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ニューシネマパラダイス

いまさら竜の探索に


投稿者名:UG
投稿日時:06/ 1/ 4

(※ツンデレラのシロ頭巾を未読の方は出来ましたらそちらの方からお読み下さい)

プロローグ

 妙神山
 割烹着姿の小竜姫はハタキと箒を装備し、居間周辺を侵略する乱雑に散らばった様々なゲームソフトと格闘していた。

 「全く、二人とも散らかしっぱなしでー」

 若々しい外見に似合わず妙に所帯くさいため息を漏らした彼女は、老師とパピリオが出しっぱなしのゲーム本体とソフトを片付け始める。
 現在、老師はパピリオを伴い保護観察の報告に出張中だった。
 小竜姫は慎重にハードの電源が切れているのを確認した後、なるべく衝撃を与えないよう棚にしまう。
 以前、老師のデータを消してしまい1週間口をきいて貰えなかったという苦い思い出が彼女にはあった。
 それは彼女にとって未だに納得できない理不尽な思い出ではあるが、あの時の老師の怒りはそんな理不尽さを吹き飛ばしてしまうほどの迫力だった。
 小竜姫は老師を従え旅をしていたという修行僧を密かに尊敬している。

 「あれ?これは何かしら・・・・・」

 ソフト専用の棚にCDケースを収めていた小竜姫は、最近使われていない棚の奥にカセットと共に保管されているノートを見つけた。
 そのノートには老師の達筆な字でひらがなの詩のようなモノが書かれていた。

 「なんて綺麗な字・・・・」

 毛筆で丁寧に書かれたその詩の美しさに小竜姫はため息をもらす。
 詩の意味は不明だが小竜姫は次々にページをめくっていった。
 しかし、徐々に字は乱れはじめ、所々に老師の心が乱れていることが窺えるようになる。
 最後のページについた皺が老師の悔し涙の跡であることに小竜姫は気付いていた。

 「このノートには老師の魂が染み込んでいる・・・一体この詩にはどんな意味が」

 小竜姫は好奇心から最後のページにあった詩を朗読し始める。
 彼女の言葉に含まれる竜気が、ノートにこもった老師の気と反応し強力な力場が生じつつあった。

 「まるかつは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぺてぷ」



 ブワッ!!!!



 小竜姫が詩を朗読し終わった瞬間、強力なエネルギーの塊が妙神山の結界を内側から突き破り飛び出していく。

 「!!!・・・・何だったの今のは!?」

 小竜姫は自分がなにか禍々しい存在を呼び出してしまったのではと戦慄する。
 彼女は自分が今読んだモノが「復活の呪文」と呼ばれるものであることを知らなかった。










 いまさら竜の探索に










 東京某所
 横島忠夫は疲れ切っていた。
 連日の朝夕20kmを超える散歩に気力はともかく体力は限界に近い。

 「なあ、シロ。そろそろ勘弁してくれよ」

 ジロッ

 泣き言をいう横島をオオカミ形態のシロが避難めいた視線で見上げる。
 オオカミ形態のため一言も言葉は発さず、うなり声と、ジェスチャーのみが散歩中のコミュニケーション手段だった。
 今の視線を日本語に翻訳すると、
 『先生のアイデアで拙者は酷い目に遭ったんでござるよ。埋め合わせはしてもらうでござる!』
 だろう。

 「明日俺からも美神さんに頼むから・・・・もう馬鹿なことはしませんから精霊石を返して下さいって」

 『ウーッ!』

 今のシロの唸りを翻訳するならば、
 『オオカミの地位向上は馬鹿なことではござらん!あれは先生が斬れと言った相手がマズかっただけでござる!!』
 と、いっている筈だった。

 一部で伝説となったシロ頭巾騒動から1週間。
 その後の追求をかわすためシロは精霊石のペンダントを取り上げられていた。
 そして、当然の如く夜間の外出は禁止。
 現在、美神事務所の食卓にはシロの代わりにオオカミのぬいぐるみが座っている。
 因みに横島の席にはクマのぬいぐるみが鎮座していた。

 「だから謝ってるじゃないかよ。俺も栄養状態が洒落にならないレベルなんだぞ」

 横島に対してのペナルティは一週間の事務所への出入り禁止だった。
 事務所での栄養補給を絶たれた横島は体力が極端に低下している。
 だが、今日一日我慢すれば明日からは美神は普通に接してくれるだろう。
 キツイ反面、後に残さないことは彼女の目立たない美徳の一つだった。
 幸いなことに、前回斬った中には警察官僚を含み本当のヤバイ筋は含まれていない。
 美神は多くは語らないが、一週間でほとぼりは冷めると考えているらしい。

 「な、いい加減、機嫌直してくれよ」

 横島はお座り状態のシロの前にしゃがみ、その体をしっかりと抱き寄せる。
 シロのシッポが勢いよく左右に振れた。
 横島は根っから陽性の性格を持つ弟子に口元を緩める。
 シロが自分を責める気がないのは最初から分かっていた。
 更に機嫌を取るために、横島はシロ頭巾が斬った中で最も思い出深い人物の事を口にした。

 「・・・・だけど、あの建築士を斬った時は別な意味でやばかったよな」

 シロもその事を思い出し思わず吹き出してしまう。
 オオカミの思い出し笑いという世にも珍しいモノが横島の目前にあった。

 「!」

 その人物について何か言おうとした横島の背後で凄まじい霊圧が生じた。
 振り返った横島は、青い服を着た戦士風の男を目撃する。
 シロは一見してただ者ではないと分かるその男に威嚇の唸り声を上げるが、その口はすぐに横島によって塞がれた。

