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GS美神 アルカナ大作戦!! 〜Endless Expiation〜

Chapter3.EMPRESS『心知らず、心知れず』


投稿者名:詠夢
投稿日時:06/ 1/ 3


「なんなんですか。」


ずいっと迫られ、一句一句区切るようにして言われ、美神は軽くのけぞる。

机の向かい側から身を乗り出してくる赤い髪の竜神の末姫は、見るからに不機嫌そのもの。

だが、彼女を不機嫌にするような心当たりは、少なくとも今はない。


「いきなり何よ? どうしたの?」


美神の言葉に、小竜姫の赤髪がぶわと小さく浮き上がり、眦がきっと吊り上る。


「どうしたもこうしたも…あの刻真って人!! なんなんですか、もうッ!!」

「お、落ち着くでちゅよ、小竜姫…!」


傍らに控えていた蝶の化身たる少女、パピリオが宥めにかかる。

が、小竜姫は治まらず、「落ち着けるものですか!!」とさらに何やら喚きたてる。

そんな姿を横目に、美神はパピリオを自分の隣に呼ぶ。


「で…どうしたの、これ?」

「それがでちゅね…。」


パピリオがどこか疲れたように説明する。

曰く、刻真が小竜姫に対して、やけにつっかかってくるのだという。

小竜姫は小竜姫で、それらの言葉にいちいち反応しては反論し、またさらに皮肉を言われる悪循環。

というわけで、ここ最近の小竜姫のご機嫌はすこぶる悪いのだと。


「へー、刻真がねぇ…。」


意外だ、と美神は思う。

刻真は確かに、簡単に人と打ち解けるタイプではないが、人当たりは悪くないほうだと思っていた。

ふと小竜姫に目を戻せば、何やらぶつぶつと愚痴っている。


「なんで、あんな人を小馬鹿にするようなことばっかり…メドーサじゃあるまいし…!」

「私が何したって言うんですか…!!」

「人がせっかく仲良くしようとしてるのに、何でいつもいつも…!!」


何かそんな事が聞こえてくる。

取っ組み合いにはなってないらしいが、これはメルトダウンも時間の問題のようだ。


「あぁああもぉ〜ッ!! な──んな──んで──すか──ッ!!」

「小竜姫、それじゃただの駄々っ子でちゅよ!」


パピリオの言う通り、唇を噛んで「うぅ〜…ッ!!」と唸る姿に、もはや威厳はない様子。

頭を抱えて叫ぶ小竜姫の姿を、どこか白けた表情で見ながら美神は思った。






          ◆◇◆






遡ること半月と少し前。

刻真が美神らの前に現れてから三日が過ぎた頃のこと、妙神山では。


「はぇ…い、今何と…?」


妙神山修行場管理人こと小竜姫は、驚きと戸惑いと無防備さを混ぜ合わせた─有り体に言えば、間の抜けた表情で相手を見返した。

対する相手は、弟子の情けない顔に呆れながら、ぷかぷかと煙管をふかしている。


「なんちゅー顔しとるんじゃ、まったく…。 だから、お前さんは解任(クビ)じゃ。」


そう言うと猿…もとい、天界きっての武神、斉天大聖は紫煙を吐き出した。

途端、小竜姫は狼狽の色もあらわに、おろおろしだす。


「え!? で、ですが、あの…わッ、私何か、至らぬことを…!?」

「老師…そんな言い方じゃ誤解するのねー。ちゃんと説明しないと…。」


混乱する友人を見かねて、隣に控えていたヒャクメが助け舟を出す。

斉天大聖はにやりと悪戯めいた笑みを浮かべ。


「わかっておる。今から順に説明してやるわい…ちゅーことで落ち着け、未熟者。」

「あたッ!」


うろたえ続ける弟子を、煙管で軽く小突いてから話し始める。


「以前より天界上層部に具申しておった、パピリオの処遇改めの件じゃ。」

「はぁ…はい。」


頭を片手でさすりながら、居住まいを直して小竜姫は頷く。

半年前の大戦終結後、パピリオ、べスパ両名に対する処遇は、破格といえる良いものだった。

その背景には美神や横島をはじめ、関係者による情状酌量を求める声が大きかったことがある。

そうして、パピリオは妙神山に身柄を保護され、べスパは本人の希望もあって魔界軍への従事を義務付けられた。

だが、軍の任務があるべスパはともかく、パピリオは保護の名の下、軟禁に近い生活をしていた。

