椎名作品二次創作小説投稿広場


上を向いて歩こう 顔が赤いのがばれないように

GSたちとハードボイルドワンダーランド


投稿者名:由李
投稿日時:06/ 1/ 1

【伊達雪之丞】

「雪之丞、だったわね、確か」

「そうだ」


ツインテールの少女はそれだけ聞くと、いかにも興味が無いと言ったようにそっぽを向いた。
空港で会ったときから俺と目すら合わせようとしなかったんだ。
本当に興味ねえんだろ。


「ついて来て。二人に会わせたい人間がいる」


名前の無い男が俺たちを先導し、先に地下道の入り口へと入っていった。
薄暗い地下通路に三人の足音が響く。東京の地下にこんなものがあったなんて。
横島の周りに俺以外にも闇を抱えた人間がいたことにも驚いた。
いや、人間じゃなかったっけな。くくく、人間とそれ以外の境界線はなんなんだ。
地下通路の壁は機械だらけで、近未来が舞台のSFの世界のようだった。
だが俺はあり得ないほどのリアルを感じている。
それは横島たちに出会ってから随分減ったスリルにも思えた。
通路の終わりが見え、機械的なドアが行く手を阻んだ。


「この中がアジトだ。ボクたちはここをエデンと呼んでいる」


横を歩いていた少女――九尾のタマモ――を横目で見てみる。
全てに興味を無くしたような空っぽの目。
いや、少し違うな。底 の 見 え な い 殺 意 の 目だ。

ウィィン

機械的な電子音と共に自動ドアが開き、眩い光に目が眩んだ。
タマモが微かに笑った気がしたが、それは定かではない。





CASE2 雪と狐とまっどさいえんてぃすと





【タマモ】

ドアの向こう側にも未来的な景色が広がっていた。
白い壁は壁自体が光を放っていて、地面までもが光源となっている。
鼻に傷のある男は私と雪之丞を連れて二通りに別れた通路の左側を通っていった。
左側の通路には『入ったら駄目だゾ』と書かれた木の看板が立てかけられてあった。
古いのか新しいのかよくわからない。しばらく進んだ後、一つの扉が見えてきた。


「この先は研究室になっているんだ。そこにえらーい博士がいるんだよ」


ふとこの男と初めて出会ったときのことを思い出す。
狐の私が全てを見透かされるなんて、笑い話にもならない。


――ボクは全てを知っている。さあ、そろそろ茶番は終わりにしようか。

ずっと今のまま続けられると思っていた。茶番でもいい。騙したままでいい。
でも、私はもう後戻りはできない。知ってしまったから。思い出してしまったから。
前世のこと。私のこと。前 世 で 私 が し た こ と。

ウィィン

男が暗証番号を入力し、自動ドアが開いた。





**





【伊達雪之丞】

明るかった廊下と打って変わって研究室は暗かった。
壁一面にモニターがつけられていて、モニターの青い光だけが部屋の明かりだった。
回転式の椅子に一人の男が座っている。
鼻に傷のある男は回転椅子の傍まで行き、俺たちもそれに従い椅子の後ろまで近寄る。


「サバミソ博士、モルモ……試験体をつれて来たよ」

「……遅かったな」


回転式の椅子が軋みながら反転し、椅子に座っていた男の全身が見えた。
白衣を着た老人、サバミソ博士は老人とは思えない程ぎらついた目で俺たちの体を見渡している。


「世界が相手となるとまだ人数が足りない。僕はまた行ってくるから」

「わかった」


鼻に傷のある男が俺たちを残して部屋から出ようとしたので、慌てて声をかけ引き止めた。


「ああ、ボクはまだ仕事があるんだ。あとはサバミソ博士に任せておけばいい。じゃあね」

「あ、おい……!」


俺の引きとめも聞かず、部屋を出る男。
俺の手が既に男が出て行った部屋のドアに空しく伸びている。


「雪之丞と九尾のお嬢ちゃん。ワシの実験体になる覚悟はもう決まっておるね。
 では早速実験を始め……」

「ちょ、ちょっと待てよ。実験ってなんだ?」


言いつつタマモの方を見てみた。
ひょっとしたらタマモは知っているかもしれないと思ったからだ。
だが相変わらずその顔からは生気を感じ取れず、表情からは何も読み取れない。


「強くなる為の改造手術じゃよ。なぁーに怖がることはない。
 既に様々な動物で実験済みじゃ。人間にも成功しておる」


あの男の言った強くしてやる、とはこのことだったのか。
血の契約からか、俺に否定する気持ちは生まれなかった。


「私はパス」


ずっと黙り続けていたタマモがそこで口を開いた。
サバミソ博士はタマモの返答に残念そうに肩を落とした。
博士が俺の方を振り向いたので、俺は言われる前に即答した。


「俺はやるぜ」

「む、それはありがたい! お前ほどの霊体があればとんでもないモノが作れそうだ!
 早速始めたい。奥の部屋に来てくれ」


よっぽど実験が好きらしい。早く早くとせがんでくる姿はおもちゃをねだる子供みたいだ。
博士がパネルのボタンを素早く操作すると、モニターの壁が別れ奥に続く部屋が現れた。
博士が中に入ろうとしたとき、思い出したように俺の方を振り返り言った。


「そうそう、自己紹介がまだだったな。私は渋鯖陽一(しぶさば よういち)。
 訳あってあの男の下で実験を繰り返している。さあ、部屋に入ってくれ」


俺は博士に連れられ実験室へと足を踏み入れた。





**





【タマモ?】

雪之丞と博士が実験室の中へ消えると、再び壁が閉じられ私は一人で研究室に残された。
モニターの青白い光の先に、うっすらと私の顔が見える。笑っている。
心底おかしそうに、狂っているかのように笑っている。
これは私なのだろうか。それとも違う誰か?ぐふふふ。私でナいとスれば一体誰なノ?
これハ私よ。もうずいぶん昔、人食ひトして恐れラれた凶魔の狐。
シロにお別レくらい言っテおきたかっタなー。あ、デも今度会うときでいっか。
どウせシロを食べルのは私だモの。え? 私シロを食べチャうの? 嫌よ。そんなの嫌。
あーでも人狼ってオいシいのよね。んーどうしよっかな。
ま、そのトき考えれバいっか。ぐふ。





雪と狐とまっどさいえんてぃすと編 完


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