 「シロ!、相手にするな。あの目を見ろ、あの目を、どう見てもまともじゃない。ああいう手合いは関わり合いに・・・・・」

 「すまんが、俺の探している男か確かめさせてもらおう」

 遅かった。
 二人に関わる気満々の青の戦士はつかつかと歩み寄ると腰に差した剣を引き抜く。
 その剣は銅で出来ていた。

 「うわっ!ヤバッ、キチ○イだぞやっぱり」

 青の戦士の斬撃を受け止めようと横島が霊波刀を出現させる。
 シロはその斬撃の凄まじさを一目で見抜き、横島の襟を加えると後方へ引き倒す。

 キン!

 横島の霊波刀はいとも簡単に切断されていた。

 「ほう、やはり剣を使うか・・・・・しかし、まだまだだな」

 青の戦士は嬉しそうに笑みを浮かべた。

 ―――このままでは勝ち目がないでござる

 シロは横島を引きずったまま渾身の力で走り出す。
 目的地は100m先にあった。

 厄珍堂

 古今東西のオカルトアイテムを扱う古物商でシロは精霊石を手に入れるつもりだった。











 「いらっしゃい。どうしたネ、お嬢ちゃん」

 オオカミ形態で飛び込んできたシロに厄珍は怪訝な顔をする。
 シロに襟首を咥えられ引きずられた横島は頬から軽く血を流していた。

 「ウガッ!ウガ!ウガッ」

 「何言ってるかわからんアル。ボウズ、通訳するね」

 厄珍がサラリと無茶をいう。
 この男は横島を人外として見ていた。

 「精霊石。精霊石を貸してくれ・・・」

 「タダはイヤだと伝えるね」

 厄珍は切迫した横島の言葉を、シロの通訳と思っているらしい。

 「俺のコレクションから好きな物を3点だけやる。急ぐんだ!この店も危ない!!」

 「大げさねボウズ!本当に貸すだけアルよ」

 厄珍はケースから精霊石のペンダントを取り出すと、鏡を見せながらシロにかけてやる。
 鏡の中に映ったシロの姿が一瞬で人形態へと変化していった。

 「そのデザインは今年の流行ね。早くそれが買えるよう・・・・・」

 「先生!!!」

 厄珍の説明には一切耳を貸さずシロは横島に抱きついた。

 「二人でアイツを倒すでござるよ。先ずは先生の怪我を治すでござる!」

 シロが横島の頬を舐めると剣先が擦った時の裂傷がみるみる塞がっていった。
 その回復速度にはシロのヒーリング以外の要因が加わっているのだが、この場にいる人間では厄珍しかそれに気づいていない。
 横島とシロは店の外に立ちつくす青の戦士に意識を集中していた。

 「お、おおお・・・」

 青の戦士は横島とシロの視線を真っ直ぐ見つめている。

 「隙だらけだぜ!」

 横島は文珠に念を込め青の戦士に投げつけた。

 (炎)

 激しい火炎が青の戦士を襲う。
 しかし、青の戦士は敢えてその攻撃を正面から受け止めた。
 威嚇の意味も多分にあった事はたしかだが、文珠による炎は青の戦士に何のダメージも与えてはいないようだった。

 「見つけた・・・・やっと見つけた」

 青の戦士は大量の涙を流し始める。
 それは大きな目的を達成した者のみが流すことのできる涙だった。
 青の戦士は剣をしまうと、身構える横島とシロを全く気にした様子もなく抱きしめる。

 「はじめまして!トンヌラ王子、サマンサ王女、俺の名はセイテン!一緒にこの世界を救う旅にでてくれ!!!」

 横島とシロは何処かでおめでたい音楽が鳴るのを耳にする。
 そして、自分たちがしょうもない運命に巻き込まれてしまった事を理解した。





 「いやー、ホントにトンヌラ王子に出会う事が出来ず苦労したよ。他の大陸に行こうとしても門番が退いてくれないし・・・正直、何度アイツを切り倒そうと思ったことか。トンヌラ王子を探すうちにレベルはどんどん上がってもうMAXだし、所持金も限界まで持っているんだけどいつまで経っても銅の剣しか・・・おおっ、ここは武器と防具、道具屋が一緒になった店なのか!!!」

 基本的に人の話を聞かない性格なのだろう。
 心ここにあらずといった様子の横島たちに、セイテンと名のった男は一方的に話かけると今度は厄珍堂の品物を珍しそうに物色し始めた。
 セイテン以外の者たちが一言も話さないまま時間だけが経過していく。
 3分後、ようやく事態を理解し始めた横島が恐る恐る口を開いた。

 「あのー、アナタ、何かとてつもない勘違いをしてるみたいなんですが?」

 たとえ伝説の勇者の子孫だとしても一般の社会ではアレな人でしかない。
 とりあえず下手に出ることにした横島の一言に、せいてんは妙にウキウキとした様子で振り返る。
 初めてのパーティプレイにセイテンは感激しているようだった。