べスパは常に軍が監視できるが、パピリオはそうもいかないからだ。

神魔のパワーバランスが微妙な昨今、姉妹二人をどちらかの側に寄らせるわけにもいかず、それぞれが引き取るしかない。

だが、天界にパピリオという生粋の魔族を置いておくことも、トラブルを招く種にしかならない。

そこで、小竜姫の弟子という形で、妙神山ひいては常に天界の目が届く場所に引き取られることとなった。

しかし、それを不憫に思った小竜姫が、斉天大聖を通じて何度も上層部に上申していたのだ。


「此度、それが条件付じゃが認可されての。パピリオに行動の自由が認められた。」

「それじゃ…これからは好きなところに、お出掛け出来るでちゅか!?」


つまらなそうに聞いていたパピリオが、抱えていたゲームソフトを落として立ち上がる。

斉天大聖が笑って頷いてみせると、彼女の表情がみるみる輝いていく。


「やったでちゅー!! 私、私、まずヨコシマのとこに遊びに行きたいでちゅ!! それから、それから…!!」

「ほっほっほっ! 慌てんでも、これからは好きなところで暮らすことも出来るぞ。それこそ、あの小僧のところでもな。」


さらなる喜びに、パピリオの体が打ち震える。

堪えきれなくなったか、斉天大聖の首に飛びついて。


「ありがとうでちゅ、猿のおじいちゃーん!!」

「ほっほっ!! …まあ、よいゲームの相手がおらんようになってしまうのは、ちと寂しいがのう。」


そう言いながらも、斉天大聖の表情はとても穏やかな笑顔で、まるでその様は本当の祖父と孫のようでもあった。

はしゃぐパピリオと、笑う斉天大聖。

二人に置いてかれた形の小竜姫は、嬉しく思う反面、釈然としない表情で。


「はぁ…それは、よかったです。で、ですが、それと私の解任とどう関係が…?」

「察しが悪いのねー。後見人の小竜姫がパピリオの傍を離れるわけにはいかないでしょ?」


ヒャクメの説明に、小竜姫もようやく「ああ、なるほど」と納得する。

小竜姫は妙神山に括られている神であり、外の地では力を著しく制限される。

そんな状態では、自分の身を守ることすら覚束無い。

天界の考えは、パピリオが暴走したときの安全弁としての役割を求めているのだろうが。


「よーするに、それが上からの条件というわけなのねー。」

「それならば仕方ないですね。では、誰がここを引き継ぐので?」

「ん? おお、それなら…。」


ぴっ、と斉天大聖が指し示したのは。


「ん? へ!? わ、私なのねーッ!?」

「ヒャクメが、ですか…? こう言っては何ですが、不安が尽きませんね…。」


小竜姫の胡乱気な視線を受けて、ヒャクメは少しだけへこみかける。


「うぐ…ひ、ひどい言い草…じゃなくて!! そ、そうなのねー!! 私じゃ武術とか修行とかそういうのはちょっと…!!」

「そんな事は最初からわかっとるわい。まあ、聞け。」


あっさりと肯定され、今度は本気でへこみそうになるヒャクメ。

だが、斉天大聖の真剣な表情に、とりあえずその事はひとまず置いといて、小竜姫と並んで居住まいを正す。


「最近、魔界の方が何やら慌しいが、実は天界の方でも似たような事になっとる。」

「えと…ひょっとして、両陣営の過激派がまた何かやらかそうとしてるって噂のこと…でしょうか?」


恐る恐るといった感じでヒャクメが尋ねると、斉天大聖は渋い顔で頷く。


「うむ。その通りじゃが…まったくどこから漏れたやら、天界はその噂で持ちきりじゃった。…どうした、ヒャクメ?」

「い、いえ…。」


さっと目を逸らすヒャクメ。

とりあえず、今のこれとは関係ないけど。あくまで、念のため、関係ないと思い込むけど。

もうお茶会で話のネタが尽きたからって機密を話すような真似は止めとこう。

誰にも知られぬよう、ヒャクメは自分にそう誓う。ちょっと自信は無いが。

そんなヒャクメの内心を知らない斉天大聖は首を傾げるも、とりあえず放って置くことにした。


「まあ、話を戻すぞ。それでじゃ、人間界でもヒャクメの報告どおり異変が起こっておる。
 今までとは違う、異形なる者ども。その被害件数の異常増加。
 何やら、きな臭い気配がそこいら中からしておる。そこでじゃ。」


