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あの素晴らしい日々をもう一度

第十話


投稿者名:堂旬
投稿日時:06/ 1/30

「いやぁ〜、こりゃまいったな〜たけし君」

「まいったね〜横島君」

 まいったまいったと繰り返す横島と武田。二人の目の前には極めて険しい山、霊峰妙神山がそびえ立っている。
 これから登山に挑むというのに横島はいつもの格好、武田は白い無地のTシャツにジーンズだ。完全に若さに任せた登山スタイルである。

「電車に乗ってる時から薄々感づいてはいたけども…」

「やっちゃったね〜……」

 横島は目の上に何本も縦線を引いて、汗を垂らしている。
 武田は苦笑いを浮かべてため息をついた。


 ―――――辺りは漆黒の闇に包まれていた。






  あの素晴らしい日々をもう一度


       第十話  妙神山珍事録〜乙女の純情馬鹿の激情響く泣き声笑い声〜






「さあ僕たちはこれから登山難度Sの山に無謀にも日が落ちてから挑むというわけですが!! どうですかたけしさん!!」

「ん〜そうですねえ〜〜!! 一回帰って後日、というわけにはいかないんですか横島さん!?」

「今日行こうって言い出したのはてめーだろーがたけしさん!! 電車代だって馬鹿にならないんですよ僕ッ!!!!」

「うん、ゴメンッ!!!!」

 『妙神山登山道→』と書かれた看板の前で大声を張り上げて会話する二人。
 何故こんなに大声で喋っているのかというと、大声を出してでもいないと何だか悲しい気持ちになってしまうからである。

「うしッ!! 行くぞたけし!!!!」

「マジ? マジで行くの? あ、逝く気?」

「うるせぇーーッ!! 来い!!!!」

 ぐずる武田のシャツの襟を掴んで半ば引きずるようにしながら、横島は眼前に広がるまるで富士の樹海のような森へと足を踏み入れた。


 ―――久しぶりの獲物に歓喜しているかのようにカラス達が一斉に鳴き始めたが、横島は気にしないことにした。


 妙神山麓の樹海に分け入ってからわずか一時間。横島と武田の二人は驚異的な体力で既に樹海を抜け出していた。
 懐中電灯のか細い灯りだけを頼りに、ほぼ全力疾走で立ち止まることなく樹海を駆け抜けた二人はアマゾンの熱帯林を住処にする原住民が見てもびっくりものだろう。
 岩壁に手をついて、横島はさすがに荒くなった息を整えていた。ふと周りが妙に明るいことに気付く。
 横島は空を見上げ、思わず息を呑んだ。
 樹海の中では木々に遮られてわからなかったが、今夜は満月だった。
 月の明かりに照らされ、懐中電灯無しでも辺りが十分視認できる。眼下に広がる樹海を眺めて、横島はよく抜けたモンだと自分自身に感心した。
 視点を上に転じる。妙神山はまだまだ高く天を突いていた。
 ゴツゴツした岩壁――恐ろしく傾斜の急な上り坂――ほんの少し足を踏み外せば滑り落ちてしまいそうな切り立った崖とその下に広がる樹海――自分のやや後ろで壁にもたれかかって息をつく武田――視線をぐるりと転じてから横島は再び空を、夜空に燦爛と輝く満月を見上げた。

「なあたけし―――かぐや姫って本当にいんのかな〜」

「あぁ? いんじゃねーの? うん、いるいる」

「なんだオメー、何か投げやりだな」

「うるせ…ゼハッ…今…ゼハッ…俺にゴホッ話しかけるな……」

 武田は口から大きく息を吸い込みながら体力回復を図っている。相当ギリギリで横島の話に乗る余裕もないようだ。

(う〜ん、美神さんのところで体力だけは人一倍ついたんだな〜、俺)

 そんな武田の様子を見ながら横島は心中で呟いた。
 人一倍どころか七倍はついていることを彼自身はどうやら気付いていないらしい。

「いるんだったら会いたいよな、かぐや姫。きっとスッゲー美女だぜ!! 涎が出るような!!」

「そうね、そだろね…」

「ああ〜行ってみてぇ〜〜!! そんでチョメチョメしてえ〜〜!!!!」

「チョメチョメてキミ…とりあえず俺は一刻も早く小竜姫様に会いたいよ……」

 後々嫌でも行くことになることを横島は知らない。知らぬが仏とはこのことか。
 横島は武田の回復を待ちながら、まだ見ぬ月の美女たちに思いを馳せていた。







 それからまた二時間余りが過ぎた頃。
 晩の食事を終え、洗い物を済ませた小竜姫は修行場に設けられた和室で海苔付き堅焼きせんべいを頬張りながらテレビを見ていた。
 正座をやや崩した格好で、およそ神様らしからぬ雰囲気を醸し出す小竜姫に、門番を務める鬼門達から声が届く。
 告げられた来訪者達の名に、小竜姫は露骨に顔をしかめた。

