椎名作品二次創作小説投稿広場


抑止力に抗う者

第一話(改良版) 唯一の存在と書き換えられし少女


投稿者名:黒猫少年
投稿日時:05/12/27

視界が開けた・・・。
修行により活動が活発化している脳が、今日が何の日であるかを即座に感知する。
今日は自分の誕生日・・・それは、運命の再生の始まりの日。
今の時との別れ・・・どれくらい待ち望んだであろう・・・
それくらいに魅力的、それくらいに待ち望んでいた。
何故ならば、今自分の生きている世界が壊れているからだ。
ハルマゲドン・・・それは自分が十二歳の頃に起きた。
想像を絶する破壊、地獄絵図が広がり続ける。
そんな世界で自分は生きていた・・・いや、生かされた。
神界において、誰もが認める英雄の手で。
横島忠夫・・・それが自分の命を救った人の名前だ。
しかし英雄といわれる彼でも、救えたのは自分だけ
それも偶然の出会いによっての出来事だった。
すべてを失った横島さんは、怒りで我を失いかけた。
そんな彼と出会ったのが自分で、虹精霊という唯一つの種族である僕。
虹精霊は自分だけに持たされた種族。
妖怪とも、霊体とも、神族とも、魔族とも、人間とも違う僕だけの種族。
それ故に僕が生かされたんじゃない。
横島さんは、怒りで膨らんだ力で神界と魔界を破壊しようとした。
だけど彼は残された思いで立ち止まった。
しかしそれも長くは持たない、だから僕にその力を使った。
強大な怒りを優しさに変えて、僕を守った。
その力により僕はただ一人生き残った。
地球に住む生物の中で神族と魔族を除いてただ一人、僕は唯一の生還者となった。

「起きたんですね、リークナ」
「はい、小竜姫様。この日が・・来たんですね・・・」

その後僕は、地球上で僕と同じくただ一人生き残った神族、竜神姫に引き取られた
たった二人で妙神山で過ごした五年間
たびたび客が来ることもあったし、荒れ果てた世界の風景と比べれば、寂しくもなんともなかった
それ以上に、自分が唯一つの存在であることだけが・・・寂しかった

「しんみりしている暇なんてありませんよ!さぁ、早く準備を済ませちゃいましょう、最後の時を過ごすのは・・・それからです」
「はい・・・小竜姫様」

僕が立ち上がると、小竜姫様も立ち上がった。
明らかな身長差、僕は視線を上げなければ、小竜姫様の目を見ることは出来ない。
虹精霊は唯一の種族であるため、身体の特性等はまったく未開である。
わかっていることといえば・・・十二歳で成長が止まり、五年たった今でも、五年前とまったく同じ姿をしていることと後二つだけだ。
十二歳のときの僕の身長は147cm、普通に考えても低い方である。
その状態で成長が止まったため、僕と小竜姫様の身長差は大きい。
生きた年月も関係してか、親子、または姉弟に近い関係、どちらかというと前者が正しいと思う。
わかっていることの残り二つは、霊力を霊力のままでは使用できないことと、異常に早い霊力の生成速度。
理由はわからないけど、強い霊力を持っているのに、いくら修行しても、霊力を霊力のままでは、放出するだけで操ることが出来なかった。
しかし僕の魔力の持つ特性によって、魔力はいとも簡単に火・水・風・雷・土の五つに変換することが出来た。
変換後は自由に操作できるようになり、炎で輪を作るのも、水を冷たい風で凍らせるのも簡単に出来た。
しかもそれにより消費した魔力は、驚くほどの生成速度で回復し、貯蓄できる許容量の限界に達する。
それにより五年の短い月日でも、十分に修行を積むことが出来た。
何故僕が修行をしてきたのか、それは世界の有り様がそのまま答えである。
アシュタロスの死による戦力バランスの乱れ、危険視されていたその状況は、ハルマゲドンを引き起こす要因となってしまった。
そんな世界を救うためとして、僕に白羽の矢が立った。
唯一の生還者として過去へと渡り、ハルマゲドンの発動を防ぐ。それが僕に課せられた使命だ。
そして十七歳の誕生日が、過去へと旅立つ日なのである。

準備とは、僕の誕生日を祝う事と、僕と共に過去へと渡る少女の歓迎と、僕が此処にいられる最後の日を祝すパーティーの準備だ。
家中を掃除して、綺麗な飾り付けを行う。
その過程は楽しくも寂しい。いつも通りに振舞おうとする小竜姫様はうそが下手だし、精神的にも幼いままの僕は、ずっと浮かない顔をしていた。