 「またまたー。トンヌラ王子は冗談が好きらしいな。俺は騙されないぞ!」

 セイテンはにこやかに先程厄珍がシロに見せた鏡を手に取る。

 「これは紛れもなくラーの鏡!剣と魔法の使い手であるトンヌラ王子と、イヌに姿を変えられていたサマンサ王女、しかもサマンサ王女は回復系の呪文を使っていた」

 「イヌじゃないもん!」

 「その通り、君は僕と同じ伝説の勇者の子孫じゃないか!」

 見当違いなシロのボケは、己の考えを信じ切っているセイテンに完全に潰されていた。
 ボケ殺しを行ったセイテンの目には一点の曇りもない。
 良く言えば強い信念のこもった・・・悪く言えば完全にアレな目だった。

 「ちょっと待て・・・100万歩譲ってお前が伝説の勇者の子孫としても、お前は何で先の展開を知っているんだ!?」

 「またまたー。トンヌラ王子は冗談が好きらしいな。俺は騙されないぞ!」

 「ふざけるな!俺の質問に答えろ!」

 「またまたー。トンヌラ王子は冗談が好きらしいな。俺は騙されないぞ!」

 「いい加減にしろ!」

 「またまたー。トンヌラ王子は冗談が好きらしいな。俺は騙されないぞ!」

 セイテンは腹話術の人形のような顔になり同じ台詞を繰り返すばかりだった。
 どうやらマズイ質問は全てこの手で切り抜けるつもりらしい。
 どんどん泥沼にはまっていく己の運命に横島は思わず頭を抱えた。

 「ハッハッハッ!トンヌラ王子もサマンサ王女も細かいことは後にして、とりあえず装備を固めようじゃないか!」

 あくまでもマイペースなセイテンは、会話の無限ループから勝手に抜け出すと横島とシロにその辺にあるものを勝手に装備していった。
 どう見てもマズイだろ!という防具や武器を装備させられた二人はデロデロした音が鳴り響くのを耳にする。
 どうやら呪われてしまった二人は一切の抵抗の意思を奪われていた。

 「ちょっと待つね!このGって何ある!?円かドル、ユーロ以外は認めないアル」

 「あきらめろ厄珍。ガバスじゃないだけマシだと思え・・・」

 会計時に渡されたコインを見て抗議の声を上げた厄珍に横島は力なく呟く。
 意気揚々と冒険に出発したセイテンに引きずられるように、横島とシロはその後をついていく。
 二人の頭の中ではドナドナがリフレインしていた。







 3人のパーティはあてもなく町中を彷徨っている。
 先頭を歩いている男がレベルMAXになるまで、二番目の王子を見つけられない超絶馬鹿なのだから無理もない話だった。

 「あー世界がオレンジ色に見える」

 「先生!まだお昼前でござるよ!」

 空腹&呪いのコンディションに横島の体力は限界に来ている。
 流石に気になったのか、先頭を歩くセイテンも周囲を見回し回復の手段を探していた。

 「トンヌラ王子!あそこに教会がある。呪いを解いて貰えるぞ」

 セイテンは真っ直ぐ唐巣の教会へ向けて歩き出した。



 唐巣神父は平穏な日々に満足していた。
 日夜、行っている低報酬または無報酬の除霊は一向に彼の生活を豊かにしてはいなかったが、心清き人々からの感謝の言葉は彼の心を豊かにしている。
 今の彼に欠けているモノと言えば金銭と頭髪と恋人くらいであった。
 十分致命的とも言える欠損だが彼は一向に気にはしていない。
 彼は心の底から今の暮らしに満足していた。
 それだからこそ、教会の扉を開けて入ってきた3人組に彼の本能が全力で警戒信号を発する。

 ―――この三人に関わってはいけない

 たとえ後ろの二人が、かって弟子だった者の従業員だったとしても。
 唐巣神父は普段の自分では絶対に口にしない言葉を口にしてしまう。

 「呪われしもの出ていけ!」

 閉じられた扉に唐巣神父は安堵のため息をつくと、かっての弟子に連絡するため電話へと向かう。
 妙神山から連絡があったトラブルに、従業員が巻き込まれていることを教えてやるために。




 「うーん、呪われていると教会には入れないのか・・・・・」

 呪われた経験のないセイテンは、感心したように当てのない旅を再開していた。
 それじゃシステムとして破綻しているだろ!とツッこむ気は横島には無い。
 なにせ相手は最初の大陸でレベルMAXに到達した男なのだ。
 どう考えたってマトモではなかった。
 横島とシロは遥か前方に独創的な建築物を発見する。

 「先生・・・拙者とてつもなくイヤな予感がするでござるが」

 「まさか!二作続けてヨゴレネタはないだろう」

 二人は前次第に大きくなる建築物を見つめる。
 そこにはお城のような宿屋があった。
 言うまでもなく、泊まると逆にHPを消耗する宿屋だった。

 「おおっ、あんな所にお城が!早速接見をせねば!!!」

 イヤな予感が見事に的中した。
 セイテンはお城目指して進んでいく。

 「拙者の清純なイメージがーっ!!!」

 「美神さんに殺されるーっ!!!」

 必死の抵抗を試みるが無駄だった。
 不思議な強制力に繋がれたまま3人はお城に入っていく。



 「なんだこの城の者たちは!話しかけても反応しないではないか!」

 偶然すれ違ったお泊まり明けの可哀想なカップルに、横島とシロは申し訳なさそうにうつむくばかりだった。
 世のカップル全てを呪う横島の嫉妬もこの時ばかりは発動しない。
 自分たちの方が5割り増し不幸なんだから勘弁してくれと、二人は胸の中で必死に詫びていた。

