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横島異説冒険奇譚

ヒトサイセイ


投稿者名:touka
投稿日時:06/ 2/15

 あたり一面に飛び散り、溜まった赤黒い液体。もしもそれが想像通りのものなら持ち主はとっくに鬼籍に入っていてもおかしくは無いほどの量である。
 が、しかし横島はこうしてピンピンして台所を漁っている。
霊其構造が人間と魔族のモザイクになってから生命力も魔族並になったのかもしれない・・・
「いや、こいつがおかしいのは元からだろ」
 そういきなり地の文にツッコんだのはメドーサ。
彼女も今はフォークで食べられるものを探している。
 がしかし、三十分ほどしても出てきたのは蜂蜜やら、砂糖やら『チェルノブイリのおいしいプルトニウム』・・・
「こんなのどーしろってのさ」
 ポポイっと投げたそれは軌道を描いて横島へとヒット。
「ぐわっ!?ちょっとマテ、こんな放射能撒き散らすもんこっちに投げんといてくれ!!」
「うっさいやね。アタシが矛で殴っても死なないんだからそれぐらいでどーにかなるワケないだろ!!
 ってかこの家食いモンの類はおいてないのかいっ!?」
 まぁ、使用者が使用者だったからなぁ、と横島が苦笑する。
が、自分も腹は減っているのですぐさま食料を探し出す。
 だが、この調子では見つからないか、ルシオラたちと買い込んだのはずいぶんと前だ。もしあったとしても賞味期限切れだろう。

「ところで横島」
「あん?なんだよ」
 ゴソゴソとこちらに背を向け戸棚を漁るメドーサ。
背中と言うかむしろプリプリした臀部が横島の眼前で左右に踊る。
(た、たまら・・・・)
 コギャルのプリケツーーーっ!!と飛び込もうとした瞬間鼻先に突き立てられる矛。
作者的にもこれ以上話が横道にそれるのはカンベンなので次に進ましてもらう。
「ちくしょーーーーっ!!横暴やないかーーっ!!」
「黙りなっつってんだろーがこのトーヘンボクっ!!
さっきは言い損なったけどね。アンタそのままじゃ死ぬよ」
「なっ!?」
「あのね、今は平気かもしれないがね、結局回路の中に二つの要素があるっていうのはどっちががどっちかの抵抗になるって事なんだよ。
例えて言うなら小学生の科学についてた電熱線の発泡スチロールカッターみたいなもんさ。
抵抗があるから熱くなるだろ?
 アンタの場合霊力を回そうとすると魔族の破片が抵抗になって上手く回らないんだ。そのうちその抵抗がアンタの身体にとって有害になる。
その場合は熱くなって発泡スチロールトロリ・・・じゃ済まないよ。
 だから、今のうちに回路をちゃんと整理しないとまずいんだよ」
「そ、そーなのか?・・・」
 話が話しなだけにビビリまくる横島。
「かといってどーやって直せばいいんじゃーーっ!!くそーっ、なんで猿の師匠は教えてくれなかったんやーーーっ!!」
 教えるも何も自分から斉天大聖の元を飛び出した横島。誰が悪いっちゃあ、彼が一番悪いのである。
 がしかし、そんな事は気にも留めないで斉天大聖へと責任を擦り付ける。
「ああん?猿ってあのクソ真面目な小龍姫のお師匠さんの斉天大聖の事かい?
なら、斉天大聖が気付かないなんて、そんな事あるわけがないじゃないか。大方アンタが途中で怖くなって逃げ出したかなんかしたんだろう。
 まぁ、例え斉天大聖でもそれを矯正するのは難しいだろうねぇ・・・
なにせ、あそこは神界の出張所。最近じゃデタントのお陰で魔族もいるらしいが、元々は聖なる気しか認めない場所だからねぇ。魔気の扱いなんざやった事もないだろうよ」」
「ギクギクーーーーッ!!」
 そういわれてみればそんな事もあったような・・・と過去を振り返る横島。
蘇る禿山の一夜・・・

