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抑止力に抗う者

第二話 二人で一つの逆行者


投稿者名:黒猫少年
投稿日時:05/12/29

何でだろう・・・・。
さっき感じていた、時が止まったような感覚。
何で今じゃなかったんだろう?
時が止まって欲しいのは、間違いなく今なはずなのに・・・。
成功かと思われたが、無常にも少女は崩れ去った。
非常時の準備が出来ていたとはいえ、此処まで追突だと、どうしても対処は遅れる。
周りにいる神族と魔族達が、数秒間の硬直状態から解き放たれた。
ただちに緊急時の対処が始められるその中で、僕は考えをめぐらせる。
何の文殊を使えば、彼女を助けられるだろうか?
文殊は四つ、失敗は自分が許さない。四つをフルに使うつもりで考える。
心身復元・・・・魂と体のバランス自体が無茶苦茶なんだから、また直ぐに壊れてしまう。
心身調停・・・・バランスが直っても、死んでいる時点で効果は見込めそうもない。
魂と体のバランスと、命の復元のどちらも成せる四文字なんて、あるのだろうか?
復活と調停の二つに分けて使うとしても、何の復活であり、何の調停なのかを、二文字で指定出来るのは、これを作った横島さん本人ぐらいだろう。
救護班が処置にかかる。魂が壊れるのに、そうそう時間は掛からない。
発想を転換するんだ。最強の霊的アイテムで直せなかったら、どうやっても無理なんだから。
だから大丈夫。必ず手がある。
文殊は何処を探したって、この四つしかない。
多数の文殊を使用する場合は、横島さん本人でなければ、困難を極める。
そういう意味でも四つが限界だ。何か別の手で、復活か調停のどちらかを、達成すればいい。

「クソッ駄目だ。魂と体が、完全に拒否反応起こしてやがる」

魔族の男はそう言いながら、地面に拳を叩き付けた。
動揺しきって、冷静さを失っている。頼りにはならない。

「魂と体を共鳴させるなんて、出来るはずねぇよ!」

共鳴・・・・そうか!その手があった!
僕とパピリオさんの霊力にはほとんど差がない。年齢は離れてるけど、身長は1cmも違わない。
これなら肉体も魂もカバーできる。だけど・・・・結果的には、彼女は死んだも同然の状態になる。
生まれ変わるって言った方が、正しいのかもしれないけど、それに僕も同じ状態になる。
でもこれしか方法がない。二人でないと出来ないんだ!

「母さん」
「文字は何ですか?」

僕が言うまでもなく、母は文殊を使用することに気づいていた。
冷静に、ただ僕を信じて・・・。

「完全同期・・・です」
「・・・・・別の存在になっても、あなたは私を母と呼んでくれますか?」

僕はうなずいた。覚悟の意味も含めたものだ。
僕もパピリオさんも消えたくない。少なくとも記憶だけは消しちゃいけない。
完全に合体してしまえば、なんとかなる。
一つの体に、二つの意思が存在することになるけど、後悔はしない。
パピリオさんが・・・・どう思うかわからないけど、何でかよくわからないけど・・・・
生まれて直ぐに、笑顔でおはようって・・・言える気がしたから、だから僕はそれでいい。
パピリオさんにとっても、小竜姫様が母なら・・・よかったなぁ。
僕は生きている。完全に健康の状態で生きている。
僕と合体することで、僕とパピリオさんの魂と体を、共鳴させる事が出来れば、魂の蘇生も、心身のバランスも、どちらも達成できる。
過去に、横島さん達とアシュタロスが繰り広げた、壮絶な戦いの事を勉強していなければ、この方法は思いつかなかった。
美神令子と横島忠夫の二人は、アシュタロスに対抗するために合体した。
同等の力と力を共鳴させる事で、多大な霊力を生み出した。
しかし、これはやり過ぎると、片方の魂がもう片方の魂に、吸収されてしまうという恐れがあった。
だけど僕がやるのは、これとはまったく異なる。
最初から完全に合体してしまうのが、僕の作戦だ。
精神的にも、霊力的にも、肉体的にも平行した今の状態なら、互いの精神は干渉せずに残る。
体は一つになってしまうけど、心は減らない。
霊力を自由に使えなくなるけど、その分有り余る霊力が手に入る。
互いが持っている力の、両方を使用することが出来る。
体は一つだから、無駄に運命を変えてしまう恐れも半減する。
うまくいくかわからないけど、その分メリットは多い。
でも・・・勝手だよね・・・・そんな気がするっていう理由だけでさ、相手がどう思ってるかわからないって言ってたの、僕なのに・・・。
初めて見たときにね・・・すっごく可愛い子だなぁって、思ったんです。
綺麗な心の色をしていて、すっごく強い顔で寝ていたのを見て、僕は嬉しかった。
こんなに素敵な方が、一緒に頑張ってくれるのが、本当に嬉しかった。
だけど、いろいろ考えたら、すごく悩みが増えたんです。
危険な旅だから、死んでしまったらどうしようとか、嫌われてしまったらどうしようとか、そんなことをずっと考えていました。
僕はあなたに死んで欲しくない。絶対に助ける。一緒に頑張るんだから、絶対に助けたいんです。
嫌われたら嫌だし、死なれるのは絶対に嫌です。僕は子供だから、我が侭にも程があるけど、死んでほしくないんですよ。
ごめんなさい。すいません。許してください。もうしません。
母さんやべスパさんを含めた四人が、僕と僕の腕に抱かれている少女の周りに立ち、それぞれ一つずつ持った文殊を発動させた。
体が光に包まれ、次第に意識が遠のいていく。

