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GS美神 アルカナ大作戦!! 〜Endless Expiation〜

Chapter3.EMPRESS『武神たる所以』


投稿者名:詠夢
投稿日時:06/ 2/16


剣尖が閃き、火花が飛ぶ。

けたたましく打ち鳴らされる、金属音。


「くッ!!」

「どうした!! 防ぐばかりが其方の戦いか!!」


ラクシャーサの雄叫びが、刃とともに振り下ろされる。

瞬間的に間合いを詰められ、躱せるタイミングにないそれを、小竜姫は神剣で受け止める。

だが、それだけで終わらない。

絶妙の力加減で打ち込まれた斬撃は、決して力任せに振り抜かれずに、再度翻って牙を剥く。

六度、七度、八度と幾度となく連続する刃の猛襲。

神剣の使い手として勇名を馳せた小竜姫をして驚嘆させる、巧みな剣捌き。


「ぐッ…うッ…!!」

「まだ耐えるか、見事!! だが…!!」


一際強い打ち込みを、神剣を楯にして防ぐ小竜姫。

ぎりぎりと抑え付けられながら、その刃の向こうの邪鬼を睨み付ける。

ふんッ、と短い呼気とともにラクシャーサの腕が振るわれ、小竜姫は神剣ごと吹き飛ばされる。

くるくると幾度か宙を回り、体勢を整え……ようとして、目の前に迫るラクシャーサにふたたび剣を構える。

打ち振るわれた横殴りの一撃は、防ぐだけで手一杯だった。


「くぁ…ッ!!」


手が痺れる。

だが、それでも小竜姫は神剣を手放しはしない。

さらに吹き飛ばされながら身を捻り、その先にあった木の幹へ足先を向け、ぶつかるようにして足場にする。

吹き飛ばされた勢いも加わって、ばねのように力を蓄えた脚を蹴りだし、横合いへと飛ぶ。

刹那、何かが自分を掠める気配。

なおも踏み込んできたラクシャーサが、その両手に構えた刃を振り下ろしていた。

メキメキと嫌な音を響かせながら、木の幹が二つに裂けていく。

振り下ろした体勢のままのラクシャーサに向けて、小竜姫は横に飛ぶと同時に、身を捻りながら霊波砲を放っていた。

だが、不安定な体勢から放たれたそれを、ラクシャーサは片腕で斬り払う。


「ちぃ…ッ!!」


小さく舌打ちをして、小竜姫は歩道に降り立った。

ゆらり、とラクシャーサが振り返る。


「…軽いな。この程度の攻撃では、我には何の痛痒も与えられぬぞ?」

「ッ…!!」


小竜姫は答えない。

正確には、答えるだけの余裕が無い。

荒い息を繰り返しては、その頬から滝のような汗を流している。

小竜姫の霊力は、さきの超加速で殆んど底を尽きかけていた。

今は、少し回復しては霊波砲を放つといったことを繰り返しているが、それもいつまで持つか。

傍目にも、その消耗がはっきりとわかる小竜姫の様子に、ラクシャーサはふと目を伏せる。


「…やはり、其方では役者不足のようだ。」


ぽつり、と。まるで何かを諦めたような口調で。

独り言のように呟く。


「我の求めるものとは程遠い。こんなぬるま湯の如き闘争など… あちらの少年ならば、もう少しマシだったろうに…。」


すっ、と。

視線を植えこみの方に向ける。

その向こう側にいるであろう、少年の姿を探すように。


「刃筋の立たぬ我が身…血を流さなくなって久しい。
 敵の血は、文字通り浴びるほど見てきた。
 我が望むのは、この身すらも朽ち果てさせるほどの闘争。一心不乱の闘争をこそだ。
 それが得られるのであれば、我は破滅すら悦びをもって受け入れる。」


淡々とした口調は、しかし、鬼気を孕んでいた。

自身の勝利も名誉も求めず、あるのはただ互いの心身を削り尽くすような闘争への狂おしい渇望。

表面の静けさが、逆に内に秘めた激しさを知らしめていた。

それはバトルマニアなど比ではない、そう。闘争狂とでも呼ぶべきもの。

次第に声に熱がこもり始める。狂った熱が。


「さきの戦いは見せてもらっていた。あの少年は素晴らしい。
 あの者ならば、あの理不尽ささえ覚えるほどの力を振りかざす彼と戦えるならば。
 我は満たされる…満たされながら、朽ちていける!!」