 「なるほど!分かった」

 何かを理解した様子でセイテンが手を叩く。
 それが何なのか知らないが、絶対に間違っていることを横島とシロは確信している。

 「ここは城と城下町が一体化しておるのだな!そしてここは宿屋なのだろう!!」

 宿泊とご休憩の値段表を見たセイテンの推理はあながち間違えではなかった。

 「泊まると休むを選べるとは最新式のシステムだな!トンヌラ王子のHP・MPも限界に近い、少し早いが今日はもう泊まることにしよう」

 「だから、お前が何でエイトのシステムを知っているんだよ!」

 「またまたー。トンヌラ王子は冗談が好きらしいな。俺は騙されないぞ!」

 横島の突っ込みは無限ループでスルーされ3人は空室の一つに入っていく。
 ザラキを唱えられない自分の身が横島は心底恨めしかった。




 「こういう場所に初めて来たでござる・・・・」

 シロが珍しそうに室内を見回す。
 室内に一つしかない大きなベッドには、どこまでもマイペースなセイテンが横たわり大きな鼾を立てていた。
 断言するが、コイツは強制イベントか朝が来るまで絶対に起きはしない。
 そう言った意味では横島とシロは二人っきりで怪しい空間にいると言えた。

 「先生・・・先生は前にもこういう場所に来たことがあるでござるか?」

 「え、それはゴニョゴニョ・・・・」

 横島の脳裏に厄珍堂でピート、雪之丞、タイガーと共にからかわれた記憶がよみがえる。
 年頃の男にとって最もされたくない質問の一つだった。
 シロはベッドに腰掛けた横島の隣りにぴったり寄り添うように座ると少し潤んだ目で横島を見上げた。

 「拙者、初めて来たのが先生とで嬉しいでござる・・・」

 後ろで大鼾をかいているセイテンは完全に無視されていた。

 「シロ・・・俺も・・・・・」

 ジ―――ッ

 興味津々に二人を見つめる二対の視線に気づいた横島は石化した。
 残念ながら金の針はない。

 「いや、どうぞ遠慮なく続けて」

 「俺も・・・・何ですか?横島さん」

 いつの間にか室内に乱入してきたおキヌとタマモは、それぞれ引きつった視線と意地の悪そうな視線を二人に向けていた。

 「おキヌ殿、タマモ、どうしてココが・・・・」

 「唐巣神父から連絡があってね。とりあえず私がニオイを辿ったの」

 この言葉を聞いた横島は石化した首をギリギリと動かし周囲を見回す。
 グリーンの液体を吐き出したらさぞ似合うことだろう。

 「えーっと、美神さんは?」

 横島はこのシチュエーションで確実に自分に死を与えるであろう使用者の姿を探していた。
 大勢の爆弾岩に囲まれているより生きた心地がしなかった。

 「妙神山と連絡を取るために事務所でお留守番中です」

 横島はおキヌの言葉に安堵のため息をついた。
 そういうことならば、こんな所に来ていることは知られていない筈だった。

 「美神さんにだけ気付かれなければいいんですか?」

 おキヌはこう言うとシロとは反対側に寄り添うように腰掛ける。
 髪から漂うシャンプーの香りがふわりと横島の鼻をくすぐった。
 こういう所では女の子の方が度胸が据わるらしい。
 どぎまぎした横島にクスリと笑うと、おキヌは横島の膝の上に小さな包みを置いた。

 「冗談ですよ。お腹が空いてると思って急いでおにぎりを作ってきました・・・他所で食べているようならあげませんけど。どうやら食べてないみたいですね」

 おキヌの笑顔に、緊張しっぱなしだった横島もようやく己の空腹を思い出した。
 台詞の裏読みなどする余裕もなく横島はおキヌの作ったおにぎりを頬張る。
 なんの変哲もないおにぎりが、横島には天上の美味に感じた。
 いいところを邪魔されスネ始めるシロ。その隣で横島はおにぎりを全て平らげる。
 空腹を満たした横島は、一息つくように備え付けのお茶を一口啜った。

 「ところで美神さん知ってるわよ。ココにいること」

 無慈悲なタマモの一言に横島は思いっきり口に含んだお茶を吹き出す。
 シロも1週間前の折檻を思い出し体を硬直させた。

 「な、何で?」

 「だって、いま携帯で連絡したから・・・」

 タマモはこう言うと通話中の携帯を横島に手渡す。
 美神がザラキを習得していないことを祈りつつ、横島は恐る恐る携帯を顔に近づけた。

 「美神さん、コレには深い訳が・・・・・・」

 「そっちのお城ぐらいだったら想定の範囲内よ!東京にはもっとマズイお城があるの!!とにかくあのアホが危険なネタを思い付く前に早く戻ってらっしゃい」

 意外なくらい寛容な反応だったが、それがタマモによって行われた詳細な報告によるものであることに横島は気づいていない。

 「無理っすよ、あの馬鹿戦士は朝が来るまで絶対に起きませんよ。俺とシロは括られてるから身動きとれませんし・・・・」

 「そんなモン、こーするのよ!」

 携帯の向こうから美神がサンプリングした目覚めっぽいメロディが鳴り響いた。



 「気持ちの良い朝じゃないか」

 真南に位置する太陽を見上げセイテンは大きく伸びをする。
 後ろを振り返ると見慣れぬ二人がパーティに加わっていたが、彼は細かいことを気にするタイプでは無い。

 「ふむ、この人数では馬車がいるな」

 「いや、だから何で知ってんだよお前」

 スルーされることは分かっているが横島は突っ込まずにはいられなかった。

 「あ、丁度馬車が来ましたよ」

 対処法を既に心得ているのかおキヌはタクシーを止め馬車と言い張る。
 最大乗車人数は後部座席に3人、助手席に一人。

 馬鹿パーティを後部座席に、おキヌが助手席に座るとどうしてもタマモがあぶれてしまう。
 思案顔をした横島の前にキツネが現れた。

 キツネはおきあがると仲間に入れてもらいたそうにじっとこっちを見ている。
 仲間にしますか?

