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ニューシネマパラダイス

ニューシネマパラダイス(前編)


投稿者名:UG
投稿日時:06/ 1/ 1

ニューシネマパラダイス


 所々ひび割れが目立つレンガ造りの建物を見上げると、男は懐かしさと寂しさが同居したような表情を浮かべた。
 その視線が向いている先には古ぼけた看板が一つ。
 落ちかかっている看板には、美神除霊事務所と書かれていた。

 『お久しぶりです。横島さん』

 男・横島忠夫の接近に気づいた人口幽霊が階段の明かりをともす。
 横島は無言でかっての勤め先に入っていった。
 無言を貫いたまま、横島は埃の溜まった応接セットに腰掛ける。
 そこはかって彼の指定席だった。

 『お元気そうですね、相変わらずお若い』

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 懐かしむような人工幽霊の語りかけに横島は答えようとしなかった。

 『気を悪くされてますか?知らせを出さなかったこと・・・・』

 横島の表情が微かに強張った。

 『お二人の強い願いだったんです。あなたの妨げになりたくはないと・・・』

 「・・・それが、なんで今頃?」

 『私も偶には思い出話がしたくなるんですよ・・・今では、まともに話せるのはピートさんくらいですからね』

 「本当にそれだけか?」

 横島の問いかけに、人工幽霊は一瞬の沈黙の後に軽く笑うように答えた。

 『以前とは大違いの鋭さですね。霊気を補充しなくなってから久しい・・・実はそろそろ自我が保てなくなっているんです』

 「・・・俺の霊気を分けてやることもできるが?」

 『よしてください』

 人工幽霊は横島の申し出が軽い冗談であるかのように断る。

 『私はマスター以外の方から霊気を補充する気はないんです。マスターの事務所として過ごした日々は私にとって正に黄金時代でした。私は自分の人生に満足しているんです・・・生み出してくれた父に、そして沢山の思い出をくれたマスターやあなたたちにはどれほど感謝しても足りません』

 人工幽霊に言葉に横島は肩の力を抜く。
 それまで表情に微かに浮かんでいた険は姿を消し、出会ったころの横島と同じ印象を人工幽霊に与えた。

 「お前が消えたらここはどうなるんだ?」

 『強力な霊能力者の霊気を浴び続けた物件です。私の影響もあるでしょうし、しばらくは画面の焼きつきに似た現象を起こしてしまうでしょうね』

 「・・・・・・・・・・・・・・」

 人工幽霊の言葉に横島は俯くと小刻みに肩を震わせる。

 『どうしました?横島さん?』

 人工幽霊が心配そうに声をかけると、横島は急に上体を起こし以前と同じ笑顔で笑い出した。

 「よかった〜、実は心配してたんだよ!モノの本には夢オチをやると作家生命を・・・」

 横島が造物主をネタにしようとした瞬間、彼と、どこか遠くにいるノートパソコンを抱えた男の上に雷が落ちた。






 『横島さん!大丈夫ですか!?』

 「う・・・俺は一体?」

 数分後、意識を取り戻した横島は意識をハッキリさせるために軽く頭を振った。

 『あんな危険な発言をするなんて・・・でも、おかげで昔を思い出しました』

 人工幽霊は過去にも似たような発言をした横島が雷を浴びたことを思い出した。
 今の行為が、過去を懐かしむ自分に対しての気遣いであることに人工幽霊は気づいている。

 『それじゃあ、私の思い出話に付き合ってもらいますよ。殆どが私視点じゃありませんし、中にはマスターたちの話から想像したものや、かなり記憶があいまいで壊れたものもありますが、その辺は気にしないでくれれば助かります』

 人工幽霊の口上が終わると部屋の電気が落ちる。
 横島の目前に人工幽霊の作り出した立体映像が映し出されていた。


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