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GS美神 アルカナ大作戦!! 〜Endless Expiation〜

Chapter3.EMPRESS『安心の裏返し』


投稿者名:詠夢
投稿日時:06/ 1/10


燈された街灯の明りを受け、白刃が宵闇に煌く。


「ハアァッ!!」


裂帛の気合とともに振り下ろされた太刀は、眼前に群れなす異形の者どもをまとめて薙ぎ払う。

剣尖より放たれる衝撃波は扇状に広がり、太刀筋から辛くも逃れた者も引き千切り、吹き飛ばしていく。

その爆心地。

刃の輝きよりも鋭い眼光で敵を見据えるは、赤頭の竜神天女。

その麗姿、苛烈なほどに凛然。

不意に、その頭上に羽音とともに影が差す。

振り仰げば、髑髏を模した凶鳥が数体ほど、その蒼い翼を翻して襲い掛かろうとしていた。

彼女が太刀を身構えた刹那。

光芒が奔る。

それも一本ではない。幾筋もの光跡が空間に焼き付けられ、それぞれが凶鳥の群れを貫いていた。

撃ち抜かれた凶鳥らは、断末魔の叫びすらあげる事は許されず、ただ塵へと還っていく。

思わず後ろへと目を向ければ、美少女と見紛うような少年が、黒髪の少女を庇うようにして、こちらへ駆けてくるところだった。

その表情は険しく。


「だから!! 一人で突っ走りすぎだって言ってるだろ!! 本当に考えなしかよ、アンタは!!」


開口一番、指を突きつけて怒鳴りつける刻真。

その勢いに押されながらも、負けじと小竜姫も言い返す。


「私なら平気ですと言ったでしょう!! それより、貴方こそおキヌちゃんと安全なところにいなさいと…!!」

「どの口が平気と抜かすよ!? 簡単に『グルル』ごときに背後取られて襲われそうになっといて!!」

「あの程度、自分でもあしらえました!! 誰が助けてくれなんていいましたか!?」

「うっわ、最悪!! 可愛くない台詞ランキング上位に入るお約束を吐きましたよ、この人!!」

「んな…ッ!? どーせ、私は…!!」

「可愛くないです、か!? さらに王道パターンをありがとう!! 単純すぎて思わず先読みしちまったよ!!」

「喧嘩売ってるんですか、貴方!?」

「二人とも、いい加減にして下さ──いッ!!」


今にも噛み付かんばかりの勢いで口論する二人を見比べながら、おキヌが悲鳴に近い声で叫ぶ。

だが、二人の耳には届いていないのか、ちっとも治まる気配はない。

その背後。

言い争う刻真と小竜姫、それぞれの死角からアクマの生き残りが忍び寄っていることに、おキヌが気づく。

息を呑み、慌てて警告を発しようとしたが、それよりも一歩早くアクマが二人に飛び掛った。

が。


「「邪魔だぁ(です)!!」」


瞬殺。まさに瞬き一つの間だった。

二人が交差したと思った瞬間、小竜姫は刻真の。刻真は小竜姫の背後のアクマを屠っていた。

さらに、示し合わせたかのように横へ跳び、おキヌの背後に廻り込むと同時に。

神剣と魔銃が重なる。

おキヌの背後に忍び寄っていたアクマは、銃撃に頭を吹き飛ばされ、胴を一刀両断にされ、きりきりと宙を舞って散っていった。

え、とおキヌが思う間もなく、二人はさらに駆ける。

その先では、彼らを中心に異形の存在が、闇の向こう側からわらわらと這い出してくるところだった。


「やぁッ!!」


それを気合一閃、片端から斬り伏せていく小竜姫。

逆方向では、次々に現れる敵を撃ち抜きながら、刻真が不敵に笑っていた。


「さあ、来い。こっちはイラついてるんだ…まとめて相手してやる─ッ!!」








          ◆◇◆








公園のベンチに腰掛けて、おキヌは刻真の腕にヒーリングを始める。

あの大群を退けた後、さすがに消耗が激しいということで、少し奥まった休憩所で一息つくことになった。

小竜姫は周囲を見張りながら、ちらちらと二人の方を、少しだけバツの悪そうな視線で窺っている。

一方、刻真は大人しくヒーリングされながらも、不機嫌な空気を漂わせていた。

その沈黙に耐えられず、おキヌは治療を続けながら取り繕うように微笑んだ。


「そ、それにしても、二人とも凄かったですねぇ! あれだけいたアクマをあっという間に退治しちゃうんですから。」

「…まーね。どこかの竜神様がヘマやらかさなかったら、無傷のパーフェクト勝ちを見せてあげられたんだけどね。」


針鼠の如く刺々しい刻真の言葉に、小竜姫はわずかにたじろいだ。


「で、ですが、まさかあれで立ち上がってこられるとは…。」

「油断大敵って言葉を知ってるか、武神様? 俺が飛び込まなかったら、今頃どうなってたことやら…。」


刻真の負傷は、小竜姫を庇ってのことだった。

確実に斬ったと思ったのが油断のもと。その敵が、次の敵に向かおうとしていた小竜姫に襲い掛かってきたのだ。

完全に注意の逸れていた小竜姫が気づいたときには一歩遅く、回避は間に合わない。

その時、敵の攻撃を身をもって防いだのが刻真だった。

左腕で敵の一撃を受け止めると同時に、右手に構えた銃を相手の額に押し付けるようにして一発。

