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あの素晴らしい日々をもう一度

第七話


投稿者名:堂旬
投稿日時:05/12/18

 大きな入道雲が浮かぶ空。今日も太陽はその勢いに衰えを見せず、さんさんと輝いていた。

 ミーンミンミンミーーーン――――――

 セミたちの精一杯のラブ・コールが絶えず鳴り響いている。
 その音を聞きながら、久しぶりの学校、窓辺の席につく横島の顔はうかなかった。
 あのナイトメアの事件を経て消えた頭痛。その変わりに現れた妙な心のざわめき。
 横島は額に巻かれたバンダナを強く握り締めた。

(はあ……なんなんだろな、この感じ……情緒不安定ってやつか? ちくしょう…)

 そんな横島とは対照的に、横島のすぐ後ろの席に座る男はいつもと変わらず陽気なものだった。
 少々太めだがキリッとした眉、凛々しい眼、すらっとした鼻に男らしい口。前髪は目にかかるほど伸びており、全体的な髪の様子はぼさぼさと無造作に伸び放題。とはいえ、男の容姿は決して悪いものではなかった。
 とはいってもあのヴァンパイア・ハーフであるピートとはタイプが違う。ピートは美少年、といったタイプであるのに対し、その男はそう、男前といった感じであった。
 それでも女の子にまったくもてないのはそのあまりにも常識を逸脱した言動と、その身に纏うなんともマヌケな雰囲気によるものか。
 哀れなその男の名はそう、武田 武(タケダタケシ)――――――――

「なぁなぁ、横島。今ちょっと考えてたんだけども、『人』っていう字はヒトとヒトが支えあって出来てる的なこと言われてんじゃん? やっぱあれっておかしくね? じゃあ『入』っていう字はどうなん? おかしな話じゃね?」

「どーでもいいよ馬鹿野郎」

 後ろから突然かけられてきた言葉を一蹴する横島。
 ちなみに席順を解説すると、横島は一番窓側――廊下の反対側だ――の後ろから二番目、武田はその後ろ、すなわち一番後ろの席になる。その武田の隣に座るのは、愛子だ。

「ん、待てよ…? そうか…そういうことか! 『入』っていう字は四つん這いになった人とその後ろに立つ人によって構成されているんだ!!! つまりそう!! バック……人間の野生の姿なのだよ!!!」

「何言い出してんのよアンタはーーーーー!!!!」

「ぶふぅッ!?」

 聖なる学び舎でとんでもないことを口走った武田の口を愛子の机が塞ぐ。武田は口の中を盛大に切りまくることになった。
 ふらつき、窓から半身を乗り出した武田の口から止め処なく血が零れ落ちる。なかなかにグロい映像である。
 そんな武田を横目で見ながら横島は感心したように呟いた。

「なるほどねえ…それなら『入る』って意味にも合うなあ……」

「コラァーーーー!!!! 横島君、アンタもかーーーーー!!!!」

 愛子の机が今度は横島の頭頂部に突き刺さる。血を噴水のように噴き出しながら横島はその場に崩れ落ちた。
 うつ伏せに倒れたまま、血を噴き出しピクピクと小刻みに痙攣している。ちょっとこれはやばそうだ。
 そんな横島の様子を見ながらすでに血を流した跡さえ消えた武田は、怪訝そうに首をかしげていた。
 愛子の肩に無骨な手が乗せられる。振り向いた愛子の目に映ったのは、にこやかに微笑む担任教師の姿だった。にこやかに微笑んでいるというのに、彼の額にはぶっとく血管が浮き出ている。

「お前ら三人とも廊下に立っとれーーーーーーーー!!!!!!!」

 笑顔から一転、般若と化した先生の口から振り絞られた怒声。
 どうやら授業中だったご様子です。
 横島、武田、愛子の三人が教室から放り出されると、ピシャン! と音を立てて入り口のドアが閉じられた。ご丁寧にカチャリ、と鍵のかかる音付きだ。


「な、なんで私まで……?」




 どんまい、愛子さん。




あの素晴らしい日々をもう一度

  第七話   動き始めた逆行者  前編







 昼休み。
 昼食として横島はパンを、武田は弁当をたいらげた後、暑いというよりはむしろ熱い太陽光をカーテンで遮り、それぞれの席でまったりしていた。昼になって風が吹き始め、窓辺の二人の席は中々に心地良い。

