椎名作品二次創作小説投稿広場


上を向いて歩こう 顔が赤いのがばれないように

惨劇のメリークリスマス


投稿者名:由李
投稿日時:05/12/11

昨夜未明、またもや通り魔事件が起こりました。
被害者のタマモさんと犬塚シロさんは病院に搬送され、タマモさんは軽傷ですみましたが、犬塚シロさんは未だ意識不明の重体です。
目撃者の証言によりますと、犯人は大柄でサンタクロースの格好をしていたということです。
サンタクロースの格好をした犯人による一連の事件での被害者は、これで十四人、死者の数は九人にのぼりました。
警察では民間のGSの手を借りた対策本部が設置されており、カルト的な連続通り魔事件として全力で捜査に当たると共に、夜間のパトロールを強化するとのことです。
次のニュースです。
麻薬所持容疑でおぎやはぎの突っ込みのほうが逮捕されました。警察の調べでは……。





惨劇のメリークリスマス:前編





殺人サンタが凶行を始めたのはクリスマスの十三日前のことだった。
学校帰りの高校生、男女四名が襲われ、全員が惨殺されるというショッキングなニュースがその日ブラウン管に垂れ流された。
その後立て続けに犯行を重ねていったが、犯人が捕まることなくもうすぐクリスマスが訪れようとしている。
俺たちのところへ依頼を出したのは西条だ。オカルトGメンの調べで奴の凶器が霊刀だということがわかった。
だがGメンは新型オカルトドラッグの摘発で随分忙しいらしいし、西条はまだ当分入院が続きそうだ。
そこで俺たちに依頼を出したってわけだ。報酬は西条のポケットマネーから気前よく一億。さらにGメン装備と機動部隊を貸すと言った。
美神さんは簡単に了承した。
昨晩のことだ。俺たちはおとり捜査をしていた。
犯人が狙っているのはいずれも若い男女。だから俺とシロとタマモがおとりになれば奴は必ず食いつく。
それが甘かった。奴を見くびっていた。
やつは堂々と現れた。その時茂みに潜んでいたGメンが銀の銃弾をやつに向けて撃った。
ところが両足を打ち抜かれたはずのやつは俺たちに向かって走り出した。人間のスピードじゃなかった。
文珠での結界も奴の斧の前では歯が立たなかった。
たった一振りで結界を破り、そのまま俺に向かって斧が振り下ろされた。
二メートル以上ある巨体から斧が振り下ろされる。
美神さんが茂みから飛び出す。
Gメンがやつに向かって銀の銃弾を撃つ。
シロが俺をかばって斧の前に出る。
全てスローモーションに見えた。
シロの体から飛び出した血が、街灯の光できらきら輝くのもスローに見えた。
そのままやつは銀の銃弾を何十発も喰らったにも関わらず走って逃げた。美神さんですら何も動けずに終わった。
俺たちの完敗だ。





** In・the・inside・of・fresh・blood





二人分のスペースの空いた事務所には、昨日までは考えられなかったほどの重い空気が流れていた。

「ええ、わかったわ。じゃあ何かあったらすぐに知らせて」

美神さんが受話器を置いて電話を切った。シロの容態をタマモから聞いていたのだが、顔を見るだけで大体電話の内容はわかった。

「まだ意識は戻らないそうよ。今夜がやまだって」
「……そうですか」

俺は視線をソファーから垂らした足元に落とし、膝の上で手を硬く握り締めた。
そんな俺の様子を見ておキヌちゃんが心配そうに見てくるのがわかったが、俺は何も言えなかった。

「あんたのせいじゃないわ。私たちには準備が足りなかった。だから、その、あまり気を落とさ……」
「シロはっ、俺をかばって今生きるか死ぬかの瀬戸際なんすよ! 俺は一体どうしたらいいんすか!?」
「落ち着きなさいよ!……今取り乱してもどうしようもないでしょ」
「……すんません」

時計が時を刻む音だけが部屋に響いた。シロとタマモがいないだけで事務所は火が消えたように静かだ。
今日は十二月二十四日。明日は記念すべきクリスマスだというのに、とてもメリークリスマスなんて言える気分じゃない。