「楽しかったですか?この五年間は」
「はい、今までの人生で一番幸せでした。とはいってもまだ十七年しか、生きてませんけどね」
「そうですか・・・」

準備を終えた僕と小竜姫様は、昼の陽射しを浴びながら廊下に座っていた。
暖かさが寂しさを後押しする。とても不思議な気分だ。

「パピリオさんは・・・僕と仲良くなってくれるでしょうか?」

ずっと抱えていた悩みの一つ。僕と一緒に過去へと渡る少女の名はパピリオという、五年前までは妙神山で暮らしていたという魔族の少女。
僕が此処に来る少し前から計画は進行していたようで、過去へと渡る者として選ばれたのが彼女だった。
過去にももちろん、パピリオという魔族は存在している。
同じ魂は共存できないという問題の解決のために、少女は今も、魂を作り変えられている。
魔力をすべて霊力に書き換え、人間に近い存在にされているらしい。
長い寿命等の点は魔族のままだが、霊体構造を人間の物に近づけ、魔力ではなく霊力を持つ魂に作り変えられている。
とても悲しいことだと思った、しかしそれを志願したのは彼女らしい。
妙神山に縛り付けられいる小竜姫様のように、ほとんどの神族と魔族は何かに縛られているため、過去へと戻ることが出来るものは少ない。
その中でも、出来る限り時の流れを変えないためには、若い者でないといけなかった。その点彼女は最適だった。
時の流れがそれほど変わらないだろうという考えにより、もう一人として選ばれた僕は、過去の事を何度も聞かされた。
五年間修行に励み過去の勉強を続けた結果、計画を完遂するのに十分な実力と知識を得ることが出来た。
もとより強い力を持ち、僕の生まれる前から修行していたパピリオという少女もまた、それだけの力を持っている。
しかし五年というのは非常に短い、通常なら修行を積める時間はもっととれるはずだ。
それでも今なのは、僕の寿命がどれだけあるのか、わからなかったからだ。
僕だけしか存在しない種族であるため、寿命なんて僕が死ぬまでわからない。
環境が害を及ぼすかもしれないし、もしかしたら動物と同じ程度しか、生きられないかもしれない。
だから力をつけるのに最低かかる期間であった、五年間が採用された。
自分は今にでも死ぬかもしれない・・・そんな不安がいつも付きまとう。
唯一それを調べることの出来た心眼を持つ神族、ヒャクメはもうこの世にいない。

「大丈夫ですよ、リークナとパピリオは相性の良い性格だと思いますから」
「僕は、まだ自分に課せられた使命を、使命だと思えません。ですがこれは大きな責任を背負う事に他なりません。それが僕は辛いです」

そう・・・通常なら今僕がいる世界は、平行世界の一つであってすべてじゃない。
なのに僕が過去へと渡らなければならない理由、それはその平行世界自体の問題である。
何故そうなってしまったのかはわからない。しかし確かに事は起きていた。
すべての平行世界において、ハルマゲドンの発生が絶対となった。
通常ならありえないどころじゃない話だけど、それは確かに起きている。
ハルマゲドンの可能性は、無限の可能性の一つに過ぎない、しかしそれが絶対になったのだ。
ハルマゲドン自体が生存不可能の大破壊である。生存者がいる僕の世界はその中でも非常に珍しいのだ。
ハルマゲドンが起きても何の支障もきたさなかったという、そんな可能性だってあるはずだ。
しかし何かに仕組まれたように、それは許されない。
明らかに世界の摂理を壊す出来事により、平行世界は失われつつある。
無限に広がっていた可能性が崩れていっているのが今の現状だ。
次々と世界は存在を消し、いずれ僕の世界のみが残されるだろう。
少しでもルールが壊れただけで、いとも簡単に世界は消えてしまったのだ。
そして時の並行というものすら消え去り、この世界がすべてになってしまう。この世界も消えるときが来るだろう。

「僕には大きな期待がもたれています。その理由は確かにもっともらしいものかもしれない、だけど僕にそれが出来るのかわかりません」

この世界は、唯一虹精霊という存在が生まれ、生き残った世界だ。
だからこそ僕が選ばれた。時の抑止力を貫く可能性を信じて・・・ね。
僕にそんなことできるかわからない。
明らかにルールを無視した絶対を作らなければいけない。
できるはずないとも思える、それでも僕はやらなければいけない。

「だけど・・・横島さんへの恩返しだけは、絶対にするつもりです。これだけは僕にとっての使命ですから」
「パピリオも、同じ事を考えています。だから、分かり合えますよ」

