椎名作品二次創作小説投稿広場


抑止力に抗う者

第三話 運命ゲーム


投稿者名:黒猫少年
投稿日時:05/12/31

えっと・・・此処は・・・・横島さんの家の近くだ。
時刻は昼、名前の変更等の調整はされてると思うから、スケジュールどおりの段取りで進められる。

『懐かしいでちゅ・・・でもわたちの知らない時代なんでちゅよね』

何があったかは知っていても、そこにいなかったなら知らないのと同じ、百聞は一見にしかず・・・ということだね。

『これからどうちゅるんでちゅか?』

予定通りに進めるよ。まずは・・・横島さんとの接触だね。

『わたちはスケジュールに関ちてはよく知りまちぇん。説明ちてくれまちゅか?」

うん。僕達は明日、横島さんの通っている学校に、転入することになっています。
そこで横島さんに頼んで、美神さんの除霊事務所に連れて行ってもらいます。引っ越して来たばかりで、道がわからないっていう理由でね。
だけど横島さんとは、交友関係を持っているのが好ましいから、今日のうちに一度会っておきたいんです。
はじめて会った人が、次の日に自分のクラスに転入して来たら、人は少なからず興味を持つから、より友好関係を得やすいんです。

『ちょっと策略的でちゅね・・・でも友達でありまちぇんと、一緒にGSなんてやれまちぇんものね』

命を懸ける仕事だから、命を懸けられる人とじゃないと、安心なんて出来るはずがありません。
可能だったら、美神さんとも会うつもりです。

『赤の他人として・・・・でちゅね?』

はい。霊力は抑えた状態で流しておいてください。霊力があったほうが、美神さんに意識されます。
抑えるのは、無用な手間を省くためです。通常通りに流してたら、それだけで問題になる可能性があるので・・・。

『わかりまちた。抑えて放出でちゅね』

体から微量な霊力が、外へと流れていく。やはり抑えすぎている。だけどそれでも美神さんくらいは出てるから、ちょうどいいくらいかな。

『せっかくでちゅから、霊力操作の練習も一緒にちていいでちゅか?」

いいよ、でもちゃんと抑えてね。

『わかってまちゅ!フフン♪』

なんか楽しそうですね。

『楽ちんでちゅよ』

パピリオが楽しかったら、僕も楽しいよ、まあ強制的なものではあるけど・・・。
パピリオが楽しいと思えば、僕にもその気持ちが伝わってくる。何を考えているかとか、そういうことはわからないけど、僕にも心の『色』は見えている。
見えてるだけじゃなくて、それを共有できる。嬉しい気持ちも、悲しい気持ちも、全部二倍だから楽しい。
もっと楽しくなれば、その二倍楽しくなる。だから僕は駆け出した。始めて見る過去の町に触れるように、もちろん目的は忘れちゃいない。
僕もパピリオも、長い間妙神山で住んでいたから、過去の都市といえど、近代的な感覚がある。
僕は未来の此処を知っているけど、そんなに変わっている感覚はない。パピリオの心による影響も、ないとは言えないと思うけど。
でも本当に楽しい。どうでもいいことでも、二倍だったらこんなに楽しい。
この体の性質の一部かな、心が二つあるから、何かがあると両方の気持ちが伝わる。
両方が楽しいと思えば、二倍楽しくなる。片方が楽しいと思っただけでも、もう片方も楽しくなる。
二倍心境・・・とでも言おうかな。
他にも心が二つあることによる影響は大きい。夢をリアルに見たのと同じで、現実で何を見るにしても、二つの観点から見ることが出来る。
見たものすべてが二つの観点で見れるから、一度見ただけでも、多くの事を知ることが出来る。
二倍心境は楽しいし、二つ観点があるのも楽しい、それに役に立つ要素だ。
パピリオが霊力の扱いを訓練してるのに対して、僕は町を見て楽しんでいる。
片方が楽しいからもう片方も楽しい。だから二倍楽しくなる。修行だって何だって楽しい。