「Gメンから霊刀に関しての資料が届いたわ。私が簡単にまとめておいたから、一応目を通しておいて。それと警察は事件解決を急いでいる。今夜カタをつけるわ」

美神さんが机の上に置いてあった資料の一枚を俺に差し出した。

「それからGメンの紹介で同業者を一人呼んでる。シロとタマモの代わりのね。作戦は昨日とほとんど同じ。詳しい内容はその子がきてからにするわね」

美神さんはそれだけ言うといつもの椅子に座った。
おキヌちゃんがコーヒーを二つ持ってきたが、コーヒーには手を出さず俺は資料に目をはわせた。





** A・doubtful・backer





読み終えた資料をテーブルの上に置き、冷めたコーヒーをすすった。
おキヌちゃんが入れたにしては酷くまずいコーヒーだった。

「読み終わったわね。そろそろ今回の助っ人が来るから、先に簡単に作戦を説明しておくわ。最初に言っておくけど、早まった行動は絶対にしちゃだめだからね」
「……わかってます」
「本当にわかってるの?」

美神さんの目が鋭くなった。俺自身よくわからない。
もう一度奴の姿を目にしたとき俺は自分を制御できる自信が無かった。
美神さんはそんな俺を見て、呆れるようなしぐさをして言った。

「……まあいいわ。作戦は今回もおとり捜査。もうすぐ来る子とあんたとで二人でやってもらう。またおとりになる覚悟はあるかしら」
「あります。それはいいんすけど、その同業者ってのは大丈夫なんですか? まだ子供なんでしょ。これはめちゃくちゃ危険な捜査なんですよ」
「横島クンが心配する必要はないわ。なにせその子は結界にかけてはこの業界じゃトップクラスだからね。それから、やつを見て何か感じたことはある?」

文珠の結界ですら破られたというのに、さらにその上をいく結界を張れるものがいるのだろうか。
俺の疑問は置いておいて、美神さんからの質問に答えた。

「そうっすね、とりあえず強いってことっすかね。いや、強いというよりも攻撃が全く効かなくて、まるで不死身のようでした」
「その通り」

美神さんは机の上に乱雑に置いてあった資料の内から一枚を抜いた。
それは昨日のおとり捜査が克明に記録されたものだった。

「Gメンが撃った銀の銃弾は全部で百十一発。その内五十発以上がやつに当たっているはず。それなのに全くダメージを食らった様子が無かった。いくら強くても不死身の生物なんて存在しないわ。やつには何かからくりがあるってこと」
「からくりがあるとしても、そんなの調べる前に斧で真っ二つにされちゃいますよ」

俺の心配を吹き飛ばすように美神さんが不敵に笑った。
相手が強ければ強いほど燃えてくるタイプだ。

「その為の助っ人でもあるのよ。結界を張ってもらって、やつの数回の攻撃に耐えてもらう。その間私とGメンでやつを分析。不死身のからくりを暴いてから一気に畳み掛けるってわけ」
「ちょ、ちょっと待ってください。美神さんも見たでしょう? 文珠の結界が一撃で破られたんすよ。まさかその子の結界だけでやつの攻撃を防ぐ気ですか?」
「だからあんたが心配することじゃないのよ。結界っていうのは極めれば必殺の攻撃でもあるの。結界士っていってね。チームを組む場合守りに専念するGSたちの総称で、その子は世界で五人しかいない結界士の特急免許取得者なの。名前は……どうやら来たみたい」

美神さんの顔が部屋のドアの方に向いた。階段を上がる足音が聞こえ、間もなくドアが開かれた。
俺は驚いてソファーから立ち上がった。
そいつはショートヘアの茶髪。ドクロのリボンに、六道女学院の制服。腰には細いチェーンが無数に垂れ下がっているという、ちょっと普通じゃ考えられないファッションセンスを持っている女。
ドアから入ってきた者は、あの学園祭以来の六道女学院の生徒、神崎マイコことチェリーだった。

「おっひさー。ブラックリストに載ってた横島くんだったよね。よろしくー」

右手をあげ意気揚揚と部屋に入ってくるチェリー。その屈託の無い明るさはどこかシロに通ずるものがあった。

「あら、顔見知りだったの。なら自己紹介はいらないわね。じゃあ作戦の詳細を教えるわ。作戦は今夜九時決行。サンタクロースにクリスマスはやってこさせないわよ!」

チェリーが俺の横に腰を下ろし、俺も再びソファーに座りなおした。
美神さんが言ったように、俺も奴にクリスマスを過ごさせる気はない。シロの敵討ちだ。何が何でもやってやる。
もしも……もしもシロが死ぬようなことになったら、俺はもう二度とクリスマスなんて祝わない。
キリストなんて誰も救ってくれはしない。俺を救ったのは一人の人狼なんだから。





