椎名作品二次創作小説投稿広場


悲しみの代価

語部(壱)


投稿者名:朱音
投稿日時:05/12/17

自分は運は良い方だ。
殺しても死なないと豪語できるほどには、死ぬような体験はしてきたし・・・・
まぁ実際死にそうというより死んだんじゃと思った時もあったが。

それに反するように、自分の望んだ幸福というものは最後の最後であっても手に入らなかった。

今まで、一度として願ったものは。
・・・本当に願ったものは叶わなかった。
否、叶う寸前で壊れたのだ。

それらは余りにも些細な願いで、些細過ぎて誰もが聞いた瞬間「お前が?」と問われた。
周りから自分がどのように見られていたのかは熟知していたし、理解もしていた。
願いを聞いた時に、他人がどう感じても構わなかった。

いずれかは叶うと思っていたから。

あぁ、そうではなかった。
実に僅かな時ではあったが、望んだ幸福の寸前を手にした瞬間は確かにあった。

だからそれで十分なのだ。

だから・・・・・これから行う事はただ単なる自己満足。
自分の願いを叶えてくれた人たちに、自分勝手な幸せを押し付けよう。

「・・・もうすぐ」

そう、もうすぐ自分をこの枝に縛り付ける憂いは無くなる。

「長い時を待った。この僅かな日々の為に」


さぁ、彼らに対峙した時どこから話せば良いのだろうか。語りつくせぬこの思いをどのように表現すれば良いのだろうか。

隠し通した謎。
語らなかった言葉。
失われつつあった真実を、彼らにどう表現したら良いのだろう。

おそらく自分が残す衝撃は天界・魔界・人界な大きな波紋を描くだろう。
それを自分の目で確認できないのは残念ではあるが、自分がいるという歪みを考えるとそう長くはいることは出来ない。

「伝えたい言葉は山のように有るのにな・・・運命とはやはり残酷だな」

さぁ、語るべき言葉を用意しておこう。

「やはり、彼女のことだけは伏せなければな」
かつて自分の妻であった最愛のヒト。
あのヒトには一度も逢っていないのだから、関連性を残してはいけない。


約束した時は間近だ。

「さあ行こうか、カノエ。我が愚かしき、我が儘の為に」
「喜んでご一緒しましょう。我が主の為であれば」


微かに彼の口角が上がった。







「次!」

無機質な場所。
半円形に広がる空間。
聞こえてくる声は、スピーカー越しに落ちる叱咤と・・・。

人ならざるものの咆哮。

そして・・・
「っどっちくしょうぅぅ!!」

『百鬼夜行』と俗名で呼ばれる機械の中で、一人の女が呻く。


さて、時を遡る事にしよう。
四時間ほど前の事である。
一人の女性が告げた言葉が、

「一時的にICPOに席を置いてもらう事になるわ」

一切の感情を切り捨てた表情で彼女、美神美智恵は「美神GS事務所」に居た面々に告げた。

「けど」
「けども何故も。今は許しませんよ令子、今の貴方に先ほどの魔族達…いいえ、ただ一人とでも互角に戦えるとでも思っているの?」

美神はぐっと息を飲む。
確かに美智恵の言っている事は事実だ。

今の美神の力では…美神の持つ装備総てを使ったとしても勝てはしないだろう。
それは純然たる力の差だ。
どんなに天性的な格闘センスと、豊富な知識があっても余りにも開きすぎた力の差というものはそう簡単には縮まらない。

蟻が像を殺す事が有っても。
像は地球を殺せないのだ。
たとえ像が地球上の緑総てを食しても、ただ単に死に絶える種族があるだけであり、地球そのものの死ではないのだ。
大きさも存在も何もかもが違うモノにはその差は余りにも大きい。


「時間はそんなに多くは無いわ。それでも、その時間を如何に有効に確実な手段として使用できるか。
貴方も美神の女なら、この時間を有効に使いなさい」


そして、彼女はこう告げる。
力を付けたくはないか?と。



ここで始めて、時間を元にもどそう。




「なにを休んでいるの、まだまだ次はいるのよ!!!」

『百鬼夜行』の中で休む間もなく映像として出される妖怪に魔族。
当初は美神の知っているものばかりが、三倍の能力と力で出されていたが今は美神の知らないものばかりが出てきている。
今彼女が行っているのは、妙神山で行った事のある霊的な能力の強化では無い。

傍から見ればただの喧嘩にしか見えない。
それでも少しずつ確実に出される映像を消していく美神。
彼女から出る霊気が緩やかになるのを、美智恵は感じ取っていた。

今までは神通棍に霊力を纏わせたままだったものを、緩やかに強弱をつけて流れるように霊力を出し入れしてる。

霊力をこれ以上上げるのが難しいのならば、使い方を工夫すればいい。
力を付けたくはないか?と問うた美智恵は美神に百鬼夜行内で、休まず、倒れず、出される百。
この総てを倒せと言われた。
神通棍のみを持たせ、札もアイテムも無い状態で今美神は戦っている。

「考えなさい!!そしてその身で覚えるのよ。力の流れ方、強弱の付け方。
自分が如何に動くのではなく、相手を如何に誘うかを。さあ次、どんどん行くわよ!」

美智恵の叱咤を耳に入れながらも、美神の身体も霊力も既に限界を迎えていた。
プツリと糸が切れた人形のように倒れこんだ美神の姿を確認して、美智恵はシステムを終了させる。
とりあえず、初日としてはこの程度だろうと区切りをつけて。

美神の事は西条に任せ、美智恵は自分にあてがわれた一室に篭る。


一人になれば必然と思考の渦に捕まる。

美智恵としては、確実に打てる手を打っている。
そう豪語することができるはずなのに、この言い知れぬ不安は一体なんなのだろう。

まるで・・・・・。




今していること総てが無駄でしかないような。



美智恵は頭を振る。
たとえ無駄だったとしても、できることをしよう。
そう決めた。


それしか、ただの人である自分には出来る事はないのだ。


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