『ヨコチマは今美神ちゃまのとこにいまちゅよね?どうやって会うんでちゅか?』

運命が変わっていないなら、横島さんは今から三十分後に、厄珍堂っていう霊的アイテムのお店に行くはずです。
氷室さんも一緒にいるはずなので、此処を狙うといいかな。

『おキヌちゃんでちゅかぁ・・・懐かちいでちゅねぇ』

問題なのは美神さんだね。今日はほとんどずっと事務所に立てこもってるから。

『それじゃあどうやって会うんでちゅか?』

横島さんと氷室さんの行動を、うまく誘導する必要があるね。
さっき言ったとおり、出来ればの話だから、狙うだけ狙ってみるよ。
まず、僕は方向音痴だっていう設定を演じないといけない。横島さん達と接触しやすいし、雇ってもらった後に、別行動をとることになる可能性も減るからね。
僕は常に、横島さん達の側にいた方がいい。でも一人で依頼をこなさないといけないこともあるだろうから、これが達成できない。
でも方向音痴になれば、一人で行う依頼にも、付き添いとして、高確率で横島さんと氷室さんが着いてくる。
抑止力を失っていく横島さんは、あまりにも危険な状態に陥りやすい。
抑止力がないとはいえ、横島さんはこれからの運命のキーカードだから、絶対に守らないといけない。
次に優先されるのが美神さん。だけど美神さんには、アシュタロスの強い意志などの、運命を変えるほどの要素が関わっているから、横島さんのものよりも、数倍強固な抑止力を持ってる。
横島さんの場合は、敵を倒すための抑止力。美神さんの場合は、死なないための抑止力。
僕達がいくら頑張っても、美神さんの抑止力は、まず消えない。だから守るのは、横島さんに集中して行うんです。
氷室さんは、二人の抑止力に挟まれた状態だから、ある意味三人の中で、最も安全な立場かな。

『どうちてでちゅか?』

まず氷室さんは、完全に敵から離れての、遠距離支援を主としています。
今は霊体だから、まず敵のターゲットにはならない。
蘇生されてからも、ネクロマンサーの笛を使い始めてからは、弱い霊には百戦錬磨。強い霊は美神さん達が相手するから、特定の条件に当てはまらない限り死にません。

『特定の条件って何でちゅか?』

氷室さんが一人で行動しているとき、つまり蘇生されてから、横島さんたちと合流したときです。
でもそれも大丈夫。もともと氷室さんは、抑止力なんて持ってない。それでも生き抜いてるから、死亡率はとても低いんです。
どちらかというと、いずれ合流することになるシロさんの方が、だいぶ死にやすい。
僕達がやるのは、消えていくであろう抑止力から、横島さんたちを守ることと、デメリットとなる運命の改変なんです。

『・・・なんだか、とても悲ちいでちゅ』

本当に・・・そうだ。怖いほど冷静に分析された、データ的な使命には、とても悲しい物がある。
此処では、素でなく、演じて生きなければならないところが、多くあると思う。
それは果たして、本当に笑顔でいられるものといえようか?否、そんなはずはない。
僕はわからない。運命に踊らされているのか、運命の主導権を握っているのか、それがわからない。
僕は運命を変えられる。それも大きな変化さえ起こせる。だけどそれもまた運命なのか・・・。
何かに踊らされている。そんな気がしてならない。でも今は二人で一つだから、必ず・・・それすらも・・・・切り抜けられる・・・そう信じたい・・・。
不の感情も二倍・・・これは辛すぎる。楽しいのが二倍なら、すごく楽しいけど、不の感情も二倍だから、すごく悲しい。
頭を切り替えよう。楽しいことをして生きよう。そうじゃないと・・・辛すぎる。それに・・・傷つけたくないんだ。

『嬉ちちゅぎるくらいに、優ちいから、わたちはそれでいいんでちゅ。傷ついても、ずっと側に居てくれる人が居まちゅから』

うん・・・・そうだよね・・・ずっと・・・支えあっていけるよね。
優しい温かさが広がる。心がぽかぽかして・・・とても心地いい。
辛くても、悲しくても、いつも一緒にいられるから、どんな時でも温かい。
こんな温かさがあるから、また笑って歩き出せる。そしたら幸せが来る。また二倍の幸せを感じられる。
二倍の感情を知ったから、もう何があっても、二人で一つでしかいられない。とてもとても、素敵なことだと僕は思う。
横島さんが外へ出てくるまで、後二十五分。だから予定通りに、楽しみながら二十五分歩こう。
厄珍堂から100mほど、離れたところにある十字路で、偶然会ったように装うのが、予定通りの行動。
これはデータで動くゲームじゃないけど、そう考えたら辛いから、遊びと思っていた方が、楽しいからそうしよう。
楽しんでいることが、結果的に成功に繋がるって、そう思うからそうしよう。
これで決まり!だから歩く!それで楽しむ!これでよし!