「妹の事、あんたに任せたんだから、しっかりやんな!」

その声を胸に刻んだ跡に、合体を終え一つだけになった僕は、気を失った・・・。











気が付いたら、夕日の良く見える場所にいた。
赤い夕日は僕を照らし、輝いている。僕の大好きな夕日だ。
昼と夜の合間の一瞬だけしか見られないから、もっともっと輝いて見える。ルシオラっていう人の言葉・・・。
僕はこの言葉が大好きで、夕日が大好き。懐かしい感覚と、暖かい光が大好き。

「やっぱり、そうだったんでちゅね」
「え?」

突然声をかけられて、僕は振り向いた。自分と同じ背丈の、黒髪の少女が、何かを確信した様な顔で僕を見ていた。

「何で、本当の名前を名乗らないのでちゅか?」

直接心に触れられるような言葉を投げかけられる。僕は少女に背を向けて、夕日に視線を泳がせた。

「素敵な名前でちゅのに、何で名乗ろうとしないのでちゅか?」
「・・・名乗っちゃったら・・・・僕を十二歳まで育ててくれた人に、悪い気がして・・・」
「わたちには、悪くないと言うのでちゅか?」
「確かに変な偽名だけど、あの名前とパピリオさんには、何の関係もないじゃないですか」

僕がそう言ってしまった事により、少女は黙り込んでしまった。僕が傷つけてしまった。
関係ないはずがないんだ。僕は・・・・僕は・・・・・・・・・・。

「ごめんなさい」
「謝ることないでちゅよ、君は優しすぎるだけでちゅから」

親譲り・・・・なのかな?一番の問題点は受け継がれなかったみたいだけど・・・。
というか・・・全然似てないよね・・・・父とも・・・母とも、小竜姫様に似てるって言う方が、何倍も説得力があるよ。
父が優しかったから、そこだけは受け継げたのかな?だったら嬉しいなぁ。
でも・・・・・一番受け継がないと・・・ていうか、そうなるはずだったっていう意味じゃあ・・・最低の結果だよね。

「一緒に夕日・・・・・・見ませんか?」

そう僕は問いかけた。小さな足音と共に、少女が自分の隣に並ぶ。
僕は、一番気になっていたことを聞いてみた。

「自分の体が、半分になって、嫌じゃありませんか?」
「そんなことないでちゅよ、助けてもらって、嬉ちいでちゅから」

僕は思わず噴出した。本当に効いたとおりの喋り方で、喋る彼女が可愛すぎたから。

「本当に変なしゃべり方ですね」
「うるちゃいでちゅ!大きなお世話でちゅ!」
「・・・・・・・名前・・・変えないといけませんね」

少女は夕日に向けていた視線を、僕に向けた。
そう、少女はずっと待っていたんだ。この再開を・・・

「もう前の僕じゃありませんからね。僕だけの体じゃなくなったから・・・じゃあおかしいけど」
「苗字はどうするのでちゅか?元のままじゃあ拙いでちゅよ」
「苗字は森下で、育ててくれた人のものです」
「名前は・・・なんでちゅか?」
「・・・・・・・・蛍・・・・・森下蛍です」

蛍・・・それが僕の本名で、僕の父が付けてくれた名前です。

「いいんじゃないでちゅか」
「気に入ってくれましたか?」
「うん!」

本当に嬉しそうに笑う少女の顔が、夕日に照らされた。気がしただけだったけど、本当に笑い合える。

「気になってたのでちゅけど、何でリークナっていう名を名乗ったのでちゅか?」
「ハルマゲドンが起きて、僕が死ぬかもしれないっていう時に、横島さんに四つの文殊を渡されたんです。
いつも霊力を放出してたから、僕が霊力を操れないことを、知らなかったのでしょう。だいたいのことは知ってますよね?」
「はいでちゅ!寝ている間に、一度君の事、教えてもらいまちた」

