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GS〜Next Generation Story〜

永遠の………(前編)


投稿者名:ja
投稿日時:06/ 1/13

「美希さん」
 美希が消えてから一週間。一瞬の光の後、何処からともなく帰ってきた。そして、全ての事情を聞いた。
「瑞穂ちゃん。私は行きます」
 硬い決意のもと、告げる。
 遠くで闘っている英夫と蛍の気配が感じ取れる。
「でも」
 瑞穂も、その気配は感じ取れる。しかし、残念ながら、その闘いに助太刀に行けるほどのレベルではなかった。いや、瑞穂とて決して弱いわけではない。小竜姫の神通力を授かった今、上級神族クラスの力は持っている。しかし、それでも二人のレベルは次元が違っている。
「大丈夫です。私は、力を手に入れました。これで、約束は果たせそうです」
『ヒデが戦い続ける運命なら、私も共に歩むと』
 ゆっくりと洞窟の出口に向かう。
「じゃあ、瑞穂ちゃん。後は頼みましたよ」
 その姿が、空に消えた。瑞穂はただその姿を追った。
「悔しいかな、私では手助けもできないのか」
 そして、中の石碑を見る。
「いや、まだ手はある。もしかしたら、切り札になるかも」
と、手に文珠を握る。
「今の私なら、可能かもしれない」

 蛍が英夫の剣激をあっさり弾き、その隙に手から霊波を放つ。しかし、英夫はその攻撃を左足で蹴り上げ、逆に霊波を放つ。その攻撃を避け、再び間合いを取る。
「五分か?」
「そうね」
『まだ、足りないというの?いえ、足りないのは………。迷っているようね』
 ゆっくりと指を前に出す。
『彼は力を完全にコントロールできるようになった。でも、それでは逆に彼は力をセーブしてしまい、私を超えることはできない。
 恐らく、無意識のうちに、私と同等の力しか出せないようにしているのね』
 そこで、少し微笑む。
「駄目よ、それじゃ」
 指先に霊力を集中させる。
「もっと、本気になってくれないと」
 そこから、収束させた霊波を放つ。
 英夫はかわすが、続けざまに無数の霊波が飛んでくる。
「さあ、いつまでかわせるかしら?」
 蛍の攻撃を全て紙一重でかわしていく。やがて、諦めその手を下ろす。そして、ゆっくりとした足取りで英夫に近付く。
「どうやら、貴方に本気になってもらうには、私も本気を出さないと駄目みたいね?」
「え?」
「貴方に、止められるかしら?」
『止めてもらわないと、ね』
「さあ、どうするのかしら?」
 先ほどとは比べ物にならない速さで、斬りかかる。辛うじて受け止めるが、勢いで後方に飛ばされる。
「言っておくけど」
 一瞬で後方に回り込む。
「今の私に、力をセーブしたまま勝てると思わないでね?」
 そのまま霊波を放つが、英夫は慌てて霊波刀を作り出し辛うじて防ぐ。
「ど、どうして?」
「言ったでしょう?貴方は私と戦い、私に勝つしかないの」
 英夫はその冷たい瞳を見る。
『何だ、この流れてくる感情は?』
 それは、圧倒的な『絶望』。
「ねえ、私は生まれた時から父親はいなかったの。何でだと思う?」
 その圧倒的な力で押しつぶす。
「私が………」
 突然、蛍が身を起す。
「一対一の対決に」
 ゆっくりと歩いてくる人物に向け言葉を発する。
「割り込むなんて、いい度胸ね?ヨコシマ?」
 横島忠夫が文珠を英夫に投げつける。そこには『止』が刻まれている。
「しばらく、そこで見ていろ。
 父親の晴れ姿を、しっかりとな」
 霊波刀を構える。

