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GS〜Next Generation Story〜

永遠の………(後編)


投稿者名:ja
投稿日時:06/ 2/12

 やがて、三つの色に輝く文珠が出来上がった。
「これを英夫に飲ませればいい。それだけだ。だが、これでもう二度と英夫の力を封印する手段はなくなる」
 その文珠を渡す。
「私が行くわ。どうやら、一番元気なようだし」
 ノアが受け取り、近付こうとするが、弾かれる。
「さっきと同じね。これは」
 ノアの霊力を持ってしても近付くことが許されない。だが、意外な人物がその文珠を手に取る。
「私が行くわ」
 蛍がノアの手から文珠を奪った。
「このままでは、ダメ」
 その視線の先には望がいる。
『貴方の所に行きたいと思った。でも、貴方は今ここにいる。たとえ、私の力が封印され、普通の人生を歩めるようになっても、貴方がいないと』
 力を入れる。
「いいの?」
「ええ。貴方達を、いえ、英夫クンを見ていて思ったの。彼は私と同等の存在。その力でいえば私なんかよりも上にいるはず。
 でも、彼は私と違って絶望はしなかった」
と、三人を見る。
「彼の精神と干渉していて気付いたの。彼の本質を。そして、私の本当の願い」
『ただ、望と』
 そのまま、二人のもとへ飛んでいった。

「さて」
 倒れた英夫の前に立ち、地面に手を当てる。
「後は、この者の魂を取り出し、加工をすれば」
 だが、突然目の前がブラックアウトする。
「どういうことだ?」
 そればかりか、手に全く力が入らない。
『そんな、地球の生命力を利用しているはずなのに』

「詰めが、甘かったな」
「ええ。そうですね。
 確かに、地球の生命力を利用するのは良かった。でも、それを使うのは人間。体の方が持ちませんわ」
 これで、しばらくは時間を稼げるだろう。
「さて、この目で確かめさせて頂きましょうか?」
「新世界の王の、誕生の瞬間を」

「望!」
 蛍が駆けつけると、倒れた英夫の前で跪く望がいた。
「……蛍…」
 短く呟き、手を英夫の方に向ける。
「待っていて、今、君の力を封印してあげるから。そうしたら、君は普通に生きられる。こっちの世界で、君はただ、普通に生きていければいいんだ。横島 蛍として。
 そのためにも、彼には悪いけど」
 だが、その手を蛍が掴む。
「ダメよ。私の為に彼を」
と、英夫を見る。
「彼は、私以上に………」
 見てしまったのだ。心の奥底を。
「いや、違う。こいつは蛍とは違う」
「ええ。違うわ。私よりも、遥かに彼の未来は暗い。それだけ、彼の運命は………」
 彼は、ただ生きているだけ。いや、ほんの前まではただの高校生。だが、彼の本質は?全ての者が彼の力を中心に運命を大きく変えている。
「蛍。僕の願いはね、君が笑ってくれればいいんだ。ただ、幸せに。
 あの日、君が僕の前から去ったあの日。君が、『タナトス』として世界を破壊していったあの日から、僕は決めたんだ。僕の命を懸けても君を幸せにするって。それが例えどんな方法であっても。
 君を絶望から救い出すために、君を封印した。その未来で君が幸せに生きてくれればと願い。でも、君は」
「私は、ただ、貴方と………」
「君に、力が無ければ。両親を失わずにもすんだ。絶望をしなくてもすんだ。だから、僕は君の力を」
 両手を前に出す。
「ふざけるな!」
 倒れていた英夫から霊力が迸る。
「何?」
「彼女のために死んでください、と言われて素直に従う程お人好しじゃない」
 立ち上がる。傷口も塞がっていく。
 よく考えたら変な話だ。蛍の力を封じるために英夫の魂を使う。だが、それによって間違いなく英夫は消滅する。英夫は自分の力を警戒していた。いや、最初の頃は気に入っていたが、だんだんと怖くなってきた。その力を封じられたら、と思ってもいた。だが、自分の分身とも言える蛍の命と交換で自分の力を封印するのは気が引けた。それによって彼女が消滅してしまうからだ。それは、彼女の過去を知ってしまったからの同情なのか、それとも、人の犠牲の上に成り立つのが本質的に受け付けないのか。そして、その逆も当然だろう。
「そうか。でも、僕は彼女を幸せにするためなら、この命も惜しくない。あの時、僕が彼女を止めていれば」
 自分自身への後悔だけが続く。
「幸せごっこは、他でやってくれ」
 力の源【怒り】が霊力を増強させていく。
 だが、対象的に望は立ち上がらない。
「まだだ!まだ、戦える!!」
 黒霊石を発動させる。
「ダメ望!それ以上は」
 望は手から黒い焔を出す。
「どうせ拾ったこの命だ。再び燃え尽きても何の後悔もない!」
 焔の剣を手に、英夫に飛び掛る。今までは、英夫の方が圧倒的に押されていたが、今は互角の力で激突した。
「何で?!」
 望の体が限界に近いとはいえ、英夫の力よりは上のはず。だが、今は?
「おおおお!!」
 英夫が望を吹き飛ばした。
「何だと?」
 黒い焔を弾丸のように圧縮して、一気に放つ。だが、それらの弾丸を英夫はあっさりと弾いていく。まるで、先ほどとは別人のような霊力だ。
「バカな?まさか、これが?」
 先ほどとはまるで違う。他を圧倒する力。それを持つ者がいた。
 かつて、蛍の力は人々の抱いた恐怖から、『タナトス』、つまりは死神と呼ばれた。だが、英夫の力は全く違っている。死神?そんな易しい物ではない。例えるならば、全知全能の神々すらも凌駕する、完全な支配者。
「でも、まだ、僕は………」
 だが、その時に変化が起こった。まるで電池が切れたかのように望がその動きを止めた。
「望?」
 しかし、黒い焔は燃え続けている。
「オーバーロード?!力が逆流している!!」
 膨大な地球の生命力を力に変換していたのだ。
『このままだと、望が。止めなくては』
 だが、それだけの霊力は蛍にはない。
「どいて」
 英夫が手から霊力を放出し、抑え込もうとする。だが、焔は収まらない。
「力が足りないのか?」
「英夫クン」
 蛍が横島から授かった文珠を投げ渡す。
「使って。貴方に覚悟があるなら」
「覚悟?」
「お願い。望を助けて!!」
 訳が解らずにその文珠を見る。