斉天大聖は言葉を切り、小竜姫に向き直る。


「お主は人間界に降り、それらの事件を追ってほしい。ヒャクメが言っとったその少年…何か知っておるやも知れんからな。」

「そうでしたか…わかりました。」

「ヒャクメは天界での仕事もあるが、連絡役をしてもらうためにも、ここにいてもらう。よいな?」

「わかりましたー。」


ヒャクメも了承する。

それに満足げに頷いてから、斉天大聖は煙管を加え。


「できれば、魔族との繋ぎとして、ジークにもいてもらいたかったんじゃがなぁ…。」

「そう言えば、数日前に軍に呼び戻されて以来、戻ってきてませんね。」

「まあ、十中八九、過激派に対する調査のためじゃろうのう…。」


ぷかぁと紫煙を吐き出して斉天大聖が呟く。

会話が止まり、短い沈黙が落ちる。

ふいに袖を引かれ、斉天大聖がそちらに目を向けるとパピリオが口を尖らせていた。


「もう、難しい話は終わったでちゅか? なら、早く遊んで欲しいでちゅ!」

「おお…そうじゃったな。よし、それじゃ、行くとするかの。」


煙管を置いて立ち上がり、パピリオと連れ立って部屋を出て行く斉天大聖。

その姿を見送ってから、小竜姫も一つ大きく息を吐いて立ち上がる。


「はぁ…それじゃ、荷造りしないと…。住むところはどうしよう…また美神さんに相談してみますか…。」

「小竜姫…独り言は疲れている証拠とか年寄りの証拠とかいうから、止めたほうがいいのねー。」


ヒャクメの指摘に、ちょっとだけ頬をひくつかせ。


「放っといて下さい。どうせ、疲れてます。」

「まあまあ…。それなら、今回のこれを長期の休暇とでも考えればいいのねー。」

「休暇、ですか…。」


小竜姫はふと考える。

そう言えば、休暇なんて自分はここ数百年ほどとっていない。

まあ、この修行場まで来る希望者が少ないこともあるのだが、ずっとここに詰めっぱなしで好きなところにもいけなかった。

その点では、確かに休暇といえないことも無いか。

そう考えた途端、少し気が楽になった気がする。

だが、それをこの奔放な友人に素直に言うのは、何というか癪な気がする。


「新しい任務についただけにも思えますけどね。」

「も〜…仕事中毒なのねー。」


任務、と自分で言ってから、ふと思い出す。


「そう言えば…あなたの報告にあった少年の名前、何と言いましたか?」

「ん? ああ、刻真くんのこと?」


すっごく可愛い子だから絶対驚くのねー、と笑うヒャクメに適当に相槌を打ちながら、小竜姫は荷造りのために部屋に向かう。

とりあえず、ヒャクメの言うとおり休暇として楽しむのも悪くは無いかもしれない。

その少年から、早く事情を聞ければいいのだが。

ふと、小竜姫は妙神山から見える空。あの街のある方を見やって呟く。


「刻真さん、か…。」






          ◆◇◆






そして現在。

街の底から見上げる空。刻真はただぼんやりと、壁にもたれてそれを眺めていた。


「あ、刻真ー。横島たち買い物終わったみたいだよ。」


呼ばれてそちらを見れば、鈴女が指差す方、厄珍堂から横島とシロとタマモ、ノースが出てくるところだった。

買い物の間、待っているのも暇なので、近くを散歩してくると言って出て来たのが小一時間ほど前。