『俺は、横島忠夫。『ヨコシマ』って呼んでくれ』

「せっかく」

『知らなかったのか?お前が殺したんだよ。お前の父親をな』

「変えようとしたのに」

『駄目よ、この世界を嫌いにならないで。いいえ、自分自身を、嫌いにならないで』

蛍の心をさらに【絶望】が染めていく。
「消えて、消えてしまえ!」
 衝撃波が辺りを一掃する。
「何故、立ちはだかるの?ヨコシマ?」
「へ、昔の俺なら、逃げだしていたな。この圧倒的な力の前に」
 横島とて、相手の力を見誤るほど落ちぶれてはいない。頭では理解しているのだ。100%勝てない事を。しかし、
「これでも、父親なんでね。一人息子のピンチには駆けつけないとな。それに、タナトス。お前には、借りがあったしな」
 霊波刀を前に出す。しかし、一瞬だった。一瞬で横島は吹き飛んだ。
「な、何だ?この力は?」
 敵わないとは思っていた。しかし、一矢は報いたいと思い駆けつけた。だが、現実はそんなに甘くは無かった。
「で?」
 目の前にはすでに人の目を無くした少女が佇んでいる。
「貴方は何のために来たの?私に勝てるとでも」
 剣を構える。
「貴方が死ねば、息子さんは本気になってくれるかもね」
『………。二度も自分の父親を殺す事になるなんてね』
 横島ですら見極められない剣の一閃。それが目の前で受け止められた。
「まったく。いつまで現役でいるつもり?貴方では、勝てない事くらい解るでしょう?」
「お前は」
「でも、英夫には彼女を倒すのは無理かもね。
 いいわ。私が代わりにやってあげる」
 ノアが剣を構える。

「はあ、はあ、はあ………」
 石碑の前に手をつき息を整える。手元には数個の文珠が転がっている。
「『蘇』『生』じゃ駄目か。いや、それ以前に蘇ることを嫌がっているの」
 再び石碑に手を置く。
「なるほど、そういう事なら、こっちにも考えがあるわ。
 私の母親はネクロマンサー。そっちの世界から引きずり出してあげるわ。伊達 望さん」

「久しぶりね」
 ノアが声をかける。
「魔界とのチャンネルは閉じたはずだけど?どうやら、こっちの世界にいたみたいね。それにしても、今ごろ出てくるなんて」
 蛍も剣を構える。二人の姿が消えた。
「なるほど。そういうことか」
 一瞬の後、二人は元の場所に立っていた。
「魔界とのチャンネルは閉じた。こちらの世界には来られないはず。なのに、貴方はここにいる。つまりは、チャンネルが閉じる前に魔界に帰ることなく、こちらの世界に留まっていた。なるほど、この一週間に姿を見せなかったのは、いえ、見せられなかったのね。
 確かに、貴方の力は私と五分、いえ、それ以上かもしれない。でも、所詮は陸の魚」
 蛍が不気味に微笑む。
「今すぐ、この場を立ち去りなさい。今の私は容赦ないわよ」
「あら?勝てると思っているの?」
 ノアは余裕で構える。
「要するに、こちらのスタミナが切れる前に貴方を倒せば、エンドよ」
 左手を目の前に翳す。
「じゃあね」
 巨大な霊波が蛍を吹き飛ばす。

「ねえ、父さん。そろそろ、何とかしてくれない」
 英夫は二人の対決を見ていた。いや、見るしかできない。
「へへへ、格好良く登場して、タナトスを葬ってやろうと思ったのにな」
 辛うじて右手を動かす。英夫を縛っていた呪縛が解けた。
「しかし」
 二人の対決は普通のレベルを超えている。英夫が手を出せる次元ではない気がする。
「なるほどな。力を完全にコントロールできるようになったのか」
 以前は、巨大な怪物を強引に繋ぎ止めているといった感じだったが、今は違う。静かに落ち着いているが、それは自分自身の力で押さえ込んでいるからだろう。
「お前はどう見る?この二人の対決」
「ノアが押している。それだけは確かだ」
「だが、彼女は勝てないだろう。魔界とのチャンネルが切れている今、ノアのスタミナの消耗は極端に激しい。
 お前が行け。先ほどまではどうやら、本気ではなかったようだが。本気を出せば、タナトスを超えられるだろう。彼女を押さえ込む事も可能なはずだ」
「でも」
 英夫は視線を落とす。脳裏にルシオラの言葉が思い出される。すなわち、暴走してしまったら自分はどうなるのか?
 その表情の変化だけで理解できた。何に迷っているのか。
「何を恐れている?お前は俺の息子だ。いや、俺と小竜姫の自慢の息子だ。
 お前の中に存在している【魂の欠片】。それも俺達の息子だ」
「父さん?」
「今までは父親らしいことをしてやれなかったが、これだけは言える。お前ならできる。その力を使いこなすことがな」

