
外が見える頃になっても何も起こらなかった。

「結局ここは何もなさそうっスね…っとっとっと」

外が見えて気が抜けたのかそう言った瞬間横島の靴の紐が解けつんのめる。
そのまま美神に抱きつく形になってしまった。

「よ〜こ〜し〜ま〜!!」

鬼の形相になった美神が神通棍に霊力を込めつつゆっくり振り返る。

「わ、わわゎ、事故! 今のは事故! 事故です美神さん!」

「今日だけで一度ならず二度までも…許さん!」

「のぉぉぶぼぉああひゃおぉありょおおぉ!!!」

とても人間のものとは思えない叫び声を上げしばかれる横島。

「ふん! 行くわよ、おキヌちゃん」

そういうとスタスタと美神はおキヌを連れて外に出て行ってしまった。
後に残されたボロ雑巾もとい横島は事故なのに…と呟きつつノソノソ立ち上がる。

「ほら、早くきなさいよ!」

美神は完全に外に出たところで祠の中に向けて言った。その瞬間―――

ゴゴゴゴゴゴゴ……ドドーーーン!!

何の前触れもなく祠の入り口が崩れた。

「え?」

一瞬の事で事態が把握できない美神が声を上げる。

「横島さーーん!」

おキヌが叫び声を上げる。
まだ横島は祠の中だ。
崩れる祠の入り口に向かいおキヌが寄って行くところで正気に戻った美神がおキヌを止める。

「危ないおキヌちゃん!」

「だって横島さんが、横島さんがまだ中に!」

美神を振り払い祠に近づこうとするおキヌを力ずくで止めつつ声を荒げる。

「落ち着きなさい! 今おキヌちゃんが怪我しても何の意味もないわ。横島クンならきっと大丈夫」

そう言うウチに入り口の崩落が落ち着く。
崩れ切った入り口は完全に塞がってしまっていた。





「まいったな、二人共無事だといいけど…しかし何で俺ばっかこんな目に」

完全に塞がってしまった祠の中で横島はぼやいていた。
幸い懐中電灯はあるし怪我も無い。
とりあえず外の二人に向けて叫んでみる。

「美神さーーんっ、おキヌちゃーーんっ 聞こえるかーっ」

しかし反応は帰ってこない。
意外と広範囲に渡って崩落してしまっているようだ。

「どうしようかね。文珠で吹き飛ばすか? それとも『壁』『抜』とでもやってみるか?」

そう言いつつ文珠を取り出したところで背後から声が聞こえた…ような気がした。
つい振り返ったその時にはもう遅かった。
暗闇の中でもはっきり分かる悪霊の目と目が合ってしまった。
その瞬間横島はその場に崩れ落ちた。





<続く>


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