そして、ようやく自分がなぜこんな所にいるのかという経緯も思い出す。

 ヤヴァイ・・・

とてつもなくヤバイ。自分はこんなところで何をやっているのか?
 あの美神令子のことだ、結果を出さなければ人生の丸禁有害指定図書になってしまう。
つまり閲覧禁止・・・
 ブルルッ、と震えた横島は現在の状況を打破すべくもっとも手近なところへと泣きついた。
「た、助けてよどらえもーーーーーーーーーー○!!」
 ドラ焼き奢るからーーーっ!!と鼻息荒く飛び掛る横島。
が、ココからの展開はお約束なのでとっとと割愛して次に移る。
「ふん、アンタは実にバカだねぇ。
そんな手っ取り早く強くなる方法なんてあるわけないんだよ」
「んな殺生な〜。でもおまえさっき強くなれるって言ったじゃん。魔族因子で速効ウハウハでハーレムって言ったじゃん!!」
「誰もそんな事言ってないだろ!!
てかそのネタはヤバイから触れるんじゃないよっ!!」
 劣化コピーは痛いだろ、というメドーサのギリギリの発言にこちらも思わず胃がキリキリする。
弱っている胃にメドーサの、二番煎じは余程の事が無い限り受け入れられないんだよ、という発言が追い討ちをかける。
「つまり、二次創作はどう頑張っても椎名高志を超えられないってこぼばぁっ!!」
「危険な喩えを使うんじゃないよこの宿六がっ!!大体それは本編でも出てたギャグだろーがっ!!」

 ホントすいません。

「ったく、で、どこまで話したっけ?」
「えっと、確か機械の身体をもらいに・・・」
 言いかけた横島の鼻先に硬質な音とともに矛が突きつけられる。
「おおっとそれ以上は言わないほうが身のためだよ。
アンタも流石にコ○モドラグーンで撃ち抜かれたくないだろ?
アタシも作者もさっさと本題を進めたいんだよ。オーケー?」
 あまりの気迫にただコクコクとうなずく事しかできない横島に満足したメドーサはようやく矛をしまうと、その場にペタリと座り込み話を切り出した。
「ええっと〜、ああもう歳だねぇ、何を話していたのやら・・・ああ、そうだ。アンタのその霊其構造だけどね、一応直せる男を知ってるよ」
 外見はピチピチ女子高生、ぐらいなのにまるでチヨ婆のような事を言い出すメドーサ。
むしろ外見は若いからツナデだろ、とツッコむ横島。
「で、霊其構造直したいのかい?直したくないの?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。その前にこの矛引っ込めてくれないと・・・喋るたびに喉仏コリコリされてるんだけど・・・」
 全く懲りない奴だね、とメドーサが渋々矛先をおろすと横島はジッと考え込んだ。
確かに、今の彼がいるのはルシオラが文字通り、彼女の命を賭して横島を助けてくれたお陰である。。
だから、本音を言えば、霊其構造はそのまま、ルシオラが補強してくれたままにして置きたかった。。
 しかし、最近の霊力低下が著しいのもまた事実。
あの美神の事だから、もしも霊能力が落ちたと知ったらまたあっという間に時給が二桁に戻るだろう・・・
事務所以外のバイトを持たない横島にとって給料はまさに命綱といっても良いほどだ。
仕送りの増額は、アシュタロスの一件以来余計ナルニアに来い来いと煩い母親には望めない。

 ううう〜、悩む、悩むぞぉ、と頭を抱える横島。
 その様子がおかしいのかメドーサはクスクスと笑いながら諭した。
「まぁ、今すぐ決めろとは言わないよ。
さっき見た限りでも抵抗が影響を及ぼすのにはまだ少し余裕があるみたいだからね。
 ただ、そのアンタの事を直せるかもしれないって男には会っておくかい?」
 そう言われて横島の心もぐらつく。
 
