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GS美神 アルカナ大作戦!! 〜Endless Expiation〜

Chapter3.EMPRESS『戦場の暴君』


投稿者名:詠夢
投稿日時:06/ 1/18


ふと立ち止まり、刻真はどこか場違いに明るい苦笑を浮かべた。


「まったく…一体どこにこれだけ隠れてたんだろうな。」

「え?」


その言葉の意味がわからず、おキヌは辺りを見回す。

視界に映るのは、夜の公園。ところどころを照らす街頭が織り成す陰影。それだけだ。

だが、小竜姫ははっとしたように、神剣を抜き放ち構える。


「おキヌちゃん…私達の傍へ。」

「え、え?」


わけがわからないながらも、従うおキヌ。

おもむろに、横手の茂みに向かって刻真が腕を伸ばす。

その掌に次の瞬間、漆黒の魔銃が現れたと同時に、その銃口から閃光が迸る。

続いたのは、悲鳴と怒号。

茂みは吹き飛ばされ、そこに隠れていた何体かのアクマも運命を共にした。

周囲の闇が、ざわりと蠢く。


「え…ひえぇぇッ!?」


周囲の暗がりという暗がり、闇のその奥から数え切れないほどのアクマが這い出てくるのを見て、おキヌは反射的に後退る。

刻真の言うとおり、この公園の一体どこに、これだけの数が潜んでいたのかと驚くほか無い、異形の群れ──大群だ。

怒濤の勢いとはまさにこの事か。

次から次へと湧き出したアクマ達は瞬く間に、視界のほぼ全てを埋め尽くしてしまった。

美神がこの場にいようものなら、割が合わないと嘆いて喚くこと請け合いだったろう。

もっとも、そんな命を懸けたギャグをやるような過剰なサービス精神は、刻真たちにはない。

鋭い視線を左右に走らせ、身構える。


「おキヌちゃんは、ネクロマンサーの笛で相手の動きを抑えてください! 迎撃は私達が!!」

「は、はいッ!!」

「来るぞ!!」


刻真の警告と同時に、異形の群れが雪崩の如く押し寄せた。





          ◆◇◆





おキヌの目に、それは海を割るモーゼの如く見えただろう。

はたまた、竜巻を内から見上げたかのような、暴風の壁か。

刻真の一撃が、敵の群れをまとめて貫き飲み込み。

小竜姫の剣が振るわれる度に、有象無象の敵の影が宙を舞い、微塵と散る。

笛の音は高らかに戦場を駆け抜け、さながらそれは舞踏の一幕。

今、おキヌの周囲に敵はいない。

全て、刻真と小竜姫がたった二人で食い止めていた。

それでも、ふとした拍子にそれを潜り抜けてくるものもいる。

だが、その爪も届かない。

彼女の周囲を、淡い藍の燐光が包んでおり、それに阻まれ弾かれたアクマは、すぐさま刻真や小竜姫によって塵に還される。

おキヌは胸元で輝く宝玉に目をやった。

出発の際に、横島が渡してくれた『護』の文字が刻まれた文珠。

自分は多くの人に守られている。

ならば、自分は自分の役目を果たさなければならない。

おキヌは、一際強く、笛に息を吹き込んでいく。





襲い来る刃を躱し、小竜姫は剣を振る。

断末魔の叫びと、成れの果てたる塵を残し、小竜姫はすぐにその場を跳躍する。

と、同時に背後で衝撃。

牛頭人身の獣人『ミノタウロス』の拳が、舗装された地面を大きく陥没させている。

身を低く伏せながら反転するのと、空いたミノタウロスの拳が裏拳気味に襲い掛かってくるのは同時だった。

相手の懐めがけて、頭上すれすれを掠めていく拳の風圧を感じながら、小竜姫は地を這うように低く飛び込んでいく。

がら空きになった胴体を横薙ぎにして、白刃が紅の弧を描いた。

身体の上下を泣別れにされたミノタウロスは、ゆっくりと地に崩れ落ちていく。

その影から、足の短い豚にも似た、蛇の鱗を持つ邪龍『チョトンダ』が、勢いよく突進してくる。

それを神剣の腹で受け止め、勢いを殺しながらふわりと宙へと浮かぶ。

そのまま、上空を旋回していた少女の姿をした凶鳥『モー・ショボー』の眼前へと躍り上がる。

一閃。

相手が爪を振り下ろすより早く、小竜姫の剣が真一文字に振り払われた。

墜ちていきながら塵へと還るモー・ショボーを追うようにして、小竜姫もまた地に降り立つ。

瞬間、その場で旋回して周囲のアクマを薙ぎ払う。

その刹那。わずかに空白が生まれた一瞬を逃さず、彼女は霊力を一段高いところへと引き上げた。