「おい! 早く開けろっつーの!! 合格したろがッ!!」

 横島は左右それぞれの扉に張り付いている鬼門達の顔に食い掛かっていた。
 その横島の後ろには無残に蹴り倒された二つの鬼門の体と、ついでに武田が倒れている。
 妙神山修行場を目の前にして臨界まで煩悩を高めた横島は、美神のような搦め手無しで鬼門たちを瞬殺するという快挙を成し遂げていた。
 ちなみに武田君はというと、前回の登山時とはまるで異なる横島のハイペース登山に付き合ったおかげで、Tシャツを汗でぐっしょりと濡らし、もはや立つこともままならぬ状態へと追い込まれていた。

「まあ待て。今小竜姫様がいらっしゃる」

「試練に合格したとて、我ら小竜姫様の許可無しで扉を開けることはできぬのだ」

 小竜姫がこちらに向かっているとの言葉に横島は素直に引き下がる。武田は『小竜姫』という単語に反応してムクリと起き上がった。
 それほど時間も経たずに扉は開かれ、中から小竜姫が顔を出した。
 横島と完全に復活した武田にジトリとした視線を向ける。

「…何しにきたんです?」

 声に棘がある。まあ、小竜姫がこの二人に好意的な感情を抱いていないことは致し方ないことではある。あるのだが、評判高き霊峰妙神山修行場の管理人としてその態度はいかがなものか。左右の鬼門は目を見合わせてため息をついた。

「小竜姫様ッ!! 実は折り入って相談があるんです!!」

 言いながら横島は神速で小竜姫との間合いを詰める。
 その鼻先に神剣の切っ先を突きつけられ、横島は(後ろで横島に続こうとしていた武田も)ピタリと動きを止めた。

「それ以上近づいたら仏罰を下しますよ…?」

 そのただならぬ様子に横島は言葉を発することなくコクコクと何度も頷いた。武田は一歩後ずさる。
 パッと見れば小竜姫は険しい表情で二人を睨みつけているように見える。だが、よく見ればその頬は少し赤く染まっていた。
 初めて自分の裸体を見た男。
 初めて自分の下着を見た男。
 二人を目の前にして、小竜姫は再びその時のことを鮮明に思い出し、心中では恥ずかしさに身悶えていた。

「あ、あの〜…ここで立ち話もなんなんで中に入れてもらえないっすかね…? 鬼門も倒したし……」

「駄目です。貴方たちがこの修行場に立ち入ることはもう二度と許しません」

 恐る恐る切り出した横島だったがにべも無く斬り捨てられる。

「二度とも何も僕は一度も入ったことがないよぅ!! …ぁ、スンマセン」

 後ろから武田も抗議するが小竜姫のひと睨みにあえなく沈黙した。

「ちょ、ちょっと何でっすか!! 俺なんか悪いことしましたか!?」

「自分の胸に聞いてみなさい!!」

 なおも食い下がる横島に小竜姫は真っ赤な顔で怒鳴りつける。
 言われて横島は自分の胸に手を当てて考えてみた。

 考える。

 考える。

 考える。

 思い当たる。

 横島の霊力がちょっぴり上がった。

「鮮明に思い出さないでくださいッ!!!!」

「ふあぅあッ!!!!」

 だらしなくゆるんでいた横島の顔面に湯気が出そうなほど真っ赤になった小竜姫の拳が叩き込まれる。理不尽ここに極まれり。
 その人間離れした膂力に、横島の体は紙細工のごとく吹き飛んだ。
 岩壁に衝突して頭から血をだらだら流しながら瓦礫の下敷きとなった横島を見て、武田はカタカタと震え始めた。
 やべえ、殺られる。武田の脳裏に今までの思い出がよぎり始めた。
 そんな武田をよそに瓦礫を吹き飛ばして横島が立ち上がる。

「ぬああああッ!!!! そ〜りゃないっすよ小竜姫様ぁ〜〜!!!! アンタが考えろっちゅーから考えたんでしょうがーーーッ!!!!!!」

 あまりの理不尽にキレた横島は叫びながらズンズンと小竜姫に歩み寄る。
 この状態になった横島に怖いものはあんまりない。
 そして美神がいない今、この状態の横島を止める術はちょっと無い。

