椎名作品二次創作小説投稿広場


速き者達

そして舞台は移り変わる


投稿者名:鷹巳
投稿日時:06/ 1/ 5

朝の光がまぶしくなり始めたこの時間。
美神事務所では横島とともに帰宅した雪之丞が、朝早くに目覚めたおキヌにお茶を入れてもらい、一度気持ちを落ち着けるためにゆったりとそれを飲んでいる様子がうかがえる。
ソファーでは同じく早くに起こされたタマモとシロが暇つぶしにテレビのニュースを見ている真っ最中である。
普通。ただただ平凡な風景に見える。が、部屋に漂う空気はそれとは対照的に重く、暗い。
原因は全て違う部屋から聞こえてくるあの悲痛な叫びのせいだろう。


「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァ」


また聞こえてきた横島の断末魔の叫び声。
さらに続けて・・・・・


「コラーーー!!横島ーーー!!逃げるなーーーーーーーーー!!!!」


美神のヒステリックな怒鳴り声が聞こえてくる。
よくよく見てみると、極普通にテレビを見ているものとばかり思っていたシロタマは、間じかで見なければ分からないほど小刻みに震えていらっしゃるご様子。当然テレビの内容など頭の中に微塵も入ってはいない。ただ間がもたないからつけているだけである。
雪之丞も一見落ち着いてお茶を飲んでいるように見えるが、額をズームアップしてみると友を心配するあまり、うっすらと汗が浮かんでいる。
おキヌは先ほどから悲鳴の聞こえる部屋をチラチラと見ながら落ち着かないご様子。この中では一番分かりやすい反応をしている。


「ギャァァァ、た、助け・・・・・・・」


次第に横島の声から生気が薄れていくように聞こえてきた。
本格的にヤバイのではないかと思い始めた雪之丞は、付き合いの長い三人の乙女達にたずねる事にした。その時の雪之丞の声はこの場の空気に汚染され、震えを帯びていた。


「お、おい・・・い、行かなくて・・・・・・いいのか・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


三人の動きが止まる。まるで世界の時間と言う時間が全て消え去ってしまったかのような沈黙が訪れた。
もうだいたい雰囲気で分かる。


(・・・・・・・無理・・・・・・・だな・・・)


雪之丞も心の中で理解した。
そもそも何でこんな事になっているのか、それは横島と雪之丞が六麻呂と三世との戦闘から事務所へと帰ってきた時から始まっていた。
まず二人(ほとんど横島)に向けられたのはおキヌ、シロ、タマモの三人が「逃げろ!」だの「来るな!」だの事務所への入来を拒むかのような視線。
そんな事にはまったく気づかなかった鈍感な横島は奥に待ち受ける美神の、鬼の形相を拝む事になったのだ。
なんで美神がそんなに機嫌が悪いのかだけは、雪之丞は知ることができた。それによると、横島は事務所を出て行く時に美神にこう言って走り去ったと言う・・・・・・・














『・・・美神さんの・・・バッキャローーーーッ!!どちくしょーーーっ、この女王様気取りのバカ女ーーー!!』














と、言うわけでただいまこんな状態になっています。
ちなみに韋駄天の事については、美神から聞かされたおキヌが雪之丞にしっかり伝えてくれました。
この緊迫とした状態はもうしばらく続いたそうです。

















「で♪なんで雪之丞がいるの?♪」←(満面の笑み)


いったいどれだけの時間が経過してであろう。横島をしばき終えた美神は、心の中にあったストレスを全て横島にぶつけてスッキリしたのか、極上の笑顔で雪之丞に質問してきた。
美神の後には、もはや地球上の生命体かどうかも疑わしい物質に成り果てた横島が転がっている。そんな彼は今、ヒーリングを施してくれている三人娘によって命をとどめている。


「へーーーーん。横島さーーん。ゴメンナサイ(涙)」


心の底から謝りながらヒーリングを施すおキヌ。


「うぅぅぅ、先生の命が危ういと言うのに、拙者は・・・拙者は・・・」


自分を責め続けながらヒーリングを施すシロ。


「横島!!しかっりして!!」


珍しく熱くなりながら横島をはげまし、ヒーリングを施すタマモ。
この様子だと横島が復活するのにさほど時間はかからないだろう、と一安心した雪之丞は目の前にいる美神に経緯を話し始めた。


「ふ〜〜〜む」


雪之丞の話を聞いた美神はこれからについて考え始めた。仕事が絡んでくればプロとしての威厳と言うものが表に現れてくる。
美神が話を聞いている内に気になったことが二つあった。それは・・・・・


「気になるわね。その六麻呂って奴のイヤリングとあんたが結界破ろうとして見つけたって言う、札」
「ああ、それは俺も気になってるんだが、どうやらその札が結界を張ってやがった見たいなんだ。俺が気づいて札を攻撃した途端に、結界が壊れたからな」


雪之丞が何故結界を壊す事ができたのかと言うと、結界を発見し、その中から横島の気配を感じ取った雪之丞は、もちろん最初は力ずくで結界を壊そうとしたらしいが、そんな簡単にいくはずもなく、てこずっていた所で近くにあった札を見つけたそうだ。その札に霊波砲を放って結界を壊した。


「何だかその札に文字が書いてあったような気がすんだけどよ・・・思い出せねーんだよ」
「あんたそんぐらい覚えときなさいよ・・・・・」
「しょうがねぇだろ!久々に強い奴とヤリあえると思ってそんなん眼中になかったんだからよ!」


