ニューシネマパラダイス
所々ひび割れが目立つレンガ造りの建物を見上げると、男は懐かしさと寂しさが同居したような表情を浮かべた。
その視線が向いている先には古ぼけた看板が一つ。
落ちかかっている看板には、美神除霊事務所と書かれていた。
『お久しぶりです。横島さん』
男・横島忠夫の接近に気づいた人口幽霊が階段の明かりをともす。
横島は無言でかっての勤め先に入っていった。
無言を貫いたまま、横島は埃の溜まった応接セットに腰掛ける。
そこはかって彼の指定席だった。
『お元気そうですね、相変わらずお若い』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
懐かしむような人工幽霊の語りかけに横島は答えようとしなかった。
『気を悪くされてますか?知らせを出さなかったこと・・・・』
横島の表情が微かに強張った。
『お二人の強い願いだったんです。あなたの妨げになりたくはないと・・・』
「・・・それが、なんで今頃?」
『私も偶には思い出話がしたくなるんですよ・・・今では、まともに話せるのはピートさんくらいですからね』
「本当にそれだけか?」
横島の問いかけに、人工幽霊は一瞬の沈黙の後に軽く笑うように答えた。
『以前とは大違いの鋭さですね。霊気を補充しなくなってから久しい・・・実はそろそろ自我が保てなくなっているんです』
「・・・俺の霊気を分けてやることもできるが?」
『よしてください』
人工幽霊は横島の申し出が軽い冗談であるかのように断る。
『私はマスター以外の方から霊気を補充する気はないんです。マスターの事務所として過ごした日々は私にとって正に黄金時代でした。私は自分の人生に満足しているんです・・・生み出してくれた父に、そして沢山の思い出をくれたマスターやあなたたちにはどれほど感謝しても足りません』
人工幽霊に言葉に横島は肩の力を抜く。
それまで表情に微かに浮かんでいた険は姿を消し、出会ったころの横島と同じ印象を人工幽霊に与えた。
「お前が消えたらここはどうなるんだ?」
『強力な霊能力者の霊気を浴び続けた物件です。私の影響もあるでしょうし、しばらくは画面の焼きつきに似た現象を起こしてしまうでしょうね』
「・・・・・・・・・・・・・・」
人工幽霊の言葉に横島は俯くと小刻みに肩を震わせる。
『どうしました?横島さん?』
人工幽霊が心配そうに声をかけると、横島は急に上体を起こし以前と同じ笑顔で笑い出した。
「よかった〜、実は心配してたんだよ!モノの本には夢オチをやると作家生命を・・・」
横島が造物主をネタにしようとした瞬間、彼と、どこか遠くにいるノートパソコンを抱えた男の上に雷が落ちた。
『横島さん!大丈夫ですか!?』
「う・・・俺は一体?」
数分後、意識を取り戻した横島は意識をハッキリさせるために軽く頭を振った。
『あんな危険な発言をするなんて・・・でも、おかげで昔を思い出しました』
人工幽霊は過去にも似たような発言をした横島が雷を浴びたことを思い出した。
今の行為が、過去を懐かしむ自分に対しての気遣いであることに人工幽霊は気づいている。
『それじゃあ、私の思い出話に付き合ってもらいますよ。殆どが私視点じゃありませんし、中にはマスターたちの話から想像したものや、かなり記憶があいまいで壊れたものもありますが、その辺は気にしないでくれれば助かります』
人工幽霊の口上が終わると部屋の電気が落ちる。
横島の目前に人工幽霊の作り出した立体映像が映し出されていた。
新シリーズ、ニューシネマパラダイスですが映画しばりではありません。
タイトル等多少味付けに使いますが、徐々にオリジナル要素を強くしていくつもりです。
位置づけとしては童話以外の短編集といった感じでしょうか・・・
ひょっとしたら、この中で長編にチャレンジするかもしれません。
後編はこのシリーズの最終話となります。
