椎名作品二次創作小説投稿広場


横島異説冒険奇譚

ベーゴマは砕けない


投稿者名:touka
投稿日時:06/ 2/21

 トントンと板戸をノックする。
中から聞こえるのは、誰だい?という不機嫌な声。
「あの〜、オレ、横島だけど〜。
一応さ、魔力をチャクラに乗せるってのできたよ〜」
 ガラリと戸を開けでてきたのはボサボサ髪に不機嫌顔のメドーサ。
ギヌロ、と横島を睨みつける彼女はこの二週間必要なときしか部屋からでない。
心配になったタケミナカタが、
「こりゃ夜回り先生の出番だな」
などと呟いてその晩メドーサの部屋に入っていったが数秒後、ボロボロになってでてきた。
大丈夫か、と駆け寄る横島だったが、すぐさまメドーサの、
「そら夜回りじゃなくて夜這いだろうが!!」
という声が聞こえたので、とりあえず簀巻きにして鳥居に吊るしておいた。

 閑話休題

 ともかく、この二週間あまり顔を合わせなかった所為か久しぶりに見るメドーサの顔である。
プチ引篭もり生活生活をしていたからか荒れている顔に胡散臭げな表情を浮かべていたメドーサだったが、一言ボソリと、
「よし、じゃあ修行だ」
 と、言うとすぐさま戸をピシャリと閉め、中へと戻ってしまった。
五分後に庭に来い、というメドーサの言葉に横島は首をかしげながらも従うのであった。


 五分後、いつもの格好の横島の目の前には『○×高校』という刺繍の入ったジャージを着込むメドーサがたっていた。
「誰のそれ?」
「借り物だよ。同じ棟に住み込んでる巫女の子に借りたのさ」
 ふふん、と何故か胸を張るメドーサ。
しかし、そこにはかつての新幹線200系はなく、代わりにあるのは良くてもJR山手線。
 くっ!と何故か悔し涙を流す横島に、そんなに修行はいやなのかと、勘違いするメドーサ。
「で、なんで急に修行なんていいだすんだよ?」
 横島の真っ当な質問に待っていましたとばかりに答えるメドーサ。
「ふっふっふ・・・アンタを鍛えて強くしないとアンタに二回もコケにされたアタシの気が済まないのさ!!」
 絶対なんか間違ってる。
横島はそう思ったが、引篭もってなにかスイッチが入ったらしいメドーサには通じなさそうだ。
「さぁ!とっとと始めるよ!
てかそっちから来ないのならこっちからいくよ!」
 合図もなしにいきなりダッシュで横島へと接近するメドーサ。
掌に握られているのは手に馴染む愛用の矛。
なんの躊躇もなしに横島の側頭部へと振るわれるソレを横島はブリッジする事で避ける。
 そして、そのままブリッジの状態でカサカサとメドーサから離れる横島。
「アンタ悪魔でも憑いてんじゃないのかい?」
 かなり気持ちの悪いその光景に思わずメドーサの追撃の手も緩む。
「うるさいわい!てかいきなり過ぎるだろ!?
修行っていうんだったらもっとこう合図とかあるだろーが!!」
「いちいち煩い男だねアンタも。
いいかい?
 ヨーイドンでしか走れぬ者は格闘技者とは呼べぬ!!
雪之丞だって勘九朗だってこうやって強くなったのさ。
白竜寺はね、実践こそ全てなんだよ!」
 そういや、そんなのもあったね、と懐かしむ横島。
確かに雪之丞はGS試験に臨んだあの時点で他の受験者の力量を軽く超えていた。
彼が勝てたのは心眼のサポートと類稀なる強運が重なった御蔭ともいえる。
「じゃ、じゃあ雪之丞はいつもメドーサを相手に・・・」
「するわけがないだろう?
勘九朗だってアタシの相手になるわけないのにあの頃の雪之丞なんかソレこそ問題外だよ」
「じゃあ俺だって無理じゃん!!」
 言ってる事が違うやろ、とツッコむ横島だったが、メドーサは全く話を聞いていない。
「黙りな!!
要はアンタはアタシの鬱憤晴らしに付き合えばいいんだよ!!」
「それが本音かーーーーい!!」
 ポロッとでたメドーサの本音にツッコみながら横島は器用にメドーサの攻撃を避ける。
 サンドバックにおなりっ!!という怒声と共に繰り広げられる斬撃、また斬撃。
結構なスピードで襲い来るにもかかわらず横島はしっかりとそれぞれの一撃一撃を目で追いながら避けていた。
 しかし、メドーサは何回避けられようと執拗に執拗に攻撃を繰り返していく。
大雑把な動きでそれをかわし続けた横島は段々と息が上がり、動きが緩慢になってくる。
「うう・・・もうだめぼっ!」
 フラフラで避けそこなった一撃が眉間にヒットし横島はバッタリと倒れこんだ。