「さあ、どうするのかしら?」
「く!」
 蛍は圧倒的に押されていた。
「貴方と五分?勘違いしないでよ。力の差は圧倒的じゃない?」
 剣を振り下ろす。
「ふふふ」
 しかし、その攻撃を喰らいながら蛍は笑っていた。
「何がおかしいの?」
「いえ、ただ、滑稽でね」
「………。貴方は英夫に倒されたかったみたいだけど、代わりに私が望みを叶えてあげるわ」
 続けざまに霊波を数発浴びせる。
 辺りの岩が消し飛んだが、蛍は佇んでいた。
「あーあ、結構、期待していたのに」
 蛍は口調こそ明るいが、その奥はひどく暗い。
「まあ、いい。丁度いいわ。本当はヨコシマを殺して、英夫クンに本気になってもらおうかと思ったけど、仕方がないわ」
 目を閉じる。そして、目を開く。そこには光が失せていた。
「貴方を殺せば、それで事足りるでしょう」
 辺りの空気が震える。
「え?」
 蛍はその場を動いていない。それなのに、ノアは吹き飛んだ。
「何をしたの?」
 起き上がろうとするが、力が入らない。
『時間切れ?』
 こちらの事情を無視して蛍の手から霊波が飛んでくる。辛うじて剣で弾く。
『どうやら、これまで、かな?
 おとなしく寝てれば良かったかな。でも、仕方がないことね。私は、英夫を』
 しかし、全てをなぎ払うはずの霊波は直前で防がれた。
「戦えないなら、来なければいいのに」
「あら?貴方がだらしないから手伝いに来てあげたのに」
 英夫がノアの前に立ちはだかる。
「でも、私は疲れたわ。後は頼むわね」
 そう言い、眠りに落ちた。
「さて、英夫クン。やる気になってくれたかしら?」
 今の蛍はおそらく100 %の力を発揮している状態だろう。
 魔界とのチャンネルが切れていたとはいえ、ノアを圧倒したほどだ。おそらく、完璧な状態のノアでも勝てるかどうか解らない。
「簡単な事よ。貴方がコントロールできるようになった力を、全て出し切る。それだけでいいの。だって、貴方の方が遥かに強いんだから」
 その口調はそれを待っているかのようだ。
「そしたら、私が貴方に封印をしてあげる」
『そう。この命全てを使って』

「あれ、僕を呼ぶのは誰ですか?」
 伊達 望は自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。
『………』
 しかし、それはないはずだろう。彼のいる世界。それは死後の世界なのだから。だが、声は確実に聞こえる。
 彼は声のする方に向かう。そこには、一人の少女が立っていた。自分の知る女性に似ていた。
「貴方は、誰ですか?」
『伊達 望さんね?』
 声の主、瑞穂は一瞬で解った。どこか少年臭く、穏やかな顔つきだが、美希に似ている。
『貴方を呼びに来たの』
「僕を、ですか?」
『貴方を、生き返らせて上げる。いえ、生き返って』
 瑞穂は硬い決意で促す。
「無茶を言わないで下さい。
 死者を生き返らせる事は、不可能ですよ。神、魔族ならともかく、人間を生き返らせるのは。しかも、肉体は消滅してるんですよ」
 望は否定する。だが、
『いいえ、可能よ』
 目の前の少女は断言する。
『とりあえず、貴方は『生き返りたい』と強く念じていて』
 少女の姿が薄れていく。
「ちょっと、待ってください。貴方は?一体?」
『私は星井瑞穂。神族・小竜姫様から受け継いだ神通力、父親から受け継いだ結界術、母親から受け継いだネクロマンサーの術。それらを使って、貴方を生き返らせる。おそらく、貴方が最大のキーパーソンよ』
「母親、ネクロマンサー?まさか、貴方の母親は?おキヌさん?」
 やがて、少女は消えた。
「未来が、変わってしまったのか?」