「なあ…横島」

「んあ?」

 机にひじをついたままの姿勢で、武田が何気なく口を開く。横島は机に突っ伏していた体を起こして武田の方へ視線を向けた。

「どうした? たけし」

「いや…お前、何かあったんか?」

 武田の問いに横島は思わず目を見開いた。

「どうして?」

「なんかな〜…いや、よくわかんないんだけどな? 何か変なんだよ最近のお前。なんつーか、らしくないっつーか。覇気がねーよ、覇気が。いや、よくわからんけども」

 なにもないんならいいんだけどな、と武田は最後に付け足した。
 横島は驚いて―――それから、嬉しくなった。
 よく、見ている。
 やべーな。こいつ、友達だな。親友だ。
 いや、むしろ心友か?

(あ〜、俺こいつのこと好きだな〜やっぱ。いや、友達としてな?)

 近くにエスパーがいるわけでもあるまいに、横島は胸中でそう言い訳すると武田の方を向き直った。
 そして、ナイトメアの一件以来調子が悪いことを話しだす。

「その前はずっと頭痛が続いててな。そういうわけで、なんか落ち着かないんだよ最近」

「頭痛? あ〜、そういや調子悪そうだったなその頃。どれくらい続いたんだ? 頭痛は」

「愛子の中でお前と初めて会ったろ? その時にはもうちょくちょく痛んでた」

「ふ〜ん…けっこう長いこと続いてたんだな、頭痛。原因に心当たりはないのか?」

「いや…それがまったく……ん? 待てよ?」

 横島はふと何かに思い当たって首をかしげる。
 そういえば、何かあったような気がする。そう、あれは確か―――前に妙神山に行った日の朝。

「コンビニ行って、帰りに公園通って、そしたらその時なんかピシャーン!!ってなって…変な声聞こえて……美神さん見たら変なイメージが頭に浮かんで………頭痛がして」

「それじゃん」

 武田は呆れたように声を出す。

「それじゃん。それしかねーじゃん。原因」

「やっぱし?」

 汗を垂らしてニヘヘと笑う横島を見つめ、武田は大きくため息をついた。
 そして万感の思いを込め、


「バ〜カ」


 と口にした。









「バカとはなんじゃオラァーーーーーーーーッ!!!!!!!!!」

「バーカバーカバーカ」

 突如始まった馬鹿同士の取っ組み合いに、クラス中の視線が集まる。
 昼休み終了のチャイムがなるまで二人の争いは続いていた。

















 そして放課後、喧騒に包まれる教室で帰り支度を進める横島に武田が声をかけてきた。

「横島」

「ん? なんだよ」

「妙神山行こうぜ」

「あぁッ!?」

 あまりに突飛なことを言い出す武田に横島は思わず大声が出てしまう。

「え? 何で?」

「いやいやいや、ほら、お前の頭痛さ、明らかに霊障だったわけじゃん。妙神山に行けば今の不安についてもなんかわかるかもよ? なんたって神様がいるんだろ? ごっつ可愛い」

 横島のことを心配しての発言に聞こえなくもないが、最後のほうで台無しである。どうやら武田は以前横島から小竜姫の話を聞いたことがあったようだ。
 要はこれを機に実に初心で可愛い神様を見てみたい、そしてあわよくばお近づきに、ということらしい。付け加えるならば「暇だし」だ。
 もちろん同様な思考回路を有する横島にそれがわからぬはずはない。とはいえ、悪くない提案ではある。小竜姫なら今の自分の状況について何かわかるかもしれない。

「そうだな…よし、行ってみるか」

「おし! そうこなくちゃな!! で、いつにする?」

「今週は仕事入ってないからな。じゃあ、土曜にでも行くか」

「オッケー。じゃ、またな!」

「おう、じゃあな」

 若干スキップ気味になりながら教室から出て行く武田の姿を見送る。
 横島も中断していた帰り支度を整え、教室を出る。
 思わず、ため息が出た。

(またあの山を登んのか〜……まぁ荷物がないだけマシ…か…?)

