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ザ・デウス・オブ・ハーツ !!

超加速


投稿者名:由李
投稿日時:05/11/14

 ハニワAが結界を解くと何もなかった空間にバベルの塔が姿を現した。
一同が驚く中、ハニワAはトコトコとバベルの塔に向かって近づいて行く。塔の石造りの扉の前で止まると、ハニワAは扉の結界を解き、扉を開いた。


「この先は美神令子と横島忠夫だけが通っていいぽー」
「お、俺もいいのか?」
「へんっ、ここまで来たんだ。俺たちも通してもらうぜ!」
「そうはさせないでちゅ」


 雪之丞が息巻く中、声が聞こえパピリオが姿を現した。パピリオは横島を一瞥した後、令子と横島以外はここで足止めすると言った。


「ハニワA。メフィストとポチを連れて行きなさい」
「わかったぽー」


 ハニワAが伸ばした腕で令子と横島をからみとり、そのまま中へ消えた。その後閉じようとする扉に向かって走り出す者がいた。


「先生―!拙者も行くでござるー!」


 シロはヘッドスライディングでぎりぎり扉の向こう側に行けた。パピリオは今は閉じた扉を睨みつつ、頭では全く違うことを考えていた。GSのメンバーに美智恵が入っていないことである。


(あの女がいない。また何かたくらんでるでちゅね。ま、私には関係無いか)
「おいチビ。俺たちも中に入るぜ。戦うつもりならやってやる!てめーには借りがあるからな。こっち向け!」


 パピリオは扉の方に向けていた視線を雪之丞に向けた。その顔はさも「脇役に興味はない」と言わんばかりであった。


(こいつらなんかどうでもいい。アシュタロスの墓場はここになるんでちゅから)















ザ・デウス・オブ・ハーツ
第五話:超加速















 塔の中に入ることができた横島、令子、他。三人はハニワAの後をついていき階段を昇っていった。外から見ると永遠に続きそうになっているバベルの塔は、五分もしない内に最上階の部屋へとついた。異次元構造になっていると令子が横島に教えた。


「アシュ様―。案内できたぽー」


 トコトコと部屋の奥に向かって駆け出して行くハニワA。その先にはアシュタロスがこちらを見据えながら立っていた。そしてアシュタロスの横にはベスパとルシオラの姿が。


「ルシオラ!」


 アシュタロスの十歩手前まで近寄り、ルシオラの名を叫ぶ。しかしルシオラは横島の言うことに一切の反応を示さなかった。


「横島君、だったかな?こちらも裏切り者を放っておくなんて真似はできないもんでね。少し細工させてもらったんだ」
「細工させてもらったぽー」


 自分の名前を覚えられていることに恐怖を感じた。ルシオラが危惧していたアシュタロスにマークされるという事態が実現してしまった。


「横島クン、一体どういうことなの?」
「どういうことでござるか?」
「どういうことぽー?」


 横島から何も説明されていなかった令子たちは横島の様子に慌てていた。令子が横島とルシオラの関係を知らないと見ると、アシュタロスはさも面白いことのように事情を話した。


「いやね、私の部下と横島君が恋仲になってしまったんだ。メフィストの件以来そういう事態には気を使っていたんだが、誤算だったよ。廃棄処分することも考えたが、私は寛大なのだ。自我を封印し感情を無くさせる程度にした」





 横島は今にもアシュタロスに向かって走り出そうとする体を抑え、令子に二つの文珠を見せた。「合」と「体」。それは合体の合図。


「ベスパ、手を出すなよ。それとルシオラ。あの人狼はお前が適当に相手しておけ」
「わかりました。アシュタロス様」


 横島は自分の部下にまで手をかけるアシュタロスを許せなかった。


「行くわよ横島クン!」
「……はいっ!」


 なんとしても勝つ。再び体が沸騰するように熱を帯びる。何度も練習したシンクロ攻撃では令子が横島を吸収するような形で同調していたのだが、この時は逆に横島が令子を吸収する形となった。戦闘で集中力の増した横島はベスパと戦った時のように感覚が異常に冴えていた。


(この少年か?それともパピリオか?どちらにしろ、宇宙が私を拒否し始めたようだな)


 完全にシンクロした横島と令子は、人間の力を遥かに超えた霊圧を放っていた。予想しなかった緊急事態においても、表情一つ崩さないアシュタロスを見て、ベスパは不安がっていた。