とたん、世界の動きが緩やかになる。

吹き飛ばされた奴らの動きも、襲いかかろうと飛び出してきた奴らの動きも、まるで止まったかのごとく小竜姫の目には映った。

超加速。

それは彼らの目にはどう映ったのだろうか。

軽い突破音とともに、目の前の獲物の姿が掻き消え、次々に仲魔たちが見えない何かに巻き上げられて塵へと化していく、その光景。

それは縦横無尽に戦場を駆け抜ける、不可視の嵐。

小竜姫がふたたびその姿を見せたとき、そこにいた群れの約半数は消えていた。

だが、それに倍するほどの敵が、さらに湧き出てきてすぐに周囲を埋め尽くしてしまう。

小竜姫は、ふたたび剣を構え、裂帛の気合と共に飛び込んでいった。





刻真の戦いは、暴虐。その一言に尽きた。

漆黒の巨大な魔銃を振り回し、その銃身で敵を殴りつけては撃ち抜き、迫り来る敵を蹴飛ばしては撃ち抜き。

空いた手で、手近にいたアクマの頭部を鷲掴みにすると、それを投げつけては、動きの止まった相手を撃ち抜く。

その少女のような外見からは想像もつかぬほど、荒々しい戦い。

しかも、恐ろしいのは、ただそれが力任せに暴れているわけではないということ。

決してひとつ所に留まらず、常に絶えず動きまわりながら、敵の死角へと滑るように入り込んでいく。

同士撃ちを恐れた相手は、その姿を捉えきれず翻弄され、気がついたときには暴虐の嵐に巻き込まれて滅びる。

繰り出される爪や牙を、巨大な銃身を盾にして防ぎ、捌く。

地に伏せ、宙へと翻り、ありとあらゆる体技をこなして敵を次々に屠っていく。

その動きは洗練されており、彼が幾度もこのような死地に身を置いたことを窺わせた。

圧倒的な力と、その力を知悉したものが持ちうる論理をもって、敵を平らげる戦場の暴君。

だが、その暴君の動きがわずかに乱れた。

玉砕覚悟で突っ込んできた数体のアクマが、小竜姫の剣を抜けておキヌへと肉迫する。

咄嗟に身を捻りながら撃ち抜いたまではいいものの、不安定な体勢に陥る。

それを好機と見たか、一斉に牙を剥く敵の群れ。

おキヌと小竜姫が何事かを叫ぶ。

刹那。

刻真の手の中で魔銃『偉大なる光輝』が、消失する。

光の粒子と化したそれは、刻真の両手へとそれぞれに集まり、新たに形を成していく。

現れたのは、漆黒の双子銃。

それはひたりと、両側に迫る異形の群れに狙いを定めていた。


「双撃(ダブルアサルト)…!!」


刻真の呟きは、連続する銃声と悲鳴に飲み込まれた。

凄まじい勢いで吐き出された光弾は、周囲に群がった奴らに無差別に牙を剥き、残らず塵に還す。

両手に銃を構えた刻真は、唖然としている小竜姫とおキヌに向けて、にやりと笑い。

さらなる獲物を求めて、いまだ蠢く異形へと向けて駆け出した。







          ◆◇◆







「ハァ…ハァ…ッ!!」


肩で荒く息をしながら、小竜姫は剣を構えなおす。

その傍らで、おキヌも同じく荒い息を繰り返していた。

かたや刻真は平然とした顔で。


「なんだ。もうへばったのか?」

「何で、貴方は、平気、なんですか…!?」


少し恨みがましい目で、刻真を見上げる小竜姫。

刻真は周囲の敵を睥睨する。

勢いはやや減じたとはいえ、まだまだ敵は多い。

だが、刻真はむしろ楽しげに。


「まあ、こんなことには慣れてるから。というか、この程度、ピンチの内にも入らないよ。」


と、答えになってないような答えを返し、にやりと獰猛に口の端を持ち上げる。

少女のような顔には、はなはだ似合わない表情だ。

だが、ふと小竜姫はその表情をどこかで見たような気がして、わずかに眉をひそめる。


「で、どうする? このままじゃ、押し切られそうだけど。」


ふいに刻真に訊かれ、その横顔を見つめて思考に沈んでいた小竜姫は、はたと我に返る。


「そ、そうですね。一度、包囲を突破しないことにはどうにも…。」

「なら、そうしよう。おキヌちゃん、走れる?」

「だっ、大丈夫、です〜。」


ばてばてなのが丸わかりだが、それでも気丈に返事するおキヌ。

刻真はそれに頷くと、ひとつに戻った魔銃を、静かに前方に向けた。


「行くぞ…走れ!!」


魔銃が、咆哮を上げた。

まるで極太のレーザー砲の如き一撃が夜空に放たれ、数十ものアクマが灰燼に帰す。

そうして出来た道を、刻真たちは駆け抜けていく。

その一瞬。