そう笑顔で答えてくれる小竜姫様の顔に、一筋の涙が流れていた。
初めこの計画は、横島さんが過去へと渡るものとして考えられていた。
理由は簡単、横島さんなら何処で未来を変えればいいのかもわかるし、無駄に未来を変えてしまうこともないだろう。
僕とパピリオさんで既に、二人増えることになる。それも横島忠夫と美神玲子のすぐそばに・・・。
それだけで流れはかなりの変化を見せるだろう。例え僕とパピリオさんが完璧な行動をしても。
いくら修行を積んだって、絶対に抗えない流れがある。抑止力である程度の運命は変わらず進んでいくだろうけど、不安はぬぐえない。
しかし運命が変わるのはむしろ好都合だ。その時点で抑止力に対抗できた証となるのだから。

「僕は正直、パピリオさんが好きになれる性格だと思っています。だけどパピリオさんは僕を知りません。知らない相手が仲良くなれる対象であるかどうか、それは誰にもわからないって、僕はそう思います」

眠っているパピリオさんを、何度か見たことがある。
初めて見たときは、綺麗な淡い緑色の髪の似合う小柄な少女。それからだんだんと姿を変えていき、今では身長は僕と同じくらい、黒髪に緑色の目をした姿に変わっていた。
髪に含まれていた緑色の魔力が邪魔だったらしく、その魔力を目に宿した後、髪を黒く染めたそうだ。
彼女は寝たままであるため、精神面も能力も以前と変わらない。サ行を使わないという独特なしゃべり方をするそうだ。
身長も伸びず、精神的にも成長していない、そんな僕にとって、僕よりも年上でありながら同じ身長で、同じく精神面の幼い彼女は理想の相手とも言えた。
僕と彼女は過去の世界で、莉郁奈留(りいく なる)と莉郁織緋(りいく おりひ)という双子の姉弟として生活することになっている。
横島さんの住んでいるマンションの隣に建てられる家で、横島さんを出来る限り警護するためである。
抑止力に勝ってしまった場合、横島さんにはおそらく死の危険が降りかかる。それを防ぐためだ。
名前の由来は安直なもので、僕の名前であるリークナを日本人の名前のようにして、莉郁奈留となったようだ。
存在しない苗字ではあるが、神族の立場からすれば問題はない。
パピリオさんの場合も、逆から読んでオリピパ、ピやパはおかしいからオリヒハ、ひらがなにして不必要な最後の一文字を抜いておりひ、漢字にして織緋・・・となった。
ちなみに命名したのは小竜姫様である。安直ではあるが僕は嫌いじゃない。

「横島さんは、絶対的な世界の抑止力でした。明らかな力の差があっても彼には通用しない、ですが今度は違います、リークナとパピリオが抑止力に抗うことが出来た場合、横島さんの抑止力としての力は消え、ふとしたミスでさえ死に至るほどの危険性と隣り合わせになります」
「承知しています。横島さんの生きた道は険しすぎるから、そのすべてが死に繋がる罠になる。恐ろしいほどの危険が降りかかるでしょう。だから僕が守ります。これだけは・・・これだけは死んでも成し遂げないと、命を投げ捨てて僕を守ってくれた横島さんへの礼は、いつになっても返せません」

昼下がりに交わされる言葉は、それに似合わず重く大きなものだった。

「・・・辛いものですね。私は過去でまたあなたと出会わなければいけません。あなたを知らない者として・・です。この五年間、私はあなたを実の息子と思って育ててきたつもりでした。そんなあなたと出会わなければいけません。親ではなく対等の知人として」

小竜姫様の涙の理由はこれだったのだろう。
息子を知らない過去の自分が、その息子と出会う、切ない思いで心が満たされた。
息子として愛した相手が、過去へ戻っても息子として存在するならば、小竜姫様は救われただろう。
僕も小竜姫様を母だと思いたい、生まれて直ぐに自分を捨てた両親と比べれば、遥かに小竜姫様の方が親にふさわしい。

「僕は小竜姫様を母だと思っています。でも確かに、今の小竜姫様と過去の小竜姫様は異なる存在、平行世界という状況から言えばまったく異なる存在です。
過去の小竜姫様は今の小竜姫様じゃない、僕の母は今の小竜姫様しかいません。僕はこの考えを曲げるつもりはありません。
今の小竜姫様を、僕は母と呼べます。過去の小竜姫様を、僕は小竜姫様としか呼べません。姉と呼称することはあっても、母と呼ぶことは絶対にありません。
今日は母との別れの日です。僕の巣立ちの日なんです。僕はもう絶対に母に会うことができません。今日は永遠の別れの日です。だから・・・・ちょっとだけ泣かせてください」