今回は連続投稿です。
行き先不安な新シリーズですが、ご意見・アドバイス等いただければ幸いです。 (UG)
会話の内容から察するに時期は百年ほどののち、原作の『ネバーセイ・ネバーアゲイン』に至る前あたりかと存じますが、シリーズの出だしとしておもしろいと思います。
ただ、冒頭からすでに横島本人が登場し、それに伴う様々な状況の推測が見え過ぎてしまうのは、些か急ぎ気味でもったいないような気がします。
もしかしたら、後編での大返しに向けて、まんまとひっかかってしまったのかもしれませんが。
先のことはともかく、これから綴られる人工幽霊一号の思い出話に、胸をときめかせて期待致しましょう。
蛇足:ラスト二行の情景を想像すると、ふと『映像の世紀』なんていうタイトルが浮かんでしまったり・・・ (赤蛇)
コメントありがとうございます。
表題の映画ですが、かなり好きな映画です。
後編のラストシーンはあのシーンになると思いますが、まだハッキリとは決めていません。
これから続く短編はこの話の設定を引きずらないで読んでいただければと・・・
このスレは人工幽霊の追憶というより私の妄想なもので(笑)
何処まで続くか分からない今シリーズですが読んでいただければ幸いです。 (UG)
ご指摘ありがとうございます。
単なる思いこみによる間違いです(汗)
ツンデレラ時代から気付かずに使っているようです(大汗)
今後の話では何事も無かったかの様に修正されていることでしょう(笑) (UG)
これか!これが原因か!!
人工幽霊、グッジョブだ!!
以上、次の二作品を読んでの感想でした(笑) (丸々)
こちらの方にも過分な評価ありがとうございます。
人工幽霊!
今のところ壊れた話しかないぞ(笑)!!
一応、準シリアスなネタもあるんです。
このままこのノリが定着すると大切なモノを失いそうですし、次は皆さんの期待を裏切るの覚悟で(←大変失礼な思いこみ)ヨゴレ含有率0%の話を書こうかと思っています。
実は正月投稿用にもう一つ馬鹿な話があったのですが、それはその後になりそうです。
出だしで既に方向性を間違えそうな今シリーズですが、読んでいただけれな幸いです。 (UG)
どんでん返しの伏線さがしたりして、プロローグを額面どおりに受け取れない自分がちょっとやですw。
人口幽霊の思い出話という設定であるということは、横島忠夫30歳の春とかもありなんですかね?
シリアスはちょっとがいいかな・・・8対2ぐらいで。
毎回楽しみにしてますんで、無理しないで頑張ってください(どんな状態やwでも偽らざる心境です)。応援してます。 (ぼえぼえ)
コメントありがとうございます。
ニューシネマパラダイスの後編はこのシリーズの最終話となりますので、私的にはもう少し先というか、皆さんが最初の話を忘れた頃に書ければと思っています。
しかし、ネタ切れになった場合いきなり登場するかもしれませんが(笑)
実は準シリアス話ですが書き上がっています。
ただ、タイトルとストーリーにあまり関連性がなかったりするので(演出方法等は関連がありますが)多少心配なんですね。
と、いうわけで熟成期間を持たせる意味と、コメディを期待される方が多そうだと言うことで、次回の投稿は馬鹿話を書き上げてから同時上映という形を取りたいと考えています。
いつになるか分かりませんが、読んでいただければ幸いです。 (UG)
映画、アニメ、小説、ゲーム、あらゆる分野から、着想を得て綴られたこの連作は、そういった本歌取りを得意とされる椎名先生の作品の二次創作としては、いかにもふさわしいものだと思います。
プロローグでの横島君と人工幽霊のやりとりは、事務所の三人の間に何か悲しいことがあったのかも、と思わせ、読み直すたびに心が揺らいだりしますが、シリーズの結末を先読みするのは無粋なことなので、虚心にUGさんの筆の冴えを楽しみたいと思います。 (夏みかん)