 はい ←

 いいえ

 キツネはうれしそうに馬車に乗り込んだ。

 「・・・・・・・・・・・・・」

 横島はもう何も言う気にはなれなかった。






 十数分後
 助手席のおキヌの指示通り馬車は美神除霊事務所にたどり着いた。

 「トンヌラ王子。ここで重要な情報が聞けるのか?」

 「はあ、そんな感じです」

 横島には想像できなかったが、美神によって何らかの解決策は用意されているはずだった。
 久しぶりの職場を横島は感慨深げに見上げたが、先頭を歩く馬鹿はそんなことお構いなしに事務所の中へ進んでいく。

 「おい、コラ、そっちは事務所じゃない」

 相変わらず横島の言葉はスルーされている。
 セイテンはまるで俯瞰した間取り図を見ているかのように居住スペースから順に訪れていった。

 「ふふっ、甘いなトンヌラ王子!イベントが発生して小さなメダルが取れなくなる前に怪しい所を全て調べるのは基本中の基本だぞ」

 「だから、一体どこの導かれし者なんだよお前は!!!」

 そうこうしているうちにセイテンは美神の部屋の前に辿り着く。

 「ちょっと待て、たとえトラマナを唱えていても其処に入ると死んでしまうぞ!」

 「ううっ、拙者、まだロストしたくないでござる」

 ドアを開いた瞬間巻き起こる惨劇を想像し身を固くした後ろの二名だったが、奇跡的にセイテンはドアを開くのを諦める。
 美神の部屋のドアには、とってつけたような安っぽい金色の南京錠がかけられていた。

 「クッ、俺はまだ金の鍵を手に入れていない・・・次だ」

 セイテンは悔しそうに次の部屋を目指した。

 「美神さんずるいですよ自分の部屋にだけ!」

 タクシーにお金を払い、ようやく3人に追い付いていたおキヌは慌てて自分の部屋に立ちはだかる。
 美神が自分の部屋にしか南京錠をかけなかったのもタマモの詳細な報告故だった。
 腹を空かせた男の為に注文されたピザは、悪戯電話ということで無理矢理配達のバイトが持ち帰らされている。
 因みにタマモは現在、報酬のいなり寿司を食べながら屋根裏部屋に金色の南京錠を設置中であった。

 「邪魔な町の住人など!」

 セイテンは懐から水鉄砲を取り出すとおキヌに向けて発射する。
 システムの違いは今更なんの意味もなしてはいなかった。

 「冷たい!・・・しまった!!!」

 思わず脇へ退いてしまったおキヌをすり抜け、セイテンは迷わずおキヌの引き出しを開けた。

 「おおっ!!!」

 初めて意気投合したセイテンと横島が同時に驚きの声を上げる。
 おキヌは顔を真っ赤にして口をパクパクさせるだけだった。

 「こ、これは、伝説の防具・・・勝負下着!」

 「これほどの攻撃力をもつアイテムをなぜおキヌちゃんが・・・」

 横島は信じられない顔でおキヌを見つめた。
 おキヌは顔を赤らめながらも横島の視線を受け止めている。
 なぜか見てはいけない気がし、横島は自分から視線をそらせた。

 「ちょうどいい・・・最終決戦を前にコレに装備を変更しよう。防御力はともかく攻撃力は格段に上昇するはずだ」

 そう言うとセイテンは最後尾にいるシロを振り返った。

 「え!今回も拙者がそう言う役でござるか!!」

 安全圏から最も危険な立場に立たされたシロが後ろに後ずさった。
 しかし、3人数珠繋ぎになっているため逃げられはしない。
 3人は自分のシッポを追いかける犬のようにその場でクルクル回っていた。

 「いい加減にしろ!この二人は本来そういう役どころじゃ無いんだ!!」

 暴走の度合いを高めるセイテンに横島が本気で止めに入る。
 しかし、人の話を全く聞かないセイテンはシロの装備の変更に取りかかった。



 デロデロデロデロデーデン!



 シロの耳には呪われ音が、祝福のメロディに聞こえた事だろう。
 呪われた装備が外せない事に気づいたセイテンは、残念そうに勝負下着を荷物の中にしまった。(返せよ!)