 ううん・・・確かに今は何をするでもないしなぁ・・・かといってすぐに事務所に帰れる身分でもないし・・・うん、行く」
 物事を深く考えない彼の決断は早かった。
アンタさっきまでの苦悩はどこ言ったのさ、というメドーサのツッコミも気にせず、そうと決まれば旅支度、とばかりに荷物を纏めだす。
といっても、ただ単に部屋のゴミ類を片付け、ジージャンを羽織っただけだったが。
「善は急げって言うだろ。あと、さっきメドーサの言った事が本当ならここは魔界の連中が現れるかもしれないスポットって事になる。長居したら違う奴らと鉢合わせるかもしれないだろ」
 しごく真っ当な事をいう横島にメドーサはしばしポカンとしながらも、確かにそのとおりだとばかりに立ち上がる。
「さて、んじゃ行くとしますか」
 そう言って振り返るとグーラーが体中にガルーダを乗せながら寂しそうにたっていた。
「・・・どうしたんだよ?」
「ダーリンごめん。アタシやっぱ行けないわ」
 先ほどまでアレほど横島と行きたいといっていた彼女の変わりように面食らう二人。
「ど、どうして?」
「この子たちさ。蛇女の言うとおりこの子達は恐ろしいほどの力を持っている。
それを人間がどう思うかわからないし、それに魔族にも狙われてる。
 今回の事が無ければアタシもなるべく人間とは関わらない様に生きていこうと思ってたんだ。
だから、アタシらはやっぱり山に残るよ。
始めは成り行きだったけど、今じゃ本当にこの子たちが自分の子供に思えるんだよ。
だから、ごめんねダーリン」
 そう言って目を伏せたグーラーの肩を横島は黙って掴むと、はっきりと言い切った。
「わかった。でも、いつか絶対に町にこいよな!!ガルーダの事は美神隊長に言えばなんとかなるしさ!
妖狐だってうちの事務所にはいるんだし、なぁに、ガルーダだって人間に対する免疫がかえってつく。
 そして、行く行くは俺のハーレムにぼっ!」
「だからそれはやめなっつってんだろっ!!」
 相変わらずの横島を後ろから張り倒すメドーサ。
グーラーはといえば、いきなりの横島のシリアスからギャグへの移行に少しビックリしていたが、やわらかく笑い出すと壁にめり込む横島の頬にそっと手を当てた。
「ふふ、相変わらず嬉しい事ばかり言ってくれるねダーリンは。
じゃあ、本当に準備が整ったらアタシらを呼んでくれるかい?」
「え、う、うん。もちろんや!」
 いきなりのムフフトーン使用に思わずドキマギする横島。
そんな彼の頬に手を当てたままのグーラーはそっと横島の唇に口付ける。
その様子をジッと見ているメドーサの横で、突然のキスにがビックリして固まる横島。
 彼が固まっているうちにそれは終わると、グーラーは唇をそっと指で押さえはにかむ様に笑った。
「誓いのキスよ。また会ったら続きをしましょう」
 そう言ってグーラーは颯爽と家を出て行った。
笛吹き男のようにその後ろに黄色い雛鳥たちを引き連れて。
「・・・・・・・・・・はっ!?ああ〜〜〜〜っ、俺はなんてオイシイ所を逃したんだ!せめて!!せめて舌を絡ませておけばっ!!ってかミサトさんは舌絡ませてたのに!!」
 横島が再起動を果たし、自らの不甲斐無さを悔やむのはそれから五分後の事であった。

「はぁ〜、そのルシオラってのといい万年色情狂といいなんでこんなのがいいのかねぇ?・・・」

 まぁ、確かに悪党の才能なら有り余るほど持っているがな、流石に美神令子の元で修行をつんだだけある。
 だが、まさかそんなところに惹かれたわけでもあるまい。
メドーサは首をかしげながらも、未だに悔やんで叫んでいる横島の頭を叩いた。
「ほら、いつまでもバカみたいに叫んでないでアタシらも行くよ。
こっからじゃ結構な距離がありそうだからね」
「行くってどこへ?」
 一人青春の青い炎を見られ、恥ずかしい横島は少しぶっきらぼうに答えた。
中々にふてぶてしいが、ほんのり染まった頬がすべてそれを否定している。
 ウブだねぇ、と内心それを面白おかしく見ていたメドーサだったが、ひとつ咳払いをするともったいぶってこう言った。
「長野だよ」