 とりあえず迷ったら確実に死が待っている。横島は普段使わぬ脳をフル活用して妙神山への道のりを思い出していた。






 土曜日、午前六時。
 横島は玄関のドアをドンドンと叩かれる音で目を覚ました。枕もとの時計で時間を確かめた彼は、小さく舌打ちを漏らす。
 不機嫌丸出しで起き上がると玄関に向かってどかどかと歩み始めた。

「横島ーー!! 横島ーー!! 起きろーー!! 行くぞコラーーーー!!!!」

「うぅるせーーーー!!!!!」

 ドアを勢い良く開け、そこにいた人物―――武田を怒鳴りつける。

「何時だと思ってんだコラァ!!」

「午前六時!!!!」

「はえーよ!!!! 爽やかに言いやがって!!!!」

 白い歯をきらりと光らせて言い切る武田。横島はもうそれ以上何も言う気になれなかった。

「ほら行〜く〜ぞ〜! 美少女神様を赤面させに行〜く〜ぞ〜〜!!」

「わかった…わかったからもう黙れ……準備してくる」

 十分ほどでいつもの服装に着替えてきた横島。
 こうしてふたりは朝早く、初心な美少女竜神様を求めて妙神山へと旅立った。





 土曜日、午前十時。美神除霊事務所。
 美神は戸惑っていた。なにしろ、この美神除霊事務所に神様が訪れてきたのだ。その神様といえば事務所の何がそんなに珍しいのか、しきりにキョロキョロと辺りを見回している。

(なんで小竜姫がココに!? 神様にまで後ろ指さされるようなことやったけ、私!?)

 そう、霊峰妙神山の管理人である小竜姫がなんと自ら下界に降り、美神を訊ねてきたのである。何の事前連絡も無しにそんなことをされてはさすがの美神も平然とはしていられない。今までの所業からして。
 戸惑いながらも美神はおキヌに一番いいお茶を準備するようにと指示を出す。さすがに神様に対する気配りはしっかりしているらしい。
 美神はなるべく戸惑いを表に出さないよう気張りながら小竜姫が座っているソファーの机をはさんで向かい側に腰掛ける。

「それで? 今日は一体なんの用なの?」

 美神がそう声をかけると、小竜姫は何か言いよどむ様に、口を開いては閉じ、体を乗り出しては戻し、と明らかに挙動不審な態度を取った。

(何!? 何なのよ!? そんな言いにくいようなことなわけ!?)

 小竜姫のそんな態度は美神の不安を煽るだけであり、美神はもう一目でわかるほど顔を青ざめ、汗を垂らし、それでもそれを取り繕おうと四苦八苦している。こっちはこっちで十分挙動不審である。

「美神さん!!!!」

「な、何!?」

 意を決して小竜姫は身を乗り出し、テーブルをバン!と叩いて口を開いた。その剣幕にお茶を運んでいたおキヌの肩がビクンと跳ね上がる。小竜姫の真向かいに位置取っていた美神はそれ以上の反応だ。
 一体小竜姫は何を言おうというのか。美神は思わずごくりと唾を飲んだ。つられておキヌも唾を飲んだ。
 小竜姫は口を開いた。

「美神さん……助けてください!!」

「ほえ?」

 思わず美神の口からマヌケな音が漏れる。横島がそこにいたなら命の危険も省みず腹を抱えて爆笑していただろう。それほどに美神の様子は滑稽であった。おキヌですら思わず吹き出してしまったほどに。
 事情を聞けば、現在竜族の会議が地上で行われており、そこにかの竜神王も出席しているのだという。それで竜神王の息子である天竜童子を妙神山に預けることになった。しかし遊びたい盛りの天竜童子は天界からくすねた最上級の結界破りを用いて妙神山を脱走。そのまま行方不明とのこと。

「それで…私と鬼門たちで探そうとしたんですが…私たち、俗界のことに疎くて…最初は唐巣さんの所を訪ねたのですがちょうど外国に行かれてしまっていて……」

「なるほどね〜。それで私のところに、ね」

 小竜姫の説明を聞いてようやく合点がいったように、美神は頷く。おキヌもなるほどと頷いた。その頭にはたんこぶがぷくりと浮かんでいる。
 先ほどまでの小竜姫の態度はやはり人間に頼るということに少々のためらいを感じていた故のことなのだろう。