魂の改造途中に、僕の事も、記憶に埋め込められたのは知っている。
勝手に記憶を植えつけられるなんて、悲しいことかもしれないけど、過去の出来事を知る必要があったからだ。

「文殊が使えないってことはわかっていました、だけど僕は使おうとしたんです。
そしたら文殊に一文字ずつ、リ ー ク ナ・・・て、文字が浮かび上がったんです。
文字はその後直ぐに消えました。その後も何度も試してみたけど、結果は同じでした」
「・・・本当に似てないでちゅね、別人でちゅ」
「似てた方が良かったんでしょうか・・・」
「全然でちゅ!そっくりでちたら過去に行く意味の半分が無くなっちゃうでちゅ」

ちょっとホッとした。僕は本当は、僕に生まれるはずがなかった。性別だって、男じゃあないはずだったんだ。
理由はまだ良くわからないけど、僕は期待されていた姿とは、まったく異なる者として生まれてきた。
そして、理由は不明だけど、両親は僕を、僕を育ててくれた人に預けた。
捨てられたんじゃないのは知ってるけど、育ててくれた人は、捨てられていたって・・・言ってた。
独占欲の強い人だったから・・・僕を自分の息子にしたかったんだと思う。

「此処は・・・夢の中なんでちゅよね」
「そう思います。心は二つだけど、脳は一つですから、夢も同じものを見るのでしょう。だけど、心が二つあると、夢の中でも自由なんですね」
「わたちも驚きまちた。意識ちてないと、夢の中だなんて思えまちぇん」
「これからも、一緒に生きて、一緒に夢が見られるんですね。僕は嬉しいです」
「起きたら・・・・忘れているのでちょうか?」
「じゃあ、覚えてたらおはようって挨拶しましょう」
「おはよう・・・でちゅか?」
「はい、朝起きたら、おはようって言うのが普通ですよ」
「でも今って朝じゃありまちぇんよね?」
「そういう事は気にしない方がいいですよ」
「・・・・変に小竜姫ちゃまに似てまちゅね」
「僕にとっての母は、小竜姫様ですから」
「それじゃあ、同じでちゅね!」
「そうですか、よかったぁ・・・それじゃあ」
「おやすみでちゅ!」
「うん、おやすみ」

目の前が真っ暗になった。夢から覚める様子が、リアルに感じられる。
夢を二つの視点から見られるようになったから・・・だろうか?寝てるのって・・・すっごく気分がいい。
起きたら夜だろうか?パーティーの準備は出来てるけど、起きて直ぐっていうのは、ちょっと嫌だ。
視界の黒が薄くなっていき、闇が完全に消えたときには、僕は天井を見ていた。
妙に心が温かい。パピリオさんの心があるからだろうか?
おはようって・・・・どう言えばいいんだろう?

『聞こえてまちゅよ』

え?
心に直接語りかけられる声に驚いて、僕は思わず振り返るが、当たり前のように誰もいない。

『君には聞こえないのでちゅか?』

聞こえるって・・・・何が?

『わたちの心、聞こえないんでちゅか?』

よく・・・わからないよ

『なるほど・・・そういう事でちゅか』

パピリオさんには・・・・僕の心が見えてるの?

『バッチリ見えてまちゅ。でも体の感覚がありまちぇん』

自分には感覚がある。つまり・・・僕が体の制御を行い、パピリオさんは心でそれを見ている・・・そんな状況なのだろう。
まあ一つの体を両方が動かすって言うのは、不便だし、ありえないとは思ってたけど。
でも、目は見えてるみたいだし、問題はないだろう。それよりも問題なのは・・・・。
周りを見渡した。自分の部屋だ。布団をどけて立ち上がる。机の上に置かれた手鏡を除いた・・・・て・・・・やっぱり・・・

『完璧に・・・・女の子でちゅね』

それを言わないで下さい。
鏡に映るのは、うまい具合に僕とパピリオさんのものがドッキングされた顔だ。
僕がもともと、中性的な外見をしていたのもあって、二対八くらいの割合で女性的な面が多く見られる。
だけど感覚でわかる。性別は間違いなく男だ。体が男であるぶん、顔にパピリオさんの要素が多く混ざったらしい。
それと少しだけ・・・・少しだけだけど、僕のあるべき姿であった人に似てる。というか人じゃないけど・・・。

『美少年から超絶的美少年にレベルアップちまちたね』

どこからどう見ても女の子だよ・・・・。

『タラタタッタンターンでちゅ』

ド○クエ風に言われても嬉しくないよ・・・。

『でも体がないっていうのも変な感覚でちゅね、変わってくれまちゅか?』

出来るのかなぁ?