「いやぁ、ついたついた。
ホラ横島、アンタそんなに凹んでないでこの景色を楽しんだらどうだい?」
 長野県は諏訪市。
東西を山々に囲まれ、諏訪湖に臨む風光明媚なこの町に何故か横島はメドーサとともに降り立った、、真っ白に燃え尽きながら。
「ほら、いつまでも呆けてるんじゃないよ!!さっさと足を動かしな!!」
「じゃかあしい!!なんで俺がお前の分の電車代まで払わなあかんのや!
普通は誘ったお前が払うんとちゃうか?
ってかな、あのペンション場所はどこだよ!?なんでこんなに電車代かかんの!?
五桁やぞ五桁!!俺のバイト代が二ヶ月は飛ぶぞ!」
 電車代にもビックリだが、五桁がバイトの二か月分だという事に驚愕するメドーサ。
美神もやるなぁ、と訳のわからない感心をする。
 流石に魔族でも正当な賃金は出るのに・・・と少し横島に同情もする。
が、それはそれ、これはこれ。
無いものは無い。大体魔族が人間界の金など持っているわけが無いではないか。
とりあえず、金の要求にと胸を揉もうと飛び込んできた横島を小突き倒してウヤムヤにした。

 今だ散財のショックを引き摺る横島を文字通り引き摺ってやってきたのは立派な御社。
うっそうと茂る木々に囲まれたそれは、神々しい気を纏い、鎮座ましましていた。
「な、なぁ。ここって明らかに神社だよな?・・・」
「いいから黙ってついてきな!」
 ズンズンと境内を歩いていくメドーサ。
「なぁ、メドーサ」
 なんで、おまえこんなとこまで付き合ってくれるんだ?と、横島は不思議そうに質問する。
横島に背を向け、前を向いたまま歩くメドーサは何も言わず、ただ黙って歩いていたが、小さい声で一言ポツリと、
「・・・森で助けてもらった命の礼さ」
と、言うと足早に先を急いだ。
 横島の位置からではそれがどんな表情で言ったものかはわからなかったが、なんとなく心がほわんとした。

 ズカズカとまるで我が物顔で先を行くメドーサ。
 魔族がこんなとこ歩いていていいのかと思う横島の懸念とは裏腹に、何故か境内にいる巫女も宮司もメドーサに注意を払わない。
 しかし、さすがのメドーサも本宮の扉の前では咎められた。
「ちょ、ちょっと。ココから先は関係者以外立ち入り禁止ですよ!」
 あわてた様子の宮司がメドーサを止めようとするがメドーサはかまわず何かを言いかけて、
「ひっさしぶりーーーーーーだばっ!?」
 本宮の扉をぶち破って現れた隻腕の男をぶん殴った。
「ぎゃ〜〜!!初登場がこんな扱い?やり直しを要求する!!
次はしっかりとミカヅチの懐に!」
「アホな事言ってんじゃないよ!アンタ、未だにその癖抜けないのかい!?」
 頬をおさえてギャ〜ギャ〜騒ぐ男に向かって、腰に手を当て怒鳴り散らすメドーサ。
 一体誰なんや、と呆然と立ち尽くす横島に振り向くとメドーサは半眼で男を指差しこういった。
「こいつはタケミナカタノミコト。あんたを治せるかもしれない半人半魔の神族だよ」
「はぁ?」
 今度こそ本当に訳がわからない。
ただでさえ狭い彼の脳の許容量を完全にオーバーした話に横島はしばらく思考する事を放棄した。


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