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上を向いて歩こう 顔が赤いのがばれないように

サイレント・ヴィレッジ


投稿者名:由李
投稿日時:05/12/16

俺の名前は伊達雪之丞。正規ではないがGSだ。年明け早々今中国に来ている。
無許可でいろいろとGSの仕事をやってきたよしみか、ある日俺のところへ謎の依頼状が一億の小切手と一緒に送られてきた。
俺は身が打ち震えるほど興奮した。
一部の強者だけがもつ感覚、強いやつと会える予感がびんびんしたんだ。
手紙が届いたその日のうちに、俺は中国へと飛び立った。





サイレント・ヴィレッジ





軽トラックから見える景色はなんてことはない、つたが幾重にも絡まる陰気な林と一本道のあぜ道だけだった。
太陽が真上にあるというのに、差し込む光を邪魔するように木の枝がからまっていて、まるで天然のトンネルの中を走っているようだった。
景色に飽きた俺は運転手の方を横目で観察してみた。こいつは依頼人の部下らしい。
俺のところへ来るやつは九割が何らかの犯罪者だ。
ぽんと一億も出せる依頼人が犯罪者ならば、きっと裏の大きな組織だろう。
その部下であるこの恰幅の良い男はさしずめ組織の下っ端といったところか。
一見すれば普通の男だが、俺に言わせてみれば怪しさバツグンだ。
一般人と裏のものとの見分け方は難しい。
強いて言えば、その身の振るい方から感じ取れる裏の住人の気配。
それが一般人と裏で働くものとの決定的な違いだ。
それを感じ取れるものもまた、裏のことを知っているやつだけだ。
今回の依頼は至って簡単だ。
山奥の村に住んでいる住人が突然悪霊と化したので、そいつらを退治して欲しいってだけ。
どうだ簡単だろ。ところが仕事の裏まで考えると一気にややこしくなる。
なぜ村人が突然悪霊と化したのか。
なぜそれを警察や正規のGSには言わず俺のところへ依頼を出したのか。
依頼人は何者なのか。
だがこんなこと考える必要などない。
俺は身震いするような戦いの予感に浸れるなら月の裏側まで行けるからな。





** 第一話 ソウ





村の入り口が見えると少し離れた場所で軽トラックは止まった。
エンジンを切った運転手は、錆びたのこぎりのような声を出して言った。

「入り口に依頼人である俺のボスがいる。俺は終わるまでここで待っている」
「煙草でも吸ってろ。一箱終わる前までにこっちも終わってるさ」

運転手はぶっきらぼうに笑うと懐から煙草を取り出した。
俺は軽トラックから降りた後、村の入り口に向かってあぜ道を歩き出した。
一歩村に近づくたびに感じる霊圧が少しずつ高まる。
俺は興奮する脳内物質でも分泌させてしまったのだろうか。
荒れ果てた村の入り口でスーツ姿の男を発見したしたとき、俺は笑っていたのだ。





** 第二話 鼻に傷のある男





男はぴしっとした黒のスーツに身を包み、村の入り口に点在する岩の一つに腰を下ろしていた。
俺を発見すると岩から立ち上がり近寄ってくる。

「こんにちは。リ・シュンと申します」

上品で低くも無いのに凄みのある声。近くで見るとリ・シュンの格好の異様さが目に付いた。
細身の体に張り付くような黒いスーツ。まるで今から会社に行くサラリーマンのようだ。
優男という表現が似合いそうなすっきりした顔立ちに、カミソリのように鋭い目が二つ長髪の間から見える。
年齢は三十台前半くらいだろうか。
そして一番の特徴は鼻を横断する傷跡。随分と前につけられた傷みたいだ。
俺ならわかる。こいつは優男でもサラリーマンでもない。
ましてやちんけな犯罪者でもない。相当な大物だ。

「自己紹介はいらない。わかっている情報を教えてくれ」

俺は随分とラッキーな依頼者に目をつけられたことに更に興奮し、焦る気持ちを抑えつつ仕事の話を切り出した。
リ・シュンも無駄話はあまり好きではないらしく、すぐに俺の知りたい情報だけを答えてくれた。

「村の住人は百人前後でしたから、悪霊の数もそのくらいです。村の広さは畑を合わせると八百メートル四方くらいかな。悪霊は村の中から外には出てきません。この事故の原因は後で我々が調べます。村の中にあるものは口外しないでください」

百人程度で村もあまり広くないなら今日一日で十分だろう。
もしも霊力が尽きたなら村の外に逃げればいい。村のなかにあるものなんて興味は無い。
中国の人里離れた山奥にある村、それだけで大体想像がつくしな。

「ドラッグか」

俺は村の方に顔を向けつつ、横目でリ・シュンを見ながら言った。

「はい」

リ・シュンは別に悪びれた様子も無くあっさりと認めた。肝の据わっている男だ。

「口外したら殺します。依頼をミスしても殺します。逃げたら追いかけて殺します。それではお気をつけて」

早口にまくし立てると、リ・シュンは軽トラックが止まっている方へあぜ道を歩き出した。
流石にチャイニーズマフィアは言うことが違う。
まあ簡単に俺を殺せると思っているのなら大間違いだがな。
しばらく細身の背中を睨みつけていたが、それが無駄とわかると、俺は悪霊の支配する村へと足を踏み出した。
腕が鳴るぜ。





