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GS美神 アルカナ大作戦!! 〜Endless Expiation〜

Chapter3.EMPRESS『噛み合わない』


投稿者名:詠夢
投稿日時:06/ 1/ 5



おキヌは困っていた。

こんなに困ったのは恐らく、あの六道での対抗戦以来かも知れない。

夕闇、街灯に照らされながらそんなこと思う。


「あの〜…なんで、仕事前からこんな雰囲気なんですか〜…。」


おキヌの訴えに、その原因の片割れである刻真は、そっぽを向いたまま答える。


「あぁ…いや、なに。こちらの竜神様が作戦っていう名前の的外れなご意見をくれたもんでね。」


悪意たっぷりの台詞に、小竜姫のきりっとした眉が一層吊り上る。


「な…ッ!? あなたの方こそ、素人にも等しい考えでチームの和を乱さないでください。」


頬をひくつかせて傲然と言い放たれたそれに、ぴくりとかすかに頬を引きつらせて刻真が返す。


「いやいや、そんなつもりは。ただ、誰だって無能丸出しの指示に従って危険な目には遭いたくないしね。」

「む、無能!? 仮にも武神たる私に!! こともあろうか戦の策において!! 言うに事欠いて無能!?」

「無能じゃなかったら、ただ特攻しか能の無い猪武者かな。おっと、よかったじゃないか。一つ能ができた。」

「んなッ!? い、いの、いのし…ッ!?」


怒りに震える小竜姫は、すでに言葉すらまともには出てこない。

おキヌの鍛え抜かれた直感が告げる。これはコードレッド(第一級非常厳戒態勢)だと。


「しょ、小竜姫様…! あ、あの落ち、落ち着いて…!!」

「もぉ〜ッ、許せませんッ!! そこに直りなさい!! 神罰を喰らわして差し上げてやります!!」


一歩遅く、小竜姫抜刀。

もはや、戦端は開かれてしまった。

だが、対する刻真は真っ向から受けずに、ふんと鼻で笑って。


「こんなたかが『素人にも等しい』相手の言動に一々神罰を下すとは、よっぽど暇なんだな。だから人界でどさ回りやらされるんだよ。」

「〜〜ッぁああああぁぁぁ〜〜ッ!!」


そう言われると小竜姫の性格上、意地でも神罰を喰らわすわけにはいかなくなってしまう。

かと言って怒りが治まるわけもなく、切っ先は向けたまま何度もダンダンと足を踏み鳴らす。

そんな様子を遠巻きに眺めることしか出来ない自分を、ちょっと情け無く思いながらおキヌは嘆く。


「ああああ…何でこんな事になるの…!?」


現実逃避気味に浮かんでくるのは、ちょっと困ったような顔をした、憧れている雇い主。






          ◆◇◆






「今回の班分けは以上よ。次は仕事の割り当てだけど─。」


美神除霊事務所では、午前中は仕事の打ち合わせに費やされる。

そして、午後からは仕事の準備、早ければ現場に赴く。それがいつものサイクルだ。

ここ最近は仕事量も増加しているが、わずかに日中に食い込むくらいで、それほど乱れることはない。

人手も同じく増えて、仕事を分担してさばけるようになったからだ。

まず最初に班分けをする。

これは、その日の互いの状態、戦力面のバランス、入っている仕事の傾向などを考慮した上で、美神が決定する。

普段ぐうたらしているが、いざ仕事に取り掛かれば前準備とて徹底する。

それが美神を超一流のGSたらしめているのだ。

というわけで、そんな美神の指示に異を唱えることなど、今まではなかったおキヌだが。


「あの〜…美神さん、ちょっといいですか?」

「なぁに? おキヌちゃん。」


打ち合わせが終わり、各人がそれぞれの仕事を検討している中、おキヌが言いにくそうに美神に声をかける。


「いえ、その…今回の班分けなんですけど〜…。」

「…ああ、それね…。」


おキヌが言わんとするところを察し、美神もやや暗い表情になる。

今回の班分けは、以下の通り。

A班──美神、シロ、パピリオ。

B班──横島、タマモ、鈴女。

そして、問題のC班──おキヌ、刻真、小竜姫…。

ちらりと、おキヌが今回のチームメンバーの二人に目をやれば。

二人ともむっすりと押し黙り、つまらなそうに資料に目を通していた。

刻真などは、時折深いため息をついている。

ため息ならこちらがつきたいくらいです、とおキヌは心中で嘆いた。

美神さんも二人の間に漂う気まずい雰囲気はわかっているだろうにと、ちょっと恨みがましい目つきを向けてしまう。

だが、おキヌのそんな視線を甘んじて受けて、美神は済まなそうに。


「ちゃんと今回のこれも検討の末の結論よ。」

「ううう…絶対、一番のハズレ班ですよ〜。せめて二人を別々の班に組みなおしてくれませんか?」


おキヌの懇願にも、美神は首を横にふる。

確かに、おキヌとて冷静な理屈では納得できる班分けではある。

パピリオと小竜姫をわけたのは、それぞれのパワーバランスを調整するためだろう。

そして、遠距離攻撃が可能なタマモ、パピリオ、刻真を分けるのも理解できる。

それぞれにヒーリングの出来る回復役もおり、綺麗に前衛と後衛で構成された形になってもいる。

だが、理屈ではわかっていても、あの雰囲気にはちょっと耐えられそうに無い。


「刻真さんとタマモちゃんを入れ替えるとか…!」

「おキヌちゃん…。今回、こういう班分けにしたのは戦力面以外のところも考えた上なのよ。」


なおも食い下がろうとするおキヌを、優しく諭すように宥める美神。

この場合、その優しさこそ残酷なのだが。