『レッツラゴーでちゅ』







歩き始めて十分ほど立った時に、思いがけない人を発見した。
横島さんの身に起こること意外は、勉強しなかったから、その周りで起きていたことなんて、知る由もなかった。
僕達の歩く歩道の先に、その人は立ち尽くしている。推測するなら、一人で依頼をこなせないといけないとでも、母親に言われたのだろう。
大きなビルの前で、泣きそうな顔をしているその人が、ちょっと可哀想だった。
そう思った時点で結果はわかっていた。思いは二倍になり、とても可哀想に感じる。手助けせずには、いられなくなった。
小走りでその人に近寄り、声をかけてみる。もちろん、本当とはちょっと違う自分を演じて・・・。

「GSの仕事って、怖いですよね」

その人は首を曲げ、僕の顔に目を向けた。目が潤んでいて、今にも泣きそうだ。

「命を懸ける仕事だから、怖くて当然ですよね。僕も怖いんです。まあ僕はまだ、GSにさえなってませんけど・・・」
「あなた・・・・だぁれぇ〜?」
「えっとぉ・・・初めまして、森下蛍っていいます」

パピリオ同様、癖のある喋り方に調子が崩れ、完全に素が出る。
まあほとんど変わらないんだけど。素とは、これからの運命を知っている自分のことだ。知っているのと知らないんじゃあ、ちょっと違う自分になる。

「蛍ちゃん、やさしいの〜」
「て・・・え!?」

目の前にいる人、六道冥子さんは、いきなり僕に抱きついてきた。
ちゃんって言ってるから、絶対に性別間違えられてる。

『当てる方が難しいでちゅ』

そうなんだぁ・・・・まぁ確かに・・・。
女性の体系とあまり大差のない少年体系と、パピリオの中学生女子的体系が合わされば、男になんて見えるはずがないものになる。
顔はもっとひどい。髪型も目も鼻も口も、ほとんどがパピリオのもので、藍色がかった髪は、僕のなるべきはずだった姿のものだ。
輪郭に関しては、僕もパピリオも、ほとんど違わなかったため変わらず、丸みのかかった幼児体系が残る。
背は若干伸びている。とはいっても、150cmをやっと越した感じだけど。
もしもっと背が高かったら、最悪の状況もありえたかもしれない。自分で見ても、冗談抜きで可愛い容姿といえる。

『わたちが可愛いからでちゅね!』

そういうことかな・・・でも厳しいよ・・・これ。
明日の転入が思いやられる。制服を着れば、流石に男だってわかると思うけど、それでも不安だ。
私服のときは、もう仕方の無いことだと思うしかない。男の格好をして間違えられるんだから、どうしようもない。
というか・・・・・・・・六道さんは、僕に抱きついたままである。周りから飛んでくる視線が恥ずかしい。
一分は立ったと思うんだけど・・・・。僕は六道さんに腕をほどいてもらおうと・・・・・・・!
六道さんの体は、震えていた。のほほんとした口調からは、まったく予想できないほどに怯えきった体を、僕に振りほどけるはずがなかった。
パピリオからも同様に、同じ感情の色が伝わってくる。一度二倍になった感情は、簡単には消えてくれない。

「僕が手伝います。怖いのなら、手を握っていても構いません。流石に抱きつくのは、動けないのでやめて下さい」
「いいのぉ〜蛍ちゃん?冥子とっても嬉しいわぁ〜」
「絶対に間違えてると思いますが、僕は男ですよ」
「そうなの〜?でも可愛いなぁ〜」

声だけでも、男性のものとは到底思えないほど高いため、第一印象で僕が男だと見抜ける人は・・・・おそらく・・・いないんだと思う。
精神的にショックを受けながらも、六道さんに手を引かれて、僕達はビルの中へ入っていった。
横島さん達との合流には、ギリギリかそれとも、帰りに会うことになるだろう。