呆気にとられる小竜姫と、塵に還る敵を残して、ふたたび自分の戦線へ戻っていった。

その左腕から、血を流しながら。

刻真はさらに苛立たしげに、というより明らかな怒りを見せて。


「おまけに戦いに集中しすぎて敵陣深くに突撃。取り残されたおキヌちゃんの危険度が増すことは考えたのか?」

「わ、私はいいですよ! 私は…私は、足手まといですよね。」


急に話を振られたおキヌは、苦笑を浮かべるも、その表情がすぐに沈んだものになる。

自分はこれといって何も出来なかった。

ネクロマンサーの笛で何体かを浄化することは出来たが、ほとんどの相手には効果がなく、刻真がいなければ自分こそ危なかったのだ。

自分の言葉に落ち込むおキヌを見やって、刻真は。


「そうだな。」


と、至極あっさりと頷いた。


「戦闘自体は問題外だし、浄化も悪霊や幽鬼といった種族ぐらいしか効果はない。」

「……。」


淡々とした刻真の言葉に、さらに落ち込んでいくおキヌ。

だが、と刻真は続ける。


「しかしそんな事は問題じゃない。
 何故なら、おキヌちゃんの場合、自分が出来ること。そして出来ないこと。それを把握しているからだ。
 それを知っていれば、自分の役割がわかる。
 役割がわかれば、持ち場が生まれる。
 そして、その持ち場で自分の役目を果たすことが、結果として全体に繋がっていく。」


あくまで淡々と、事実を述べているだけという口調で刻真は語る。

おキヌと小竜姫は、ただ目を丸くして聞いていた。

そこで刻真は、眉間にしわを作り。


「それに引き換え、小竜姫。アンタは何をやってるんだ?
 全部自分でやろうと気負いすぎた結果、突っ込んでった敵陣ど真ん中で油断。
 役割も何もあったもんじゃない。」

「ぐ…!!」


悔しげに口を引き結ぶ小竜姫。

どれほど悔しかろうと、言われていることは正しかった。正しいが故に、悔しい。

しばらく刻真は、そんな小竜姫を無言で睨んでいたが、はぁと息を吐くと今度は諭すような響きで。


「…アクマにだって、得手不得手はある。
 炎に強い奴。寒さに強い奴。浄化に弱い奴もいれば…体技に得意な奴もな。
 美神さんが今回この班にしたのも、事前調査でそういう傾向を考えた上でだろう?」


回避能力の高い相手には、小竜姫の剣技が。

剣や技に長けた相手には、刻真の狙撃が有効になる。

小竜姫はふっと力無くうな垂れ。


「……すみません。」

「そう思うのなら無茶はしないでくれよ。俺を信頼するのは構わないけど、もう少し自分のことも考えろ。」


それから刻真は、「少し休んどけ。」と言って休憩所の外に立つ。

その後姿を呆然と小竜姫が眺めていると、くすくすと小さな笑い声が聞こえてきた。

振り返れば、おキヌがおかしそうに笑っている。


「刻真さん…凄く必死だったんですよ。小竜姫様が公園の奥に行っちゃった後、すぐ追いかけようって。
 厳しいこと言ってたけど、安心の裏返しみたいです。
 ……なんだか、美神さんみたい。」


そう言うと、またおキヌは堪えきれないように、くすくすと笑い始める。

小竜姫は、ふたたび視線を刻真に向ける。

今、刻真は『俺を信頼するのは構わないけど』と言った。

自分がとった行動は、ともすれば信用してないように思われかねないにも関わらず。

彼は理解していたのだ。

自分が振り返りもせず、おキヌの身の心配もしていなかったのは、単に彼の力をそれだけ評価していただけだということも。

彼の力を認めているからこそ、自分は飛び出せたのだ。

鹿爪らしく周囲を警戒する刻真の横顔が、なんだか違うもの見えてきて。

小竜姫は小さく、くすっと笑った。








          ◆◇◆








そこから、少し離れた場所で。


「あれだけの数を、こう簡単に葬られるとはなぁ…。」


わずかな畏怖が込められた声が、羽音をともなって降ってくる。

どこか愉快気な響きが混じっているのは、やはり我も奴も、所詮同じく血を好む者ということか。


「我もここから感じていた。特にあの少年…心躍る相手となりそうだ。」

「おい、待て待て。お前の性分もわかるが、今回はちとよろしくない。俺のやり方に従ってもらうぞ。」

「ふむ…我が敗北すると?」

「万が一、だろ。しかし、そうなったら面白くない。万全を期すって奴さ。」


しばし考える。

答えは、さほど時をおかずして出た。


「致し方ない。ならば、我はあちらの竜神を相手にしよう。あれもまた手練のようだ。」

「ああ、そうしてくれ。剣ならお前が負けることは無いだろうしな。クククッ!!」


ばさりという羽音が遠ざかっていく。

周囲の暗がりにあった無数の気配も、同じく去って行った様だが、どうでもいい。

ゆっくりと手を肩から後ろに回し、背に背負った二本の刀剣を引き抜いていく。

反りのある、青竜刀にも似た刃。

涼やかな金属音を響かせて交差させれば、夜の闇を切り裂く光に濡れる。

いざ、戦場へ。

抑え難い闘争の衝動を抱えて、今。

一匹の鬼が征く。


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