** Fighting[which・is・called・revenge ]





美神さんが詳しい段取りを説明し終えたときには、既に外は真っ暗であった。

「出るわよ。準備はいいかしら」
「はい」
「おっけーでっす」
「皆さん気をつけてくださいね」

事務所に留守番のおキヌちゃんが心配そうに俺たちを見つめてきた。
俺はしっかりと頷くと美神さんとチェリーの後を追って事務所を出た





** The・suspicious・police





クリスマス間近だというのに街には不穏な空気が漂っていた。
普通ならカップルがたむろしている通りがまるで廃墟のように閑散としている。
街路樹や店の壁にとりつけられた色とりどりのイルミネーションが余計寂しさを強調していた。
時刻は二十時半を過ぎた頃。雲がかかっているのか空に星は一つも見えなかったが、街のイルミネーションや街灯で明かりに困ることはない。
作戦の舞台である公園につくと、普段いるはずのカップルたちの代わりに数台の装甲車が目に入った。
俺たちが近づくと装甲車の中から武装したオカルトGメンの一人が降りてきた。
ヘルメットを外すと短い短髪に目鼻立ちが整った、警察というよりは軍人のような顔のGメンであった。
鼻には真一文字につけられた古い傷が見える。俺たちに敬礼したあとそいつはぴんと姿勢を伸ばして言った。

「ご苦労様です! 第一部隊、第二部隊、共にスタンバイOK。合図次第で攻撃に移行できます!」
「指示は私が逐一出すから、勝手な真似はしないように」
「わかりました。では私も部隊に加わります。お気をつけて!」

それだけ言うと軍人顔の武装Gメンは重たい装備を揺らし、公園の暗闇に向かって俺たちから離れていった。

「……?」

一瞬だけGメンの顔がこちらを向いた気がした。しかし俺や美神さんの方を向いた感じではなかった。
――気のせいか。考えるのはやめよう。今の俺には目の前のことに集中していればいい。

「私も影に潜んでいるけど、常に目は話さないから心配しないで。危なくなったらすぐに援護するわ。じゃあ、気をつけて」

そう言って美神さんもGメンが消えたあたりの闇に吸い込まれるようにして消えていった。

「おとり捜査なんだ。少し歩こう」

俺とチェリーは並んで歩き出す。チェリーの背が低いせいで兄妹が公園を散歩しているみたいに見えるだろう。
だがこれは危険なおとり捜査だ。一瞬たりとも気は抜けない。
公園は美神さんたちがいるのだから無人ではないのだが、デートスポットで有名な公園に普段いるはずの人影は全く見当たらない。
公園ではクリスマス用のイルミネーションが一部の木々で光り輝いていて、美しい光景であった。
しかしどこか寂しく、人のいない違和感が公園の雰囲気を変えていた。

――こちら美神。聞こえたら手を上げて

事前に渡されていた小型のコードレスイヤホンから美神さんの声が聞こえた。
この美神さんからの指示はチェリーにも行き届いていて、俺たちは同時に右手を上に掲げた。

――何かあるまでこちらから指示は出ない。緊急時の判断は個人個人に任せるわ。では、検討を祈る

そこでイヤホンからの声は途切れた。
俺たちは当ても無く公園の中を歩いた。そして一時間ほど経った時刻二十二時頃、美神さんからの声がイヤホンを通して聞こえた。

――霊圧を感知! 敵が近づいている。繰り返す。霊圧を感知。敵は近い。気をつけて……!

俺は少しだけ右手を挙げて、イヤホンからの指示が聞こえた事を知らせた。いよいよだ。





後編へ続く


今までの評価: コメント:

この作品はどうですか?(A〜Eの5段階評価で) A B C D E 評価不能 保留(コメントのみ)

この作品にコメントがありましたらどうぞ:
(投稿者によるコメント投稿はこちら

トップに戻る | サブタイトル一覧へ
Copyright(c) by 溶解ほたりぃHG
saturnus@kcn.ne.jp