『試ちてみるでちゅ!』


・・・・十分後

『駄目でちゅね』

あらゆる試みを実行してみたけど、成功は見込みなし、だけどこの体の特性をある程度把握できた。
大きなデメリットが一つ、僕には霊力が使えないということ。霊力に関しては、パピリオさんに制御権が与えられているようだ。
ここぞというときの対処に遅れる点と、もともと魔族であったために、パピリオさんが霊力の扱いに慣れていない点は、かなり大きい。
特に虹精霊の霊力変換能力に関しては、もともとやったことのないパピリオさんにとって、かなり手間がかかる。
メリットもあるにはある。確かに霊力は異常すぎるほどに跳ね上がった。だけど大きいからこそ扱いが難しい。下手に力を出そうとすれば危険だし、抑えようとすると抑えすぎてしまう。
合体した時点でこの体は、虹精霊ともさらに異なる、異質のまた異質な体になった。
過去へいく準備が出来てしまっている以上、もう修行する時間もない。五年間の修行の半分は、無意味になったともいえる。

『修行する時間・・・ないでちゅよね?』

予定では、横島さんが受けるGS試験の、一週間前に行く予定だった。
横島さんには、抑止力の消失によって死なないように、出来る限り力をつけてもらわないといけない。
一週間かけて、横島さんの能力を開花させ、GS試験で力を試すことになっている。
アシュタロスとの戦いでの出来事が、ハルマゲドンを起こす最大の理由であるため、その前までは戻る必要がある。
抑止力が弱まれば、横島さんは死ぬ。死なないようにするためには、十分な稽古をつける必要がある。
運命を極力変えずに、横島さんに力をつけてもらう。それに最も適した時間として、GS試験の一週間前が選ばれた。
だけど問題なのは、僕とパピリオさんにも訓練期間が必要になったこと、逃げれるだけの力を横島さんにつけてもらったところで、敵を倒す力がないと意味がない。
この力は、制御できなければ確実に周りを巻き込む。自分の手で、命の恩人を殺してしまうかもしれない・・・。

『悩む必要ないでちゅよ、わたちと君は、一緒に頑張るんでちゅから』

優しいですね・・・本当に

『言い忘れてまちたけど、おはようでちゅ!』

はい、おはようございます

『それとでちゅ、パピリオさんていうのはやめてくだちゃい。さんずけで呼ばれるのは苦手・・・というか慣れてないでちゅ』

わかりました。パピリオ

『敬語は直らないんでちゅね・・・まあわたちは姉に当たりまちゅから、これはいいでちゅね』

姉・・・小竜姫様の子っていう事で・・・かな?
僕はそれがちょっとだけおかしくて笑った。

『何で笑うんでちゅか?』

だってさぁ
本当だったら、パピリオの姉に当たる人に、生まれていたはずなんだからね。

『・・・・それもそうでちゅね』

「楽しそうですね」

小竜姫様が部屋に入ってきた。様子を見に来てくれたのだろう。

「男の子・・・・・ですよね?」
「わかっていることを何で聞きますか?」
「その・・・・可愛・・・かっこいいですから」
「流石にこの顔で男っていうのも、無茶があるんでしょうか?」

母さんは時々意地悪をする。今の僕の顔は、もう何度か見ているはずなのに・・・。

「でも・・・似てますね、ルシオラさんに」
「少しだけ・・・ですけどね」
「似すぎていても困るでしょう」
「・・・それもそうですね」
「さぁ、パーティーの準備は出来ていますよ」
「やっぱり、もうそんな時間だったんですね・・・」
「六時です、丁度ですねぇ」

