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横島異説冒険奇譚

魔力、疾走


投稿者名:touka
投稿日時:06/ 2/16

「改めてよろしく。俺はここ諏訪大社の祭神してるタケミナカタトミノミコト。長ったらしいからミッキーって呼んでもいいぞ」
 神を頭の左右で結い、古めかしい服を着込んだ隻腕の男が横島の前に胡坐をかいている。
その手のなかには酒の注がれた杯があり、傍らには徳利も置かれている。
隻腕ゆえに飲んでは杯を置き、また注ぐという面倒な手順を踏まなければならないが男は一向気にしない。
二人の間に座っているメドーサが注いでやれば良さそうなものだが、生憎と彼女にそんな考えは髪の毛の先ほども存在していないようだ。
「いや、ミッキーって訴えられるぞアンタ。っつーかどうやったらミッキーって呼べるのかがわからん」
 目の前にいるのが神様だというのにまったく尊敬の念が無い横島。
しかし、タケミナカタも気分を害することなくフフンと笑った。
「あのね、このタケってのは相手を尊敬する意味だから付けなくてもいーんだよ。
で、タケを抜いたらミナカタだろ?で、ミッキー。
全然不自然じゃないじゃん」
「いやいや、全然不自然だから。っつーかアンタの名前はどーでもいいんだよ。
っつーかオッサン誰や?」
 全く男が相手だと尊敬も畏敬も居敬もできない男である。
っつーかアンタ、タケミナカタって誰か全然わかってないだろ、と突っ込むメドーサ。
「うん全く知らない」
「この阿呆!アンタGSなのに自分とこの神話も知らないのかい!?」
 このスカポンタンがぁ〜、と激昂するメドーサの怒気に思わずビビる横島。
しかし、知らないと否定された当の本人はといえば、
「はっはっは!知らないってそりゃしょうがないだろミカヅチ。
大体今の教科書にはほとんど載ってないんだよ俺らの事。何せ菅原の小僧すら学問の神様、ぐらいにしか知られてないんだぜ?
上代の事なんか興味ないない。
 大体なぁ、若いうちの男ってのはヤるか、ヤられるか。
女の事しか考えてないもんだ」
 うんうん、と頷いて感慨にふけるタケミナカタの頭を、そっちの『ヤる』かい!とはたき倒すメドーサ。
その横ではこれまた横島が、おお・・・確かに・・・とか何とか言いながら尊敬の眼差しでタケミナカタを見ている。
威厳もへったくれもあったものではない。
「アンタ、国譲り、とか聞いたこと無いのかい?」
 呆れた調子でメドーサが聞くが、生憎と授業すらまともに聞いてない横島にはわからない話であった。
 はぁ、と溜め息をつくと、しかたがないねぇ、と語りだすメドーサ。
面白そうにそれを眺めるタケミナカタの前でメドーサはとつとつと語り始めた。



 今は昔、この国が国として働くよりももっと前、人々は神とともにこの豊葦原と呼ばれていた土地に住んでいました。
その土地を統治していたのはオオクニヌシノミコトという神で可もなく不可もなく、なんだかのんべんだらりとみんなで過ごしていた。
豊葦原は国津神と呼ばれる神々も人間と共に暮らしていた。
 ある日、そこに高天原と呼ばれる神の国から天津神と呼ばれる神々がアマテラスオオミカミを筆頭に豊葦原を譲りなさい、とオオクニヌシノミコトに持ちかけた。
アマテラスオオミカミはタケミカヅチノカミという神様をオオクニヌシノミコトの元へと遣わして答えを尋ねた。
オオクニヌシノミコトは、
「息子二人が良いって言うなら良いよ」
 と、なんだか親バかな発言をし、責任をすべて息子二人に丸投げしました。
息子の一人、コトシロヌシノカミはタケミカヅチノカミの問いにすぐさま首肯すると、
「どーぞ」
などと言って隠れてしまいます。
一件平和的な解決だが、タケミカヅチノカミは漁をしているコトシロヌシノカミの元へ剣を携えて行った。要は脅したのである。
 さてさて、一人の息子の了承を得たタケミカヅチノカミは次にもう一人の息子、タケミナカタノカミの元へとやってきた。
 が、この息子、血気盛んで天津神の脅しにも屈しず、タケミカヅチノカミに勝負を挑みます。
果敢にも戦うタケミナカタノカミであったがとうとう負けてしまい、片腕を切り落とされます。
命からがらここ諏訪まで逃げてくると、もう反抗しないからという理由で見逃してもらいました。
こうして、天津神たちは多少の血が流れたものの、易々と豊葦原を手に入れる事ができたのです。