 「良かった・・・二人とも汚れ役は似合わない。露出担当は昔っから・・・・」

 ホッとしたように呟いた横島の背後で神通棍の伸びる音が聞こえる。

 「ヨゴレな露出担当は昔っから誰だって?」

 なかなか事務所に現れない3人に業を煮やした美神は、横島の背後で仁王立ちしていた。

 「み、美神さん、違うんです!一般論として少年誌にはそういう乳首券を行使できる枠が・・・・・」

 「問答無用・・・・神・・・・・通棍の一撃っ!!!!」

 防御力を無視した一撃が横島に炸裂する。
 横島はしんでしまった。

 「貴様!よくもトンヌラ王子を!!」

 剣に手をかけたセイテンの鼻先に神通棍を突きつけ、美神は有無を言わさぬ口調で宣言する。

 「ソイツはそのうち何事もなかったかのように復活するわ。それよりアンタ、ロ○ダルキア台地に行きたいんじゃないの?」

 「おお、あなたはハーゴ○のいる場所を知っているのか?」

 「だから何でいきなりラスボスを知ってるんだよ!」

 棺桶の中で小さく突っ込んだ横島の呟きは誰の耳にも入らなかった。




 美神事務所前
 何もかもめんどくさくなった横島は棺桶の中で外の様子を窺っていた。
 理想を言えば棺桶の中に入ったまま、全ての問題が片づいている事がベストだった。
 子供の頃に雑誌で見た企画の深さを横島は実感している。

 「ここに旅の扉があるのか?」

 「いや、もっとすごいものを呼んだわ」

 棺桶の外ではセイテンの質問に自信満々に美神が答えている。
 横島の耳にヘリコプターの回転翼の音が聞こえ出した。

 「おお、あれは伝説の・・・・・・・」

 セイテンの感極まった声が聞こえてくる。

 ガタッ

 棺桶の外では余程馬鹿らしい光景が展開しているんだろう。
 横島と同じく馬鹿馬鹿しくなったシロは、横島の棺桶の中に潜り込もうと蓋をずらし片足を突っ込み始める。
 安息を邪魔されたくない一心で横島は必死にシロの侵入を拒んだ。
 その最中、ずれた蓋の隙間から横島は自衛隊の輸送ヘリが降下してくるのを目撃してしまう。
 ヘリの機体には白いペンキを使ったでかい字で『らーみあ』と書かれていた。
 横島は全力でシロの足を押し出すと、これ以上ない力で内側からしっかりと蓋を閉める。
 生まれ変わったらライアンになりたい。
 横島は真剣にそう考えていた。


 一同を乗せた輸送ヘリ改め『らーみあ』は、当然の事ながらモンスターにエンカウントすることなく妙神山に到着していた。
 棺桶に入ったまま空輸さた横島は相変わらず内側からしっかりと蓋を押さえている。

 コンコン

 誰かが棺桶の蓋をノックした。

 「もう生き返っているんだろ?」

 セイテンの声だった。

 「ただのしかばねだから返事はしないぞ」

 横島の答えに苦笑すると、セイテンは横島にしか聞こえないよう棺桶に口を近づけ囁くように話しかける。

 「さっきの勝負下着をやるから生き返らないか?」

 「シロは?」

 「安心しろ、お前の後ろで棺桶に収まっている。狸寝入りってヤツだ」

 「狸じゃないモン!」

 後ろの方から聞こえた声に横島は棺桶の中で苦笑した。

 「ついでに言うと他の人は全員一足先に山の上だぞ」

 この言葉を聞いた横島の棺桶の蓋が少しずれる。
 セイテンは荷物から勝負下着を取り出し棺桶の中にいれた。

 「なあ、お前の名前を教えてくれないか?」

 「トンヌラ王子じゃないのか?」

 「本当の名だよ・・・最初に出来た仲間の名前ぐらい知っておきたい」

 「・・・・・横島忠夫だ」

 セイテンはしみじみとその名を口にした。

 「なあ、タダオ・・・お前の周りはみんないい人たちだな。俺の・・・ホントはお前の為だろうけど、一生懸命俺をエンディングまで導こうとしてくれて」

 セイテンは横島の棺桶に寄りかかるようにして話しかける。

 「俺はずっと一人で旅をしてたからな。来る日も来る日もスライムばかり倒して・・・・仲間にも会えずひたすら経験値とGを手に入れる日々が続いて・・・・そのうち俺の旅は中断してしまった・・・・」

 セイテンは横島の棺桶を軽く叩く。
 それは親友の肩を叩くような動作だった。

 「だから、本当に短い間だったけどタダオと旅が出来て楽しかった。少し悪ふざけしすぎたが、まあ、今までが今までだったんで大目にみてくれ」

 「・・・・・お前、これからどうするんだ?」

 「折角お膳立てしてくれたんだ・・・エンディングまで辿りついてみるよ。満足して消えればよし、ダメだったらその時考えるさ」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 横島の棺桶から無言で右腕が差し出される。
 セイテンはうれしそうな笑顔を浮かべると、その手を握り横島を棺桶から起こしてやった。

 「よろしくな、タダオ!」

 「・・・・・三人目も復活するようだぞ」

 横島の言葉にセイテンはもう一つの棺桶をみる。
 セイテンはそこから差し出された手をしっかりと握った。

 「よろしくな・・・・・・えーっと」

 「シロ・・・犬塚シロでござる」

 「よろしくな、シロ!」

 引き起こされたシロが棺桶から抜け出たとき、どこかで音楽が鳴り響く。
 それは新たに結成したパーティを祝福する音楽だった。




 「ヒヤッホウ!!!」

 セイテンがレベルMAXの剣技をいかんなく発揮していく。
 妙神山への階段を駆け上りながら、3人は次々に美神が用意した雑霊を撃破していった。

 「先生・・・・拙者たち」

 「存在意義がないな・・・さっきのシーンは何だったんだ一体」

 先程から二人には一回も攻撃の機会が回って来なかった。
 エンカウントした敵は全てセイテンが一撃のもとに葬り去っている。
 横一列に並んだ霊団に対して、セイテンは通常攻撃で剣を横に振るという歴代戦士が誰もやらなかった暴挙にでていた。