「だって…それは…アナタが……」

「だ〜からといってこ〜りゃ無いでしょお〜〜ッ!! 見てくださいコレッ!!!! めっっちゃ血ィ出てますやんホラァ!!!! 神様やったら何でもアリですか!? おぉッ!?」

「えう、それは、その」

 予想外の、不意打ち的に凄みを増した横島に狼狽する小竜姫。
 『村枝の紅ユリ』と称された母譲りの激しい剣幕で横島は一気に畳み込んでいく。

「いいですッ!! わかりましたッ!! 要はアレでしょ!? 俺が小竜姫様の裸を見たってのが引っかかってるわけでしょッ!? そんだけの話なんでしょッ!?」

「は、はぁ…それは…まあ…」

 自分の裸、というワードを出され、小竜姫の顔がまた赤くなる。
 が、今度は横島の剣幕に負けてただ曖昧に頷くことしか出来ない。

「オッケーオッケーわかりましたッ!!!! おい、たけしッ!! おい!! おい、アホ!!!!」

「……ん? ん? 何? って誰がアホじゃコラ!!」

 横島は過去の思い出巡りへとトリップしていた武田を呼び戻す。
 横島は正気に戻った武田に先ほど瓦礫の中から拾ってきたのか、ちょうどバレーボールほどの大きさの岩を投げてよこした。

「あ? 何コレ?」

「それで俺の頭をどつけッ!!!!」

 元気よく言い切った横島に、武田と小竜姫の目が点になる。
 武田と小竜姫は同時に武田が持つ岩と横島の頭とを交互に見つめた。ちなみに横島の頭は既に完治している。
 やっべ、こいつ真性Mか? 武田の顔が露骨に歪む。リアルな変態はご勘弁と武田は心中で吐き捨てた。

「短い付き合いだったな……」

「違うッ!!!! 確かにMはMだがそうじゃない!!」

 武田の表情から思考を瞬時に読み取った横島はその考えをしっかりはっきり否定する。

「じゃあ何よ?」

「それでどついて俺の頭から小竜姫様のヌードメモリーを消去するんだッ!!!! そうすれば無問題でしょ小竜姫様ッ!!」

「え、えぇ!?」

「おぉ!? な、何言ってんのキミ!?」

「というわけでやれ、たけし!! ちなみにそれ以外の記憶を消したり、よけいなダメージを与えたりしたらしばくッ!!!!」

「おぉ!? な、何無茶言ってんのキミ!?」

 あまりの事態の進展にもはや口をあんぐり開けるしかない小竜姫。鬼門の二人はバラエティー番組を見ているような心境で事態を傍観している。というかそうする以外に無い。
 目の前で行われるあまりにアホなやり取りに、小竜姫は段々どうでもよくなってきていた。
 さて、そのアホをやっているアホ共はというと―――

「んじゃあいくぞ横島!! 逝くなよッ!?」

「あ、ちょ、おま、あんまり強くやんなよ!? 加減って言葉知ってるね!?」

 聞こえな〜い、とばかりに武田はぐわばッ!と岩を振りかぶる。なんだかんだで楽しくなってきたらしい。
 武田の腕は振り下ろされ、メコッという嫌な音が響いた。
 横島は白目を剥き、その場でぐらりと昏倒する。
 武田はジ〜〜ン…と快感に打ち震えていた(真性S)。

「ちょっと…今のは危ないのでは…?」

 恐る恐る小竜姫は横島の様子を伺う。
 過去妙神山に横島が美神とおキヌと共に来たときに、さんざん美神にしばかれる横島を見たが、今回はその時と違いやられ方が地味だっただけにちょっと怖い。
 武田が横島の頬をぺしぺしと叩き始めた。

「お〜い、どうだ〜〜?」

「む…うむ?」

 横島が目を覚ます。武田は間髪いれずに聞いてみた。

「小竜姫様の裸は?」

「とっても素敵♪ あ、ちょ…!」


 ゴンッ!!
 ついうっかり本音が出てしまった横島。やむをえずワン、モア、トライ。


「どうだ…?」

「ぐぅ…僕はダレ? ここはドコ?」

「いかんッ!! 消しすぎたッ!!!!」


 ゴンッ!! ゴンッ!!


「ちょ、たけ…マ、死……」

「何言ってるかわからんッ!!」


 ゴンッ!! ゴンッ!! ゴンッ!!