 ご退屈さまでした、とペコリと頭を下げた後、アタシは一体なにやってんだと恥ずかしくなり真っ赤な顔でとりあえず横島を殴る。
 よくよく考えてみたらずいぶんとひどい話だな、と自分を棚に上げてアタシはむかついた。

「で、その命からがら逃げたのが俺、ついでに俺の片腕切り落としたのがこいつ」
 そう言ってメドーサを気軽に指差すタケミナカタ。
「えええええええええええええええええええええええええええええっ!?
だって、メドーサって外国の、えっ!?え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
 メドーサを指差し驚愕の余り言葉が上手く出てこない横島を殴って沈黙させるとメドーサはタケミナカタに食って掛かった。
「ちょいと!!何回も言うがね、アタシはもうタケミカヅチとは全く関係がないんだよ!!大体アタシは今魔族なんだよ。昔の話は止めて欲しいさね」
 本当なんだ・・・と呟く横島を見てメドーサは、ホラ見ろ面倒くさいと睨むと説明した。
「あのね、こいつの片腕切り落としたタケミカヅチってのは元々国津神で、この国譲りの貢をもって天津神たちに迎え入れられるとき、邪魔だった荒魂を分離させたのさ。それがアタシ。
 だから、確かにアタシらは元は同じだけど、分かれてもう長い年月がたってるから全くの別人て事さ」
 急にそんなに捲くし立てられても、と情報過多気味の横島にタケミナカタは苦笑すると噛み砕いて説明してやる。
「つまりさ、昔は日本を魔族が統治してて、そこに神族が攻めてきたのよ。
俺の親父も兄貴もホイホイ譲っちゃったけどさ。
俺はそれが嫌だったわけ。で、こいつの元と戦ったんだけどやっぱり勝てなくてこうしてここ、諏訪に隠棲してるってわけ。
まぁ、それまでは日本をシめてた訳だし、諏訪でも結構人助けしてたからこうして祭られてるけどな」
「ええええええ魔族!?」
 噛み砕き過ぎ。
 もう横島の脳みそはトコロテン状態である。
まるでカオスのように、言われた事が入る度に前の情報が押し流されていく感じ。
とにかく、まったく要領を得ない横島はもう少し説明してもらう事にした。
「まぁ、変わってるよな。
昔のこの国ってさ。神族じゃなくて魔族が治めてたんだよ。
国津神ってのが魔族、天津神てのが神族。
文献には神としか書いてないだろ?
たぶん、昔の人にとっては魔神も神も等しく同じ存在だったんだろうな。
アバウトだよな〜、この国の人って。
コミックでもさ、アシュタロスが言ってたろ?
『神が統治する世界も、魔族が統治する世界もそう大して変わらない』ってな」
 ここでいきなりの○禁ワードにより修正力が働く。
突然腕の無い右側から一斗缶が飛んでくるがしかし、あっさりと神通力で止めるタケミナカタ。
「一応神さまだから。
コホン。
で、俺は親父のオオクニヌシノカミと母ちゃんの間に生まれたから半人半魔なんだよね。
 だから、最初の頃は苦労したんだぜ〜。なにせ、ちょっと霊力か魔力使おうとするとす〜ぐ熱出したからな〜」
 昔を懐かしむ目で遠くを見つめるタケミナカタ。
昔といっても相当昔、弥生時代の頃である。
「特に思春期はつらかったな〜。
やっぱさ、思春期ともなると女の子が可愛く見えるわけよ。
 で、その頃って言ったら女の着るモンといえば貫頭衣なのよ。
これって一枚の布の真ん中に穴あけてそこに頭を通して裾を結ぶっていう服なんだけどさ。
夏なんかだと暑いだろ?
だから結構みんなルーズに着こなすわけよ。
そうすると横から見えるんだな〜、横チチが。
 俺って興奮すると霊力でるタイプらしくてさ〜、もう夏は天国で地獄だったね」
 さっきから全く神さまらしい事を言わなかったがココへきて株急暴落。
絶対零度の眼差しをメドーサが向ける横で横島は思わず涙を流した。
「な、なんだって〜〜〜〜っ!?
夏に横チチ見放題!?くっそ〜〜なんで俺はそのときに生まれなかったんだ〜〜〜っ!!」
 おっ、話がわかるなボウズと身を乗り出すタケミナカタにもちろんです師匠!といつの間にか師弟の関係になっている横島。
「いや〜、あの頃はよかったぞ。
みんな大らかで、なにせ夜ともなればみんな夜這いばっかしてたからな〜」
「夜這いばっか!?ってことは皆櫓で夜這いで倍櫓ですか!?」