ぎりっと、砕かんほどに強く剣の柄を握り締め。

ふ、と。

やや落胆の色を浮かべて、ラクシャーサは肩の力を抜く。


「だが、それも最早叶うまい。なれば、其方にはそれに見合うだけの闘争を演出してもらわねば─…。」















「そうですか。」


唐突に。

それまで黙り込んでいた小竜姫の突然の言葉に、ラクシャーサは鼻白んだ。

そこには、平坦な声音とは裏腹に、なにかこう、有無を言わさせない感じがした。

平坦な分、余計に。


「な、なんだ…?」

「そうですか。ああ、そうなんですか。」


ラクシャーサが戸惑いを隠せないまま見れば、さっきまでへばっていたはずの小竜姫は、やや俯いたまま薄っすらと笑っていた。

なんかこう、胃の辺りがきゅっと締め付けられそうな、妙な迫力のある笑み。


「つまり、貴方はこう言いたいと。私よりも刻真さんの方が強いと。そう言いやがりたいわけですか。」

「むッ…?」


ラクシャーサはふいに、カチリと地雷を踏んだような気がした。嫌な汗が吹き出る。

すっと顔を上げた小竜姫の目は、笑ってるようで笑っておらず、見ているようで見ていない。

早い話が、キレていた。


「刻真さんといい貴方といい、あれですか。よってたかって私を弱い子扱いですか。
 さっきはそれでも心配されてるんだなと嬉しくも思ったりもしましたが、やはりそれはそれ、これはこれ。
 武神とっつかまえて弱いとは何事ですか。
 よくよく考えてみれば、心配はともかく小馬鹿にされるってどういうことですか。
 どうせ私は大きな事件のときは毎回大した活躍もしてませんがだからといって馬鹿にされる謂れは無いです。」
 

抑揚を欠いた言葉と共に叩きつけられる霊圧には、疲弊の色などどこにもなく。

むしろ増大してるっぽい?