「これで、よし」
 瑞穂は目を開ける。
「後は、私の全てをかける」
 手から十数個の文珠を出す。そして、それらを地面に配置させ五紡星の結界を描く。
「さあ、後は私の体力勝負」

「あら?私を倒してくれるんでしょう」
 英夫は焦っていた。
『力を出せば。だがもし、失敗したら?』
 先ほどから、力を出そうとしているが、思ったように上手くいかない。相手と同等の力を出すので精一杯だ。頭では力を出す事を恐れていないが、何処かでストッパーがかかる。やはり、目の前の少女が原因であろうか。暴走した力によって全てを消し去った少女を。そんな彼女と自分をオーバーラップさせてしまう。
「この!」
 力を入れようとすると、頭の中に映像が流れ込んでくる。そして、その破壊された世界の中心に立っている自分が見える。
「早く、本気になってよ」
 まるで、いたぶるかのように蛍は軽く攻撃を繰り返す。しかし、英夫は防ぐのがやっとだ。
『何を迷っているの?まさか、本当に『怒り』が鍵だけに、それ以外の状況下では力を発揮できないの?』
 これでは、計算が狂ってしまう。
 蛍の力を上回る力を持っているのは、英夫だけなのだから。彼には、超えてもらわなければならない。そして、自分自身を倒してもらわなければ。
「いつまで、ふざけているの」
 英夫を吹き飛ばす。
「解ったわ。そっちが、その気なら」
 その右手を倒れているノアに向ける。
「え?」
「私が、力を引き釣り出してあげるわ」
 巨大な霊波を放つ。英夫はノアの目前で弾き飛ばす。
「そうそう、やればできるじゃない」
 続けざまに数発放つ。それらの全てを弾き飛ばす。
『やはり、何かが足りないのね。できれば、関係のない者を殺してまではしたくないけど』
 その時、一筋の光が蛍の足元をなぎ払う。
「やれやれ、やはり無理でしたか?」
「美希」
 美希が英夫の横に降り立つ。
「100 % コントロールできるようになったようですね?」
「ああ」
「それでも、力を出す事ができない?」
「ああ。良くわかったな?」
 それには答えず蛍を見る。
「貴方では、無理です。ヒデは優しすぎます」
『心の何処かでストッパーがかかっているのでしょう。おそらく、暴走時の記憶が何処かに残っているがために。そんな中途半端な志で使えるほど甘い力ではないでしょう』
 精霊石が周りを回り出す。
「まあ、いいでしょう。私がやればそれでいいのですから。一応、約束しましたからね」
「え、何を?」
「………。なるほど、あの時の貴方は、覚えていませんか」
『貴方が戦いの運命にあるならば、私も一緒に戦ってあげるわ』
 少し微笑む。
「まあ、休んでいてください」
 精霊石の回転が増す。そして、蒼い鎧に身を包む。
 槍で斬りかかる。蛍はそれを弾く。
『やりにくいわね』
 蛍の頭にある人物の顔が浮かぶ。
『でも、彼女に倒されるなら、それも、また』
 だが、
「でも、残念ね」
 一瞬で解る。
「役不足よ」
 美希が激しく吹き飛ぶ。
「解ってもらえたかしら?」
「ええ」
 美希は立ち上がり、魔装術を解く。
「さすがね。そのレベルになれば、相手と自分の力量の差が解るようね」
「ええ」
 そして、精霊石を構える。