「あの二人の仲が悪いのは聞いてるわ。だからこそ、一緒にしたの。
 これからも一緒に仕事を続けていくのに、あのままじゃいけないでしょ?」

「それで、何で私まで…。」

「期待してるわよ。おキヌちゃん効果。」

「何ですか、それは!?」


ぽんと、澄んだ瞳で肩に置かれた手を、思わず払いのけたくなってしまった気持ちを誰が責められよう。

苦笑を浮かべて「とにかくお願いね?」と済まなそうに言う美神につい頷いてしまう自分をなら、思う存分責めてみたい。

諦観に浸った思考で、ふとそんなことを思うおキヌであった。






          ◆◇◆






現実逃避から今に目を向ければ、現場の前で未だ言い争いを続けている二人の姿。

アクマが出没するようになったという公園には人気が無く、ただ小竜姫の怒声とその合間に小さく入る刻真の皮肉が響くばかり。

とにかく、このままでは埒が開かないと、おキヌは心底疲れた吐息を漏らす。


「もぉ!! 二人とも、その辺にして仕事に戻りましょう!」

「ああ、ごめん。そうだね、早く終わらせてしまおう。」


うんざりといった表情をしていた刻真が、おキヌの抗議にあっさりと矛を収める。


「って、まだ話は…というか、なんでおキヌちゃんの言うことは素直に聞くんですか!?」


あまりの態度の違いに、さらに憤る小竜姫。

だが、もう刻真は聞いておらず、荷物から取り出した公園の見取り図を手に、入り口に結界札を貼り付けている。

他の場所にはもう貼り付けてあり、最後の一枚を貼り付けたことで結界が作動。公園を淡い光が囲んでいく。

それを確認する刻真と、あまりの無視っぷりにぎりぎりと歯を鳴らす小竜姫。

おキヌは、心中で必死にSOSを発信するも、それを受け取るものは生憎、この場にはいなかった。


「聞いてるんですか!? 聞いてないんですね!? 聞く気すらないと、そうですか!! そうなんですか!?」

「しょ、小竜姫様、落ち着いてくださいって…もうッ!! 刻真さーんッ!!」
 

もう泣き出しそうな気配すら漂わせて、小竜姫は喚きたてる。

おキヌに至ってはすでに半泣きだ。

刻真は背を向けたまま、大きくため息をつくと勢いよく振り返る。


「わかったよ、謝る。謝るから、とりあえず落ち着こう。な?」


小竜姫はまだ何か言いたげに睨みつけてくるが、それ以上は騒ぎ立てることもやめる。

相手がある程度落ち着いたのを見計らって、刻真はどこかたどたどしく言葉を紡ぐ。


「俺だって…その、こういう言い争いとか、したくない。だから、謝る。
 謝るけど、アンタも、その…もう少し、俺の意見とかも聞き入れてほしい。
 アクマとの戦い方なら、俺に一日の長があるわけだし…。
 美神さんが、俺とアンタを同じ班に入れた理由をよく考えてくれよ。」


ぼそぼそと、まるで拗ねてるような口ぶりに、おキヌは内心ハラハラしながら見守る。

小竜姫はしばらく唸っていたが、やがて渋々と。


「…わかりました。」


と小さく答え、おキヌを心から安堵させた。

心なしか、刻真の口元にもかすかに、穏やかな笑みの色が浮かぶ。


「わかってくれて何よりだよ。今回の仕事は俺だけでも、アンタだけでも片付きそうには無いから…。」

「でも、危なくなったら、私の指示に従ってください。いいですね!?」


ふと、そんな二人のやり取りを見ながら、なんとなくおキヌは苦笑する。

結局は、それぞれがそれぞれの身を案じてだけの話だと気づいたから。

ただそれが、刻真と小竜姫の場合、どちらも一歩も引かないから、うまく噛み合わないだけなのだ。

なら、それを噛み合わせるのが自分の役目だ。

おキヌは、自分をこの班に入れた美神の意図を、理解できたような気がした。

いつものにこやかな微笑を浮かべて、二人に声をかける。


「それじゃ、早く行きましょう。結界の効果があるうちに済ませてしまわないと。」

「ああ。それじゃ、行こう。」

「…って、ちょっと待ってください。私が先頭になります。」

「いや、俺が先頭の方がすぐに対応できるから…。」

「ダメです。危険ですから。」

「だから…!!」


再び始まった争いに、おキヌは心中でぽつりと零す。

噛み合わせるの、無理です。美神さん。










          ◆◇◆










公園の奥、木々に囲まれたその場所は街灯の光も半ば遮られ、闇が濃かった。

そこに、二対の光が生まれる。


「…感じたか? 何者かが結界を張ったようだ。」


そのうちの一つが言葉を発した。

光は、目であった。そこにいる者たちの瞳が妖しい輝きを放っている。


「クックック…どうやら、GSとか言う連中が来たらしいな。」


もう一方が答える。

その声には、嗜虐の悦びが塗り込められていて、声の主の残虐性を伝えてくる。


「ふむ…我が満足できるほどの強者であればよいのだが…。」


最初に言葉を発した方が、穏やかだがどこか武骨な響きをもった声でそう呟く。

一瞬、輝きを増した瞳に浮かんだのは、戦いに赴く者の闘志。

嗜虐に濡れた輝きがクククと忍び笑いを漏らす。


「さて、この公園がどちらにとっての狩場か…教えてやるとするか。なあ…お前ら…。」


その言葉に答えるように、そこかしこの闇の中に、無数の気配と輝きが生まれる。

ざわざわとひしめくように。

クククという忍び笑いが、そのざわめきに飲み込まれていった。


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