 気を失った横島に興醒めしたのか、メドーサは矛を地面に突き刺すと、フンッと鼻息荒く横島を見下ろした。
「ったく情けがないったらありゃあしないねぇ。
確かに避けるのは上手いし、奇抜な体捌きは中々だが基本がなっちゃあいないよ。
避け方も動き方もまるでド素人。
美神令子は一体なにをこいつに教えてたのかねぇ・・・」
 ああ、卑怯な手練手管か、と納得しているメドーサに背後から声がかかる。
「気を失ってるから聞こえないだろ」
 声の主はタケミナカタ。
今日もTシャツにジーパンというおよそ神さまとは思えない格好で境内をぶらついている。
 手の中に地図が握られているのは、先ほどまで参拝にきた若い観光客に閉社の理由を尋ねられ、あまつさえ他の大社への行き方を教えていたからである。
 観光客もまさか自分たちが尋ねた人物が当の祭神であるとは思いもしなかったのだろう。
「しっかし、おまえもずいぶん変わったねぇ。
最初来た時から思ったけど、ずいぶんと円くなったもんだ」
 顎に手を当て嬉しそうに笑うタケミナカタにメドーサは鼻を鳴らすと何も言わずに建物へと帰っていく。
その後姿をしばらく見つめていたタケミナカタだったがようやく視線を外すと今度は横島へと移す。。
「なかなか素質はあると思うんだよなぁ。まだ若いし。
基礎ができて、ちゃんとチャクラも使えるようになったらまぁそこそこ行くだろうな。
ま、頑張りたまい若人よ。
少年は大志を抱くっつーのは昔っからの決まり事よ」
 そう言ってカラカラと笑いながらタケミナカタは去っていく。
余談だが、みんな格好つけて去っていった結果、誰も横島を中に入れる事ができず結局外で一晩過ごし次の日横島は風邪をひいた。