美神はほとほと『バトルマニア』という人種にあきれ返った。


「ん〜・・・・・ん?あれ?俺はいったい・・・・・?」
「やっとお目覚め?」


と、ここで横島が目を覚ました。
あれだけ美神にしばかれてこんな短時間で完全回復する横島も横島だが、まるで他人事のように平然とした態度を維持している美神も美神だ。両者共に『すごい』以外の言葉が見つからない。


《ん?・・・私はいったい?》
「あ、八兵衛さまも気がついた見たいいっスよ」


横島に続き、八兵衛も目を覚ます。(六麻呂の一撃で気を失ってから今までずっと横島の精神の奥に引っ込んでいた)
美神は八兵衛に表に出てもらい、ここまでを簡単に説明した。
















「それじゃあ、これから皆にこれからの事を説明するわ。聞き逃さないようにしっかり聞きなさいよ」


全員が事態を飲み込んだところで美神は現在事務所内にいる、自分を含めた七人(八兵衛を含んで)を集めて話し始めた。


「まず大まかな確認を言うと、第一にこれ以上の応援は無理だって言うこと。第二に相手の実力から、絶対に一対一では戦わないこと。必ず誰かとペアを組みなさい」
「おいおい美神の旦那、俺まで誰かと組まなきゃなんねぇのか?」
「あたりまえでしょ!」


あくまでタイマンを望む雪之丞の意見を問答無用で却下する美神。雪之丞は「ちぇっ!」と、小さく舌打ちをした。


「それと・・・・・おキヌちゃんには戦線を離脱してもらうわ。すぐに六道女学院に行きなさい。あそこならこのあたりで一番安心できるわ。私が車で送って、理事長に事情も説明するわ」
「な!!ちょ、ちょっと待ってください!!なんで私だけ・・・」


突然の美神の言葉に戸惑うおキヌ。
美神の判断は正しい。ネクロマンサーであるおキヌは、除霊に関しては抜群だが本格的な戦闘となるとほとんど役には立たない。最悪の場合は皆の足手まといにもなりかねない。それは本人が一番分かっていることなのだ。そのため、おキヌの言葉は途中で途切れてしまう。
直におキヌの口から小さく「・・・・・分かりました」と言う声が聞こえた。


(・・・・・・おキヌちゃん・・・・・)


そんなおキヌの姿を見た全員が辛い気持ちになる。それは横島も同じだった。
おキヌが今どれだけ悔しい思いをしているか、それは目を見れば一目瞭然だった。悔しさから出る涙を必死に押さえ込んでいるのがよく分かる。
横島の気持ちは八兵衛にも直に流れ込んでくる。今二人は、互いに自分ひとりでこの事件を解決できない事への無力感を感じていた。


「・・・・・横島さん」
「え?」


気づくと横島の目の前にはおキヌが立っていた。


「横島さんがそんな顔しないでください。私は何もできませんけど・・・・・今、横島さんが一番危ない時に私・・・・・なにもできないけど・・・・・横島さんは何も悪くありません」


そう言うと彼女は笑った。自分よりも相手を思うその笑顔は不思議と周りを穏やかな気持ちにさせていた。
横島の中から今まで感じていた無力感が薄れてゆくのが分かる。この場の雰囲気が明るくなって行くのを全員が感じた。


「それじゃあ、その他に質問がある場合は手を挙げて発言しなさい」


報告すべき事を終えた美神は、念のために質問がないかどうか確認する。
すると・・・・・・・・・・


「はい」
「はい、タマモ」


手を挙げたのはタマモだった。
先ほどとは打って変わって、普段のクールなタマモに戻っている。


「さっきおキヌちゃんは六道女学院に行くって言ったのよね?」
「ええ、そうだけど・・・それが何?」


タマモの言っている意味がよく分からない美神。他の皆も同じような思いでタマモを見つめている。と、タマモはいきなり何かを指差した。何かとその指に視線を向けると、そこには時計があった。その時刻は・・・・・・・・・














           ・・・・・・・・・・午前八時・・・・・・・・・・














「あぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!」


途端に事務所内に響く大声。しかし、その声は美神はもちろんおキヌのものでもない。なぜなら、おキヌの通う六道女学院霊能科はGS見習いとして、除霊などでよく授業に遅れることが多く、あらがじめ電話で連絡しておけば何の問題もないからだ。
この時間に学校に行かなければまずい人・・・・・それは・・・・・


「やっべー!今日は絶対来いって先公に言われてたんだ!!これ以上単位落としたら進学できん!!」


横島忠夫であった。
先ほどのシリアスな雰囲気は何処にいったのか、慌てまくる横島。読者の方々はもうお忘れかと思いますが、幸いにも横島は今学生服を着用しています。(分からない人は第一話、『二度目の憑依』をご覧ください)それにより時間は少しは稼げたことに気づいた横島は、今の自分の立場も忘れて一度家に戻っていった。


「すんません美神さん。俺ちょっと学校行ってきますー!!」
「な、ちょっとま・・・横島ク・・・」


美神が呼び止めるのもむなしく、韋駄天の憑依した横島の足に追いつけるはずもなく、最後まで言い終わるまで至らずに横島は事務所を後にした。
事務所内には女の声で「またかーーーーーーー!!!!」という、ヒステリックな怒鳴り声が木霊したという。






 


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