ビルの内部に人はいない。依頼内容は、ビルに巣食った大量の悪霊を退治するという、最も基本的なものだ。
一階に悪霊はいないようだ。早く終わらせたいから、さっさと親玉を懲らしめたい。

『七階にいまちゅ。抑えた霊力で相手ちゅる場合は、けっこう苦戦する大きさでちゅ」

一度家に寄っておけばよかった・・・武器がないや・・・。ということは属性武器を使う・・・・ところだけど・・・。
僕の心を見ているパピリオにより、六道さんに掴まれていない右手に、炎に変換された霊力が集まってくる。
これを高圧縮できるかが問題だ。霊体は基本的に火に弱い。霊力を火に変換して、それを圧縮する。それを剣の形などに変形させれば、属性武器の完成である。
だけど、僕の力を使い慣れていないパピリオには、やはり難しい。炎の剣を作るにしても、一分はかかるだろう。
エレベーターは壊されてるみたいだし、上っている途中には出来上がるかな。
六道さんの手が震えた。火が怖いのだろう。

「僕には、霊力の発火能力があるんです。主な戦闘方法はこれですから、我慢してもらえますか?」
「そうなのぉ〜。火が浮いてるからお化けと間違えちゃったの〜」

あのぉ・・・・これからそのお化けと一戦交えるんですけどぉ・・・・。

『不安でちゅ。でも難ちいでちゅねぇこれ』

三階に辿り着いた頃に、やっと寒気を感じた。霊力に関してはパピリオに一存だから、霊の気配をあまり読めなくなったようだ。
右手の炎が刀の原型を形作っていた。あと少しで完成するだろう。

『悪霊は五階から上にいまちゅ。わたちがナビゲーターになりまちゅから、安心ちてくだちゃい』

優しい言葉で温まった心で、僕は階段を上っていく。

「そういえば、まだ名前聞いてませんでしたね」
「六道冥子っていうのぉ〜。冥子って呼んでねぇ〜」
「はい、冥子さん」

知らないフリをした自分、これが演じた自分。
右手の刀が完成した。持ち手の部分は僕の霊力で纏われ、熱さは感じない。
僕の霊力には、変換させた霊力を中和する効果がある。まぁこれも虹精霊についてわかっていることの一つだね。
炎の刀は、どうしても少し握りが甘くなるし、決定力も大幅に下がるから、非常時以外には使わない。
僕の得意技となる、『インパクト』の練習もしてもらったほうがよさそうだ。

『攻撃時に変換した霊力を爆発・・・・でちゅね?やってみまちゅ』

爆発させた霊力により、対象を内部から破壊できるため、使いやすいし強力な技法だ。
これも父親譲り・・・なのかわからないけど、僕も霊力の圧縮は得意分野である。攻撃時に圧縮したものを、一気に破裂させるのがインパクト。
敵が大きいほうが成功率は高まるから、ボスに対しては高い成功率がある。低級霊は一撃で葬れるから、それほど時間は掛からないだろう。

「冥子さんは式神を使うんですか?」
「そうよ〜よく知ってるわね〜」
「アジラにサンチラ、あとバサラを使ってください。それ以外はやめた方がいいです」
「でもぉ〜それじゃ〜寂しいの〜」
「・・・・何のために僕がいるんですか」
「そうだったのぉ〜」

・・・・・・・はぁ
絶対にぷっつんだけは勘弁して欲しいよ。それに・・・・抑止力が消える中じゃあ、これで死者が出てしまう可能性だってあるんだから・・・。

『来まちゅよ!』

パピリオの言葉で僕は身構え、気配に気を配る。五階への階段を下りてくる悪霊を、すばやく切り伏せた。小さな爆発が起こる。
早く終わらせるためにも、急いで七階へ行こう。

「行きますよ!冥子さん。七階に親玉がいますから、そこまで走ります」

痛くないように、気遣いながら階段を駆け上る。五階の悪霊を軽く真っ二つにし、多くの敵を残したまま六階へ。
道中道をふさぐ低級霊を切り刻みながら、七階まで急ぐ。
冥子さんには、一撃として攻撃を当てられてはいけない。僕だって死にたくない。