「確信しました。私の勝ちです。貴方の力は解りました」
 精霊石が蒼から白へと変わる。
「ヒデの化物じみた強さを見ていたため、確信は持てませんでしたが。
 貴方は確かに強い。貴方の世界では最強だったのは頷けます。でも、ヒデほどではありません。何よりも、貴方を倒した人間がいるのですから」
 霊力が上昇する。
「見せてあげますよ」
 精霊石が白から黒へと変わる。
「まさか、黒霊石?!」
 蛍の顔が驚愕のまま固まる。
「すぐに止めなさい!!その力は!!」
 だが、そのまま蛍は衝撃で吹き飛んだ。
「貴方を超えた力はいかがですか?」
 美希の周りを黒霊石が回っている。
「解っているの?その力は?
 黒霊石は術者に莫大な力をもたらす。しかし、その源は術者の生命力」
「構いませんよ。
 伊達 望さんも同じ願いだったはずですよ。貴方を倒したい。まあ、その動機が若干違いますが。彼は貴方を倒す事で貴方を救い出した。『絶望』という世界から。でも、私は違います。まあ、約束ですかね。ヒデと一緒に戦うという」
 数発の攻撃を繰り出す。
 蛍を顔を上げ、英夫を見る。
『すぐに、彼女を止めなさい!!』
「え?」
 英夫は辺りを見渡す。突然頭の中に声が響いてきた。
『黒霊石は禁断の力。このままでは、美希さんは、その全生命力を失うわよ』
「え?」
 その言葉に反応して、英夫が近付くが弾かれる。
「霊力が、渦巻いているのね」
 ノアが口を開く。
「ノア?」
「並みの者なら近付くことすらできない霊力が辺りに満ちているわ。貴方が弾かれたのもそのため。あそこに近付くには、それ相応の力がいる」
 そして、英夫の顔を見る。
「私のことは心配いらないわ。それよりも、あの子ね。
 あの黒霊石とかいう術。術者の生命力を激しく消耗するわ。このままでは、彼女の命が危ない」
「え?」
 だが、再び近付こうにも英夫は弾かれる。
『何でだ?今すぐ駆けつけたいのに』
 そんな様子を見たノアが、再び口を開く。
「いい?貴方は心の何処かで力の暴走を恐れているみたいだけど。もう少し自分自身を信じなさい」
「自分を?」
「貴方はGSとしての力を手に入れてから日が浅すぎる。ましてや、最初から莫大な力を手に入れすぎた。そして、その力は幾度となく暴走した。その為か、自分自身に自信が持てていないようね」
「そんな事は」
 事実だ。自分自身への恐怖からか、体が震えている。脳裏には、夢で見た暴走した自分が破壊した世界が浮かぶ。
「大丈夫よ。貴方のことは貴方以上に解っているつもりだから。
 貴方ならできる。その力を完全に使いこなせる」
 その瞳から全ての哀しみが消えていた。
「正直言うと、残念だけど、私は貴方の助けにはなれなかった。でも、これくらいは協力してあげるわ」
 右手を差し出す。英夫が握り返すと、そのまま引き寄せられた。
「え?」
 驚く英夫の背中を優しく撫でる。震えがゆっくりと止まる。
「行ってきなさい。私はここで待っていてあげるから」
『そうだ。俺は何を恐れる?要は、使いこなせばいいんだ』
 頭の中に二人の【魂の欠片】が浮かび上がる。
「使いこなしてやるよ。俺自身を!」
 すると、二人は何故か笑った。いや、そう見えただけかもしれない。