 「二人とも、ハーゴ○の神殿が見えてきたぞ!!!」

 初めてのパーティアタックに興奮気味のセイテンが山頂を見上げる。
 やっている事が実質一人の時と変わっていない事には気付いていないらしい。

 「もうちょいマシなルビスの守りはなかったのか・・・・・」

 横島は猛烈な脱力感に襲われていた。
 普段、妙神山と書かれている看板には模造紙が貼られ、高校の文化祭レベルの装飾で『ハーゴ○の神殿』と飾り付けられている。
 そして、3人の目の前には中ボスのコスプレをした門番の鬼が立ちはだかった。

 「ここから先に進みたければ我らを・・・・・・・・」

 「会心の一撃っ!!!!!」

 見せ場らしい見せ場を与えられないまま、門番はセイテンの会心の一撃を受けその場に倒れ込む。
 エンディングへの期待にセイテンは歯止めが利かなくなっているようだった。
 微かに同情した横島は(治)の文珠をさりげなくその場に落としておいた。

 その後もセイテンの勢いは止まらなかった。
 それぞれ中ボスの役を引き受けた剛練武や禍刀羅守を一撃のもとに葬り去る。
 次はいよいよ最後の敵、大神官ハーゴ○だった。




 「よくここまで辿り着きました・・・・」

 妙神山の訓練場で3人を待ちかまえていたのは小竜姫だった。
 彼女は今回の責任を取るためラスボスの役割を自ら引き受けている。
 相手は老師の妄執と自分の竜気が作り上げた存在・・・正直、勝つのは難しい。
 だからこそ、この役割は自分にしか出来ないと小竜姫は考えていた。

 「私が倒れればこの世界は救われます・・・」

 小竜姫は勝負に負ける事によりセイテンをエンディングに導こうとしていた。
 ダメージを最小に負けを演出する。
 少しでも見切りがずれれば最悪の事態に発展しかねない作戦に、小竜姫の頬が緊張で強張る。
 危険な賭にでた小竜姫をサポートするため、物陰から見守っている美神たちの手が一様に汗ばんだ。

 「さあ、勝負です!かかってきなさい!!!」

 「違う!!」

 神剣を抜いた小竜姫にセイテンは怒鳴り声を浴びせた。
 その手は失望の怒りに震えている。
 セイテンはゆっくりと小竜姫を指さし、悲しげな表情で呟いた。

 「お前は俺の敵じゃない・・・お前は先代のラスボスじゃないか・・・・竜王!!!」

 「へ?」

 小竜姫の目が点になる。

 「お前が相手じゃ俺は燃え尽きることが出来ない・・・真っ白な灰になることが・・・・」

 笑っていいのやら悪いのやら・・・
 微妙な沈黙が妙神山改めハーゴ○の神殿を包んでいる。
 誰もこの沈黙を破る勇気を持ち合わせてはいなかった。



 「ただいまでちゅーっ!!!」

 沈黙を破ったのは保護観察の報告を終わらせ妙神山に転移してきたパピリオだった。

 「お、おお・・・その姿はまさしく」

 その姿を見たセイテンが感激の武者震いを始める。
 神界の実力者と面接を行うため、パピリオは神官の正装を身に纏っていた。
 自分を見つめるセイテンの視線にパピリオは気づいていない。
 パピリオの意識は、その隣りにたつ横島に集中していた。

 「横島!来てたんでちゅかーっ!!!」

 「危ない!避けろパピリオ!!!」

 必死の警告が紙一重の差でパピリオを救っていた。
 横島の姿を見つけ満面の笑顔で駆け寄ろうとしたパピリオは、必死の形相で制止する横島にその歩みを緩める。
 その鼻先を凄まじい斬撃が通過していった。

 「な!なんでちゅか!コイツは!!!」

 パピリオはいきなり斬りかかったセイテンに戦慄する。
 そして、続けざまに自分に斬りかかってきた横島の姿にも。

 「わっ!ヨコシマも何するんでちゅか!!」

 「バカ!かわすな!!!俺の攻撃とシロの攻撃で倒されないと、もう一度アイツの攻撃が来るぞ!!!」

 しかし、パピリオが状況を理解したのはヨコシマの攻撃を回避したあとだった。
 続くシロがこの事に思い至っているという保証はない。

 「ヨ、ヨコシマ、アイツの相手は洒落にならないでちゅよ!!!」

 もう一度セイテンの攻撃に晒されなきゃならない事態にパピリオが青ざめる。
 それ程の威力が最初の一撃には込められていた。

 「仕方ない!こうなったら・・・・・・」

 横島はどこからかマジックを取り出すと自身の霊波刀にある言葉を書き込む。

 「再び、会心の一撃っ!!!!!」

 「う、うわあ、やられたでちゅーっ」

 横島の二回目の攻撃を受けたパピリオはわざとらしい断末魔の叫びをあげその場に倒れ込む。
 その一撃に使われた霊波刀には、左手による汚い字で『はやぶさ』と書き込まれていた。





