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上を向いて歩こう 顔が赤いのがばれないように

GSたちとハードボイルドワンダーランド


投稿者名:由李
投稿日時:06/ 1/ 1

GSたちとハードボイルドワンダーランド





【デルベッキオ・ド・ブラドー】

ヴァチカン宮殿の地下、外界と隔離された場所に魔物を収容する場所がある。
あと一歩で世界征服というところで余はGSたちに捕まり、ここに幽閉された。
屈辱だ。これなら殺された方がいくらかマシだ。
必ずここを出て、再びキッドと世界制服をたくらむのだ!


「よお、おとなりさん」

「………」


独房のような場所を想像していたのだから、意外と部屋の中が快適だったのはいい。
食料(バラ)だって毎日決まった時間に届いてくれるのが嬉しいところだ。
苦手な日光もここまでは届かない。一つだけ問題があるとすれば……


「いいことを教えてやろう。いまからここに……」

「うるさいぞ貴様! 毎日毎日いらんことばかり喋りおって……
 嫌がらせか!? 新入りいじめか!?」

「ははは……まあそう気を立てるな」


壁で区切られた向こうから無駄口ばかり叩く厄介な隣人がいることだ。
余の安眠を邪魔する者は死あるのみ。
だがいかんせん、魔力封じの檻の中では虫一匹殺せないのだ。
部屋を区切っている壁を壊すのは不可能だ。
それでも必ずいつか息の根を止めてやる。


コツン コツン コツン

「……? 誰か来たようだ」

「クックック、おいでなすったな」


二人分の足音。ひょっとして……キッド!


「やあボケ親父。元気にしてるかい?」


枢機卿に連れられて部屋の前で立ち止まったのは、余の出来損ないの傑作だった。
というか何故貴様笑っている!


「感動の対面じゃないか。ここは涙を流して抱擁する場面じゃないのか?」


隣人がいらない口を叩く。
こやつら……余が世界制服を成し遂げたあかつきには奴隷にしてくれるわ!





CASE1 三人のブラドー編





【ピエトロ・ド・ブラドー】

枢機卿は気を利かしてか、僕を置いて先に上へと上がってしまった。
残されたのはふてくされた面のブラドーと僕と、いやに陽気なラプラスだ。


「何をしにきた。どこの子か知らんが、そんな間抜け面見たくもないわ」

「へえ、間抜け面か。きっと僕の親父に似たんだよ、それ」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


僕とブラドーの間に火花が散った。
ブラドーの隣の部屋に隔離されているラプラスは、抱腹絶倒で笑い転げている。
どうせならキッドと来たかったのだが、六道女学院に冬休みなど無いらしく、一人でヴァチカンに来るハメとなった。
こんなことなら来なきゃよかったよ、本当に、切実に。
しばしの沈黙の後、口を開いたのはブラドーの方だった。


「キッドは元気か?」

「うん。どうやら邪魔な存在が無くなったらしくて、生き生きとしてるよ」

「そうか……邪魔な存在ってなんだ?」

「お前」

「表に出ろぉぉ!」

「はっはっはっは! 楽しみにしていた甲斐があったよ!」


ブラドーは狭い部屋に閉じ込められていても、特に変わった様子も無かった。
もともと狭い島の狭い城の中だけが生活空間だったんだ。
たぶんあんまり状況に変化が無かったんだろう。


「キッドから何か聞いていないか?
 余に感謝しているとか、余のことが心配だとか、余のことを助けに行くとかだ」

「全然」

「………」

「………」 ← ラプラスの押し殺した笑い


単純な脳みそに複雑な感情でも渦巻いているのか、ブラドーは何か困ったような顔になった。
しかしすぐにあの高笑いが聞こえた。本当に単純だな、こいつ。


「それはそうだ! お前に漏らしてはせっかくの世界征服計画が水の泡となるからな!
 そうかそうか。きっとそろそろ出られるな!」


こんな場所でブラドーのこんな顔が見られるとは思っていなかった。
嬉しいような、あほらしいような、でもやっぱり嬉しかった。





**





【ラプラス】

久しぶりに笑った気がする。
こんなに楽しいのは、美神令子が来たとき以来だ。
だがお楽しみはここからだ。


「キッドという女と恋仲なのかね、ピエトロ・ド・ブラドー」


本名を呼ばれたことにピエトロは一瞬驚く素振りを見せる。
しかしすぐに表情は元通りだ。
君が枢機卿から私のことについて説明されたのは知っている。
問題はデルベッキオ・ド・ブラドーの方だ。クックック。さあ喋るんだ。真実を。
私は知っているんだ、君たちとキッドのことを。
本当に恐ろしいのは『真実』だということもね。





**





【デルベッキオ・ド・ブラドー】

「キッドと恋仲? お前気でも狂ったのか?」


口数の多い隣人はいよいよ頭が狂ってしまったらしいな。
全く、ちょっと監禁されたくらいで情けない。


「別に、そんなのじゃ……」

「……?」


否定することもせずに、ただ顔を赤くする。何故否定しないのだ?
キッドはお前の……


「……!」


思い出した。あの娘はいつも多くを語らないのだ。こやつは何も知らない。


「ピート。お前、キッドから何も聞いてはいないのか」

「……少しだけ。母親が父親を殺して、その後ブラドーに拾われたって……違うのか?」


隣人が声を上げて笑い出した。こやつには何もかもわかっているのかもしれない。
余は言わなければならないのか。こんなにも酷なことを。
いくら出来損ないとはいえ、余の息子だぞ。
だが……言わなければなるまい。キッドが何故そんな嘘をついたかは知らないが……


「ピート。これから余の昔話を聞かせてやる。それが終わったらすぐにここを出るのだ」

「昔話って……」

「キッドのことだ」


出来損ないの息子と、出来の良い娘の為に、余は終わりのない昔話を始めた。





**





【ピエトロ・ド・ブラドー】

走った。夜のヴァチカンを、走って、走って、走って。
叫んだ。言葉にならない言葉を、叫んで、叫んで、叫んで。


「くそ! なんで僕がっ……!」

――あるヴァンパイアと、人間の娘が恋に落ちた

「くそぉ!」

――その娘は綺麗で、儚く、愚かだった

「なんでっ、なんでだよっ!」

――二人の間に一人の子が生まれた

「僕はっ、一体……っ、どうしたら!?」

――決して生まれてはならない、生まれながらにして不幸を背負った、赤毛の子供

「最低だ! こんなのっ、最低だ!」

――キッドは余の娘、お前の姉だ

「―――!」


出来損ないのヴァンパイアの、最高に出来の悪い物語の始まりであった。





三人のブラドー編 完


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