随分時間がかかった気もするが、横島たちの手にある荷物の量を見ればそれも仕方ないだろう。

最近の出動件数は尋常じゃない数に増えており、昼間でも仕事が入るようになりつつある。

隣のGメンオフィスからは、狂ったような泣いているような男の笑い声が響いてくることも増えた。

仕事が増えれば、それに使う道具の消費も半端ではなくなる。

今までは使い減りしない霊力攻撃でやってきたが、さすがにそれでは手が回らないこともしばしば。

小竜姫らも加わって大所帯になり、チーム制で仕事を分担するようになってからは、ますます消費するようになった。

もちろん、収入も増えているので美神も文句は言わないのだが。


「刻真?」


ふいに顔を覗き込まれ、刻真は自分でも知らず、顔を俯かせていたことに気づいた。

そんな刻真の様子に、鈴女はやれやれと腰に手をあてて首を振る。


「な〜んか元気ないわね。ダメよ、そんなんじゃ。」

「…鈴女はいつでも元気そうだよな。」


刻真の言葉に、鈴女は力強く「もちろん!!」と目を輝かせる。


「だって、旅から戻ってみればシロちゃんやタマモちゃんみたいな可愛い子が増えてるでしょ!
 美知恵さんみたいに落ち着いた大人の魅力に、将来有望なひのめちゃんまでいるでしょ!
 それに加えて今度は、愛らしいパピリオちゃんに、ストイックで純情そうな小竜姫様まで!!
 これで元気にならない方がどうかしてるわよ〜!!」

「………横島じゃあるまいし…。」


興奮してキャーキャー飛び回る鈴女に、げんなりした様子でぼやく刻真。

ふと、先ほどまでの興奮が嘘のように、鈴女が真面目な顔で刻真を覗き込む。


「…やっぱり、小竜姫様のこと?」

「……。」


刻真は答えない。

だが、そっぽを向いた横顔からは、放っといてくれという声が今にも聞こえてきそうである。

鈴女は肩をすくめて。


「そんなに気にするくらいだったら、少しは優しくしてあげればいいんじゃない?」

「…気にするって何をだよ。」


顔は横に向けたまま、目線だけを向ける刻真。


「いつもいつも、つっかかってっちゃうこと。後悔してるんでしょ?」

「…別に。」


また、そっぽを向いてしまう。

が、鈴女は気にもせず、呆れているようにも見える笑みを浮かべる。


「そんな顔して言っても、説得力ないよ?」


刻真は答えない。

だが、痛いところを突かれたというように、眉がわずかに顰められる。

そんな刻真を見て、「ホント。思ったことが顔に出やすいよね、刻真は。」と鈴女が笑う。

さすがに言い返そうと、刻真が口を開きかけたとき。


「おーい。二人とも、帰るぞー。」

「ちょっと、刻真ー。アンタ、見た目そんなでも男の子なんだから、荷物持ってよー。」


こちらを見つけた横島たちが、厄珍堂の前から呼びかけてきた。

鈴女が返事をして、くすくすと笑いながら飛んでいく後ろを、刻真も仕方なくついていく。

ふと、足を止めもう一度、空を見やる。


「俺だって…。 でも、どうしようもない。どうすればいいのか、わからなくなるんだよ。」


小さな呟きはすぐに消えて、ふたたび自分を呼ぶ声に、刻真はまた歩き始めた。


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