母さんは無言で僕を抱きしめてくれた。
僕は泣き声も上げずただ涙を流していた。自分にとっての真なる母との別れ、堪え難い悲しさは容赦なく僕を切り刻んだ。










小一時間程時が流れた頃に、僕は口を開いた。

「そろそろパピリオさんが起きる時間でしょうか?」
「そうですね、祠に赴きましょう」

奇跡的な可能性の中で、パピリオさんは魂を取り留めている。
体の中で最も脆い物を挙げるなら、それは間違いなく魂、それを改造するのは禁じられた邪道中の邪道だ。
絶望的とも言える状況下で、彼女の魂は強く維持されている。
だが、今日こそが最大の山場であった。
改造した魂を体に完全に結びつけ、新たな命として活動させる。間違いなくいくらかの支障がでるだろう。
肉体の維持が効かなくなるならまだ良い、それどころが活動を開始してすぐに霊力が暴発してもおかしくない。
だから僕は自分の部屋の、戸棚の奥に隠した、小さな箱を取り出して、中から四つの玉を取り出した。
横島さんに渡されてから、使わずに保管していた物である。
それを小竜姫様に手渡しした。自分には使いたくても使えない物だったからだ。

「横島さんがあなたが霊力を操れないことを知っていて、この文殊を渡さなかったならば、今此処に生きていたのかもしれませんね・・・」

助けられてからずっと悔やんでいたことだ。
史上最強の霊的アイテムである文殊は、いかなるときも絶大な効果を発揮する。
そしてこの四つは、横島さんが最後に持っていた文殊すべてだった。
これを渡さずに自分で使っていれば、横島さんは死ななかったかもしれない、そして変わらず自分も生きているだろう、後悔は拭いきれない物として今も残っている。
少し重くなった足で、僕と母さんは目的にへと歩き始めた。










広い空間に空が広がる。ハルマゲドンにより偶然生まれたその場所は、非常に高い霊的濃度を持っている。
その真ん中の地面に大きな十字架が突き刺さり、その十字架には少女が張り付けられている。
多くの神族と魔族が集い、最後の作業が行われている。緊張感の漂う空気は重く、僕はただ呆然とその光景を見ることしか出来ない。
澄ました顔で眠りについている少女の近くに、見知った魔族がいた。少女の実の姉べスパさんだ。

「姉さん、見てるかい?パピリオがこんなに大きくなったんだ。しっかり目に焼き付けとかないとね、もう会えないんだよ」

べスパさんはその手を伸ばして、愛おしそうに少女の頬を撫でている。
姉とは横島さんの人生で、最も愛し最も切ない別れを遂げた女性、ルシオラさんの事だ。
話で聞いただけでも、それは悲しすぎる出来事だった。もしかしたら僕は、横島さんが傷つく現場を、そのすぐそばで見なければいけないのかもしれない。
パピリオさんも一緒に・・・姉の死に直面しなければいけないのだろうか?
僕は横島さんを守る。あの出来事が横島さんに対してのダメージで起きたことならば、僕が横島さんを守り抜けば、ルシオラさんは死なずにすむかもしれない。
それは横島さんに対しての、最高の恩返しになる・・・。
僕はまた一つ決意を固めた。


空間内の空気が変わる。パピリオさんの目覚めの時がやってきたのだ。
周り中から強い霊波が飛ばされる。魂と肉体の結びつきを促すその流れは、神秘的な光を生み出している。
青ざめた少女の体が微かに赤く変色してきた。そのまぶたがゆっくりと開かれる・・・。
その瞬間、別の場所に迷い込んだ感覚に陥った。
少女はその視線を僕に向け、僕はその少女の目を見ている。
止まったかと思えた時が動いていることを証明するように、少女をその場に止めていた紐が解かれ、スタッと小さな音を立てながら、少女が地面に立った。
お互い引き付けられるように歩み寄り、間合いが縮まっていく。
目前まで迫った少女に手を伸ばしたそのとき・・・突然少女は、魂が抜けたように倒れ掛かってきた。
開いたままの目に生気はなく、冷たくなっていく白い肌を、僕はただ抱きしめていた・・・。











続く・・・と思います 。


今までの評価: コメント:

この作品へのコメントに対するレスがあればどうぞ:

トップに戻る | サブタイトル一覧へ
Copyright(c) by 溶解ほたりぃHG
saturnus@kcn.ne.jp