「あれ?また、ここか」
「まあ、そう言うことよ」
 目の前に、ルシオラが浮かび上がる。
「ねえ、英夫クン。『幸せ』って何かな?」
「幸せ?」
「そう。
 昔ある所に一人の魔族がいてね。その魔族は敵でもあるにもかかわらず人間を愛してしまったの。そして、その人間のために死んだ。ねえ、その魔族は幸せだったのかな?」
「さあ。幸せの定義なんてそれぞれじゃないの?」
「そうね。いい答えよ」
 少し微笑む。
「横島 蛍。彼女はもう一人の貴方。まあ、私の生まれ変わりでもあるんだけど、彼女の望みは自分自身の消滅。それは、自分への戒めか、いいえ、伊達 望のいない世界には何の未練も無いのか、彼女は消滅を願った。でも、伊達 望が復活した事で、彼女は消滅する必要は無い。伊達 望と二人で生きていく事が彼女の今の望み。でも、貴方が戦っている人、伊達 望。彼はどうかな?彼は横島 蛍が幸せになるために命を懸けて戦っている。彼女の力を封印するために、命を捨てていると言っても過言ではない。でも、その横島 蛍は伊達 望と生きていたい。どちらかの願いが叶えば、どちらかの願いは叶わない。そう思わない」
 蛍の力の封印に成功しても、望は死んでしまう。逆に、望が生き残れば蛍の力は封印されない。
「彼は、彼女の幸せを願い死んでいく。でも、彼女はそれを望んでいない。おかしいわよね?」
「まあ、確かに」
 正直、よく解らない。
「うふふ。いいわね、貴方。そういった子供地味た所。
 私は幸せよ。例え生まれ変われることがなくても。貴方とこうして生きていられて」
 そして、文珠を出す。先ほど蛍が英夫に渡したものだ。
「さて、本題よ。貴方には三つの選択肢がある。
一. このまま逃げる。そうすれば伊達 望は死に、貴方は生き延びる。
二. おとなしくやられる。貴方の魂は横島 蛍の力の封印に使われる。
三. 伊達 望の力を超えて、彼を止める。
さあ、どれ?」
「どれ?と言われても」
「じゃあ、言い方を変えるわね。
 誰が幸せになるのか、よ」
「いや、やっぱりわからない」
「そうね。じゃあ、教えてあげるわ。これが何かを」
と、文珠を見せる。
「これはね、貴方の『最後の扉』の鍵」
「最後の扉?」
「まあ、言い方が解りにくいか。
 貴方の霊力を桁違いに上昇させる物、と言った方が解りやすいかな」
「え?今まで以上に?」
「そう。はっきり言って次元が違う。シミュレーションをしてみたけど」
 そして、哀しそうな顔をする。
「貴方は自分が幸せになりたい。それとも、誰かを幸せにしたい?もちろん、両方が叶えば最高なんだけど。貴方がこの力を使えば、伊達 望は生き延びる。圧倒的な貴方の力を封印なんてできないから、彼も諦めるでしょう。そして、横島 蛍と幸せに生きられる」
「おお!それで行こう。あ、まさか、コントロールをミスると………?」
「察しがいいわね。でも、大丈夫よ。今の貴方なら問題ないわ。
 別に貴方に大きな力を与える、というわけではないようだし。簡単に言うと、元の貴方に戻る、かな?生後間もない貴方に」
「赤ん坊からやり直せ、と?」
「そう言う意味じゃないわ。貴方の【魂の欠片】あれはもともと一つだったの。それを封印しやすいように三つに分けた。それをまた、一つにするの。それだけよ」
「それで?」
「でも、貴方は人間ではなくなる。全く別の存在になる」
「死ぬのか?」
「いいえ。生きている。おそらく、自我も保てるし記憶もそのまま。ただ、普通ではなくなる。それだけよ。
 でも、伊達 望を抑えられ、あの二人は救える。どう?」
「それなら、やってくれ」
「もう一つ、言い忘れていたわ。
 貴方は人間ではなくなる。貴方の寿命は永遠になる。不老不死といっても過言ではない。周りの者が老いて死んでいく中、貴方は今と変わらないで生き続ける。それでもいいの?」
「え?」
 英夫は考え込む。
「だったら………」