ここ最近のフラストレーションが今、小竜姫の中で限界を突破し、目の前の敵に牙を剥く。

人は言う。これは八つ当たりだと。


「む…お…!?」

「訂正なさい。」


命令であった。もう完全無欠に微塵の隙も無い命令っぷりであった

いかな反論も許さないと、そう言っていた。


「私が弱いなどと、訂正なさい。我は武神にして竜神。その所以…その身に刻んで差し上げます!!」


ざぐん、と。

大地に神剣を突き立てて、小竜姫が吼える。

大気を震わす怒号はラクシャーサの鼓膜を、魂を震わせ。

視界を灼く霊波砲の光に、ようやくラクシャーサは我に返る。


「……はッ!! う、うおおッ!!」


咄嗟に剣を振り、さきの霊波砲と同じく霧散させる。

やはり小竜姫の消耗は相当のものらしく、怒りでわずかに出力が増大したようだが、それでも自分を討つには程遠い。

その軽い手応えに、ふたたびラクシャーサの胸の内に落胆の色が滲む。


「この程度では無駄だと言って──ッ!?」


しかし、ラクシャーサは不意に仰け反ると、ぐうっと一声呻いて膝をつく。

剣を握ったまま顔を抑える右手の隙間から鮮血が溢れ、ぼたぼたと地面に赤い華を咲かせる。

小竜姫が、にっと笑う。


「こ、これは…匕首(ひしゅ)…!?」


ラクシャーサは、己の右目に深々と突き刺さったそれの正体に思い当たり、迂闊なと内心臍を噛む。

霊波砲は囮。

その影に隠して投げた、こちらが本命か。

残った左目で小竜姫を見やれば、すっと構えをとる彼女の手、握られた指の間から、計七本の鋭い切っ先が除いている。


「『龍の牙』は変幻自在の神の武具。変幻した匕首の数は八本…残り七本。その七本で、貴方を仕留めます。」


その真っ直ぐな宣言を受けて。

赤々と、半面を、体を染め上げていく己の血を見て。


「…ふ、ははっ、はは…ははははははッ!!」


ラクシャーサは笑っていた。

両手の剣を打ち鳴らし、大きく横手に広げて構え。


「よかろう!! やってみせるがいい!! 我の言葉が気に入らぬなら、力ずくで捻じ伏せてみろ!!」


ラクシャーサが飛び出す。

間合いはあっという間に無くなり、凶刃が左右から小竜姫へと襲い掛かる。

それをわずかに後ろへと身を引いて躱すと、そのまま上に向かって跳ぶ。

小竜姫が立っていた場所に、交差したはずの刃が突き入れられていた。

あのまま、身を引いた体勢のままその場に留まっていたら、串刺しにされていたろう。

ラクシャーサの後方に降り立つ小竜姫。

その着地の瞬間、身を捻ったラクシャーサの横殴りの一撃を、小竜姫は思いっきり後ろに倒れこみながらやり過ごす。

仰け反った胸の上、ぎりぎりのところを刃が掠めすぎていく。

ちょっと複雑な顔をしながらも小竜姫は、地面を後転しながら距離をとりつつ、二本の匕首を放つ。

地を這うように放たれたそれは、喉笛に喰らいつくかの如くラクシャーサの足元で跳ね上がる。

しかし、伸び上がった二本の牙は、難なく弾かれてしまう。

そのわずかな隙に立ち上がった小竜姫は、匕首を二本、今度はわずかに時間差をつけて放つ。

一本目の影になって、二本目は捕捉しづらい様に。


「小賢しい!!」


ラクシャーサは、一本目は受けずに横へと躱し、二本目のみに集中。

神速の速さで打ち落とす。


「はあッ!!」


間髪入れずに、残り三本同時発射。

ラクシャーサは剣を振り切った体勢にあった。

だが、その状態から剣を跳ね上げて一本目を払い、二本目はもう一本の剣で弾く。

三本目がラクシャーサの喉もと目掛けて飛んでくるも、それをわずかに上体を傾げてやり過ごす。

目で捉えたわけでなく、闘争に明け暮れたものだけが得られる、反応速度。

そして、小竜姫は七本全てを使い果たした。


「終わりだ!!」


ラクシャーサが、刃を振りかぶって飛び出し─。








キィン、と。

その音を捉える。








頭で考えるよりも早く、ラクシャーサの体がふたたび反応する。

振りかぶっていた刃を引き戻し、振り返ると同時に迫り来ていたそれを打ち払う。

耳障りな金属音を立てて弾かれた、地に突き刺さったそれは。


(馬鹿な!! 匕首だと!?)


それは紛れも無く、匕首。

しかし、七本全て躱したはずだった。では、この匕首は─?

そこまで考えた、ラクシャーサの視界の先に、答えはあった。


(あれは、奴の神剣─まさか!? 最後の一本、身を躱したあれか!? あれを反射させたとでも!?)


跳弾。

すべてはそのためだった。

神剣を突き立てたのも。残り七本でと宣言したのも。それまでの投擲も。

ラクシャーサをこの位置に誘導し、全てを躱したと油断させるための。






そして、この跳弾すらも、布石。






(?! しまった!! 奴はどこだ!?)


意表を衝かれて、ラクシャーサは小竜姫の姿を見失っていた。

慌てて周囲を見回す。


(くッ、どこだ!? 視界が狭い!! まさか…そこまで計算に!? しまった、奴は死角に─!!)


慌てて視界の外、右側へと振り向き。

ひたり、と。

潰された右目の前にかざされたその手に、ラクシャーサは勝負が決したことを悟る。


「……訂正しよう、強き竜神の娘よ。我は──満足だ。」


破魔の光が、放たれた。








          ◆◇◆








消えていくラクシャーサを見届けて、小竜姫は上体を折る。


「はぁっ…はぁっ…!!」


手強い相手だったと、掛け値なしにそう思う。

『アクマ』など、適当にあしらえるような奴らかと思っていたが、こんな強敵もいるとは。

小竜姫は改めて、現在の状況に戦慄する。

武神である自分がこれほどまで苦戦する相手…果たして人間の手に負えるのだろうかと。

もしも、こんな敵が次々に現れて徒党を組んだら、一般のGSではまず相手にならないかも知れない。

話によれば、造魔と呼ばれる相手は更に厄介であるという。

…………。

ひょっとして、先の大戦以上の危機なのでは?

ちょっと顔を青ざめさせて、そこまで考えた矢先。







眩い光の柱が、夜空を貫いた。







小竜姫は愕然と、それを見上げる。

それを放ったのは、方角から見ても間違いなく、刻真だろう。

だが、あれは。

あんな力は、アリなのか。

小竜姫の放つ霊波砲や、それ以上の出力を持つパピリオやべスパ達と比べてもまだ上の強大さ。

ひょっとすると、断末魔砲並みの大きさと威力があるかも知れない。

やがて、空間に残像を焼き付けて光の柱が消える頃、小竜姫は我に帰る。


「そ、そうだ…おキヌちゃ…─!?」


彼女がどうなったか、確かめに戻ろうと小竜姫は駆け出そうとして。

視界が急速に暗くなる。


(そこまで消耗を…!? いや、違う、これは─…!?)


向かう先。自分が駆け出したその方向。

つまり、刻真やおキヌらがいる方向から、《何か》を感じた。

それが何なのか、理解してはいけないと頭のどこかで思う。

ただ、それのために自分の意識が無くなりつつある事と、それを発しているのが刻真である事だけがわかった。


(刻真さ…あなた、は……一体、何…な…─。)





ふたたび彼女が目を覚ましたのは、翌日の事務所のベッドの上だった。


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