「殿下の命を狙っている輩もいるという話も聞きます。なるべく早く見つけて保護しなければ……」

「オーケー、わかったわ。引き受けてあげる」

「あ、ありがとうございます!!」

「神様に恩を売る機会なんてめったにあるもんじゃないしね〜♪」

 美神の呟きを聞いてなんとなく不安を感じる小竜姫であったが、他に頼れる者もいないのでそこはぐっと飲み込んだ。自分の人脈の狭さを恨まなくもないが、それは商業柄しょうがないとあきらめる。なにがともあれ、今は殿下の保護が最優先だ。

「ではさっそく出発しましょう!!」

「その前に小竜姫。アンタ着替えなさい。下の馬鹿二匹も」

 窓から下の様子を見下ろし、美神はため息をつく。
 その目には二人の鬼門が人垣につつまれ、注目を浴びている姿が映っていた。







 その頃―――――

「うおおおおおおおお!?」

「たけしぃいぃいぃい!!!!」

 足を踏み外し、崖から転落しそうになる武田の手を横島が掴む。

「横島…! だめだ! このままじゃお前まで落ちちまう!! 手を離せ!!!」

「馬っ鹿やろう……!! くだらねえことしゃべる暇があったら力を込めろ!! 腕を伸ばせ!! そして…這い上がるんだ!!!!」

「横島……!!」

「いくぞたけしぃ!! ファイトォォォォオオオオ!!!!!」

「いっっっぱぁぁぁあああつ!!!!!」

 気合いの声と共に横島が一気に引き上げ、武田が這い上がる。無事危機を脱した二人は爽やかな汗を流しながら抱きしめあった。

「さあ、もう頂上は近い!! 行くぞたけし!!」

「ああ!! 誰にも俺らは止められねえ!!!!」

 お互いを鼓舞しあい、二人は再び修行場を目指して駆け出す。
 この時、二人の間には確かに友情が芽生えていた。





 天竜童子は不安を精一杯の虚勢で隠しながら、どことも知れぬ道をさまよっていた。
 勢いに任せて妙神山を飛び出したものの、目的地であるデジャブーランドまでの道のりがまったくわからない。
 道行く人々を呼び止めて聞いたりしても、驚くほど他人に無関心な街の人々はことごとくこの高慢ちきなお子様を無視していった。

「余を誰だと思っておるのじゃーーー!!」

 などと叫んでみても事態は好転するわけもなく、天竜童子は途方にくれていた。

「うう…悲しくなんかないぞ…寂しくなんかないぞ……!」

 ごまかしを呟きながら天竜童子は己の勘を信じ、歩き続ける。
 その後姿をにやけながら見つめる二つの妖しい影があった。

「み、見つけたんだな」

「さすがお前の鼻は竜族一だぜ、イーム」

 小竜姫の言っていた殿下の命を狙う輩―――それはもう童子のすぐ側まで迫っていた。



 時は十分ほど前に遡る。
 小竜姫の話によれば、天竜童子は妙神山を脱走した晩、てれびじょおんで熱心にデジャブーランドのCMを見ていたという。
 とりあえず手がかりといえばそれだけしかない。美神たちはデジャブーランドを目指していた。

「お似合いですよ、小竜姫様」

「や、やめてください…恥ずかしいのを我慢しているんですから……」

 おキヌの言葉に小竜姫は顔を赤らめる。
 小竜姫は美神の指示に従って、街を歩いていても違和感が無いように服を着替えていた。
 その格好はというと、水色を基本とし、白く可愛らしいロゴの入ったTシャツに、膝上二十センチ程の淡い黄色のミニ。実に良い。
 その服は小竜姫の可愛さをさらに引き立て(恥ずかしそうにしているのがまた男の目を引きつける)、結局注目を浴びてしまっているのだが、それでもいつもの服に比べればマシというもの。
 もちろん、清純乙女小竜姫。この服を着ることに相当難色を示した。というか、完全拒絶だった。
 しかし美神が「アンタに合うサイズはこれしかない。大体こうやってもめてる間にも殿下には危険が迫っているかもしれないのよ」と無理やり説得。この辺、美神のちょっとSな部分が見え隠れ。
 観念した小竜姫は渋々その服に着替えて今歩いているのだが、ひどく気になるのかスカートの裾を頻繁に下に引っ張っている。
 鬼門たちはというと黒いスーツに身を包み、また逆に人目を引いている。
 どーしたって目立つ連中である。