「あははは!貴方らしいわ。まあ、その願いが叶うといいわね」
 そして、文珠を渡す。
「はい。後はお任せするわ」
 英夫はその文珠を握りしめる。中から暖かい気が体内に流れ込む。
「何だろう、この感じ?」
 今までにも感じた事が無い暖かさだ。
『なるほど。あの子達の願いがそうさせているのね。幸せ者ね。貴方は」

 その時、世界が震撼した。新たな力の誕生に。

「おお!これや、これを待ってたんや!!」
「素晴らしい………」
 英夫を中心とした霊力の爆発を見る。
「途中に色々あったが、結果オーライやな」
「ええ。新世界の王に相応しいです」

「英夫」
 今、英夫は莫大な霊力を手にしている。そんな息子を見て呟く。
「後は、好きに生きろ」
 それは、人の親であれば誰もが願う事。しかし、横島のそれは、他の者のより強い事は確かだ。

 強烈は光が収まると、英夫は自分の両手を見る。
「何だ、これ?」
 今までとは次元が違う。それほどの力が溢れている。おそらくは、誰にも負ける気がしない。
「あ、そうだった」
 目の前には力に飲み込まれつつある望と、それを必死に止めている蛍がいる。
「どうすれば」
『地球とのエネルギーチャンネルを切る』
 考えるよりも早く右手が前に出る。それは、力の本能だろう。
「!!」
 そこから白い光が迸り、望を包み込む。
「う、うぐ」
 望はそのまま蛍に倒れ込んだ。すでに、黒い焔は消えている。
「おお、何かすげぇー」
 そして、二人に近付く。
「大丈夫。望の命に問題はないわ」
 涙ぐみながら蛍が話す。
「ありがとう」
 だが、その目には同情の念が込められている。
「これで、貴方は」
 これから英夫の歩む道を思ってだろう。
「いや、気にすることはないよ。他力本願はやめるよ。自分で何とかする」
 英夫は蛍と長い時間触れ合ううちに、彼女の悲しみの深さを知ってしまった。彼女の大きな絶望を。それを救い出せたのだ。それと引き換えに自分が多少つらい道を歩むことになろうとも……。
「本当に、ありがとう」
「まあ、これで本当の終わりか?」
 しかし、再び望から霊力が溢れ出す。
「そんな!!」
蛍は驚きを隠せない。それは、英夫とて同じだ。
「暴走は止めたはず。あれでは足りなかったのか?いや」
 直感的に解った。
「何かが、彼の体を乗っ取ったんだ」
 先ほどと同様に右手を前に出すが、力が出ない。
「このままでは、彼ごと吹き飛ばしかねない、か」
 手を下ろす。まるで、力が教えてくれているようだ。
「残念だったな」
 突然望が口を開く。だが、声こそ彼の物だが、全くの別物だ。
「お前は、誰だ」
「私か、私は」
 燃え盛る黒い焔の中から魔族の顔が浮かび上がる。
「ジュダ」
「知らん」
 全く見たことがない。会った事が無いのだがら、この反応は仕方がないとはいえ、少しきつい。
「し、失礼な奴だ」
 その時に、美希達が駆けつけた。
「あ、あんた、さっき望さんにやられた?」
「ほう。あの時一緒にいた娘か。
 だが、残念だったな。私はもともとは肉体よりも精神体が主なのでな。体を消滅されても、新たな肉体を見つければいいだけだ。この男のようにな」
 手を前に出す。黒い焔を放つ。だが、英夫がそれを弾き飛ばす。
「諦めろ。その体を乗っ取ったところで、勝ち目はない」
 剣を構える。
「なるほど。それがお前の本当の力か。よかったぜ。俺ではその力は使い切れそうにない。だが、その力に勝つことはできる。お前には、こいつは攻撃できまい。そして」
 左手で蛍を捕まえる。
「この女の力を取り込めば、完璧だ」