 意味わかんないだろーがっ!!というメドーサのツッコミも気にせず盛り上がる二人。
アンタらホントに初対面か、とメドーサがツッコミたくなるほどの意気投合っぷりである。
「てかそんな事してたのあんたたち少数だっただろうがっ!!
偏った歴史の事実をおしえるんじゃないよ!!」
 怒鳴るメドーサを気にせずタケミナカタは話を続ける。
「ミカヅチもさ〜、最初はビックリしたのよ。
俺んとこ最初にきたミカヅチってのはすっげ〜、イケメンな男の神だったのよ。
まぁ、神族は大抵美形だけどさ。で、もう地元の人間たち大歓迎。特に女がキャ〜キャ〜言っちゃてさ」
 だから、オッサン反抗したんかい・・・とボソリとツッコむ横島。
その質問には答えず、しかししっかりとその額に汗をかきながらタケミナカタは話を続けた。
「で、でさ〜、負けた後、なんかそいつの身体が分身したわけよ。
でてきたのはすっげーいい女でさ〜。もうボンキュッバンな感じ?
話を聞くとタケミカヅチの荒魂なんだとさ、神族に荒魂があっちゃだめだっつーんで隔離されたんだと。酷い話だろ?
すげー、落ち込んでたからとりあえずうちに帰って近くの集落に預けたんだよ。
モーション結構かけたんだけど最後までなびかなくてさ〜。
急に姿を消したと思ったらまさか魔族になってるとはな〜。
 しかし、おまえもずいぶん体つきが寂しくなぶっ!」
「う、うるさいね!!余計な事まで言わなくていいんだよぶっ殺すよ!?」
 おおい、怖いなおい、とおちゃらけるタケミナカタ。
「アンタたちいい加減にしときよ。さっきから関係ない話ばっかベラベラベラベラ・・・
横島!アンタここにきたのは理由があんだろ?
なら、さっさと聞く!!」
「ぶ、ラジャ!!
た、タケミナカタのオッサン。
どうやってその霊其構造を変えたんだ?」
「ん〜?いきなり話を変えたな。
ってかお前そんな事に興味があるのか?」
 感心感心、と頭をかいぐるタケミナカタに恥ずかしそうに手を振り払う横島。
そこへ横からメドーサが補足をする。
「こいつ、ちょっと訳ありで霊其構造が魔族のものと混じってるんだよ。
アタシは元々荒魂だから関係なかったけど、霊力と魔力回路がゴッチャになってるだろこいつ?
 それで少し問題があってね。
アンタならどうにかできると思ってやってきたんだが・・・」
 ふーん、どれどれ?とタケミナカタは横島に近寄りその瞳を覗き込む。
かと思いきや、口を覗き込んでア〜と言えだの、おでこから鼻までを指で触診したりだの、まるで医者のような事をしていく。
(な、なんの意味があるんやこれ?・・・)
 思っていたのと違う調べ方になにかムズムズとする横島。
これならまだ五行封印のほうがいいような、と思ったが、また叩かれるので今回は口にしなかった。。
「う〜ん、確かになんかぐちゃぐちゃしてるなぁ。
これ生まれつきじゃないんでしょ?
ってかチャクラ経路に二つのが混じってるから凄いことになってるよ。
よくこれで今まで過ごせたねぇ。
君にこれくれた人はよっぽど君のことが大事だったんだねぇ。
君の中に入ってもまだ君に負担をかけないようになるべく因子自体を霊力に差し障りにならないようにしてるよ」
 その言葉に横島はまたしてもルシオラの愛を感じ、いたたまれなくなる。
あの時他に方法はなかったのか?
何回も何回もその事を悔やんでは見るが過去には戻れない。
未来の横島がやっていた文珠の複数同時展開も試しては見たが、霊力が落ちた今アレだけの数の文珠を制御するのは不可能だった。
「まぁ、元気出せよ。
何があったのかは知らないけど、男がそんなにウジウジ悩む野はどうせ女絡みだろ?
男はなぁ、悩んでも良いけどその姿はどんなときでも女の前じゃみせちゃいけないんだぞ。
 でも、たまに狙ってる子の前でチラッと見せると効果高いぞ?」
 コソッ、と耳打ちされる言葉に横島はすぐ復活し、ほうほうと深く頷く。
他にはなにかないのか師匠、と尋ねる横島の姿をみたタケミナカタはニヤリと笑って横島の肩を叩いた。
「知りたいかボウズ?この世の半分を占める神秘の正体を?・・・」
「知りたい!!」
 よーし、そうかそうか、と頷いて、タケミナカタは横島と肩を組むと意気揚々と出かけようとする。