仕組んでるんじゃないのだろうか?そんな考えが浮かんだ。

『喋れないっていうのは、不憫でちゅね・・・・』

・・・・・・ごめんなさい

「どうしましたか?」
「あ、すいません、今行きます」

五年ぶりの再会なのに・・・ただいまも言えないなんて・・・・悲しすぎる。

「私の声は、パピリオに届いていますか?」
「?・・・・はい。聞こえてます」
「おかえりなさい、パピリオ」

冷たく感じられたパピリオの心が、温かくなった。僕の家族は、とても優しい温かい家族です。











パーティー用に改装された庭には、既に多くの神族魔族が集まっていた。キリスト様とサタン様もいる。
べスパさんやワルキューレさんや斉天大聖老師様、月のかぐや姫様達もいる。
でも知っているのはそれくらいで、後は見たことがあるだけとか、一言会話したことがある程度しかいない。
豪勢な料理が並べられたテーブルは、貴族のパーティーを思わせる。だけど僕にとっては、あまり魅力的なものではない。
それよりも・・・・フルーツポンチ・・・ベリィクレープ・・・チーズケーキ・・・ティラミス・・・プリンパフェ・・・ハチミツ・・・それらの方が遥かに高い評価を・・・個人的に与えられる。
ハチミツをそのまま普通に置いているのは、異様な光景ではあるが、僕にとってもパピリオにとっても好物である。
これも虹精霊の特性なのだろうか?僕は甘い物が兎に角大好きだ。
そういえば・・・・パピリオには味覚があるのだろうか?

『・・・ひどいでちゅ・・・・あんまりでちゅ・・・拷問でちゅ』

デザートは食べないことにしよう・・・よだれ垂れそうだけど・・・・。

「駄目でちゅ!そこにハチミツがあるならば!食べなければならぬのでちゅ!これは絶対なのでちゅ!」

・・・・いいの?

『・・・・・・・・・許しまちゅ』

それを引き金に、僕はすばやくデザートの並べられたテーブルに接近した。甘い味の放つ力に吸い寄せられるように・・・。
パピリオさんには、本当に味覚がないのだろうけど、もしかしたら・・・心が繋がってるんだし・・・違ったら拙いけど・・。
ある考えを踏まえて僕は、くまの○ーさんでお馴染みのつぼに入ったハチミツを、スプーンですくって口に含んだ。
絶妙な甘さが口に広がる。やばいほどに美味しい。間違いなく、これはレザーウッドハニー(タスマニア島産の最高級ハチミツ)だ!

『来る出ちゅ来る出ちゅ・・・幸せ電波来る出ちゅ、世は満足でちゅ・・・・・」

幸せ・・・・電波?
感じられるパピリオの心は、幸せの真っ只中にあることを教えてくれた。

『どうしたのでちゅか?早くもっと食べるでちゅ!』

僕が幸福を感じた場合、僕の心が見えているパピリオにもまた、幸福が伝わる・・・ということだと思う。
我慢する必要がないことを確認し、僕は自分でも驚くほどのペースで、デザートを食べ続ける。
因みに僕は、甘いものなら牛並みに食べます。だって美味しいじゃないですか。

『気が合いまちゅね!』

そうだね、過去に戻ってすべての甘味を制覇したいなぁ

『幸せ電波は素晴らしいでちゅ。どんどん食べるでちゅ』

それからしばらく・・・僕は甘味を楽しんだ。


パーティーが始まって、四時間程の時が流れた。
終わりを目前に迎えた会場に、寂しい空気が立ちこみ始める。
もうすぐお別れ・・・・もう会えない・・・・

『寂しいでちゅね』

うん・・・・
マイクの取り付けられた台に、パーティーに来てくれた方達が乗り、僕とパピリオへの応援の言葉を投げかけてくれる。
寂しい気持ちが膨らみ、涙腺が緩む。

「リークナ!妹を絶対に死なせるんじゃないよ!わかってるんだろうねぇ?私からはこれだけだよ」

パピリオが死んだら、僕も死んでます。作戦失敗です・・・・それ・・・。
べスパさんの後に、最後に、母さんが台に上がった。
笑顔なのに、涙が止まらないその顔を見ると、目の中が熱くなった。
パピリオの心から伝わってくる寂しい気持ちを決定打に、ついに涙が流れ始める。
母との別れが、こんなに悲しいなんて思わなかった・・・。

「二人は、私の子のつもりです。だから・・・・いってらっしゃい・・・私の子・・・おかえりが言えないのが、寂しいです
ずっと一緒にいたかった・・・でも、いってらっしゃいが言えないんじゃあ、お母さんじゃありませんから、頑張って言います。
いってらっしゃい、私の子・・・・いってらっしゃい、振り返らずに・・・いってらっしゃい・・・・・・・・私の子・・・・」

涙は止まらない。涙を流し続けたまま、僕は走り出した。
台の上の母が、その腕を広げている。だから飛び込んだ。優しく自分を抱きしめてくれる腕ともお別れ、ずっとお別れ・・・。
パピリオがいるから、寂しい気持ちも、流れる涙も、全部二倍、止まらない。

「時間やな、ほな行くで!準備せいや!」

サタン様から声がかけられた。母が回した腕をほどき、僕は後ろへ三歩後退する。

「いってらっしゃい」

涙をぬぐって、母さんの目を見て僕とパピリオは言った。

「いってきます」
『いってきまちゅ」










続きますよぉ!


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