「横島先生―助けてくださいぃぃ!ぎゃー!」
「向こうはもう始めたようだ。私たちもやろう」
「上等だよアシュタロス。人間の底力見せてやるよ!」


 シンクロした横島たちがアシュタロスめがけて走り出す。可哀相だがシロのことなど頭に無かった。
 横島たちは加速した体でアシュタロスめがけて突っ込み、そのまま霊力を込めたパンチを喰らわせた。


「ぐっ、まさかこれほどとはね……!」


 シンクロした横島たちはアシュタロスの予想を遥かに上回る力に出力をもっていた。自分の攻撃がアシュタロスに効いたので、いけると思った横島は攻撃を続けようとした。しかし二度目の攻撃は当たることなく逆に横島たちは吹っ飛ばされた。
 アシュタロスは涼しい顔をして、まるでダメージが無いように見えた。


「もう策はないのか?ベスパを倒した程の者だと思って、もう少しやると思ったんだがな」


 シンクロが解けて再び二人に戻った横島と令子につまらなそうに皮肉を言った。
 令子も横島ももう駄目だと思った瞬間、声が聞こえた。それは先ほどの機械的な声ではなく、確かに感情のこもったものだった。





「ヨコシマ!諦めないで!」
「ルシオラ!?お前感情が……?」
「アシュタロスの霊波はダメージを受けて弱っているの!勝ち目がないわけじゃないわ!」


 シロと戦っていたルシオラはまるでロボットのような感じであったが、今は以前の雰囲気を取り戻していた。確かにアシュタロスの支配が解けている。まんざら効かない攻撃でも無かったのだ。


「ルシオラ……よかった……美神さん!もう一度シンクロ攻撃を……あれ?」


 戦意を取り戻した横島は美神に再度合体を促したが、美神はというと合体が解けた直後に意識を失っていた。シンクロ攻撃による体の負担である。既に合体どころではなかった。
 横島の凄いところはこのような土壇場で敵の考えない手をうつことである。


「こーならったら一か八かや―!ルシオラ!合体だ!」
「っ!わかった!」


 霊力を集中させ新しい文珠を作る。出来上がった文珠はベスパの戦い以来何度やっても出てこなかったあの双文珠だった。双文珠に「合体」の文字をこめる。閃光を発した後、出てきたのは髪が肩まであり女と男の中間のような姿の者であった。完全にシンクロできた横島たちはお互いの意識が混ざり合っていた。この切羽詰った状況でもその感覚はどこか心地よかった。


「なるほど、考えたね。その霊圧は脅威だ」
「アシュ様!」
「言っただろう。手を出すんじゃないと。さあ、第二ラウンドといこうか」


 アシュタロスは純粋に戦闘を楽しんでいる様にも見えたし、どこか安心したようにも見えた。少なくともベスパにはそう見えたのだ。この状況は楽しんだり、ましてや安心感を得られるようなものではない。
 アシュタロスが遠く見えた。今までずっと傍にいて仕えていたはずの存在は自分の手の届かない所へ行こうとしていた。少なくともベスパには、そう見えた。















 GSたちにとって予想外だったことが二つある。一つはパピリオに人間との戦闘の経験が豊富にあること。もう一つは心眼使いを凌駕するスピードを持つことだった。
突然視界から消えたパピリオに次々と倒れるGSたち。「超加速」を使ったパピリオは心眼を使っても捕えることはできなかった。
 超加速したパピリオはまず結界を張られる前にタイガーを倒し、その後は一人ずつ確実に倒していった。一瞬で作戦を見破られたGSたちはなす術も無く倒れていき、今は雪之丞、おキヌ、そして冥子(!)の三人しか立っていなかった。


「もう終わりでちゅか?私はやることがいろいろとあるんでちゅ。戦えないならさっさと逃げればいい。追う気は無いでちゅから」
「ふぇ……ふぇっ……」(!!)
「俺たちは逃げねーよ!横島が命かけてんだ!俺たちが逃げてどうするんだよ!」
「私たちが立っているのは、横島さんの守りたい気持ちと同じです!」
「人間は頭の程度が低いでちゅねー。一時の美徳感に酔いしれたまま、死ぬんでちゅから」
「うわぁぁあああん!助けて令子ちゃぁぁあああああん!」(!!!)