 明けて一週間後、驚異的な回復力で風邪を一日で治した横島はそれから毎日メドーサ相手に修行というなのシゴキを受けさせられる羽目となった。
 最初のうちこそ、メドーサの攻撃をただ避けるだけであったが、慣れてくると流石に美神の元で経験をこなしただけあって必要最小限の動きで矛を避けていく。
 最小の労力で最大の儲け、という美神令子の教えを忠実に生かしているといえよう。
体捌きも板についてきた。
何度も何度も叩かれ、打ち据えられ、払われ、突き上げられる度に横島はどこに動けばいいか、そしてどの位置が死角になるかを学習していく。
「ってアンタ避けてばっかりじゃ意味ないだろ!!」
 今日何度目か分からない事をメドーサは再び叫んだ。
 そう、メドーサの言うとおりこの一週間横島は避ける事しかしていない。
確かに避け続けていれば相手の体力を削る事にもなるし、実際メドーサは結構疲れているのだが、
「だからって一度は攻撃してこないのかい!?」
 いい加減キレたメドーサが力任せに矛で薙ぐ。
「ええやないかぁ!!
俺は攻撃するための力なんかいらない!
ただ、守るための力があればいいんだっ!」
「言ってる事はたいしたもんだが、膝カクカクさせて社の角にへばりついてる状態で言われても説得力ゼロだわな」
 どこのキルアだ早く降りてきな、といわれ渋々降りる横島。
「アンタね。折角最近チャクラのコントロールができてきたんだから試してみようとか思わないのかい?」
「いんや、全然」
「速効で否定するんじゃないよ!!
男の子でしょ!だからね〜、
少しはやってやろうとか思わないのかい!?」
「ヤってやろうとはいつも思ってます」
 真面目な顔でいう横島だったが、何故かメドーサはその台詞に悪寒を感じ、とりあえずドツいておく。
「あ〜、実はこのジャージの下ノーブラなんだがねぇ・・・」
 ボソリ、と囁かれた声はしかし、まるでオーケストラのような大音響で横島の脳内に響き渡る。
脳がそれの意味を知覚するよりも早く、彼は動いていた。
「のっぴょっぴょ〜〜〜ん!!」
 ようやく魔力を漏らさずチャクラに流せるようになった横島の体内に渦巻く魔力と霊力。
右手に霊力をかき集め六角形を形作る。
「いけっ!サイキック・ソーサー!」
 勢い良く投げつけられたのはお馴染みサイキック・ソーサー。
鼻息荒くメドーサの胸元めがけて放たれたソレはしかし、目標への軌道を逸れ、足首へと命中する。。
 しかも、命中したといってもそれはポフッという軽い爆発音と共に弾けただけ。
ジャージも少し焦げた程度で生足首を拝むまでには至らない。
「何故!?」
 流石にこれは横島自身もショックが大きかったらしく激しく動揺する。
そして、動揺したお陰でチャクラも乱れ折角の霊力も魔力も霧散してしまう。
「あのな。霊圧が全然上がってない状態でそんな小手先の技だしても通用するわけないだろうが」
 呆れ顔のメドーサは矛をしまうと横島へと近づく。
「で、でも前は全然できたやないか・・・」
「あ〜ね〜、つまり昔のアンタは霊力を煩悩として頭ん中に溜め込んでたんだよ。
で、限界ギリギリまで圧縮した霊力を開放して使ってたんだね。
 だから、チャクラを使わなくてもそこそこの霊圧があった。
でも、段々と煩悩無しでも霊力が出せるようになったアンタは今度は煩悩での霊力の圧縮ができなくなって霊圧が落ちた。
 チャクラコントロールができない状態で霊力ばっか出しても垂れ流しだからね。
今の技ももっとチャクラで霊圧かけないとできないんだよ」
 アシュタロスとの最終決戦の折に美神が横島が使えないといった理由がここにある。
あの時点ではチャクラのチャの字も使いこなせていなかった横島は煩悩から遠ざかれば遠ざかるほど霊圧が下がっていった。
 奇跡的にルシオラの霊其が干渉して最後の最後に霊圧が上がって倒せたのは僥倖といえた。
ちなみに、横島は元々霊力を具現化する方向が得意だったのか能力はすべて霊圧が高まらないと使えない技ばかりである。
サイキック・ソーサー、ハンズ・オブ・グローリー、そして文珠。
すべて体内で圧縮した霊力を外で固める技ばかり。
 以前と比べ、霊的中枢回路の半分を魔力用に振り分けてしまった今、彼は今まで以上に霊力を圧縮する技術を見につけねばならなかった。
「いいかい?
霊圧ってのは霊力を圧縮するんだよ。
で、一番簡単なのはチャクラを回しながらどんどん霊力を注ぎこんでいくんだ。
チャクラの中にある霊力の量が多くなれば多くなるほど霊圧は高くなる」
 メドーサのアドバイスに横島はとりあえず一番簡単なサイキック・ソーサーを出そうと試みる。
GS免許の試験で初めて会得したサイキック・ソーサー。
雪之丞も試合中に真似てきたことからそれほど難易度は高くないといえる。
「こいこいこいこい・・・・きたきたきたきた・・・でええいサイキック・ソーサー!!」
 下腹でなにか蠢いているような奇妙な感覚を右肩、腕、そして掌へと誘導する。
段々と掌の中で生成されるそれを集中力を絶やさぬ様に形作る。
 そして、掛け声と共にそこには掌の半分ほどの、『四角い』サイキック・ソーサーがほのかな光を発しながら存在していた。
「・・・あれ?」
 今までのとは明らかに形が違うそれを不思議そうに見つめる横島。
何故だろうか、心の奥から懐かしい思いが沸き起こる。
セピア調の記憶の彼方、親友と夢中になったそれは、
「メンコかこれっ!?」
 パチーーン!と小気味良い音と共に地面へと投げつけられる新サイキック・ソーサー、改め霊力メンコ。
往年の腕を感じさせるそれは地面にぶつかると懐かしい音と共に爆ぜ、辺りを霊力波が駆け巡る。
「おお・・・これは便利だ・・・
しかも!!どりゃ!!」
 再び掌に具現化させる横島。
いったんメンコと認識してしまうとそこは慣れ親しんだ玩具。具現化するのも早い。
四枚も一気に具現化したそれを寸分たがわぬコントロールで賽銭箱へと投げつける。
 カカカカッ、と一列に突き刺さったそれを見ながら横島はニヤリと笑った。
「ふふっ、秘技キャッツカード・・・これでよく教師のチョークを叩き落したものさ」
 得意げに鼻を鳴らす横島にあきれ返るメドーサ。
ずいぶんと嫌な生徒もあったもんだが、それよりも霊能力をこういう方向で具現化させた事に驚きそして同時に呆れもする。
「メドーサ!俺わかったわ!
霊能力ってこういう自分にあった形で出すとスゲー具合がいいな!!」
 あーそーかい、と投げやりなメドーサにも横島はめげず、さらに調子に乗って他のも試してみる。。
「メンコがでたんだからさ〜、これもでるはずだよな〜」
 集中して右の掌からでたのは昔懐かしいベーゴマ。しかも角六のペチャ。
霊力で作られたらしい淡く、白く発行するそれを横島は満足げに眺めると、靴紐を解きそれに巻きつける。
「いくぜ!!浪花のベーゴマ魂みせちゃるわ!!」
 勢い良く繰り出されたベーゴマは霊力の助けもあってものすごい回転で地面を滑る。
地面にある小石など当たっただけで吹き飛ばす。
 ニヒヒ、といたずら小僧のような笑い顔でそれを満足げに眺めていた横島だったが、ふと真顔になるとぐっとベーゴマを睨む。
「どりゃ!!」
 掛け声とともにベーゴマの上面に何か紋様が現れる。
回転の所為でまるで紋様にしか見えないが、メドーサの動体視力に捕らえられたそこにはしっかりと『爆』という文字が浮かんでいた。
「まさか・・・」
「文殊ベーゴマ!」
 間の抜けた掛け声と共にたつ炎柱。
 何事だと宮司たちが集まるのを背後に横島は、どーや見たか、と得意満面顔。
横島の笑顔の先には呆けているメドーサの間抜け面があった。


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