 「まだだ!まだ!俺は満足していない!!!!」

 とってつけたようなエンディングに、天を仰ぎ雄叫びを上げるセイテン。
 彼はまだ燃え尽きてはいなかった。

 「すまんな・・・お主には辛い思いをさせた」

 背後からかけられた声にセイテンは後ろを振り向く。
 自分に向けて振り下ろされる一撃をセイテンは目撃する。

 改心の一撃

 長い間放っておいた己の分身に、老師渾身の一撃が振り下ろされた。

 「セイテーン!!!!」

 初めて彼の名を呼んだ横島の声が聞こえたのか、老師の一撃を受ける瞬間、セイテンは確かに笑顔を浮かべていた。






 妙神山
 老師、小竜姫、パピリオに見送られ、一同は輸送ヘリに乗り込もうとしている。

 「すまなんだな、お前たちにも迷惑をかけた」

 老師が申し訳なさそうに横島とシロに頭を下げた。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 シロはその言葉に応えようとはせず、ただうつむくばかりだった。
 老師の一撃を受けセイテンは消滅している。
 それが老師なりの責任の取り方であることはシロにも理解できていた。
 しかし、それを受け入れるにはまだまだ時間が必要だった。
 短い時間ではあったが、二人にとってセイテンは紛れもなく仲間だったのだ。

 「二番目の王子に会うには、一度最初の城に戻ってから宿屋に行けばいいんだ・・・・・アイツを仲間に会わせてやってくれ」

 「分かった・・・・感謝する」

 老師はもう一度横島に頭を下げた。




 輸送ヘリは事務所を目指し飛行している。
 誰も一言も喋らないまま、時間だけが経過していた。

 「あ、そういえば・・・・」

 妙神山が見えなくなった頃、横島の隣りに座っていたおキヌが思い出したように呟く。

 「どうしたの?おキヌちゃん」

 横島がおキヌの呟きに反応した。

 「いえ・・・その・・・下着、持ってかれたままなのを思い出して」

 ブッ!

 この話題に横島の顔から滝のような汗が流れた。
 伝説のアイテム勝負下着は現在横島のポケットにしまわれている。

 「まあ、いいです・・・・好奇心で買っただけで一度もつけていませんから」

 「あ、そうなんだ」

 多少がっかりした顔で横島が苦笑する。

 「だって、なかなか勝負してくれませんからね。何処かの王子様は」

 「・・・・・・・・・・・・・・」

 二人の間に甘い空気が流れ始める。
 しかし、その雰囲気を黙って見ている美神事務所ではなかった。

 「おキヌちゃん、キャラクターが変わったんじゃないの??」

 青筋を浮かべながら美神がジト目で二人を睨み付ける。

 「え、そんな事はないですよ・・・私、相変わらず影の薄いボケキャラですから」

 確かにおキヌは変わったようだった。
 その手はさりげなく横島の膝の上に置かれている。
 しかし、まだまだこの事務所内で甘いフバーハを張り続けるにはレベルが低すぎた。

 「ふーん、それじゃ、露出担当と、ヨゴレ担当としちゃ別なオチをつけるしかないわね・・・・シロ、タマモ、横島のポケットを探りなさい!」

 「「了解!!」」

 美神が放った凍てつく波動に、二人を覆った甘い雰囲気はたちどころに消滅した。










 一週間後、横島のアパート
 深夜、二時にもかかわらず電話がけたたましく鳴った。
 寝起きの不機嫌さを隠そうとせず横島は受話器を取る。

 「もしもし、横島さんですか?ホント、すみません。こんな深夜に何度も何度も・・・・・」

 ひたすら恐縮している小竜姫の声が聞こえてくる。
 受話器の向こうで小竜姫が何度も何度も頭を下げているのが想像できた。
 多分、妙神山の電話付近は彼女の角がぶつかった跡でいっぱいだろう。
 そんな想像が容易くできるほど、この一週間、昼夜を問わない電話攻勢を横島は受けていた。

 「また、老師が電話して聞けと・・・本当にすいません、何度も何度も・・・・・・・・・それでですね、水門の鍵ってどこに・・・・・・ああ、横島さーん、電話を切らないで!!教えてくれないと老師が・・・・・横島さー」

 ガチャン

 横島は無言で受話器を置き、モジュラーを引っこ抜くと布団を頭から被った。









 エピローグ

 あれから一月が経過した。
 妙神山からの電話攻勢も最近は一段落し、横島の安眠は脅かされることはなくなっている。
 横島はふと、老師がプレイしている二番目の王子と三番目の王女の名前が気になったが、すぐにどうでもいいことだと軽く口元に笑みを浮かべた。

 「先生ーっ」

 散歩の休憩中、シロが何かを発見したようにこっちへと走ってくる。
 人々からシロ頭巾の記憶が薄れたこともあり、横島とシロの散歩はようやく元のスタイルに戻っていった。
 シロは横島の背中に隠れるように、前方から歩いてくる人影を指さした。

 「あ、あれは、この前のと同じようなものでござろう!?」

 横島は一瞬、緊張の面持ちでその人物を見つめたがすぐに緊張をほどく。

 「安心しろ・・・アイツは独りでしか行動できない」

 横島はその人物とすれ違うとき、若干の同情の視線を向けかけるがすぐに思い直す。
 常に前を向き続けるその人物はこれからも独りで困難に立ち向かう事だろう。

 ―――頑張れよ、ご先祖様

 何のことか分からないシロを他所に、横島はその後ろ姿にそっと激励を送った。



―――― いまさらDRAGON QUEST2――――

END


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