 その時ついに恐れていた事態が起こった。冥子が「ぷっつん」したのである。冥子がなき始めたと同時に、所構わず暴走する式神は制御不能だった。パピリオでさえ逃げまどっている。


「おいチビ!てめーのせいだ何とかしやがれ!」
「お前の仲間でちゅ!雪之丞が何とかしなさい!」
「冥子ちゃ〜んほらほら心眼ですよ〜」
「どんなあやし方やねん(でちゅか)!」


 外のほうも実に大変なことになっていた。暴走した冥子は雪之丞やおキヌが何を言っても聞かない。冥子はそのまま他のGSたちが起き上がるまでぷっつんし続けていた。















 お互いに最大の霊力をぶつけあった為に、塔の内壁はぼろぼろになり、床には多数のひびが入っていた。
 横島とルシオラのシンクロ体はアシュタロスと対等な戦いをくり広げていたが、残念ながらアシュタロスのスタミナが勝っていた。


「あっ!」


 双文珠の効果が切れ、横島とルシオラは分離する。二人はへとへとになっていたが、アシュタロスはまだ随分と余裕があるようだった。


「それで終わりかい?もう少し楽しませてくれ、横島」
「う、うるせえ……今策を考えてるんだよ……」


 地面に両手と膝をつき、苦しそうに呼吸をする横島。ルシオラは合体が解けた瞬間、全霊力を使い果たしていた。地面に倒れ、立ち上がる力すらないらしい。うつぶせになった体から荒い息が聞こえる。
 美神のほうをちらっと見る。依然意識の戻らない美神から合体の負担の重さがわかる。既に二回の合体を果たしている横島はルシオラ以上に疲れているはずなのだが、霊力はまだあった。


(どうする……双文珠は作れそうにないな。かといって文珠じゃ効果は無い、か)


 必死に頭を働かせている横島であったが、霊力の残り少ない体ではまともに戦えることすらできない。今一番動けるのはシロだった。


「ならば拙者が相手をするでござる!」


 しかし、シロが動けたところで状況が変わるはずがない。


(くっ、なんて腹の立つナレーターでござるか……!)





 気がつくとアシュタロスは手を前に突き出し、霊力を集束させていた。アシュタロスの延長線上にいるのは、ルシオラ!


「横島。君は決して負けてはいけない戦いとは何か、知っているか?」
「やめろ!アシュタロス!」


 ルシオラは力のこもっていない目でアシュタロスを見ていた。
アシュタロスはルシオラを見返しつつ、横島に語りかける。霊力は既に集束され、いつでも撃てる状態だった。


「それは守る戦い――だ」


 アシュタロスの霊波砲がルシオラに向かって放たれる。今のルシオラでは百パーセントかわせない。





 霊波砲が放たれた瞬間音が消え、全てがスローモーションに見えた。聞こえる音は自分の心臓の音ただ一つ。

ドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッ

 体の中の血が沸騰を超え、溶岩流のように流れ始めた。
 全ての五感、霊感が研ぎ澄まされた感覚。空気の流れ、匂い、味。それらが感覚器官を伝わって脳内に鮮明に流れ込むような感覚。大気の中に極めて微弱に流れる霊波の道筋が、全て把握できるような霊感。
 随分時間が経ったように思えたが、アシュタロスの霊波砲はまだルシオラに到達してはいなかった。
 自分の右手の中に異物感を感じる。もう確認しなくてもそれが何か横島にはわかっていた。その時右手の中にあったものは三文字込めることができる奇跡の文珠。無意識にこめられた文字は「超加速」。


 バァァン!


 ルシオラと霊波砲の間に立ちふさがり、「超加速」を「護結界」に変え霊波砲をかき消した。
 ベスパ、ルシオラ、ハニワA、シロは霊力の尽きたはずの横島が、突然巨大な霊圧を放ったことに驚き、またアシュタロスの霊波砲をいとも簡単にかき消したことに更に驚いた。


「アシュタロス。わかったよ。俺は負けない。負けられない」


 アシュタロスを真っ直ぐ見返す目は、どこまでも透き通っていた。その目は守りたいという純粋な想いが込められている、二つの文珠のようだった。


「横島。君はどこまでも私を楽しませてくれるらしいな。最終ラウンドだ。来い!」





 まただ。またこの人は喜んでいる。何故自分が負けるかという時に喜んでいるのだろうか。
 わかってる。本当は気付いてた。この人は死にたいんだ。だからポチが自分を殺してくれる存在になったのを喜んでいるのだ。


(私は……私は一体どうすればいいのですか?)


 アシュタロスと横島が再び交戦を始めたのを、ベスパは見ることができなかった。俯いた顔からは自分には無いだろうと思っていたものが頬を伝い始めた。


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