「じゃあ電車に乗るわ。はぐれないでね……ってもういねーよもーーー!!!!」

 先を歩いていた美神が振り返ると小竜姫とおキヌの姿が消えていた。代わりに見えるのは混雑する人、人、人――――。

「小竜姫たちは見えない!?」

「ぬう……これだけ人が多くてはなんとも……!」

 頭ひとつどころか胴体ひとつ飛びぬけた長身をもつ鬼門たちをもってしても、うじゃうじゃと沸いて出る群衆から二人を見つけることは難しいようだ。
 向こうにはおキヌがいるのから目立ちそうなものだが―――どうやらちょっと目を離した隙にとんでもない方向に行ってしまったらしい。そういえば小竜姫は物珍しそうにキョロキョロと辺りを見回して落ち着きが無かった。
 美神はこの件が無事片付いたらおキヌと小竜姫、二人を並べて説教してやろうかしら、と頭を押さえ、ふぅ、とため息をついた。

「…! 美神殿!! あれを!!」

「何ッ!?」

 美神は鬼門(右、左、どっちかは不明)が指差した方向に素早く目を向ける。そこには人間に擬態してはいるが、あきらかにソレとは違う雰囲気を漂わせた二人が歩いていた。

「あれはまさか…魔族!?」

「ひょっとしたら天竜童子の命を狙っているってやつらかもね。あとを追うわよ!!」

 言うが早いか美神は群衆を掻き分け、駆け出した。








 一方その頃―――――

「見えた!! あれが修行場だ!!!!」

「やった!! 俺たち、遂にやったんだな、横島!!!!」

 あまりの達成感に、二人は感動の涙にむせび泣く。思えば色々な苦労があった。
 崖から落ちかけること17回。転落すること12回。
 熊との遭遇3回。逃げ出してはぐれること2回。
 食料を求め、森をさ迷い歩き、迷った。
 近道をしようと登山コースを外れ、迷った。
 無茶して崖をよじ登ろうとして、落ちて色んなとこ捻った。
 不安と苛立ちから二人の仲が険悪になったりもした。でも食料を分け合って僕らは友情を確かめ合ったんだ。

「色々あったな……」

「ああ…色々あった」

 横島の言葉に武田はウンウンと頷く。
 素人だけで登山することがこんなに危険を伴うとは知らなんだ。二人はまたひとつ賢くなった。

「だがその苦労もようやく報われる……行こう!! あの場所へと!!!!」

「ああ!! もう俺たちを阻むものは何もない!!!!」

 二人は駆け出した。残った力を総動員して、目の前に見える、美少女神様がおわしまする妙神山修行場へと。












 都合により留守にします。申し訳ございません。
     
       妙神山管理人小竜姫













「横島ァァァァァァァ!!!!!!!!!!」

「なんじゃコラァ!!!! 俺が悪いってか!? こんなもん予測不能の不慮の事故やろがーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」























 どこにそんな体力が余っていたのか、全力で取っ組み合いを始めた二人。
 たっぷり三十分も揉み合って、二人はため息をつきながら下山を始めた。

「あ〜あ…もうなんだよコレ…やるせね〜よ、せつねーよ。ていうか留守にするって頂上で告知すんなよぅ……山の入り口んとこで教えてくれたらええやんけ……もう意味わかんね。意味わかんね、マジ」

 ぶつぶつと愚痴りながら歩く武田の後ろで突然横島は立ち止まる。
 横島はもう一度修行場を振り返ると、ぼそりと呟いた。



「そうか…もうそんな時期か……」



 横島が立ち止まっていることに気付き、武田も歩みを止め、振り返る。

「お〜いどした? なんかあんのか〜〜?」

「いや、何でもないさ」

 武田の言葉に笑顔で答え、『横島』は悠然と歩き出した。





  第七話   動き始めた逆行者  前編


           終


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