「そ〜か〜、じゃちょっくら今から夜の高天原で国譲りっつーか腰揺するっつーげぶっ!!」
「アンタそいつの事直せるのかい?直せないのかい?
ど・っ・ち・な・ん・だ・い?」
 矛を構えて仁王立ちのメドーサはまさに夜叉。
だくだくと鼻血が流れる顔を抑えながらもタケミナカタはふらふらと立ち上がる。
神さまの威厳ゼロ。
「ふ、ふまん・・・真面目にやるから。
え、えっと・・・結論から言うと治る。
霊其構造のなかで散らばっている魔族と人間の霊其を整える。
そうした上で、流す回路をすこし分離できるようにすれば抵抗はなくなる、はず」
「はずってのはなんなんだい!?」
「だって、そんなのやってみないとわかんないじゃん!!俺だって試行錯誤でやったのよ!?
っつーか俺んときは自分ひとりでやったんだぜ」
「そーいや、オッサンどうやってやったの?」
 横島がしごく当然な質問をする。
つーか、君はそんなにオッサンオッサン呼んで良いのか?
さっきから部屋の外では宮司が二三人怒髪天をつく勢いで君を睨んでいるのだが・・・
 相変わらずの自然体を披露する横島に嫌な顔せずタケミナカタも返事を返す。
「ああ、俺がガキの頃は親父にいちいち手伝ってもらったんだが、国譲り以降親父の職場が変わってな。
しかも大忙しときたもんだから自分ひとりでやらなきゃいけなくてよ。
俺がやったのは自分の霊力と魔力この二つをおんなじ性質のもんにしていくんだ。
長い間かけてこう、二つの糸を一つに紡いでいく感じでな。
まぁ、俺の場合は生まれつきだったからなんとかなったけどな。
それでも習得するのに百年かかった。」
「百年!?」
「ああ、だって霊力と魔力二つでてるのを一つに纏めるんだぜ?
スゲー時間かかったっつーの。
でも、おまえはそれ止めたほうがいいぞ。
お前の中にあるのは元からあったんじゃなくて後天的に手に入れたもんだろ?
だからひとつにしようとするのは無理があるんだ。
だったら分けて別々に使ったほうが手間もかからないし早いんだよ」
 ふ〜ん、分かったような分らんような・・・と横島は首をかしげる。
「で、具体的にはどうやるんだい?」
 司会進行役のメドーサが先を促す。
もはや彼女しか場を進める事はできないのではないか?と思うほどの司会っぷりである。
どちらかといえば横島とタケミナカタが脱線しすぎなきらいもあるのだったが。
「あ、やり方はね結構簡単なのよ。
えっと、ほりゃ」
 気の抜けた掛け声と共にタケミナカタが手に力を込めるとそこには一つの勾玉が現れた。
「もいっこ、ほれ」
というともう一つ現れる。
こんどはそれらを片腕と歯を使って器用にそれらをくっつけていく。
二つずつあわせたそれは中国における陰陽の珠のようになる。
 そして、横島はそれに見覚えがあった。
「ああっ!俺はその珠の形を覚えているっ!!
確かそれは・・・」
「あ、知ってるのこれ?
これはね、こうやって文字をこめると」
 各々の勾玉の太くなった部分にそれぞれ『魔』と『力』という二つの文字が現れる。
形こそ勾玉だが、それらは間違いなく文珠であった。
 あのアシュタロスと戦ったとき横島がだした二つで一つの文珠を作り出したタケミナカタはそれをポイと横島に渡す。
左手でそれを受け取る横島。
途端、文珠からすさまじい勢いで魔力があふれ出した。
「おわっ!?」
「それ結構長い間魔力でるからさ。
それと似た感じの力がたぶんお前ん中にもあるはずなんだよ。
で、当面どちらかの手にそれ持ってだね、持ってるほうの身体半分は魔力、持ってないほうには霊力を集中するの。
まずは集中するだけね。
そのうち同時に感じれるようになったらそれを各々の霊其構造半分ずつ使って回してやる。
そうすりゃ、そのうち流れに沿って魔力と霊力の霊其が移動するからさ。
ま、最初の一ヶ月は大変だと思うけどまぁがんばってね」
 にこやかに笑ってポンと肩をたたくタケミナカタと、はぁ、とまだ要領を得ていない横島の後ろで、突然あふれ出した魔気に宮司たちが気分を悪くしバタバタと倒れていた。
結局その世話をしたのはメドーサである。




 「なんでだい!?」


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