『あれは地獄でちゅ・・・死ななかった自分を褒め称えたいほどの一撃でちゅ』

経験者のPさんはそう語る。あのMさんやYさんさえ恐れた強烈な一撃を、誰が食らいたがるだろう?
下手な爆弾よりも、遥かに強力なのは、いうまでもない。
そんな怖い(?)ことを考えている間に、目的地である七階にたどり着いた。

「冥子さん!さっき言った三体をお願いします」
「わかったのぉ〜」

アジラ、サンチラ、バサラ、冥子さんの持つ式神の中で、特に高い除霊能力を備えるのが彼らである。
アジラは火を吹き広範囲の悪霊を焼き尽くし、サンチラは雷撃によって敵を倒し、バサラは悪霊を吸引する。
この三体だけでも、おそらくほとんどの除霊を遂行できるだろう。激しい攻撃の合間を潜り抜け、最も強い霊波を感じる部屋へ移動する。
部屋の中に、敵の親玉となる大きな悪霊の集合体を確認し、冥子さんに声をかける。

「此処で待っていて下さい。アジラ!サンチラ!冥子さんのガードをお願いします」

他人の言うことを聞かない彼らだが、主を守るためには必死のようだ。素早く冥子さんの側に集まり、近寄ってくる低級霊を残滅している。
それに安心して僕は、炎の刀を両手で持ち、襲い掛からんとしているボスに向かって走る。
行くよ!パピリオ

『了解でちゅ』

敵から発せられる霊波砲をしゃがんでかわし、低い大勢から懇親の力を込めて斬り上げた。刀全体が霊に食い込んだところで、炎に変換された霊力が、爆発を起こす・・・ちょっと強すぎだけど。
一撃では成仏しなかった悪霊は、爆風で割れた窓から外に吹き飛んだ。このままだと危ない。

「冥子さん!インダラを出してください!敵を追います!」

現れたインダラにまたがり、窓全体を突き破って跳ぶ。たくさんの人が行きかう道路の上空を、速すぎるくらいの速度で移動する。
まだ吹っ飛んでいる途中であったボスに、この速度をプラスした斬撃を入れる。派手な爆発音を響かせて、霊は消え去った。
道路を挟んで向こう側のビルの屋上に着地し、勢いをつけてもとのビルへと跳ぶ。屋上に着地すると、階段を駆け下りて冥子さんのもとへ戻った。

「蛍ちゃんかっこよかったのぉ〜。白馬のお姫様だわぁ〜」

冥子さんから聞いた第一声、わざとなのか本心なのかわからない。訂正するけど、間違ってもお姫様じゃない。

『そうでちゅよぉ!かっこ良かったでちゅ。馬にまたがって敵を倒す姫!って感じでちた』

姫の部分を強調して言うのはわざとなのだろう。しかし、強調して言ったのはわざとでも、言葉の意味は本音であるところが悲しい。
此処が七階でよかった。もし二階とかだったら、思いっきり多くの人に姿を捉えられ、性別を間違われた状態で有名になってしまうところだった。
この高さなら、せいぜい見えても服くらいだから、女と認識される危険性はない。

「それじゃあ冥子さん、僕は用があるのでお別れです。また会えたらいいですね」
「蛍ちゃん行っちゃうのぉ〜、冥子寂しいなぁ〜」
「・・・また会えますから・・・絶対に、必ずまた会えます。それまで・・・さようなら」




ビルから出て腕時計を見る。横島さん達はもう事務書を出ている時間だ。走って回り込もう。
邪魔にならないように、人数の少ない道を選んで走る。まあなんとか間に合うと思う。

『気づいたんでちゅけど』

何?

『蛍がいなかったら、六道はどうなってたと思いまちゅか?』

うぅんと・・・・・まあ依頼失敗は確実かな・・・・!

『そうでちゅよ!普通なら失敗してたんでちゅ』

僕がいなければ、冥子さんは依頼を遂行できなかった。つまり、僕がいても普通なら、宇宙意思が働いて同じ結果が訪れる。
だけどそうならなかった。小さな出来事ではあるけど、僕達は確かに・・・抑止力を振り切った・・・。
想像したよりも簡単に、抑止力に打ち勝てた。ふっ飛ばしても、ボスが一撃じゃあ倒せなかったのが、抑止力によるものなら、僕達は確かに抑止力を振り切っている。
やれる!頑張れば、不可能じゃないんだ!

『レッツラゴーでちゅ!』







続きます


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