「おやおや」
 カインが面白そうに眺め、横の横島に声をかける。
「最後にあんな三下が出てくるとは」
 ジュダとは旧知の中だが、あまり好きな部類ではない。
「さて、勝負はもうあったようなものだな?」
 カインは横島に背を向ける。
「何処へ行く?」
「少し、時空間のねじれのややこしい所に墜ちてしまってね。こちらの世界に干渉するだけでも精一杯でね。まあ、いずれ完全な状態で戻るよ」
 そのまま消えていった。
「酔狂な奴だ」

「どうするの、英夫さん」
「どうするって、どうしましょう?」
 はっきり言って全く状況が掴めていない。
「解りやすく言うとね、望さんの体を魔族が乗っ取ったの。魔族を倒したいけど、その為には望さんの体ごと傷つけちゃうでしょう?」
「だったら、引き離せば?引き離してくれれば、俺の今の力なら精神体を消滅させる事ができる」
「そんな、簡単に」
「できますよ」
 美希が口を開く。
「え?」
「私にはできますが」
「そうだよな。だから、美希やってくれ」
と、望を指差す。
「でも、今は無理です。敵の力が強すぎます」
「だったら」
 瑞穂が懐から文珠を出す。
「霊力も回復した事だし、取っておきのをお見舞いしてあげるわ。でも、大技だから、隙がないとね」
「はいはい。解ったわ。私も協力するわ」
 剣を抜きながらノアが声をかける。
「隙を作ればいいのね?」
「ついでに、蛍さんも回収して」
「了解。
 英夫、準備はいいかしら?」
「ん?ああ。何か知らんが話は纏まったようだな」
 英夫も剣を構える。
「じゃあ、スタートよ」
 ノアが飛び出す。
「小賢しい」
 黒い焔が攻めてくるが、あっさりとかわす。
「魔族が人間の体を乗っ取っても、それほど上手くは使えないでしょう?」
 攻撃をかわしつつも、懐に潜り込む。
「悪いわね」
 蛍を捕まえている左手を蹴り上げる。その力に負けてか蛍が手から離れる。
「もらった」
 そのまま蛍を抱え空中に飛び上がる。
「さあ、やったわよ?」
「OK!」
 瑞穂はその隙に望の周りに文珠を撒く。
「見せてあげるわ。文珠と結界術の融合技を」
 文珠が五紡星の形に輝く。それぞれに【滅】が刻まれている。
「さあ、これなら効くでしょう?名づけて【滅亡陣】。なんてね」
 圧倒的な霊力が結界内で爆発する。

「さて、準備が整ったようですね」
 手の精霊石が浮かび上がる。
「ヒデ、知っていましたか?私は物凄く疲れているんですよ?」
「ああ、そうなのか。後でお茶でも買ってやるよ」
「そうじゃなくて。
 このまま霊力を使い果たしてGSになれなかったらどうしてくれるんですか?」
 もちろん嘘である。だが、英夫の反応は深刻だった。
「だったら、責任を取ってやるよ」
「え?」
『責任を取る』。その言葉に全ての思考が停止した。精霊石がコントロールを失い落下する。だが、それほど世の中は甘くは、いや、英夫の頭は大人ではなかった。
「責任を取って、俺が代わりに世界一のGSにでもなってやるよ」
「な、何だ」
 額を抑える。
「そっちか」
 何度この男にはガッカリさせられたことだろう。そして、これからもそうだろう。
「そっちって、どっちだ?これじゃあ、不満か。
 よし。じゃあ、こうしよう。慰安のためにデジャブーランドにでも行ってやるよ。まあ、ジェットコースターには乗りたくはないが。美希は行きたがっていただろう?そんなに楽しいのか?」
 美希は別にデジャブーランドが目的ではないのだが。
「………まあ、それでもいいですけど?」
「ただし、割り勘だぞ」
「も、もういいです。貴方と話すと疲労が倍になります」
 精霊石に力を込める。精霊石は自在に飛び回り望を囲む。
「ヒデ、チャンスはこれっきりですからね?」
「ああ、任せておけ」
 精霊石が輝き出す。それと同時に、黒い影が望から浮かび上がってくる。
「何だ、これは?」
『この魔族を討っても、また、新たな敵が現れる、か』
 剣に力を込める。
『まあ、それもありかな?』
 浮かび上がった影に狙いを定める。
「あばよ」
 短く呟き剣を振りぬいた。

『だったら、普通の人間に戻る方法を考えるよ。ルシオラさん』


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