** 第三話 蛾





村の入り口を通り抜けると怪しい気配にぞくっと寒気を感じた。
肌の上を薄い膜が通過するようなその感覚は、結界を通り抜けたことを俺に伝えた。
何らかの事情により突然霊力が高まった地帯にはよくある現象だが……果たしてこの結界は自然とできたものなのだろうか。
あほらしい。自然にできたんじゃないとすれば、誰がこの結界を作ったっていうんだ。
考えるのをやめて村を見渡してみた。
電気が通ってないらしく、まるで昔にタイムスリップしたみたいな村だ。
家は当然木で作られたものばかりで、壁には虫食いや雨風にさらされて出来た傷だらけで余計質素に見えた。
俺はさらに村の奥へと進もうと足を踏み出したとき、家の中から何かが出てくるのが見えた。
人影か、違う、人ではない。
頭蓋骨だけが浮遊し夜の街灯に群がる蛾のようなおびただしい数の霊魂。
それはは徐々に数を増していく。

「グェッ グェッ」
「ニンゲンガ キタゾ」
「アアアアアウウウウウウウ」
「ニンゲン ニンゲン」
「ア ア ア ア ア ア ア」

一、二、三……十四、十五、十六……四十五、四十六、四十七……俺は数えるのをやめた。

「アアアアアア!」
「グウウウウウ!」
「ゴオオオオオオ!」

霊魂たちは一定数の数が集まると、示し合わせたように一斉に俺に向かって飛び掛ってきた。
こいつらはいわば準備運動だ。
俺は村に入った瞬間からこいつらとは別物の霊圧を感じていた。
それは強力で、邪悪で、歪んだ霊圧だ。

「死にたいやつからかかってこい! いや、もう死んでるか! はははは!」
「シネシネシネシネシネシネシネ!」
「コロスコロスコロスコロスコロスコロス!」

俺は空を覆い尽くす霊魂たちに駆け出していった。





** 第四話 謎ナゾ





霊波砲一発で三、四匹の霊魂が消滅したが、そんなことじゃ霊魂たちの勢いは収まらなかった。
四方八方から襲い掛かる霊魂はかわすには数が多すぎた。
俺は自分の攻撃の間合いに入ったやつから順に、かたっぱしから消していった。
数は多いが一匹一匹の霊圧は低い。一回の攻撃で必ず一匹は仕留められる。
霊魂たちは一匹じゃかなわないことを知ると合体して襲ってきた。
二匹分の霊魂ならまだ一撃だが、三匹、四匹と数を増していく合体した霊魂は少しばかり気合を入れないと消えなかった。
だがいくら襲ってきてもこんなやつらじゃ準備運動の域は出ない。
現に俺は最後まで魔装術は使わなかった。

「ウウゥウッウッウウ」

霊魂の群れは瞬く間に数を減らし、俺の前には一匹の霊魂が浮遊しているだけとなった。

「お前で最後か。雪之丞にやられましたって天国で自慢するがいいさ」

ついに最後の一匹となった霊魂は俺に襲い掛かることはせずに空中に留まっていた。
その姿は何かに耐えているようにも、怯えているようにも見える。

「オレハ シニタクナイ タノム タ タステクレ」
「な、なに言ってんだ?」

懇願するように俺に助けを求める霊魂はまるで涙を流しているようにも見えた。
不思議に思った俺は村で何があったのか聞いてみた。
空中で不安定に飛ぶそいつは消え入りそうな声で言った。

「オ オレハ キリステラレタ ジッケンデ……ヤツハ………アクマ……マ…ゾ…………」
「お、おい何が言いたいんだ! おい!」
「オレタ…チハ…タダノ…ステゴ……セカイハ…モウ………」

苦しそうに答える霊魂は急に霊圧が不安定になった。
間もなく霊魂は音も無く俺の前から消えた。
切り捨てられた? 実験? 悪魔?
そこで初めて不安を感じた俺は急いで村の入り口へと走り、村から外へと飛び出した。
しかし俺はそこでおかしな現象に見舞われることとなる。
村の外へと出たはずの俺が村 の 中 へ と 入 っ て い た の だ。

「空間が捻じ曲がっている……なんなんだこれは……」

このままじゃ無限のループだ。おそらくこれは俺が村に入った段階で発動したものだろう。
これでこの結界が作為的に張られたものだと証明できた。
だがそれにしては結界のレベルが人智を超えている。
人間だけを通し、霊は通さない。
人間が中に入った瞬間トラップとして入り口の空間が閉じる。
結界士が得意とするトラップ術の応用か。
だがここまで大きい結界となると相当な実力と知識、それに経験がいる。

「ふふふ……」

俺は危機的状況に陥って頭がいかれちまったのかもしれない。
トラップにはまって村から出られなくなり、そして村の中では依然高い霊圧を感じるというのに、なぜ俺は今笑っているのだろうか。
そうだよ、これだよ。俺が求めていたのはこれなんだよ。
あのチャイニーズマフィアが何者なのか、この結界を張ったものが誰なのか。
そんなことはこの戦いを切り抜けてから考えればいい。
一番大事なのは、村の中に俺を喜ばせてくれるだけの敵がいるということだ。

「俺は最高に幸せものだぜ……ふははは!」

俺はいかれてなんかいない。もともとネジが緩いタチなんだよ。





第五話 ケシ畑と二匹の死神 へつづく


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