「そんな、壊れたテレビじゃないんだから……」

 小竜姫が控えめながらつっこみを入れる。
 このやり取りは結局横島が細かく痙攣を始めるまで、たっぷり14回繰り返されたという。







 しばらく時が過ぎて―――――







「と、いうわけで…入れてもらえますか? 小竜姫様」

 ようやく復活した横島はなおも小竜姫に食い下がっていた。ちなみに横島の背後では今度は武田が頭から血を流して倒れている。その側には先ほどまで横島の頭に叩き込まれていた血濡れの岩。
 何があったかは推して知るべし。悪ノリはアカンということだ。
 小竜姫はふぅ、とため息をついた。

「―――わかりました。ええ、わかりましたとも。あれだけのことをやられたら、もう入れて差し上げるしかないでしょう。頭の傷も診て差し上げなければならないでしょうし」

 言って、先ほどのやり取りを思い出したのかにっこりと微笑む。

「もう、忘れたのでしょう?」

 そう言って今度はいたずらっぽく微笑んだ。

「え、あ、もちろん! あ、いや、何をです!?」

 予想外の小竜姫の言葉に今度は横島が狼狽してしまう。

「ふふ…じゃあ、行きましょうか」

「あ、は、はい……」

 小竜姫が鬼門達の顔が張り付いた扉を大きく開け放つ。
 門をくぐり抜け、先を行く小竜姫。横島は慌てて後を追った。
 ちょうどその時、武田が目を覚ました。

「え? あれ!? ちょッ……!!」

 置いていかれたことにびっくりした武田は慌てて後を追おうと立ち上がる。
 その時、閉じかけの扉の向こうで横島がこちらを振り返った。
 横島が何かを言っている。武田は注意深く横島の唇を読んだ。


 ―――ど、ん、ま、い。


 横島は、確かにそう言っていた。

「は、謀ったなシャア!!!!」

 背中から聞こえる叫びに、横島は薄く笑う。

(ふふふ…愚かなり武田武。貴様のようなむさい男がいては進展する仲も進展しない……こういった物事はマンツーマンが基本なのだよ。お前だってそんなこと、百も承知だろうに……)

 横島はもう一度だけ武田のほうを振り返ると、爽やかな笑顔で手を振った。

「武田さんはよろしいんですか?」

「ああ、いいんですよヤツは」

「でも……」

 何事かと振り返り、武田の存在を思い出した小竜姫は横島に尋ねる。答えを聞いてからも、気になるのか何度も振り返っていた。

「ちくしょーーーッ!!!! 小竜姫様ーーーーッ!! そいつ本当は何にも忘れてないっすよーーーーッ!! 小竜姫様の『ピーーー』な『ピーーー』や『ピーー』な『ピーーーーーーーー』も全部覚えてますってばぁーーーーーッ!!!!」

 ヒュオォ――――ドスッ!!!!
 閉じかけた門の隙間から神剣が回転しながら飛来し、武田の額に突き刺さった。
 武田が仰向けにゆっくり倒れるのと同時に門がズン…と閉じられる。

「最っっ低ッ!!!! 最低です!! あの人!!!!」

「ま、まあまあ抑えて抑えて」

 神剣を投げ放った姿勢のまま、鼻息荒く憤慨する小竜姫。
 もう今日何度目になるだろうか、その顔はバラのように真っ赤に染まっている。

(………アホ)

 横島は呆れ半分、同情半分に胸中呟きながら、大股で歩き出した小竜姫に遅れぬよう少し速めに歩き出した。















 閉じられた門の外で、武田はむくりと起き上がった。
 ふと壁に張り付いた鬼門たちと目が合う。

「まあなんというか……元気を出すのだ、若者。のう、右の?」

「うむ。そもそもお主は試練に合格してないわけだし……どの道、入れはしなかったのだし……」

「試練…する?」

 鬼門達が恐る恐る武田を慰めにかかる。
 武田の肩がふるふると震え始めた。
 ズボッと額の神剣を抜き、空を見上げる。

「オ…」

「「オ?」」

 鬼門達の声が揃う。
 武田の顔から涙が盛大に溢れ出した。












「オロロ〜〜ンッ!!!!」











 奇怪な泣き声をあげながら武田は妙神山を駆け下りていった。
 その様子は思わず鬼門達ももらい泣きしてしまうほど物悲しかったという。


 一方、横島は小竜姫に自分の現状を余すところ無く相談。
 小竜姫は「いい知り合いがいる」と、神界に連絡を取り始めた。





   第十話  妙神山珍事録〜乙女の純情馬鹿の激情響く泣き声笑い声〜



               終わり


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