刻真も、小竜姫も。意識は前方に集中していた。

それが、いけなかった。


「え…きゃッ!?」

「!! おキヌちゃん!?」


やや後ろの上空から、巨大な影が舞い降りたかと思うと、おキヌを捕らえて再び上昇。

それに気づいた二人が振り返ったとき、すでに影は、再構築された包囲網の外からこちらを見下ろしていた。


「クカカカッ!! 鬼さんこちら〜ってところかァ!? クカカカッ!!」


それは、巨大な蝙蝠であった。

真っ黒い大きな皮膜の翼をはばたかせて、長い牙を見せ付けるように口元を歪めている。

その足はしっかりと、おキヌの身体を掴んでいた。


「や…ッ、離して!!」

「クククッ、クカカカッ!!」


おキヌの抵抗を嘲笑うかのように哄笑する蝙蝠、凶鳥『カマソッソ』に向かって刻真は銃口を向ける。

だが、カマソッソは翼を一打ちして、さらに高く上昇する。


「おっと! いいのか、撃っても? この高さで落ちたら人間はどうなるだろうなぁ?」

「死ぬだろうな。」


事も無げに言いつつ、刻真は撃った。

微塵も躊躇うことなく放たれた一撃を、しかし予想していたかのようにカマソッソはひらりと躱す。

そして、あっさりとおキヌを手放した。


「おっとしまったついうっかりぃ〜ってなぁ!」

「キャ…ッ!!」


だが、刻真は動じない。

その必要がない事を知っているのだから。


「死ぬだろうけど…それは誰も受け止めなければの話だろう。」


呟く刻真の横で、小竜姫が飛び立つ。

そう、何のことは無い。

落ちたとしても、空を飛べる小竜姫が受け止めればいいだけの話だ。





だが。


「なッ?! しまッ…!!」


横手から飛び込んできた刃に、小竜姫は弾き飛ばされてしまう。

刃は一つの影をともない、小竜姫ともども包囲網を飛び越えて、木立の向こう側に消えていく。


「小竜姫?! くッ!!」


決断は一瞬。

刻真は小竜姫が飛ばされた方向を一度だけ振り返り、それからおキヌに向けて疾駆する。

当然のこと、アクマの群れが立ち塞がるが。


「どけぇぇッ!!」


邪魔するものは薙ぎ倒しながら、いささかも速度を緩めることなく地を蹴る。

伸ばされた腕がおキヌに届くその時。


「おあずけだ、間抜け!」


おキヌの身体がふたたび持ち上がり、かわりに嘲りの言葉が刻真の頭上に降る。


「クカカカッ!! 惜しい、惜しかったなぁ!! 予想通りの反応、最高だったぜ!!」

「お前ッ!!」


着地と同時に、ふたたび銃口を振り向ける刻真。

しかし、おキヌの頭にそえられた凶爪が、それを止める。


「悪いが二度も撃たれてやる気はない。…銃を捨てな。女の頭、潰すぞ。」


「……。」


刻真は無言で、嗤うカマソッソを睨み付けて。










わずかに銃口を下げて、その下に集まっていたアクマ達に向けて引き金を引く。

雑魚連中が吹き飛ぶのを確認してから、刻真は銃を捨てた。

突然の凶行に、おキヌと共に唖然としていたカマソッソも、その音ではっと我に返る。


「て、てめぇ!! 銃を捨てろって…!!」

「だから、撃ってから捨てたろ!! 撃つなとは言われてないからな!!」


屁理屈というのもおこがましい言い分を、なぜか堂々ときっぱり言い切る刻真。

腹いせにしても、大人気なさ過ぎる。

人質のおキヌの頬が若干ひきつったとしても、仕方ないかもしれない。


「…なら、今度ははっきりと言っとく。動くな!! 女を死なせたくないならなぁ!! …やれぇッ!!」


癇癪じみたカマソッソの号令で、一斉に襲いかかるアクマの群れ。

あっという間に、刻真の姿を覆いつくしていく。


「悪いなぁ、間抜けェ!! 俺は喧嘩弱いからなぁ!! せいぜい頭使って、数使ってやらせてもらう!! そのままくたばれ!!」


高らかに嗤うカマソッソを、刻真は無数の敵に押し潰されながらも、睨み付けていた。


(……いい気になるなよ、クソ野郎…!!)


その瞳に、人には有り得ざる灰銀の輝きが宿る。

だが、それらは次々に覆い被さってくるアクマの影に埋もれ、誰からも気づかれること無く─。















血が。肉が。骨が。

砕かれ、潰され、飛び散る音が。

高らかな哄笑と少女の悲鳴に混じり、夜の公園に不気味に響いた。


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