「この!!」
 瑞穂が力を込めるが、まだ足りない。
「人を生き返らせるのって、大変ね」
 全ての力を込めるが、反応はない。
「駄目だよ。そんな無茶をしたら」
 横で軽い声が聞こえた。
「え?」
「そうね。死者を生き返らせるのは、時間移動と同じく、最高の力。一人の力では無理よ」
 横で笛の音が聞こえた。
「お父さん。お母さん」
「娘が頑張っているのに、一人でノンビリできないよ」
 先ほど以上に結界が強まる。本来、父親から教わった術だ。
「そういうこと」
 笛の音が響く。あれが、『ネクロマンサーの笛』だろう。
「さあ、がんばれ、もう一息だぞ。
 本来は封印の祠は俺の家系が守らないといけないからな。始末は、『星井』がつける」
 激しい光が辺りを覆う。

美希は両手に、霊気を集中させ、数センチ空中に浮き上がる。
「さあ行きましょうか?」
 蛍は剣を左手に持ち替え逆手に持つ。そして、右手には霊波刀を作り出す。
「そんな、余裕でいいのかしら?」
 懐にが飛び込み斬りかかるが、美希は後方に移動し難なくかわす。そこへ、再び蛍が飛び込み、右手の霊波刀を振り下ろす。しかし、今度はかわさず、左手に集約させた霊気で防ぐ。
「甘い!」
 すかさず、左手の剣を下から振り上げる。
「く!」
 美希は右手に集約させた霊気で防ぐ。
 両者の鍔迫り合いが始まる。
「どうしたの、それで本気?」
「………」
 しかし、美希の目は遠くの英夫を見捉えている。そして、その体勢から右足を蹴り上げる。蛍は後方に空中回転しながらかわす。
「最後の警告よ。その力の使用をやめなさい。このままでは」
「お気になさらずに」
 しかし、霊力が先程より弱まっている。
「ならば、仕方がないか」
 最後の一言はとても哀しいものだった。
 美希は両手の霊気の塊を空中に放す。霊気は美希の周りを巡回する。精霊石のコントロールの応用だろう。
「今度は、こちらから行きましょうか?」
 霊気は手をかざすと、蛍の方へと飛んでいく。
「こんな攻撃が、当たると思って?」
 蛍は横に飛んでかわす。しかし、霊気は追跡していく。
「へー、器用なことするじゃない」
 自分の放った霊気とはいえ、離れた場所でそれをコントロールするのはかなりのレベルを要する。美希が複数の精霊石を操る、かなりの術者だから可能なことだ。
「でも、それだけじゃあ、私を倒すことはできないわよ」
「解っていますよ」
 蛍が避けた先に、美希が待ち構えている。
「遠距離からの攻撃に集中していれば良いものを。飛んで火に入る!」
 剣を振りかぶる。
「夏の虫!」
 美希は左手で霊気の盾を作り出し、受け止める。
「この!!」
 すると自然と、美希の力が弱まる。
「チャンス!」
 ここぞとばかりに蛍が力押しに出る。
 その時、先ほど美希が放った霊気が後方から蛍にダメージを与える。
「しまった!」
 そう、全て美希の作戦だった。蛍が切りかかってくることも、鍔迫り合いに持ち込み、わざと力を抜きをその場に留まらせたのも。
「この程度で」
 背後から受けた攻撃は大きかったが、必殺の威力ではなかった。しかし、その一瞬の隙を美希はついた。
「あ?」
 蛍の目の前に美希の右手が出る。
「お別れです」
 その手から、霊気が飛び出す。霊気は、そのまま蛍を激しく吹き飛ばした。
「どうやら、必殺の威力ではないようね?」
 蛍はゆっくりと立ち上がる。
『体が、言うことをきかない?』
 美希は自分の体の異変に気付いた。
『もう、これ以上は危ないってこと?』
 だが、蛍を倒すにはまだ足りない。
『ヒデ、私がいなくても、強く、生きるのよ』
 だが、それを止める者が現れた。
「もう、いいよ。美希」
「ヒデ?」
 英夫がその手を握る。
「美希はその危険な術を解いてくれ」
 美希の周りの精霊石が元の色に戻る。
「ふう、間に合ったようね」
 その様子を安心した様子で蛍が見守る。
「どうやら、吹っ切れたようですね」
「ん?ああ」
 先ほど以上の圧倒的な霊力が昇っている。
「ノアに励まされてな」
「は?」
 その声の口調が少し変わる。普通の人間なら気付きそうな変化だが、英夫には全く解らず続ける。実は一部始終を遠目ながら観察していたのだ。
「へー、そうですか?」
 そこで、ようやく気が付いた。空気が変だと。
「え?あ、だから、変な意味では、なくて、ですね」
 舌が上手く回らない。
「別に、構いませんよ。私は、ヒデが誰と抱合おうが?」
 口調と空気が違う。


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